異世界の神?
尾行を始めてかれこれ3時間ほどが経っただろうか?
目の前に山のてっぺんが見えてきた。蒸すような熱風が押し寄せる。空気も重い。
すると村長達5人に動きがあった。
ギョロ目のアベベさんが一人だけ鳥居をくぐり頂上まで進み始めたのだ。こうなったら陰から様子を見ている場合ではない。急いで後を追う。
俺を先頭にアリス、ソフィアさん、ロマン、グリン、ムサシが続く。
「お主たち!?ここで何をしておる!」
「そこを通してください!」
「ならん!それはならん!邪魔をするつもりか!?」
村長と護衛の三人が俺達を止めようと進路を塞ぐ。その間にもアベベさんはどんどん進んでいく。村人相手に武器を向けるわけにもいかず立ち往生してしまう。
≪マスター!オレっちたちが止めているので先に進んでくださいっす。≫
≪ボクも・・・止める。≫
≪拙者もです。≫
「ツバサ様行ってください!」
4人がそれぞれ体を張って村長達の足止めをする。
「うん、分かった!みんなありがとう!」
「待て!待つのだ!!」
村長の声が虚しく響き渡る。
急いで鳥居をくぐりアベベさんのあとを追った。先程よりも熱風の威力が強まり呼吸をするのもしんどい。
頂上部分は直径数十メートルはあろうかというほどの巨大な穴が開いている。アベベさんはその縁に立ち真下を見下ろしている。その後ろ姿は小刻みに震えている。
マグマだ。赤い海原に、温度の違いによって生まれたオレンジや黄色のマグマがグツグツしている。
まるで地獄が口を開いているようだ。
足がすくみ腰が引ける。傍から見ればケツを突き出しているように見えるだろう。
「アベベさん!」
「!?」
「なぜお主がここにおるのじゃ!?」
「何をするつもりですか!」
「・・・・。」
「・・・我々の先祖はもともと国を追われた者たちだ。どこに行っても厄介者扱いをされたそうじゃ。もちろん行くあてなどどこにもなかった。しかし、数十年に一度生贄を捧げることで安住の地を手に入れたのだ。もちろんその伝統は今でも生きておる。ここで儂が止めたら今まで犠牲になってきた先祖たちに顔が立たなくなる。」
「いや・・・だからって命を捧げるなんて・・・」
ギョロギョロした目が俺を見据える
「お主は不思議な少年じゃな。」
それだけ言うとアベベさんは巨大な窪みの中に飛び込んだ。最後は微笑んでいるようだった。世界がスローモーションに見える。
「やめろ!待て!!」
とっさに手から粘糸を飛ばす。
寸でのところでアベベさんの右脚に絡まった。しかし反応が無い。どうやら飛び降りた時に気を失ったようだ。
急いで糸を手繰り寄せ、引き上げようとするが、あまりの熱量に糸がほつれ始める。
追い打ちをかけるようにマグマの中から大きな魚がジャンプをして食らいついてきた。しかも一匹ではない。複数の魚が、背びれをマグマの表面に出しこちらの様子を窺っている。慌ててカードを飛ばし何とかその場をしのぐ。
興奮と緊張の中で力の限り手を動かす。ようやくアベベさんの足を右手で掴んだところで、緊張の糸がフッと緩み額から汗が流れ落ちる。
地面に寝転んだアベベさんを見て村長達は抵抗することを止めたようだ。膝を着き頭を抱えている。
「ツバサ様間に合って良かったですね。」
「おお、間一髪だったよ。」
「それにしてもこの光景ゾッとしますね。お尻がムズムズします。」
「ははは、間違いないですね。」
しかし安堵したのも束の間。より一層熱風が吹き荒れた。眼下に広がるマグマがまるで海流のように波打ち、そこかしこに飛び散る。そして中心がボコボコし始めた。その動きはどんどん大きくなる。
≪マスター様子がおかしいっす。≫
≪なんだ!?≫
≪上に向かって伸びてるっす!≫
そして次の瞬間グツグツ燃え滾っていたマグマが人型に形成されていく。
唖然とする俺たちをよそに、その人型は赤髪の美しい女性の姿になった。眉毛が丸い形をしている。まるで平安時代の公家の麻呂眉だ。しかも体の内部はうっすらと光っている。
「・・誰じゃ、童を引き寄せたのは?貴様らか?」
「・・・。」
「ん?そなたはエルフか。」
赤マロ女が眠そうな目をソフィアさんに向けながら尋ねる。
まさか生贄に選ぶつもりだろうか??
「絶対にダメだ!ソフィアさんはこの村の人間ではない。そもそも誰一人として渡すつもりはない。」
「・・・何の話をしておる?無礼だぞ。童を誰だと思っておる。」
「知りません。」
「童はこの世界の火を司るもの、火の概念そのものだ。」
「なんだそれは。意味が分からない。どちらにせよソフィアさんを渡すわけにはいきません。」
「ツ、ツバサ様///」
「勘違いも甚だしいぞ。そもそも生贄など誰も頼んでおらん。全く生意気な奴じゃ・・・・・ん?」
俺を見ていた女の目がパッと見開かれた。
「んん!?そこの小童とモンスター共はなんじゃ??」
「俺は冒険者のツバサだ。ここにいるモンスターは仲間だ!」
「なぜそなた達だけ時間に縛られておらぬのだ?神なのか??」
「・・・・何の話をしているんだ?人間に決まってるだろ。」
「ふむ。」
(・・・童でさえ時を繰り返すというのに鎖が見えぬ。人智を超越した存在なのか?)
「その背後に浮かんでいるカードはなんじゃ?」
「なんでそんなこと答えなきゃいけないんだ。」
するとマグマの上に立っていた赤マロがヌっと近づいてきた。ブワッと熱風が吹いたが不思議と熱くは無い。
よほどカードが気になるようだ。手を伸ばしつつきはじめた。
「なるほどのう。そなたはホルダーじゃな。先程の魚はその中か。しかもそのカードが異世界との入口になっておるな。」
「!?」
「その世界へ連れていけ。」
「え??」
「いいから早くしろ。」
なんだコイツは?ペースを握ることが出来ない。
「カードの中に入るとあなたは俺の配下になってしまいますよ?」
「言うたじゃろう。童は神によって生み出された概念そのものじゃ。よって配下などという枠組みなど関係ない。」
「・・・。」
仕方がないので体からマスターカードを取り出し赤マロに見せる。するとズズズズっと勝手に潜り込んでしまった。
「すいませんがソフィアさん、俺も行ってくるので少し持っていてください。」
「え?・・・はい。」
何かに吸いこまれるような感覚のあと気が付くと何もない真っ白な世界に立っていた。
目の前には赤マロがいる。
「ふふふふふふ。この世界はまだ何もないがそんなことはどうでもいい。そなたやるではないか。」
「えっと、、、何がですか?」
「思った通りここに来たことにより時間の呪いから解放されたのじゃ。鎖が無くなっておる。見てみろ!」
そう言って胸を突きだしてきたが俺には何も見えない。
「はい?またその話ですか?どういうことですか?」
「そんなこと童が聞きたいぐらいじゃ。」
その時数キロ先の真っ白な地面がボコボコ盛り上がり始めた。
「なんだ!?」
「童の存在によってこの世界の内部にマグマが生まれたんじゃ。火山でも出来るんじゃろ。」
「もしかしてあんためちゃくちゃすごい存在なのか?」
「だからそう言うておろうが。」
「じゃあ、めちゃくちゃ強いのか?」
「いや、自然そのものであり、概念そのものじゃからな。何かを直接行使できるわけでは無い。」
「じゃああんたがいなくなった元の世界はどうなるんだ?」
「すでにあの世界では誰もが火を認識しマグマを知っておる。世代間の断絶でもない限りとりあえず大丈夫じゃ。」
「なるほど・・・なんとなく分かった。」
「これからあんたはどうするんだ??」
「そうじゃな。しばらくここに居よう。」
「じゃあもう生贄とかいらないよな?」
「うむ。そもそも誰もそんなこと頼んでおらぬ。むしろ迷惑じゃ。」
「じゃあなぜ村人は??」
「知らぬ。」
「あんたがマグマを噴火させてるんじゃないのか?」
「あれはただの自然現象じゃ。」
「それなら生贄は必要ないと教えてあげればいいじゃないか。」
「普通の人間には童を知覚できない。」
「・・・。」
「じゃあ俺は元の世界に戻って知らせてくるから。」
「うむ。勝手にせい。たまに娯楽をよこせ。」
ブックマークありがとうございます!悩みが絶えませんが頑張ります!
今回の話はずっとやりたかった箇所なので何とかできて嬉しいです。けっこう物語の根幹に関わる大事なところかもしれません。
次回は17日に更新します!よろしくお願いします!!




