攻略法
マスターカードから戻ると、相変わらず煙はモクモクしていたが先ほどまでとは異なり、いくぶん穏やかになっていた。
「ツバサ様!」
「ああ、もう大丈夫だ。生贄は必要なくなった。」
「なに!?その話は本当なのか!?」
村長が目を丸くして訪ねてきた。
「はい。火を司るものと話をしてきましたから。」
「どういうことなのだ??」
少し怪訝な表情をしながら尋ねてきた。
村長達には赤マロを認識できないため説明するのが難しい。どうしたものかと考えていると横に立っていたソフィアさんが助け船を出してくれた。
「みなさん。ツバサ様の言っていることは事実です。」
「・・・確かにいきなり姿を消したりモンスターたちを従えていたり不思議な少年じゃがどこの誰とも分からん。」
「それならば、この方が信用に足る方だということは私が保証します。」
「いやお主に保証されても・・・・」
「私は虹の国の女王の娘、ソフィア・スカーレットです。」
「なんだと!?」
村長達は顔を見合わせオロオロするばかりだ。ソフィアさんにとって自らの素性を明かすことは危険以外の何物でもないが一肌脱いでくれた。そして言葉を続ける。
「本来部外者である私たちには関係の無い話と割り切る事も出来ました。しかし彼は何時間もかけて山を登り助けるという選択をしました。ですから彼の話を聞いてあげてください。コレット村にも利があることだと思います。」
するとその時、横になっていたアベベさんが意識を回復させた。まだ少しボーっとしているようだ。
「・・・分かった。お主たちの話を聞こう。」
村長が言った。
「改めまして、眠れる花のマスターで冒険者のツバサと申します。」
「うむ。」
「俺はコレット村について詳しいことは何も知りませんが、先程この世界の火を司る存在と話をしました。マグマが定期的に噴火するのは祟りではなく自然現象です。生贄も必要ないとのことです。」
「・・・じゃが火を司る存在と言われてもそんなもの存在するのかどうかすら・・・」
「燃えるような赤髪の女を見た。」
寝そべったままアベベさんが呟いた。全員驚愕の表情に変わる。
「あれが火を司るものかいの?」
「そうです!」
「なぜただの村人のアベベに見えたんじゃ?」
みなの頭に浮かんだ疑問を村長が代弁した。
確かにその通りだ。
「もしかしたら意識を失い、死を疑似的に体験したことで何かが起こったのかもしれません。」
「・・・。」
「お主は不思議な少年じゃ。ツバサといったか。ありがとうのう。」
ギョロギョロした目を細め微笑みながらお礼を言ってきた。
「いえ、俺に出来ることをしただけですから。」
改めて村長に向き直る。
「もちろん村人たちの信仰心や先祖たちへの想いを捨てる必要はないと思います。これから先も自然現象なので山が噴火することはあるかもしれません。ですがその時はもう少し自由にしてみたらいいのではないでしょうか。」
「・・・そうか。」
「・・・・。」
「・・・そうかもしれないな。」
少々生意気なことを言ってしまったが村長達が怒ることは無かった。それどころか何か決心がついたようだ。
「一つ頼みごとがあるんだがいいかね?」
「なんでしょうか?」
「これまで犠牲になってきた先祖たちに手を合わせたい。一緒にしてくれないか?」
「もちろんです!」
その場にいた全員が頂上の縁に立ち静かに手と手を合わせる。もちろんツバサも鎮魂と祈りを捧げた。
・・・・・・・
それからみんなで村まで戻った。
幸運なことにマグマの活動はあれから下火になったようだ。もしかしたらご先祖様たちに想いが届いたのかもしれない。モクモクと上がっていた煙もほとんど消え合間から朝日が差し始めた。長い長い夜だった。
村人たちは避難したため村には人っ子一人いない。不気味に静まり返っている。
「誰もいませんね。」
「避難した者たちもそのうち戻ってくるじゃろう。そしたらまた新たに始めるんじゃ。」
そう言った村長の顔はどこか楽しげだ。
「うちの宿ももっと繁盛させるぞい。まだまだ死んどれんわい。」
「ふふふ。良かったですね。」
アリスが微笑みながら言う。
「おお、そうじゃ。お主たちには本当に感謝しておる。どれだけでもうちの宿に泊まればよいぞ。」
「はは、それは嬉しいですね。しばらくお世話になるかもしれません。」
するとアベベさんが俺の耳元まで来て囁いた。
「水着良かったじゃろ?お節介するのが儂の生きがいでのう。ウシシシシシシ。」
「べ、別に・・・」
「ツバサ様何を話してるのですか??」
「い、いやなんでもありません。」
「こやつはな、お主の水着姿がたまらなかったそうじゃ。」
適当にごまかしたのにギョロ目がいきなり爆弾をぶち込んできた。
「な、何を言ってるんですか!?ソフィアさん早く部屋に行きましょう!!」
「は、はい///」
鼻血と悔し涙にまみれている護衛の3人を無視して急いで建物に入る。
まったく。元気になったのはいいがそれはそれで困りものだ。
≪悪いがロマンとグリンとムサシはカードに戻ってくれ!≫
≪はっ≫
そうして3人はそれぞれ自分のカードに戻っていった。しかし次の瞬間3人から驚きの声が発せられた。
≪マ、マスター!なんっすかこれは!?火山が出来てるっす!≫
≪僕のとこにも・・・あります。火を・・噴いてます。≫
≪ただ地面は白いままですな。≫
≪おお、やはりそうか。なんかカードの世界に火の概念が生まれたらしいぞ。≫
≪よく分かんないっすけど、流石マスターっす!≫
≪いやまあ・・・・たまたまね・・・≫
はしゃぐ3人をよそにベットにゴロンとなった。疲れがドッと押し寄せてくる。それにいろいろなことが起こり過ぎて頭が整理できていない。
こんな時は寝るのに限る。
・・・
しかし不思議なことが起こった。ふと目を開けると目の前に鎖でつながれた少女がいたのだ。
これは・・・?
俺はこの少女に触れたことによってこの世界に転移した。
「君はアリスの本体なのかい?」
「・・・。」
「なぜ鎖に繋がれているんだ??」
「・・・あり・・が・・・・う・・・」
「え?」
その瞬間意識がグルンとなった。目を開けると目の前に霊体美少女のアリスの顔があった。初めて出会った時のように俺の顔を覗き込んでいる。
「アリスか、何をしていたんだ?」
「なにも。」
「ふ~ん。正直に言わないとご飯分けてやらないぞ?」
「ん!」
首をブンブン横に振る。
「じゃあ何してたんだ?」
「夜這い。」
「・・・どっちみちご飯無しだな。」
「ひどい!」
すると俺の声に反応したのかソフィアさんが目を覚ました。
「ツバサ様?誰と話してらっしゃるんですか?」
「ああ、実はロマン達以外にもう1人大事な仲間がここにいるんですよ。」
空中を指差して説明する。
「みんなには見えませんがアリスっていうんです。俺の配下なら見ることが出来ますが。」
「そうだったんですか。」
「驚かないんですか?」
「はい、ツバサ様がただ者ではないと分かっていましたから。私には見えませんがもちろん信じます。」
「それはアリスも喜びますよ。良かったな?」
プカプカ浮かんでいる霊体に同意を求める。
しかしコイツは素直じゃない。
≪ふん。この女ツバサに媚び売ってるだけじゃん。≫
≪な、何言ってるんだよ・・・≫
「どうかされましたか?」
「い、いやアリスも喜んでますよ。」
「そうですか、いつか私もお話してみたいです。いっそのことツバサ様の配下になってしまいましょうか。」
チラっ!
「はは・・は。流石に姫様を配下にしたらまずいと思いますけど・・・はは・・。」
なんで上目使いなんだろうか?
「・・・それもそうですね。」
ふと窓の外を見る。時刻は夕方ぐらいだろうか。空がオレンジ色に染まっている。
宿の外から村人のガヤガヤした話し声が聞こえてくる。あれから徐々に人が戻ってきたのだろう。
その後仲良くお風呂に入っていたがポツポツ雨が降ってきたので2人揃って部屋に戻った。
こちらの世界に来て初めての雨だ。時間の経過とともに強くなっていった。
その様子をボーっと眺めていると横に絶世の美女が無防備に寝ていても不思議と落ち着いた気持ちになる。なぜだろうか。
女性ならばもう少し警戒してもよさそうだが・・・
つんつん。
うむ。尖っているが触った感じただの耳だ。
サワサワ。
うむ。うむ。
グニュグニュ。
意外と柔らかい。いい耳をしていらっしゃる。
というか耳を触ると寝相が良くなる。攻略法を発見してしまった。
あまりに手触りが良いのでそれからずっと触っていたがいつの間にか眠りについてしまった。
朝目覚めると俺の手は無意識のまま耳をモミモミしていた。ソフィアさんは起きているようで目をギュッとつぶりされるがままになっていた。心なしか頬が赤く布団の中でモゾモゾしている。
「おはようございます。」
「お//おはようございます///」
「すいません。耳のさわり心地が良かったので。あと触っている間は寝相が良くなったので。」
グニュグニュ。
「あっ//」
グっ
「はうっ//、そ、そうですか///」
何だ今の声は?発情してんのか?試しに手を放すと名残惜しそうな表情をしてモゾモゾする。間違いない。けしからん女だ。
「今日は雨ですね。」
「そ、そうですね・・・しばらく虹の国には行けないかもしれません。」
「ん?どういう意味ですか??」
「ふふふ。それはあとのお楽しみです。」
なんだなんだ、普通には行けないのだろうか??
疑問に思いながら浴衣から着替え朝ご飯をご馳走になる。
まだ帰ってきていない村人もいるようだが事の真相を知った人がひっきりなしに宿までお礼を言いに来る。そんなにしてくれなくてもいいんだが。
それからソフィアさんの判断で2日ほど時間を潰すこととなった。
この2日の間にマグマを泳いでいた魚を合成し新たなスキル:灼熱を手に入れている。
最後は村人みんなに見送られ、笑顔でコレット村を後にした。アベベさんは涙ぐんでいた。最初は目のギョロギョロしたお節介なお婆さんだと思っていたが、田舎のいいお婆ちゃんだ。
「ソフィアさん?」
「何ですか?」
「またコレット村に一緒に来たいですね。」
「え、ええ・・・あの・・・それはプロポーズでしょうか?///」
「・・・え?」
なんと逞しい想像力なのだろうか?全然違うんだが否定しにくい。
「いや・・・もしプロポーズするならもうちょっとハッキリ言うと思います。」
「あ、ご、ごめんなさい。そうですよね。プロポーズにも段取りというものがありますものね・・・わ、私はいつでも大丈夫ですから。」
「え?そ、そうですか。」
・・・なんだか準備が出来たら俺がプロポーズする展開になっているような気が・・・
「あ、雨が止んできましたね。」
「ほんとですね。」
降り続いていた雨が気にならない程度になり、数日ぶりに青い空が顔をのぞかせ始めた。
「お~ソフィアさん見てください!虹ですよ虹!」
「大変です!ツバサ様走りますよ。」
「え?急ぐんですか??」
「はい。あの虹が消えてしまう前に行かなければ。」
イマイチ話についていけないが・・・どこに行くのだろうか。ソフィアさんが虹に向かって全力で走り始めた。
そして断崖絶壁までやって来て立ち止まる。目の前には虹がある。
「まさかソフィアさん。この虹をどうにかするとか言いませんよね??」
「ふふふ。じゃあ行きましょうか。」
どうやって行くんだよ!その笑顔怖いんですけど・・・
ブックマークしてくださった方ありがとうございます!ホントに嬉しいです!!
前も言いましたが今までの文章を手直しするかもしれませんが気にしないでください!もし設定が変わったりする場合は、その時アナウンスしますので。
次回は20日に更新します。よろしくお願いします!




