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1話

 ──昼休みを知らせるチャイムが鳴った。

 それと同時、クラスの大半が一気に教室の外へと出ていく。売店に行ったり、他のクラスの友達と昼食を食べたりするのだろう。

 と、騒がしい生徒たちとは離れた所で、机に突っ伏している生徒がいた。

 チャイムが鳴った事にも気づいていないのか、すぅすぅと気持ち良さそうに眠っている。


「──おい聡太(そうた)、昼飯まだだろ? 一緒に食べようぜ」

「……んぁ……? ああ……勇輝(ゆうき)か……」

「なんだ、もう飯食ったのか?」

「いや、まだだ……なんだ、もう授業終わってたのか」


 ゆっくりと上体を起こし、聡太と呼ばれた少年が声を掛けてきた男の方に顔を向ける。

 180はあるだろう身長に、ガッチリと鎧のように付いた筋肉を持つ少年──勇輝だ。

 勇輝が弁当を持っているのを見て、自分のバッグに手を突っ込み……可愛らしい布で包まれた弁当を取り出した。


「相変わらず爆睡してたんだろ? お前、今度のテスト大丈夫なのか?」

「勇輝よりは良いから大丈夫だ」

「まあ、間違いないな」


 眠たそうな聡太の発言に、勇輝が苦笑いしながら肯定する。

 パクパクと冷えた弁当を咀嚼し……何気なく、勇輝がクラスを見回した。


「……相変わらず少ねぇな」

「しょうがないだろ。ほとんどのやつらが他のクラスの生徒と一緒に食うんだし……売店に行ってるやつもいるだろうし」

「高一の時の友人が恋しいのはわかるけど……ここまでいなくなるか?」

「このクラスで友だちが作れないんだろ」


 2年1組のクラスを見回す勇輝に、聡太の素っ気ない言葉が投げ掛けられる。

 まだクラスに残っているのは……12名ほど。

 聡太たちの担任、数学教師の川上(かわかみ) 奈菜(なな)先生。

 その川上先生に質問している、水面(みなも) (しずく)

 水面の隣で暇そうにしている氷室(ひむろ) 雪乃(ゆきの)と、獄炎(ごくえん) 火鈴(かりん)

 聡太たちの近くで昼飯を食べている男3人。遠藤(えんどう) 星矢(せいや)宵闇(よいやみ) 影人(かげと)土御門(つちみかど) 虎之介(とらのすけ)

 教室の入口付近で座っているイケメン優等生の剣ヶ崎(つるぎがさき) 討魔(とうま)

 剣ヶ崎の幼馴染み、破闇(はやみ) (ひかる)小鳥遊(たかなし) 優子(ゆうこ)

 そして……古河(ふるかわ) 聡太(そうた)鬼龍院(きりゅういん) 勇輝(ゆうき)


「やあ古河、ちょっといいかな?」

「……………」

「キミに聞きたい事があるんだけど……時間あるかな?」


 教室の入口で幼馴染み二人と話していた剣ヶ崎が、教室の端で昼飯を食べている聡太の所にやって来た。

 無言で顔をしかめる聡太を見て、剣ヶ崎の眉がピクッと反応するが……すぐに笑顔を戻し、続いて表情を真面目に切り替える。

 ……あーあー出た出た。剣ヶ崎 討魔の『勘違い』が()()始まった。


「キミはなんでマジメに授業を受けないんだい? ボクには理解ができないんだ。キミは確かに頭が良い。だけど、それは授業をマジメに受けない理由にはならないだろう? いつもいつも寝てばかりで──まさか、家族のために夜遅くまでアルバイトをしているとか?!」


 鬱陶(うっとう)しそうに舌打ちし、聡太が剣ヶ崎を睨み付ける。

 その視線をどう勘違いしたのか、剣ヶ崎がまたもズレた発言を飛ばした。


「んなわけね──」

「ああ何も言わなくて良い! そうか、そうだったのか! 家族のために頑張っていたのか! やっぱりボクの思った通りだ、キミは根っからの悪人ではない! 優しくて思いやりのある人間なんだ!」


 剣ヶ崎の中では、聡太は不真面目な生徒として認識されていた。

 だが……剣ヶ崎の名推理(勘違いでしかない)のおかげで、聡太への評価が変わったらしい。馴れ馴れしく隣に座り、しつこく聡太に話し掛けてくる。


「──そこまでにしましょう討魔。古河君は、お昼の途中みたいだし」

「う、うん! わ、私も、そう思うよ!」


 と、そろそろ我慢できなくなった聡太が剣ヶ崎に怒号を飛ばそうとした所で救済が入った。

 チラリと視線だけを動かし、声を掛けてきた女の子二人を見る。

 破闇と小鳥遊……剣ヶ崎の幼馴染みだ。


「いやダメだ。折角(せっかく)古河と仲良くなれたんだ、ボクもここで昼食を食べさせてもらうよ」

「……はぁ……ゴメンね古河君」

「私たちじゃ止められないよぉ……」


 思い込みが激しい──そんなの、幼馴染みである二人が知らないはずがない。

 破闇の謝罪をヒラヒラと手を振って気にすんなとアピールし、何に謝ってるんだ? と剣ヶ崎が首を傾げる。


「……なあ聡太」

「悪い勇輝……どっか行っててもいいぞ」

「いや行かねぇよ? 昼飯は聡太と食うって決めてるからな」


 ニイッと凶悪に笑う悪友に、心底申し訳ないと心の中で思う。

 聡太と勇輝は、小学生からの腐れ縁だ。こうして同じ高校に入学できた事を、聡太は密かに嬉しく思っていたりする。


「鬼龍院は、柔道部だったかな?」

「ああそうだな。全国大会に出る程度には頑張らせてもらってる」

「素晴らしい……! ……古河は、部活には入っていないのか?」

「入ってねぇ」


 剣ヶ崎の方に顔を向けないようにしながら、手早く昼食を口に入れ込む。

 とっとと食べて、立ち去ろうという作戦だ。


「あなた……剣道はやめたの?」


 まさかの人物から声が掛かる。破闇だ。

 椅子に腰掛けながら、剣のように鋭い視線を聡太に向ける。


「光? 古河の事を知っているのか?」

「それなりにね……ああ、私と古河君が知り合いってわけではないわよ? 私が一方的に知ってるってだけ」

「……ああそういう事か……破闇は、剣道部だったっけか……」

「えぇ。あなたが全国2位だった時、私も全国大会に出てたのよ?」

「……そうだったのか?」


 まさかの共通点に、聡太が驚いたように目を見開く。

 聡太は中学時代、剣道の大会で全国2位になった事があるのだ。ちなみに破闇はベスト16だった。


「もったいないわね……折角の才能なのに」

「才能を持ってても、楽しくできなかったら意味がないだろ」

「そう……羨ましいわね。私も言ってみたいわ」


 美しい微笑を浮かべ、破闇が弁当箱を開ける。

 その隣にオドオドと座る小鳥遊が、何とも愛らしい。いや、オドオドし過ぎじゃないか? とも思えるほどだ。


「えぅ……ぇ……?」

「どうしたの優子? 可愛い顔が台無しよ?」

「……し、下……! 見て……!」


 青ざめる小鳥遊を見て、4人が首を傾げる。

 4人が下を見る前に、クラス内から叫び声が上がった。


「せ、先生っ! 床が、床がっ!」

「なっ、何これ?!」


 先生と会話していた女子生徒が、床に目を向けてキャーキャー騒いでいる。

 ようやく聡太たちが床に視線を落とし──固まった。

 そこには……幾何学的な魔法陣のような模様が描かれている。

 魔法陣を認識すると同時──魔法陣が輝き始めた。


「な、なんだこれは?!」


 立ち上がり、剣ヶ崎が驚愕に目を剥く。

 いつもは冷静な破闇も、予想外の事態に固まってしまっている。


「……勇輝、ドア」

「お、おう」


 固まっている生徒と先生を置いて、聡太と勇輝が行動を始めた。

 聡太が窓に向かい、鍵を開けようとするが──鍵が動かない。

 勇輝は教室の扉に向かい、とりあえず外に出ようと扉に体当たりを始めるが──ビクともしない。


「なっ……?! なんだこりゃ頑丈過ぎるだろ……!」


 体重98キロの巨体が、何度も何度も扉に体をぶつけるが……鈍い音を立てるだけで、壊れる気配はまったくない。

 そうしている間にも、魔法陣の輝きが増していき──教室内を、白い光が包み込んだ。


 やがて光が晴れ、そこに残っていたのは……机の上に広げられた弁当と、生徒たちのカバンだけだった。

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