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出発

 金魚の糞どもから口々に「ブオー様!」と言葉が発せられる。ちゃんと手加減はするつもりだったのだが、アイツの顔を見た途端つい力が入ってしまった。・・・・壁に頭がめり込んでいる。


 まったく、ブ男はケツから見てもブ男だ。


 スポンッ


「イテテテテ。き、貴様~いきなり何をする!ボクちゃん怒っちゃったからな!」


 頬っぺたと頭に大きなたんこぶができている。うむ、痛そうだ。


「ボクちゃんの綺麗な顔が傷ついちゃったじゃないか。プンプン!」


「いや、案外そっちの方が良いと思うぞ。」


「え?そ、そうかな?」


「ああ、わりとマジで。」


 もともと最低レベルなのだからそれ以上下がる事は無いはずだ。


「ふんふんふん、まあボクちゃんはDNAがいいからね。」


 なんだコイツ。どこまで本気で言っているのか分からない。


「そうだな。美男子だからな。羨ましいよ。」


「うんはっ!まあ君もいい線言ってるけど、ボクちゃんの美貌からは程遠いからね。だって奴隷どもはボクちゃんがキスしただけで顔中ビチョビチョになるんだよ。君じゃあ無理だろう?うんはっうんは!」


「?」


「ほんと世の中、淫乱な女ばかりで困るよ。」


 ・・・


「それは気持ち悪くて泣いてるんじゃないのか?」


「はははは、面白いことを言うな君は。女が興奮するとまず顔がビチャビチャになるのを知らないのかい?君のパパはどういう教育してきたんだよ。かわいそうに。」


「・・・・もういい、ブ男。とりあえず奴隷を置いてこの国から出ていけ!」



「そんなわけにはいかないよ。だって今からボクちゃんは姫様を奴隷にするんだから!そもそも君はソフィアたんの何なんだい?部外者はどっかいけよ!」


 ダメだ・・・コイツと喋っているとイライラが止まらない。もう一発お見舞いしてやろうかと拳を握った。


 しかしその時ソフィアさんが口を挟んだ。


「彼は私の将来の旦那さんです。あなたの奴隷にはなりません。」


 今まで見たことが無いぐらい毅然とした態度で言い放った。この部屋には兵士もいるのだが宣言して良かったのだろうか?ザワついたのと同時にあちこちから落胆の声が聞こえた。主に俺を見てモジモジしていたエルフだ。そりゃあ姫様の相手を寝取るわけにはいかないと思ったのだろう。


 夢のエルフのハーレムが遠のいたかもしれない。王族に睨まれるリスクを(おか)してまで俺に言い寄る女はどの程度いるだろうか?


 っといかんいかん。そんなことを考えている場合ではない。




「ウガガガガ、ウンガ?将来の旦那だと???」


「・・・ブオー様お帰りください。もうあなたの援助は受けません。」


「なんだと!?これまでの恩を忘れたのか?プンプン。許さないぞ!お前らこの男をひっ捕らえよ!男娼館に売り飛ばしてやる!」

「はっ」


 金魚の糞どもが一斉に剣を抜いた。頭が悪い奴はすぐに暴力に訴える。俺を除いての話だ。



 もちろんそっこーでぶちのめした。全員仲良く壁にめり込んでピクピクしている。こんなに俺が強いと思っていなかったのだろう。ブ男は金魚のように口をパクパクさせている。金魚と金魚の糞でお似合いだ。


「こ、こんなの認めないぞ!プンプン!」


「ブオー様、あなたにはもちろん感謝しております。ですが少なくともそこにいるツバサ様は見返りなど要求しませんでした。それにあなたがこれまで我々の仲間に対して行ってきた非道も許すことは出来ません。」


「ぐむむむ・・・覚えてろよ。後悔することになるからな!ウンハっ」


 捨て台詞を吐きながらブ男は走り去ろうとした。だがこのゲス野郎をこのまま帰すわけにはいかない。


「おい!ちょっと待て!」

「ひっ!」

「ここにいる奴隷を全員解放しろ!」

「これはボクちゃんの奴隷だ!」

「うるせーよ!」

「ひっ」


 少し殺気を出したら泣き出しやがった。コイツの涙ほどイラつくものは無い。


「涙を流す少女たちの気持ちが少しは分かったか?」


 ブンブンと首を縦に振る。まあ、もちろん俺の刀を見せびらかしているわけだが。


「早くしろ!」

 どうやら奴隷の首輪には主人の魔力が登録してあるらしい。そこに魔力を流し込みながら奴隷契約を解除すると明言すれば首輪が外れる。


 解放されたエルフは全員泣いている。首輪が外れたとはいえ内出血をした痕がついているので奴隷だったとすぐに分かる。綺麗な白い肌が逆に引き立たせているといってもいい。おそらく何度も何度も苦しい思いをしたのだろう。


「絶対に許さないからな!必ずソフィアたんに首輪をしてやる!覚えてろよ!プンプン!」


「お帰りください。」

 女王様がピシャリと言い放った。有無を言わせぬ力強い感情がこもっていた。ブ男は一瞬たじろいだ後、尻尾を巻いて逃げて行った。 



「ツバサさん、娘を助けていただいてありがとうございます。」

「いえ、勝手なことをして申し訳ありませんでした。」

「謝らないでください!私もスッキリしました。」


 ソフィアさんはなぜだか少しモジモジしている。将来の旦那さんと言ってしまったことを気にしているのだろう。まさかみんなの前で逆プロポーズを受けるとは。


 ふむ。まあ、今はあえてツッコむのは止めておこう。世界樹の木から帰ってきたにあとに考えよう。



 その後は、今更デートの気分でも無かったので明日の準備をすることになった。王の間を出ると兵士たちが敬礼をしてきた。女王様とソフィアさんに対して行っているのかと思ったがどうやら俺に対してらしい。


 ブ男をぶっ飛ばしたからだろうか?


 アリスが敬礼をし返している・・・誰にも見えていないが・・・笑



 持っていく物などそんなに無いが、、、、とりあえず大事なのは食料だ。


 女王様は俺の能力を知らないので携行食を用意していたらしい。普通の食糧が俺の体に入っていくのを見て仰天していた。


 恐る恐る俺に近づいたかと思うと指でつんつんしてくる。もちろん女王様が飲み込まれるなんてことはない。



 かなりの量を詰め込んだ。ついでにお酒が入っていた大きな樽をもらったが用途についてはまだ秘密だ。



 それからソフィアさんの部屋に移動して荷物を詰める。


 白色のドアを開けると甘いメスのニオイが充満していた。並みの人間ならこの時点で意識を失っているかもしれない。しかし俺は何日もこのニオイを至近距離で嗅いできたのでどうってことはなかった。



「えっと・・・この辺の服の着替えをお願いします。」


「はい。これもですか?」


 小袋に包まれた謎の物体だ。触ったかんじ柔らかいが。


「はい・・・これは・・その・・下着なので中は見ないでください///」


「ああ、了解ですよ。」


 うむ。水着姿まで見ているのだ。何も興奮などしない。クンクン。うむ。クンクン。


 今の俺は鼻を近づけなくても対象物の匂いを嗅ぐ高等技術を身につけたのだ。鼻の穴を膨らませない嗅ぎ方はすでに習得している。


「あとは寝袋と・・・・うん、このぐらいです。」

「よし、じゃあ明日からよろしくお願いしますね。」

「はい///」



 そうして1日過ぎていった。




 翌朝、露出狂のエイミーさんと覗き魔のエマさんが部屋までやってきた。エイミーさんからハグをされエマさんからは握手をされた。2人ともキャラがぶっ飛んでいるが今日ばかりは真面目だった。



 身が引き締まる思いだ。


 出発するためシンと静まり返っている廊下をスタスタ歩く。窓から朝日差し込んでいる。



 そして、城のエントランスまで行くと溢れんばかりの歓声が上がった。兵士たちが列をなしていたのだ。それだけではない。国中に俺とソフィアさんが出発すると知れ渡っていたのだろう、全員から盛大なお見送りをされた。



 そして最後は女王様が出迎えてくれた。


「ツバサさん、ソフィア、気を付けてください。あなたたちの無事を祈っています。」

「はい、出来る限りのことはしてきます。」

「お母様、行ってきます!」



 みるみるうちにみんなの影が小さくなっていく。目の前には真っ白になった世界樹の木がそびえ立っている。まるで来るものを拒むかのような威圧感だ。木の周りには真っ黒な水が円状に広がっている。


 いったい樹齢何百年経てばここまで巨大な木に成長するのだろうか?全力で攻撃しても皮に傷がつくだけだろう。


「この黒い水?の上は通れるんですか?」


「心が綺麗な人ならば通ることが出来ます。これに関しては奴隷エルフを使っても無理です。」


「落ちたらどうなるんですか?」


「二度と光を見る事は無いと言われています。」


 股間の辺りがヒュンとする。沈まないという確証があるわけでもない。


 恐る恐る黒い水に一歩を踏み出す。ここでもし沈んだら笑い話では済まない。


 足の裏が水面(みなも)に触れる。


 ・・・沈まな・・・い。ちゃんと捉えることが出来た。


「死ぬかと思いました。」

「ふふふ。私には分かっていました。」


「それにしてもなんでこんな暗い色なんですかね?」


「もともとはこんな色では無かったんです。」


「・・・これまた乱れた影響というやつですか?」


「・・・はい。」


 どうやらかなり深刻なようだ。ブ男を追い払ってしまったこともあり、今回のミッションに失敗は許されないだろう。まあ、そもそもブ男に頼っても根本は解決しないので、ちょうど良かったのかもしれない。



「ツバサ様準備はいいですか?」


 パッと見入口になりそうな場所はどこにもないがどうやって入るのだろうか?疑問に思いながらもとりあえず返事をする。


「では手を離さないように握っていてください。」



 姫様の右手と俺の左手が重なる。少し冷たいがスラっと伸びた華奢な指から体温を感じる。


 するとソフィアさんは目をつぶり何かを唱えた。

「:@。~^;+▼⊿」



 その瞬間、目の前の木の幹がズズズズっと動き、大きな漆黒が口を開けた。ここからでは中がどうなっているのか分からない。


 夜目を持っていても先が見えない。そのうち左右どころか上と下も分からなくなってきた。


 だが不思議と恐怖心は抱かなかった。


 コツコツと足音だけが響く。


「もう少しです。頑張ってください。」


「!?」


 光が見えた瞬間、カラッとした空気からムワっとした大気に変化した。それに肌がピリつくようだ。


 握っている手に力が入る。ソフィアさんも汗ばんでいるのが分かる。


「ふう、ふう、着きました。」



 ふと顔を上げる。


 そこにはダンジョンが広がっていた。


ブックマークありがとうございます!読んでくれる方がいるのだなと力になりました。


最近新しい小説も書きたいな、なんて思ったり思わなかったりです。笑


次回は4月1日に更新します!よろしくお願いします。

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