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99話

「……こりゃまた、すげぇ数だな……」


 ──『イマゴール王国』正門前。

 そこに、四人の少年少女が立っていた。


「……なあ聡太。前にもこんな戦いがあったって言ってたよな……?」

「ああ、『地精族(ドワーフ)』の国でな」

「その時も、このぐらいの大群だったのか……?」

「いや……これよりも少なかった……どうやら敵も、本気を出して来たみたいだな」


 何万という大群が、『イマゴール王国』を囲むようにして近づいて来ている。

 この場にいるのは──聡太と勇輝、そして氷室とアルマクスの四人だ。

 他の者たちは、別の場所で防衛作戦に参加する。

 ……一応、『イマゴール王国』の騎士たちもいる。

 だが──この数のモンスターの大群を見るのは初めてなのか、騎士たちは怯えているように見える。


「……ん」

「ガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」


 【気配感知“広域”】に、急速接近する気配を捉えた。

 直後──上空に、巨大な影が現れる。

 ──ドラゴンだ。それも、一匹や二匹だけではない。

 隊列を組んで迫るドラゴンの群れ──合計十五匹。

 怯える騎士たちが慌てて武器を構え、勇輝と氷室が戦闘体勢に入り──


「──『二重詠唱・蒼熱線』」


 ──カッと、蒼い光が勇輝と氷室の視界を灼いた。

 聡太の手のひらから蒼い熱線が放たれ──直前上にいた二匹のドラゴンを焼き殺す。

 そのまま手を横に動かし──規則正しく並んでいたドラゴンの群れを、瞬く間に消し飛ばした。


「……はっ。この程度じゃ【大罪技能】を使うまでもねぇ」


 瞬く間にドラゴンの群れを殲滅した聡太が、獰猛に笑って腕を組んだ。


「……この感じだと、ボクの出番は必要なさそうですねぇ」

「気は抜くなよ。いつ元凶の『十二魔獣』が現れるかわからねぇからな」

「わかってますよぉ……」


 特に緊張した様子もなく、ダルそうにアクビを漏らすアルマクス。

 ──それは、唐突に現れた。

 聡太の【気配感知“広域”】に、新たな生き物の気配が入った──瞬間、聡太とアルマクスの表情が豹変する。

 ──なんだ、コイツ。

 テリオン、パルハーラ、フェキサー、ポーフィ、ディティ、ハルバルド、レオーニオ──今までに出会った『十二魔獣』なんかよりも、ずっと邪悪で禍々しい邪気。

 その気配に心当たりがあるのか──アルマクスが、地獄の底から響くような小さな声で呟いた。


「……この気配……まさか、あいつがぁ……?」

「おいアルマ?」

「申し訳ありませんけど、ここは任せますよぉ」


 黒い蝙蝠のような翼を大きく打ち、アルマクスが遠くへと飛び去って行く。

 ──行かせていいのか?

 この気配──間違いなく、過去最強の敵だ。

 それを──アルマクス一人で行かせていいのか?


「いいわけっ、ねぇだろ……!」

「そ、聡太? どうしたんだ?」

「俺はあのバカを追う。ここは任せたぞ」

「……おう。よくわからねぇけど、死ぬなよ!」

「ああ、お前らもな──『飛翔』ッ!」


 聡太が大空へと飛び上がり、アルマクスを追って加速する。

 取り残された勇輝と氷室は、何も言わずにその姿を見送った。


───────────────────


「ひゃっ──はァッ!」

「グルゥ──ッ?!」


 大虎の腕を振り回す少年が、金髪を振り乱しながらモンスターを惨殺する。

 ──『イマゴール王国』南門前。

 ここを守っているのは──土御門と水面、そしてフォルテの三人だ。


「ンだよンなもンかァ?! もっと気合い入れてかかって来やがれよォッ!」


 もしかしたら、モンスターなんかよりも土御門の方が凶暴なのではないか──そんな事を思いながら、フォルテは近づいて来るモンスターをノコギリのような歪な大剣で斬り裂いた。


「……『ウル・アクア・ランス』……」


 小柄な少女の周りに、青い魔法陣がいくつも浮かび上がり──そこから、水で作られた槍が放たれた。

 上空を飛んでいたモンスターの翼を的確に貫き──地面に落ちた瞬間、土御門が(とど)めを刺す。

 ──流れるような連携に、フォルテは息を呑んだ。

 何か合図したわけでも、声を掛けたわけでもない。

 なのに──土御門はそこにモンスターが落ちてくる事がわかっていたかのように、水面はそこにモンスターを落とせば土御門が息の根を止める事をわかっていたかのように、あのモンスターの群れを壊滅させた。

 これは信頼とは違う……そう、これは──


「……一心同体……」


 前に何度か、聡太が火鈴やハルピュイアと連携して攻撃しているのを見た事がある。

 だが、聡太の連携は──味方の動きを見て、それに合わせるような動きが多い。

 ──この二人は違う。

 お互いが主体となって動き、お互いが援護するように動く──(まさ)しく一心同体の戦い方だ。


「うっしィ……なンだァ、この程度なのかァ?」

「ん……もっと、強いと……思って、た……」

「だよなァ……チッ、もっと(つえ)ェ奴と戦いてェもンだな──ァ……?」


 土御門が眉を寄せ、迫るモンスターの大群に視線を向ける。

 その先頭には──幼い少女の姿があった。


「……虎之、介……あれ……」

「あァ……古河の言ってた『十二魔獣』と一致してンなァ」


 ──巨大な壺をズルズルと引き()る銀髪の少女。

 勇者一行は、聡太が今までに遭遇した『十二魔獣』の特徴を聞いていた。

 その内の一匹と、目の前の少女の姿は──聡太の言っていた特徴と、ピッタリ一致している。

 確か、その名前は──


「《激流を司る魔獣(ディティ)》……!」

「──あらー。わたしの事、知ってるんだねー? 『十二魔獣殺し』から聞いたのかなー?」


 大きな壺を置き直し──ソイツは名乗りを上げた。


「知ってると思うけど改めて……わたしは《激流を(ディ)──」

「ガルゥアアアッッ!!」


 獣のように吼える土御門が、一気にディティとの距離を詰めて剛爪を振り抜いた。

 それを難なくディティは回避し──壺の口を土御門に突き付けた。


「──水よ渦巻け。ぐんぐん渦巻け。その身を破裂させるほどの回転を続け、目の前の敵を討ち滅ぼせ」

「チッ──『ウル・アースド・ウォール』ゥッ!」


 ディティの壺から水が漏れ落ち──その水が急速回転。

 回転の勢いを利用して、水の渦が放たれ──それに合わせ、土御門が土の壁を召喚した。

 水の渦が土の壁に衝突し──土の壁が簡単に粉砕される。

 飛び散る土片、視界を覆う土煙──それらに隠れるようにして、土御門がディティに突っ込んだ。


「へぇ──」


 ディティは何かに気づいたのか、口の端を笑みの形に吊り上げた。

 ──ディティの背後に、フォルテが回り込んでいる。

 おそらく土御門とフォルテは、ディティには近距離の攻撃手段がないと思っているのだろう。聡太の報告にも、ディティが近接で戦うという情報もなかった。

 だが──それは、大きな間違いだった。


 ディティが壺を蹴り飛ばし──突っ込んでくる土御門が壺に正面衝突。

 流れるように背後を振り返り──横薙ぎに迫るフォルテの大剣を、体を少しだけ逸らす事で回避する。

 そして──グンッとフォルテとの距離を詰め、その腹部に強烈な拳撃を叩き込んだ。

 ──ズドンンッッッ!!!


「がぅ──?!」

「あははー。ほらほらー」


 ──ドドドンンッッ!!

 三連続でフォルテの腹部に拳撃が叩き込まれ──足に力を入れて踏ん張り、フォルテが大剣を振り抜いた。

 直後──ディティの姿が消えた。

 否、違う──思い切り姿勢を低くする事で大剣を避けたのだ。

 近距離で戦っているフォルテがそれに気づくはずもなく──無防備なフォルテに、ディティはその体勢からアッパーを放った。

 ディティが足元にいる事に気づいたのか、フォルテが勢いよく真下に顔を向け──ドゴンッッ!! と鈍い音が響き、フォルテの体が打ち上げられた。


「うがッ──」

「あはっ──どーん」


 ふざけたような声を出しながら──ディティが腰を落とし、正拳突きを放つ。

 ──メキメキメキッ。

 フォルテの腹部から嫌な音が聞こえ──ゲボッと口から血を吐き、フォルテが吹き飛んだ。


「さて──」


 ディティが土御門に視線を向け──壺に正面衝突した痛みで、顔を押さえてよろめいている事を確認。

 ──あの壺の重さは、およそ1トンほど。

 ディティはそれを持ち歩き、武器としているのだ。

 その壺と正面衝突して、吹き飛ばされずに立っている時点で、かなりタフである。

 今すぐにでも倒れたいだろうに、よく我慢しているな──そんな事を思いながら、ディティは瞬く間に土御門との距離を詰め、腰を捻って掌底を放った。

 いくら土御門でも、あの威力の掌底が当たれば──間違いなく致命傷を負うだろう。


「させ、ない──! 『ウル・アクア・ストーム』……!」

「──水よ渦巻け。ぐんぐん渦巻け。その身を破裂させるほどの回転を続け、目の前の敵を討ち滅ぼせ」


 水面がディティに手を向け──その手から、水の渦が放たれる。

 対するディティは壺を蹴り倒し──壺の口を水面に向けた。

 そして──壺の口から、水の渦が放たれる。

 同じ水の渦だが──その威力、大きさ、勢いは、誰がどう見ても差がある。

 水面の水渦を投石とするならば、ディティの水渦は砲弾──それほどにまで差があった。


「【障壁】……っ!」


 水面の魔法が一瞬で呑み込まれ──激流が水面に迫る。

 【障壁】を発動し、水面が素早く横に飛んだ──直後、激流が障壁にぶつかり、障壁が粉々に砕け散った。

 間一髪で死を避ける水面──それに気づいたのか、よろめいていた土御門の()()()()()に強い力が宿った。


「てめェ、雫に──」

「よいしょー」


 風すらも置き去りにする掌底が土御門に迫り──虚空を穿った。


「あれ──」

「──何してンだオイ殺すぞゴラァァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


 ギリギリで掌底を躱した土御門が、連続で剛爪を振り抜く。

 それらを最小限の動きで避け──再びディティが掌底を放った。

 しかし──その一撃は、またも避けられる。


「へー……やるねー? 獣の勘ってやつー?」


 土御門から距離を取り、ディティが邪悪に笑った。


「はァ……! ンっだよアイツゥ……! めちゃくちゃ近距離で戦うじゃねェかァ……! 古河の奴、嘘言ったのかァ……?!」

「……今の、動き……《全てを壊す魔獣(レオーニオ)》、に……似て、る……」

「おー。あなたたち、レオーニオにも会ってるんだねー。って事は、レオーニオに傷を負わせたのってきみたちー?」


 壺を持ち上げ、ディティが感心したように笑みを深める。


「レオーニオに戦い方を教えたのはわたしだよー。だからまあ、似てるのも当然だよねー」

「……虎之、介……」

「……はっ。上等じゃねェかァ──やるぞ雫ゥ。オレらでアイツを──『十二魔獣』を、ぶっ殺すぞォ」

「……うん……!」


 勝ち目がないと思われる戦い──だが一歩も引かず、土御門と水面はディティを正面から見据える。


「……いいねー。そういう熱いの、嫌いじゃないよー」


 ──土御門、水面vsディティ。

 実力に雲泥の差がある戦いが──始まった。

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