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101話

『あァ? ……ンだよマジかよォ』


 ──どこまでも続く金色の空間。

 そこに、金髪金瞳の男が立っていた。


『コイツ、オレの強制招待を断りやがった上に、いきなりオレの【大罪技能】──【傲慢に溺れし卑怯者】を使いこなしてるだとォ?』


 男が眉を寄せ、ゴツい腕を組む。


『ったくよォ……オレも相当自我が(つえ)ェと思っていたが、まさかオレを超える頑固者がいたとはなァ。はっ、長生きしてみるもンだァ』


 苦笑を浮かべ、ドカッとその場に乱暴に座り込んだ。


『まァいい──オレも、思ってる事ァコイツと一緒だからなァ』


 鋭い牙を剥き出しにし、男が獰猛に笑う。


『散々ボコスカ殴られた挙句、惚れてる女に手ェ出されたンだァ──オレなンかと話してる時間はねェ。テメェはとっとと、そのクソガキをズタズタに斬り裂いてブチ殺してやりなァ! あァ、テメェならできるさァ。なンてったって──』


 懐かしいものを見るかのように金色の瞳を細め──男はどこか嬉しそうに声を上げた。


『──『大罪人』の中で一番強かった、このオレ──ディアボロ・ベルガノートの【大罪技能】が使えンだからなァッ!』


───────────────────


「チッ……! さっきからうるせェなァ……!」


 頭を押さえる土御門が、忌々しそうに舌打ちする。

 ──土御門の頭の中で、何者かがこっちに来いと言っている。

 まるで、脳内にいる誰かが直接話しかけているかのような──そんな感じだ。


「──あァ……?」


 ふと、脳内の声が止まった。

 一体何だったのだろうか──首を傾ける土御門。

 ──その懐に、ディティが潜り込んだ。


「──しッ!」


 神速のアッパーが土御門に迫り──空を穿つ。


「ゥルァッッ!!」

「はぁ──!」


 右腕を振り抜き──それに合わせて、ディティが大きく後ろに飛んだ。

 ──パラパラと、服の切れ端が地面に落ちる。

 ほんの数瞬、回避が遅れていたら死んでいた──その事実に、初めてディティは死を明確に感じた。


「……なンだァ……変な感じだなァ」


 意識はディティに向けたまま、土御門は『ステータスプレート』を取り出した。


===================


名前 土御門 虎之介

年齢 17歳

職業 勇者

技能 【言語理解】【拳術“神域”】【獣化“神雷虎(じんらいこ)”】【部分獣化“神雷虎”】【獣人化“神雷虎”】【気配感知“禁域”】【土魔法適性】【傲慢に溺れし卑怯者】


===================


 何やら、色々と変わってる。それに、新たに【獣人化】と【傲慢に溺れし卑怯者】という【技能】が増えている。

 よくわからない……よくわからないが、聡太たちが見ていた景色が、ようやく自分にも見えたのは間違いない。

 口元に獰猛な笑みを浮かべ──だがすぐに表情を切り替え、ディティを睨み付ける。


(わり)ィが、時間を掛けるつもりはねェ。もしかしたら、他ントコで助けを待ってる奴がいるかも知れねェからなァ」

「ほんとムカつくねー……こんなにイライラしたのは、あの『十二魔獣殺し』以来だよー」


 土御門は散々殴られたり蹴られたりした上、左腕の骨が折れて使えない。

 対するディティも、何度も地面に叩き付けられたため、全身から出血が見られる。

 互いに満身創痍──長い時間を掛けてはいられない。

 故に、互いが求めるのは──短期決着だ。


「いくぜェ──【部分獣化】解除、【獣人化“神雷虎”】ォッ!」


 ──メキメキッ……ミシミシッ……

 土御門の体から、骨が軋むような音が聞こえ──全身を金色の体毛が覆い隠す。

 臀部からは金色の尻尾が生え、頭頂部からは虎のような金色の耳が生えた。

 指先からは鎌のように鋭い爪が伸び、口元から覗く犬歯が必殺の牙へと変貌し──まるで、人と虎が混じり合ったような姿になる。

 ……なるほど。

 【獣化】は、己の体を完全に大虎に変える【技能】だった。

 【部分獣化】は、己の体の一部を大虎のパーツに変える【技能】だった。

 だが……【獣人化】は、人の姿を保ったまま、【獣化】の効果を得る──という感じの【技能】だろうか。


「なンかよくわかンねェが、便利な【技能】だな、こりゃァ」


 ──バチバチバチッ……

 土御門の体から、白い雷が漏れ出している。

 これも新たな力──“神雷虎”の影響だろう。


「ごちゃごちゃ一人でうるさいねー……! 水よ渦巻け。ぐんぐん渦巻け。その身を破裂させるほどの回転を続け、目の前の敵を討ち滅ぼせ──!」


 壺の中の水が回転を始め──勢いを利用して、凄まじい威力を持って放たれる。

 その場を飛び退き、水の渦を回避する──寸前。


「──【斬撃“絶”】」


 ──ゴウッ! と、土御門の真横を斬撃が走り抜ける。

 斬撃は真っ直ぐに水の渦へと迫り──水の渦が、中心から真っ二つに斬り裂かれた。

 その先にいたディティをも真っ二つにせんと迫るが──舌打ちするディティが真横に飛び、斬撃を回避する。

 そして──土御門の隣に、一人の少女が降り立った。


「……大丈夫、土御門君?」

「テメェ……破闇かァ?」

「えぇそうよ……どうやらあなたも、【大罪技能】に目覚めたみたいね」


 『黒刀』をブンッと振り、ディティを正面から見据える少女──破闇だ。

 その破闇の体には──何やら、黒い線のような模様が浮かんでいた。

 右太ももに刻まれている『大罪人』の模様が黒く輝いており──瞳の色も……何と言うか、いつもよりも黒く感じる。


「……何しに来たァ。言っとくが、手助けは必要ねェぞォ」

「そうは言っても……アレ、古河君の言ってた『十二魔獣』でしょう? なら、戦力は一人でも多い方が良いと思うのだけど」

「いらねェって言ってンだろうが──あの『十二魔獣』は、オレが殺すゥ。じゃねェと気が済まねェ」


 怒りを露わにする土御門を見て、破闇はやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。


「……それは、水面さんに関係のある事?」

「あァ?」

「ここに来る途中で、フォルテさんに抱えられる水面さんを見たの……あの子、酷い怪我だったわ」

「……………」

「水面さんは、あの『十二魔獣』にやられたのね?」

「……あァ」

「そう──なら、やっぱり私も戦うわ」


 『黒刀』を強く握り直す破闇の言葉に、土御門は破闇へ視線を向けた。


「水面さんは大切な仲間。それを傷付けたあの『十二魔獣』は──許せない」

「……そうかよォ。好きにしやがれェ。ただし、アイツを殺すのはオレだァ。そこだけは譲れねェ」

「なら、どっちが先に倒せるか……競争ね?」

「上等じゃねェかァ」

「あはっ。随分(ずいぶん)好き勝手言ってくれるねー? ──そろそろほんとにイライラしてきたから、本気で殺すねー?」

「はっ、強がってンじゃねェ。こっからは二対一だ、覚悟しろよォ」

「強がりねー……ほんとに強がりかどうか、試してみるといいよー」


 そう言うとディティは、巨大な壺を自分の目の前に置いた。


「──水よ、我が身に宿れ。それは全てを破壊する力。それは全てを受け流す体。それは全てを沈める水。愚か者に死を与え、我を勝利に導け」


 また壺の中から水が出てくるのだろう。

 遠距離攻撃を予想し、土御門と破闇は素早く身構えた。

 だが──水が放たれる事はなかった。

 身構える土御門と破闇を見て、ディティが嘲笑うように口の端を釣り上げ──壺の中に飛び込んだ。


「なっ──」

「はァ?!」


 直後──壺の中から大量の水が放出される。

 水は少しずつ形を成し──やがて、巨大な龍へと変貌した。

 蛇のように体をくねらせ──水龍の中にいるディティが二人を見下ろす。


『──さて、なんだったっけー? ああ、強がりかどうか試してみろって言ったんだったねー』


 水龍が大きく吼え──土御門と破闇に向け、ディティは勝ち誇ったような笑みを見せた。


『──ぶっ殺してあげるから、覚悟してよねー?』


───────────────────


 ──『イマゴール王国』東門前。

 ここを守っていたのは──小鳥遊、破闇、そしてミリアの三人。

 しかし──ここに破闇の姿はない。


「“我、全ての者に癒しを与える者。優しき光よ、傷付く者の傷を癒し安らぎを与えよ”──『ライト・ヒール』っ!」


 小鳥遊の詠唱に従い、水面の体が淡い光に包まれ──激痛に顔を歪めていた水面の表情が柔らかくなった。


「はぁ……よかった……」

「ひ、ひどいケガだったけど……何があったの?」

「『十二魔獣』よ……今、トラノスケが戦ってる。ヒカルとも途中ですれ違って、『十二魔獣』のいる場所を伝えたから、二人で戦ってると思うわ」

「フォルテ。その『十二魔獣』の名前は?」

「ディティよ……ホント、ウチも死ぬかと思ったわ……」


 殴られた時の痛みを思い出し、フォルテが眉を寄せた。

 その隣に立つミリアも、フォルテと同じく苦い表情を見せる。


「……ディティ……どうやら、事態は思っているよりも厄介かも知れませんね」

「どういう事?」

「敵も本気を出してきたという事です。今まで遭遇した『十二魔獣』は、全て単独で行動していました。国を滅ぼすにしても、『大罪迷宮』を探すにしても……全て、単独だったんです。そんな『十二魔獣』が、確認できるだけでも、ニ匹同時に攻めてきているんです。それに……『イマゴール王国』を滅ぼそうとしている『十二魔獣』が、ポーフィとディティだけとは限りません。もしかしたら、他にも『十二魔獣』がいる可能性だってあります」


 そう、例えば──


「先ほどユウコの言っていた、『ユグルの樹海』の奇妙な気配……これもおそらく、『十二魔獣』でしょう」

「うん……でも、そのあとすぐに古河くんとアルマクスさんの気配が向かって行ったから、大丈夫だとは思うけど……」

「……そう、言えば……ここ、全然……モンスター、が……いない、ね……」

「はい。ヒカルがほとんど一人で倒してしまいました」

「そう、それよ。ずっと聞きたかったの。さっきあのヒカルって子とすれ違った時、ソータみたいな模様があったわ。あの子も【大罪技能】ってのに目覚めたの?」


 フォルテの問い掛けに、ミリアと小鳥遊はコクンと頷いた。


「はー、あの子もねぇ……トラノスケも【大罪技能】に目覚めてたっぽいけど、ヒカルはどうやって【大罪技能】に目覚めたの?」

「それが……私たちにもよくわからなくて」

「……どういう事?」


 言うかどうか迷うように眉を寄せ──ミリアが言った。


「あの人は、私たちが気が付いたら【大罪技能】を発動していたんです」

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