虹の国
「さあ行きますよ。」
そう言うとソフィアさんは俺の手を握り歩き出した。細長く華奢な手だ。
「え、ちょ、ちょっとここ断崖絶壁ですよ??」
俺の疑問に答えることなくソフィアさんはズンズン進む。そして、あろうことか崖から一歩を踏み出す。とっさに手を伸ばし引き寄せる。図らずもハグする形になってしまった。俺の手は彼女の背中をしっかり捕えている。そしてお腹から胸にかけて2つの柔らかな感触を感じる。
「何してるんですか!?自殺するつもりなんですか!?そんなことされたら俺が困ります。」
「あの、ツバサ様。虹が消えてしまいます。そろそろ放していただいてもよろしいですか?」
「ダメだ!放さない!」
「放さないって・・・もしや・・・プロポーズですか?」
「違います!」
まったく。こんな時に何を言ってるんだ。もしかしたら国の事を考え過ぎて錯乱してしまったのかもしれない。これだけ小さな背中にどれだけの物を背負っているんだ。
自然と彼女を抱きしめる手に力が入ってしまう。
「ツ、ツバサ様そんなにギュッとされては痛いです///」
「あ、す、すいません。」
「ふふふ・・・虹を渡って行くんです。」
「え?・・・自殺するつもりじゃないの??」
「国のみんなを残して自殺などできるハズもありません。」
急激に顔が火照る。勘違いだったのか。めちゃくちゃ抱きしめてしまったではないか。
「し、失礼しました。」
「い、いえ・・・」
お互いに真っ赤になった顔を冷ますべく深呼吸をする。
「では行きますよ。私を信じてついてきてください。」
「はい。」
崖から一歩を踏み出し虹に足を乗せる。不思議な足ざわりだ。沈み込むような反発するような。だが確かに七色に輝く光の上を俺は歩いている。
「ソ、ソフィアさん!こんな経験は初めてです!」
「ふふふ。驚いてもらえましたか?」
「はい、もうすごいです!」
虹の上を歩けるなんて一体誰が信じられるだろうか。想像を超えた体験に脳みそからアドレナリンが噴出する。
しばらく進みだんだんと余裕も出てきた。ソフィアさんに手を引かれなくても1人で歩けるようになっていた。
「虹の上が歩けるなんて知りませんでした。」
「ふふ。エルフ族以外の普通の方は歩けませんよ。」
「それならなぜ俺は歩けるんですか??」
「それは心が綺麗だからです。心が綺麗な人のみ種族を問わず歩くことが出来ます。」
「え?じゃあ心が汚い人が歩こうとしたらどうなるんですか?」
「それはもちろん転落しますよ。」
ニコ。
天使のような微笑みを向けてくる。
「え・・・ソフィアさんは俺の心が綺麗だと分かっていたんですか??」
「もちろん確信していました。だからこそお連れしたんです。」
「そ、そうですか。」
・・・俺の心が綺麗とか間違ってるんじゃなかろうか・・・だって四六時中女の子のことしか考えていないのだから・・・危うく死ぬところだった。股間の辺りがヒュンとする。
「ツバサ様、虹が消えてきたので少し走りましょうか?」
「えーと、消えたらどうなるんですか?」
ニコ。
またしても先ほどの天使の笑顔を向けてきた。
「もちろんエルフでも転落します。」
さっきからなぜ笑顔なんだ!お尻のムズムズが止まらない。早く地面に到達しなければ。
「それなら急ぎましょう!」
「はい。」
虹の上を歩きだしてから1時間ほどが経った頃だろうか。次第に雲に覆われ始めた。どんどん視界が悪くなる。
「もう着きますよ!付いてきてください。」
「うん?はい。」
すると彼女は突然勢いよく雲の中に飛び込んだ。まるで鏡のような壁のような不思議な雲だ。一瞬で姿が見えなくなった。
もう少し説明して欲しいものだが・・・
とりあえず勇気を振り絞って同じように雲の中に飛び込む。すると足が地面につかない。落ちる!!
と思った瞬間、虹の滑り台に背中から転げ落ちた。
勢いよく滑り落ちる。
「なんじゃこれ~~~~!!」
雲で覆われているため視界が悪い。おまけにスピードはグングン上昇していく。
誰か止めてくれ~~~ああああああ~~~~~~~
ああっ!!
「ソフィアさん!どいて、どいて!」
「え?」
下までたどり着いたソフィアさんが急に現れた。
この勢いのままいったらぶつかってしまう。やばい、間に合わない。足で蹴飛ばしてしまわないようにとっさに股を開いた。
ドン!
ソフィアさんの背中と俺の股間がぶつかった。
ホギュデュバ~~デュバ~
「うおぉぉぉ・・・・」
あまりの痛みに悶絶する。立ち上がることが出来ない。傘の柄で引っかけられたレベルではない、ハンマーで強打されたレベルだ。
「ごめんなさい。ツバサ様!私がボケッとしていたせいでツバサ様の大事なところが・・・」
「・・・・」
「つ、使い物にならなくなったらどうしましょう。ああ、そしたらこの国のお世継ぎが・・ああどうしましょう。」
なぜ俺の股間とエルフの国のお世継ぎが関係あるんだ・・・・
≪ツバサ大丈夫?≫
≪・・・死ぬ、死ぬ~~ああああ~~~≫
≪私が見てあげようか?≫
≪ダメだ!アリスはどうせつんつんするだけだろう!≫
≪ケチ。≫
「今すぐ回復魔法を・・・」
そう言ってソフィアさんは俺のズボンを脱がそうと手をかけた。霊体美少女のアリスは怒るどころか喜々としてその様子を眺めている。
おまけに虹の国の住人と思われるエルフが何人か集まってきた。全員ソフィアさんには及ばないが絶世の美女ばかりだ。
「うっ・・ソフィアさん・・・だ、大丈夫です。」
「ダメですツバサ様!これは正当な医療行為ですから!」
「で、でしたら・・・服の上から・・・」
「それでは触診できないので正確に治療できません!それに効果が薄れてしまいます。」
「・・・しょ、触診??・・こんなところで??・・見知らぬエルフに見られながら??・・・そんなのご褒美じゃないか!」
「・・・え?」
「間違えた!!公開処刑じゃないか!!」
「・・・」
「・・・」
「・・・分かりました。では服を着たまま仰向けになってください!」
どうやら俺の失言は無かったことにされたようだ。見物のエルフからは舌打ちが聞こえたような気がしたが。
痛みのあまり四つん這いから動かすのも辛かったが何とか足を伸ばし寝転がる。
すぐさま姫様が両手に魔力を込め治療にあたる。この世界に来て初めて回復魔法を受けた。ソフィアさんの魔力が流れ込んできて内部から修復されるような、何かに包み込まれるような温かさを感じた。
「うっうう~」
なんだこの感覚は・・・少しかゆい?・・・ああ、あ///
ああ・・・次第に痛みが消えていく。
ふう、ふう。
あ///
ふう。
なんて尊いのだ。こんな病院があるならわざとケガをして通いたい。
「大丈夫ですか??」
「・・・はい・・ありがとうございます・・まだ男でいられるようです。」
「///」
ふう~。
そしてなんとか立ち上がる。めちゃめちゃ内股でしか歩けない。見物のエルフ数人から視線を浴びる。みな綺麗なブロンドヘアだ。普段ならじっくり観察したいところだが・・・・
「早く行きましょうか。」
「は、はい。」
ふと顔を上げるとそこには予想外の光景が広がっていた。地面が雲?で出来ている。七色の色とりどりの雲だ。こんなフワフワな見た目でなぜ支えられるのか?
そして国の真ん中には見たことが無いような大きな木がそびえ立っている。直径何十メートルあるのだろうか。トリンドル王国のお城ほどの大きさだ。しかし1枚も葉っぱがついていない、おまけに木が白い。その周りには建物は立っておらず黒い池?のようなもので覆われている。
「・・・ここがエルフの国ですか??」
「はい。ふふふ、驚いてくれましたか?」
「そりゃあもちろん・・・信じられません。」
「とりあえず私の家に案内しますね。」
「は、はい。」
トリンドル王国では姫様以外見なかったエルフが普通に歩いている。すれ違う誰を見ても美女ばかりだ。ここは楽園なのだろうか?
一方でエルフ達も人間の俺が歩いているのが珍しいのだろう。チラチラ視線を感じる。目を合わせると頬を赤くさせモジモジする。どうやら俺のイケメン度合は美女揃いのエルフの国でも通用するようだ。
エルフの男は大したことが無いのだろうか?全然男性の姿を見かけないが・・・
すると鎧を身につけた女エルフが遠くからかけてきた。
「姫様~!お戻りになられたんですね?」
「ええ。ただいま戻りました。国に変わりはありませんか?」
「・・・。」
「そうですか・・・」
「あの姫様そちらの方は?」
「ああ、紹介します。こちらは人間のツバサ様です。私の将来の・・・」
オホン!いきなり何をぶち込んでいるんだ。
「あ、どうも黒木翼と申します。よろしくお願いします。」
「?・・・私はビンセントです。姫様のお世話係をしております。」
これまた綺麗な女の人だ。身長は180センチぐらいだろうか。スーパーモデルのようなスタイルにゴツゴツした鎧があまり似つかわしくない。
「姫様、女王様がお待ちです。」
「はい、今から城に戻るところです。」
俺としてはゆっくりと観光したいところだがどうやらそうもいかないらしい。しばらく進んでいると何やら地面に穴が開いている箇所がいくつかあった。スッポリと漆黒が広がっている。
まるで工事現場のように囲われ立ち入り禁止になっている。
「ソフィアさん?あの穴はなんですか??」
「・・・あれは・・・また後で説明しますね。」
?
「そうですか。分かりました。」
うむ。ソフィアさんの表情がすぐれない。
そうこうしているうちに立派なお城の門までやってきた。門番も女性がやっている。まるで女人国のようだ。
姫様とビンセントさんはもちろん顔パスで通過する。俺はお客の扱いらしいが初めてということもあり一応、手荷物と身体検査をされる。
体中くまなくぺたぺた触られる。仁王立ちしながら受けて立つ。うむ。悪くない。ただのご褒美だ。笑
何事も無く終わったが一体何の意味があるのだろうか?刀を没収されるわけでもなく形式的なものなんだろうか?
「あれって何か意味あるんですか?」
「まあこの国に入国出来ている時点で心の綺麗な人だと判明しているので・・・。もちろん例外もいますが・・・」
「例外?」
「はい、強引に入国してくる方もいますので・・・」
「そんな方法があるんですか?」
「・・・はい。あの虹の橋はエルフと接触していれば通過できてしまうんです。つまり・・・エルフを奴隷にしている輩は強引に入国出来てしまうんです。」
「なるほど・・・そんな裏ワザがあったんですね。」
奴隷か・・・モヤモヤしながら2人のあとに続く。
ブックマークしてくださった方ありがとうございます!面白くできるように頑張ります。
花粉症がだいぶ治まりました。笑
次回は23日に更新します!よろしくお願いします!!




