大商人ブオー
夕飯を食べた後、雲でできたフカフカベットに寝ころびながら、女王様から言われたことを思い返す。男がほぼ壊滅したことにより女エルフが欲求不満に・・・
どおりで俺を見てモジモジする奴が多かったわけだ。全員発情してやがったんだ。けしからん。本当にけしからん女子たちだ。
そんなことを考えていると、ふと壁に飾ってあった絵画が気になった。肖像画のようだが違和感を感じる。近くに行ってジッと眺めてみる。
視線??
隅から隅までくまなくチェックすると絵に描かれている人物の黒目がおかしい。
小さな穴が開いている。
もしやと思い覗き込んでみると隣の部屋が見える。方向からして姫様と反対の部屋だ。
確認するため急いで部屋から出ようとドアを開けた。しかしドアがゴツンといって何かにぶつかった。なんとメイドエルフがモジモジしながらおでこをさすっている。
もしかして聞き耳を立てていたのだろうか??
「えっと・・・ここで何を??」
「い、いえ、お部屋のお掃除に参りました。」
俺が質問すると、黒色カチューシャの美人エルフが答えた。めちゃくちゃ目が泳ぎ動揺している。
「・・・・。まあそれならお願いします。」
「は、はい。」
「あのところで、そこの部屋は誰の部屋ですか??」
「そ、そこはエマ様のお部屋です。」
「女王様の側用人の??」
「はい。」
まさか・・・俺の事を汚物だの細菌だのと言っていたが・・・
急いでエマさんの部屋をノックする。するとけだるそうな顔をしたモコモコパンダが出てきた。
「あの?少し確認したいことがあるので部屋に入れてもらっていいですか??」
「ダメです。部屋に菌が繁殖するです。」
「いや・・すぐ終わるんで。」
「何ですか?怖いです。」
「え、い、いや・・・もしかして俺の部屋覗いてましたか?」
「気持ち悪いです!」
バタン!
ぐむむむ。ドアを閉められてしまった。これではまるで俺が変態ではないか。
仕方がないのでもう一度自分の部屋に戻る。そしてのぞき穴を確認してみる。
おかしい。今度は何も見えない。真っ暗だ。見間違いだったのだろうか?
どうしようもないので、部屋の掃除をしているメイドの太ももを眺めて時間を潰す。レースのフリフリがかわいい。
「あの名前は何ですか?」
「え?・・・えっとルミーです。」
「お仕事大変ですね。」
「いえ。こうしてツバサ様に近づけますし。」
「・・・え?」
「あ、あ、間違えました。やりがいがありますし。」
「・・・そ、そうですか。」
一生懸命掃除をしてくれているが、この子は欲求不満に違いない。まあ人間なら誰しも欲はあるものだ。
その後しばらくルミーちゃんは窓をフキフキ、ケツをフリフリしてから飲み物を用意してくれた。
コーヒーのように黒い。初めて飲むものだ。
しかしカップを受け取ろうとした瞬間、彼女がつまずいて飲み物がぶっかかってしまった。
「あっつうううううぅぅ!」
「ご、ごめんなさいぃぃ!」
やけどしそうだったので急いで上と下の服を脱ぐ。ルミーちゃんはオロオロしながら近くにあった布で俺の体を拭き始めた。またしても絵画から視線を感じたがそれどころではない。
ニオイもついてしまった。されるがままにゴシゴシ、フキフキされる。
しかしその時、運の悪いことにソフィアさんが部屋に入ってきた。
「あ。」
俺がパンツ一丁でメイドに体を拭かれている。いやソフィアさんの角度からだと素っ裸に見えたかもしれない。一目散に走って出て行ってしまった。
あああああああぁぁぁ、最悪の勘違いをされてしまった。
しかもよく考えたらルミーちゃんが拭いてくれてるその布って、今まで掃除に使ってたやつっ。
「ルミーちゃん・・・その布汚くない?」
「え?・・・あ・・・ああぁぁ、ごめんなさいいいいぃぃ!」
「・・・もういいよ。」
ブフゥゥゥゥ!フフフフ、フゴッ!ゲホッゲホ!
横の部屋から笑い声が聞こえてきた。押し殺しているようだが漏れ出ている。なんだか無性に腹が立った。間違いなく覗いてやがる。
パンツ一丁のままとりあえずソフィアさんの部屋をノックするが返事が無い。中からはシクシクと涙する声が聞こえてくる。俺の口から言っても言い訳にしか聞こえないのか。いや、そもそもソフィアさんとはまだ何の関係も無いから説明する必要もないのだが・・・
仕方ない。
一旦説得を諦め、強引にエマさんの部屋のドアを開けた。
「な、何ですか!入ってくるなです!」
モコモコパンダの言葉を無視して壁をチェックする。後ろから物を投げられているが気にしない。
「あった。」
「!?」
「エマさん、この穴から俺の事覗いてましたね?」
「し、知らないです。」
白々しい奴だ。
「うそつけ!本当は男に興味があるんでしょ?」
「う、うるさいです!喋るなです!細菌です!」
「このことは女王様に黙っててあげますから、見たことをソフィアさんに説明して誤解を解いてください。お願いします。」
「嫌です!何も見てないです!」
「お願いします!」
「・・・そんなこと言って後で笑うに決まってます。」
「何を笑うんですか?男に興味あるってことですか?」
「・・・」
「笑いませんよ。女性が男性に興味を持つのなんか普通の事じゃないですか!」
「う、うるさいです///」
「エマさん!!何でもしますから!」
「・・・じゃあこの国にいる間は覗かせろです。」
「え・・・わ、分かりました。」
「でも意識したらダメです。ナチュラルに生活しろです。」
「わ、分かりました。」
「・・・他の人に喋ったら殺すです。それと世界樹の木を探索し終わったら添い寝しやがれです。」
?
「わ、分かりました。」
「じゃあ説明してくるです。約束破ったら殺すです。」
「ありがとうございます!」
覗かれていた俺がお礼を言うのはおかしいが仕方ない。
モコモコパンダのエマさんに期待して、とりあえず今日のところは眠りについた。
翌朝、絵画から視線を感じて目を覚ましたがそういう約束だ。もはやまったく隠そうともしていない、むさぼりつくようなねっとりとした視線だ。かわいい顔して変態野郎め。
・・・だがこれはこれでアリかもしれない。見せつけるように着替えてやった。
その後、朝食の準備が出来たというので案内された部屋にいくと女王様とソフィアさんがすでに席についていた。
「お二人ともおはようございます。」
「はい、おはようございます。」
「おはよ・・・・ゴニョゴニョ。」
挨拶をすると2人とも返してくれたが、ソフィアさんはどこかよそよそしい。目も合してくれない。
「いただきます。」
モグモグ。
「・・・・。」
モグモグ。
「・・・・。」
モグモグ。
気まずい。
すると女王様が沈黙を破った。
「2人がそんな関係では世界樹の木を攻略することなんて無理ですよ?」
「え?ダンジョンに行くのは俺だけではないんですか?」
「ソフィアも行きます。」
「石化してしまうのではないんですか?」
「ソフィアだけは例外なのです。そもそも世界樹の木にはエルフの手引きでしか行けない箇所がいくつかあるのです。人間のツバサさんだけでは先に進めなくなります。」
「そうだったんですか。」
「はい。だからこそ姫であるソフィアがわざわざトリンドル王国に行って、一緒にいける人物を直接探していたのです。」
「なるほど。」
「はい。心が綺麗で強いこと、なおかつソフィアの素を見ても理性を保てる人物が必要だったのです。そんな人めったにいるもんじゃありませんから。」
「・・・そうですか。買い被りのような気もしますが・・・」
すると姫様が口を開いた。
「ツバサ様昨日は取り乱してしまいすいませんでした。・・その・・エマさんから事情を聴きました。」
「ああ、えーと誤解が解けたなら良かったです。」
「ふふふ、2人とも今日は外に出てデートでもしてくるといいわ。」
「お母様、、、、デートなんて・・・」
「いいですね。世界樹の木に行くのは明日からですし、ソフィアさん案内してくださいよ。」
「は、はい///」
姫様に笑顔が戻った。女王様と覗き魔に感謝だ。
しばらくしてから一緒に出かけた。城の者みんなに見られて、ソフィアさんは恥ずかしそうにしていたが嬉しさが溢れ出ている。もちろん俺もハッピーだった。
しかしそんな気分もすぐに打ち消されることとなった。
前方に人間が数人とエルフが10名ほどいたのだ。エルフの首には首輪がついている。先頭にいる人間はブ男だが着ている物が高級品だ。奴隷だろう。初めて見たが気分のいいものでは無い。無抵抗の美女を何度も傷めつけている。
我慢が出来なくなった俺は素早く近づきブ男の腕を掴む。
「おい、止めろよ。」
「ああん?何だお前?これはボクちゃんの所有物だ。どうしようとボクちゃんの勝手だろ。こんなふうにな。うんはっ」
そう言ってブ男は奴隷エルフを順番に蹴飛ばした。誰も抵抗しようとしない。日頃から調教しているのだろう。周りの人間はニタニタしながらその様子を見ている。
「うひゃひゃひゃひゃ。お前もやってみるか?綺麗な顔のくせに鼻水とよだれを垂らしてもっとしてくださいって懇願してくるんだぞ。たまんねえだろ!!」
「てめえぇ!」
「おいおいおい。お前なにマジになってんだよ?お前だってエルフ連れてるじゃねーか・・・・・ん?・・・ってこりゃ姫様じゃね~か。ちょうど良かった。今から城に行くところだったんだ。分かってんだろ~な?期限はもう切れてんだ。もう1日だって待ってやらないぞ。こっちは莫大な支援をしてやったんだからな。」
「・・・。」
「なに黙ってんだよ姫様~そんな顔されたら興奮しちまうじゃね~か。うんはっ。」
「なんの話してんだ?」
「部外者は黙ってろよ~うんはっうんはっ。」
「ソフィアさん?」
「すいませんツバサ様。私は城に戻らなくてはいけなくなりました。代わりの者をよこしますので楽しんできてください!」
「え?ちょっと・・・」
何が起こっているのかよく分からない・・・せっかくのデートだったのに姫様とブ男一行は一緒に歩いて行ってしまった。国に関わる大事なことなら仕方ないが・・・胸糞が悪い。なぜあんな奴らに・・・
待ちぼうけをくらうこと数分、女性が現れた。
「初めましてツバサ様。アンジェラと申します。姫様に代わりまして私がご案内させていただきます。」
「・・・ああ、お願いします。」
トボトボ歩く。今から観光する気分には到底なれない。
「あの?ブオー?って誰ですか?」
「・・・ブオー様は大商人です。」
「この国とも取引をしているということですか?」
「はい。」
「人格に問題があるように見えましたが?ソフィアさんは大丈夫なのですか?」
「・・・。」
「なぜ黙っているんですか?」
「ブオー様は無類の女好きとして有名でございます。特に我々エルフはお気に入りのようでございます。」
「だったらなおさら仲間があんなふうに扱われて、なぜあいつに媚びへつらっているんですか?」
「ブオー様には格安で食料や生活雑貨を支援していただいておりますから・・・特に世界樹の木が乱れ始めてからブオー様に依存している状態です。」
「・・・あいつは見返りに何を求めているんだ?」
「それは・・・詳しくは分かりませんが・・・姫様かと・・・」
「結婚ということか?」
「いえ・・・奴隷に・・・」
「なんだと!?」
・・・・クソ野郎が。
「あ、ちょっとどこに行くんですか?」
アンジェラさんの質問に答えることなく歩いてきた道を引き返した。城のエントランスをズカズカ歩き乱暴に王の間の扉を開ける。兵士たちが困惑していたが頭に血が上っていたのでスルーした。
「ん?なんでお前がここにいるんだ?」
「ツ、ツバサ様!?」
「どうしたのですか!?」
ブ男、ソフィアさん、女王様が口々に言葉を発する。
「オイオイオイ、そこのお前、ボクちゃんの邪魔するなよ。今からコイツはボクちゃんの奴隷になるんだよ。」
「うるせ~よ。」
ボコオオオォォォン。
ツバサの拳からブ男の血が滴り落ちる。ブオーは壁まで吹っ飛ばされ叩き付けられた。
こないだ評価とブックマークしてくださった方ありがとうございます!嬉しかったです。
ブオーは嫌な奴ですね。
もうそろそろダンジョンぽい話になるかなと思います。
次回は29日に更新します!よろしくお願いします!




