世界樹の木
なんだここは?壁も地面も木の幹で出来ている。意識しないと木と木の窪みに足をとられてしまいそうだ。
「ところで先程の言葉は何ですか?」
「あれはエルフの古語です。今ではもう使われていないものです。」
なるほど。エルフとこの木はつながりが深いというわけか。人間には入ることすら出来ない。
「ソフィアさんはここに来たことあるんですよね?道分かりますか?」
「残念ながら内部の構造は変わってしまっているようです。モンスターなんかいませんでしたし。私ができるのは先ほどのように入口や上階への道を開いたりすることだけです。」
申し訳なさそうにソフィアさんが言う。
手がかりが無いとなると、なかなかハードなミッションになりそうだ。
≪おいみんな!カードから出てきてくれ!≫
≪おいっす!≫
≪ボク・・・頑張る。≫
≪はっ≫
「ブ」
3人と1匹がカードから出てくる。姫様には前にも見しているため驚きは無いようだ。
「みなさんよろしくお願いしますね。私には見えませんがアリスさんもよろしくお願いします。」
霊体美少女のアリスと豚君を除く全員が大きく頷く。アリスはしぶしぶといった表情だ。ライバルだとでも思っているのだろうか?豚君にいたってはソフィアさんを見る目がハートだ。
≪アリスと豚君も頼んだよ。≫
≪うん。≫
「ブヒ。」
豚君は返事をするとソフィアさんの脚元にすり寄り、体を擦りつけている。本能に忠実な奴だ。
「うふふふ。かわいい豚さんね。」
「ブヒ。」
・・・羨ましい。クソ豚め!
「行くぞ!」
道は複雑に入り組んでいる。
「ツバサ!この先何かいるわ。」
「了解。ソフィアさん!この先何かいるそうです。みんなも戦闘体勢だ。」
「分かりました。」
≪おいっす。≫
≪はっ≫
刀を抜き背後にカードを浮かせる。
「キノコ??」
いかにも毒々しい緑色の傘をした大きなキノコが現れた。ギャアギャア騒いだかと思ったら頭をグルンと回す。
その瞬間、頭が飛んできた。いや、緑色の傘が飛んできた。
「避けろ!」
まるで俺達を左右に分かつかのようにビュンビュンと音を立てながら真ん中を通り過ぎる。そしてブーメランのようにキノコの頭の上にスッポリ戻る。
ふざけているのかと思ったがどうやらマジらしい。
あんな攻撃当たるわけないのだが、毒キノコは再び頭をグルンと回しヅラを、いや傘を飛ばしてくる。先頭のムサシが斧でなんなく真っ二つにすると、ヅラが、いや残骸が後方に飛んでいった。
傘の無いキノコはツルツルだった。頭がテカっている。本人も気にしているのだろう、ニョキニョキと生えた短い手で自分の頭を確認するかのように擦っている。
そしてギャーギャー怒り始めた。顔が怖い。
「いやいやいや、お前自分で飛ばしたんだろ!」
「¥;+:@▽」
ダメだ会話にならない。
しばらくするとツルテカキノコは全身に力を込め始めた。踏ん張っている。何が起こるのだろうかと見入っていると次第に頭の辺りがサワサワしだした。
なんとヌヌヌっと緑色の傘が出現した。こいつを解剖してDNAを研究したら世の中にハゲはいなくなるかもしれない。
めちゃくちゃドヤ顔だ。もういい。コイツに付き合うのは時間の無駄だ。
「火炎切り!」
ポン。
キノコの胞子をドロップした・・・めちゃくちゃいらないが。
どうやらこの階層はキノコの棲家のようだ。今のを皮切りに少し進むとキノコがワラワラと出現する。これがダンジョンの怖さだろう。
まあといっても今の俺にはキノコなんて話にならないので適当にカードにしつつ狩っていくわけだが。
ヅラキノコ:ランクE:レベル15
体力 25
魔力 37
攻撃力 28
防御力 15
素早さ 14
スキル:傘手裏剣
やはり名前はヅラキノコだった・・・笑
スキルは名前こそカッコいいが実際はヅラ飛ばしだからいらないな。うんうん。
♢
しばらくするとソフィアさんが口を開いた。
「ツバサ様、次は私も戦ってもいいでしょうか?」
「え?ソフィアさんって戦えるんですか?」
「はい、少しだけですけど。」
そうか、てっきりヒーラー専門だと思っていたが、よく考えたら1人でトリンドル王国に行けるだけの力はあるのか。うむ。
「じゃあ、向こうの3匹お願いします!」
さて姫様はどうやって戦うのだろうか。
いつでもフォローできるように構えていると、魔力を込めたソフィアさんから光り輝く弓と矢が現れた。左手をピンと伸ばし右手で矢を引く。
ヒュン。
光り輝く矢がキノコめがけて一直線に飛んでいく。見事にど真ん中に命中しドロップ品に変わる。
その後、2投目3投目と寸分の狂いなく命中する。どうやら魔力によって作り出したもののようなので、持ち運んだり補充する必要が無いようだ。
「綺麗な魔法ですね。」
「はい、この光魔法は父から受け継いだものです。」
「父?もしかして石化してしまったんですか?」
「いえ、父は90年以上前になくなりましたから。」
「あ、そうだったんですか。すいません。」
「気にしないでください。」
「・・・・ん?90年以上前??てことはソフィアさんって何歳なんですか??」
「ふふふ。人間で言ったら15歳ぐらいです。」
「え・・・もしかしておばあ・・・・」
グサっ
「ギャアアアアアア!」
お腹に光の矢が刺さっている。
「私はようやく結婚適齢期になったばかりですよ?エルフで考えたらまだまだ子供なんです!」
「す、すいません。」
どうやらお婆さんは禁句のようだ。時の流れが人間とは異なるのだろう・・・
「さ、先に進みましょうか。」
♢
その後も時折休憩しながら先に進む。閉鎖空間なので時間の感覚が無くなっていくがそろそろ6時間ぐらい経っただろうか?
≪ツバサ!来るよ!≫
うむ、そろそろベットで寝たくなってきたが・・・・
「おお?」
赤い傘のキノコだ。体も一回り大きい。左右には子分と思われる緑キノコが10体ずつぐらいいる。
「とりあえず俺がやるから取りこぼした奴をみんなで頼むよ。」
数も多いし新魔法を試してみよう。
「灼熱!」
その瞬間俺が立っている場所から扇形に赤いマグマのような炎が繰り出された。キノコたちが燃えている。そしてドロップ品に変わっていく。
・・・・。
「ええ?」
≪マスター?終わっちゃったっすね。≫
・・・・。
「うん。」
炎が消える頃には焦げ臭いニオイとドロップ品しか残っていなかった。これではカードにできないではないか。強力なのは良いが考え物だ。
ふむ。
まあ今日のところはいいか。どうせキノコなんていらないし。
すると突然ソフィアさんが前方を指差した。
「あ!ツバサ様あそこは見覚えがあります!上に行けますよ!」
おお?
「本当ですか!てことは今のはこの階層のボスだったのかな。」
「はい!」
ボスを一発で倒しちゃったよ。なかなか強くなってしまったものだ。はははは。
きりもいいし今日の探索はここで終了だな。
≪みんなお疲れ様!カードの中でゆっくり休んでくれ。≫
スライムのロマンとゴブリンのグリン、オークのムサシをカードに収納する。
「大丈夫ですか?」
「はい。ほとんど私は何もしていないので大丈夫です。」
しかし言葉とは裏腹に姫様の息が上がっている。ある種の閉鎖空間は精神にストレスがかかるのだろうか?それとも石化しないとはいえエルフには辛い場所なのだろうか。
「そういえばなぜソフィアさんだけ石化せずにすむんでしょうか?」
「それは・・・私にも分からないのです。」
うむ。不思議だが考えてもよく分からない。
「ブ~」
そうだな。お前も分かんないよな。
「・・・ん?なんで豚君がここにいるんだ?」
「ブヒ!」
「ブヒ!じゃねーよ。さっきムサシと一緒にカードに入らなかったのか?」
「ブーヒーン!」
・・・困った奴だ。
「ツバサ様、今だけ出してあげましょう。」
「え?いいんですか?こいつ変態ですよ?被害を被るのはソフィアさんだと思いますけど?」
「ブっブ!」
豚君が首を横にブルンブルン振る。そして姫様の足に擦り寄る。流石に前回のように腰を振るのは止めたようだ。
「ふふふ。かわいいです。」
ソフィアさんが頭をナデナデしながら言う。
姫様にこう言われたら仕方ない、受け入れるしかない。だがいつかチャーシューにしてやると決めた。
・・・クソっ全然面白くないぞ。
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