異変
「ソフィアさんは姫様ですから・・・」
「・・・・・そうやって区別されるのは悲しいです。」
う~ん。ションボリしてしまった。まるで俺が悪いみたいだ。
「・・・じゃあ、布団はこのままで寝ましょうか・・・」
「はい///」
仕方あるまい。
「あのこれは何でしょうか?こんなお洋服見たことがありません。」
そう言ってソフィアさんが指差したのは、どっからどう見ても旅館で着る浴衣だった。2つとも白色ベースだが模様の色が紺色とピンクで分かれている。
「ああ、お風呂から出たら着替えましょう。その時、着かたをレクチャーしますよ。」
「はい。お願いします!ツバサ様は物知りなんですね。」
「いえ・・・たまたまですから。」
「じゃあソフィアさんから入ってください。」
「いえ、ツバサ様からお入りください。私はあとで大丈夫ですから。」
「いや、姫様が先の方が・・・」
「ダメです。」
「・・いいんですか?」
「はい。もちろんです。」
「・・・じゃあ先に失礼しますね。」
≪アリスは覗きに来るなよ!≫
≪そ、そ、そ、そんなこと考えてないし。≫
≪・・・図星かよ。≫
≪絶対だぞ!≫
≪それって来いってこと??≫
≪ちげーよ!≫
まったく。もう少しちょうきょ・・・オホン。教育をしなければいけない。
気を取り直し露天風呂の引き戸を開けようとした。、しかしその時、部屋のドアがノックされた。
誰だろうか?
「はい?」
「女将のアベベです。」
受付にいたギョロ目のお婆さんだ。
「どうかしましたか?」
「いやいや、誠に申し訳ございませんね。最近年のせいか物忘れが激しくて、こちらをお渡しするのを忘れておりました。」
?
「そうですか、ありがとうございます。」
袋に入っていたので、よく分からなかったがとりあえず受け取った。
去り際の女将が何だかニヤニヤしているように見えたが気のせいだろうか??嫌な予感がする。
「何が入っているんですか?」
「えーと・・・!?」
袋の中を確認してみると何やら見覚えのあるものが入っていた。
・・・どう見ても水着だ。男女の水着が入っている。しかも女の方はビキニだ。
う~む。本当に地球人でもいるのだろうか?
いやそれよりもあのお婆さん一体どういうつもりなんだ。どう考えても使う場所はお風呂しかない。しかし流石に姫様にこんなものを着させるわけにはいかない。
「ツバサ様?どうされたんですか?」
「いや~なぜか水着が入ってまして・・・」
「水着ですか?何ですかそれは??」
「水辺で遊ぶ時に着るものです。」
そう言って袋から取り出した。
俺のは黒色のいたって普通のやつだった。姫様のは白色の淡いビキニだ。
「かわいいですね。これは下着とは違うのですか?」
「え、いや、まったくの別物ですよ。これは海や川に入るときにみんな着るものですから。」
・・・正直俺には水着と下着の違いなど分からない。なぜ別物だと判断されているのか不思議で仕方ない。どっちでもいいのだから。うむ。うむ。だが聞かれたら別物と答えるしかない。
「そう・・・なんですか。」
「では・・・これを着ればツバサ様と一緒に温泉に入れるのですか?」
「え??・・・理論上はそうかもしれませんが・・姫様がそんなことをしたらお嫁にいけなくなるのではないですか??」
「大丈夫です。・・・・・・・ゴニョゴニョ。」
「え?」
「問題ありません!」
なぜか力強く宣言されてしまった。
うむ。うむ。ならばいいのか・・・・ただプールに遊びにきたと思えば意識する方がおかしい。
「えっと・・じゃあ一緒に入りましょうか。先に着替えて入っているので準備が出来たら入ってきてください。」
「はい!」
≪アリスもあとでおいで!≫
≪うん!≫
自分の水着を持ち一足先にお風呂までやってきた。奥に日本庭園のような美しい庭があり、手前に黒光りする石で造られた湯船がある。
ドキドキする心臓を抑えながら急いで着替える。
姫様は本当に入ってくるのだろうか?
とりあえず温泉に浸かりながら待つ。
しばらくすると温泉の引き戸が少しだけ開けられた。ソフィアさんが顔だけ出して中を覗いてくる。
「あの、、、入ってもよろしいでしょうか?///」
もちろんいいに決まっている。
恥ずかしそうに全身を露わにした。顔は真っ赤になっている。
息を呑む美しさだ。その姿はもはや神々(こうごう)しい。色白の肌に長い手足。出るとこは出てお尻は上向きにプリッとしている。
クソ、本当にけしからん女だ。世界中の男がこぞって求婚するのも頷ける。
「あの・・どうでしょうか?///」
どうでしょうかって、そんなの良いに決まってんだろ。
「そ、そうですね。とてもお似合いですよ。」
努めて冷静に答える。それでも多少声が上ずってしまった。
「ゆ、ゆ、湯船に入ったらどうですか??」
「はい///」
姫様の一挙手一投足に目が反応してしまう。
華奢な足の指先が、スッと水面を切り裂く。
「はふぅ~~気持ちいいですね!」
「はい。」
「何の成分が入っているんでしょうか?肌がスベスベになっていきます。」
やわもち肌が水分を弾いている。細胞レベルで美しい。
「あれ?ツバサ様って刺青を入れているのですか?」
「いや生まれつきのアザですよ。」
ジー
「・・・似てる。いや・・でも・・違う?」
なにやら1人でぶつくさ呟いている。
「コンプレックスなのでそんなに凝視されても困るんですが・・・これがどうかしたんですか?」
「あ、すいません。気にしないでください!」
「?」
何かに似ているのか??そういえば城でクロースもそんなようなこと・・・・
「あ、ツバサ様!今流れ星が通りましたよ!」
「え?どこ??」
「う~ん、もう消えちゃいました、、、、あ、あそこ!」
「ん?おお綺麗ですね。」
「はい!」
「そういえば、流れ星が流れている間にお願い事をするとその願いが叶うらしいですよ。」
「そうなのですか!?」
「はい。迷信かもしれませんけどね。笑」
すると見計らったようにいくつも流れ星が流れ始めた。
すかさずソフィアさんは目をつぶりお願い事をし始めた。しばらくしてからそっと目を開ける。その表情は柔らかい。
「何をお願いしたんですか?」
「それは国の平和です。」
「さすが姫様ですね。こんな時まで国の事を考えているなんて。」
「いえ、、、そんなことはありませんよ。実はもう一個お願い事をしちゃいましたから。」
「何ですか?」
「それは・・・秘密です///。ツバサ様には絶対に言いません。」
・・・気になる。
何度か聞いたが、結局2つ目のお願いがなにかは教えてくれなかった。
だが一緒にお風呂に入ったことで、部屋に戻る頃には一段階仲が深まったのは間違いない。
お風呂から出たソフィアさんの顔はほんのり赤く艶が良い。水着ももちろん良かったが浴衣には浴衣の良さがある。
うむ。エルフに浴衣。
大事なことなのでもう一度言おう。エルフに浴衣。
「じゃあ明日も早いことですし寝ましょうか?」
「はい。」
霊体のせいで温泉に入れないことに気付き、打ちひしがれていた奴がいたが眠いのでスルーだ。
そうして眠りについたわけだが、やはりソフィアさんの寝相が悪い。なぜ寝る時だけこうなってしまうのか?
すでに3回殴られ4回蹴飛ばされている。今日もグルグル巻きにした方がいいだろうか?
これでは眠れない。
しかしあることに気が付いた。
浴衣が少しはだけている。何も見えていないが悪くない。うむ。悪くない。
もちろん紳士たる者、とんでくる拳と足を避けながら凝視した。それが紳士というものだ。
うむ。批判は受け付けておらぬ。
その後、昨日と同じように粘糸によってソフィアさんをグルグル巻きにしようとしたところ異変が起きた。
「!?」
建物が小刻みにゴトゴトしている。
ソフィアさんも気が付き目を覚ます。
「な、何ですか!?」
「分かりません!」
お互いに固まったまま数秒が経過した。
揺れは収まるどころかだんだん強くなる。
「ヤバイ!」そう思うのと、とてつもなく大きな揺れは同時だった。とっさにソフィアさんの手を握り上に覆いかぶさった。
それからどれだけ経ったのかよく分からない。物が落ちる音が忙しなく響く。気が付くと揺れは次第に収まった。
「だ、大丈夫ですかツバサ様!?」
「ええ。とりあえず外に出ましょう。」
「はい。」
何とか外に這い出すと、村人が続々と家々から出てきた。ざわめきが村中に広がっている。
どうやら女将のアベベさんも上手く逃げ出したようだ。
「これは一体何ですか!?」
「・・・・・これは祟りじゃ。」
ブックマークしてくださった方ありがとうございます!力になります!
今日は少しニャンニャン展開過ぎましたかね。笑
更新していない日もアクセスしてくださる方がいてとても嬉しいです。
このペースなら無理せず続けられそうです。
次回は11日に更新します。




