エルフのお姫様
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ヨボヨボのお婆さんに連れて行かれたのは、何の変哲もない宿屋の一室だった。特にボロいわけでも豪華なわけでもない。
「坊や、そこに腰かけておくれ。」
「あ、はい。」
「本当に中銀貨5枚で、こんなヨボヨボのお婆さんの護衛をしてくれるのかい?」
「はい。護衛をするのは初めてなので実力が足りるか分かりませんが・・・。」
「そうかいのう。ありがたや~。」
「いえいえ。」
「準備をするから少し待っていておくれ。決してそこから動くんじゃないよ。」
・・・動くなとはどういうことだろうか?
≪ツバサこのお婆ちゃん何か怪しくない?≫
≪う~ん、どうだろうな。≫
するとお婆さんは、ついたてを作り、影に隠れてしまった。よく見えないので耳に集中する。
パサ。
布が擦れる音がしてくる。
ん?何をしているんだろうか?
パサ。
・・・!?
まさか服を脱いでいるのか??
イヤイヤイヤ、いくら俺がジェントルマンといえどもそんなにストライクゾーンは広くない。というか困る。
城の大浴場で見た記憶が蘇る。消したはずなのに消えないアレだ。
「ちょっと!ちょっと!お婆さん何をしているんですか??」
「・・・。」
パサっ
「そんなことされても困ります。帰りますよ?」
「待ってください。」
「!?」
お婆さんの声ではなかった。若い女性の声だ。
「今いきます。」
「え?」
そう言ってついたてから姿を現したのは意外な人物だった。といっても全身黒いので素顔は分からないが・・・
「君はあの時の黒づくめの女・・・?」
「はい。」
「どうして君がここにいるんだ?俺はお婆さんとこの部屋に入ったんだが。」
「・・・あれは特別な魔道具で私が変装した姿です。」
「え!?・・・なぜそんなことを??」
「その前に・・・」
女が顔を覆っていた布を脱ぎ捨てた。
「・・・・。」
そこには見たことも無い美少女が立っていた。呼吸をするのも忘れてしまうぐらいだ。色白な肌に綺麗な金髪がマッチしている。シミやそばかすの1つすらない。細長くスラっとした立ち姿は問答無用で見るものを魅了する。
・・・しかも耳が尖がっている。
見つめられると心臓が爆発しそうだ。
なんとか落ち着くために深呼吸をする。
「騙すような形になってしまい申し訳ありません。私は虹の国第一王女のソフィアです。」
「虹の国のお姫様!?もしかしてエルフ??」
「はい。そうです。」
アワアワ
「なぜここに・・・」
「それは心の綺麗な人物を探すためです。」
うむ。何を言っているんだ?
「私どもエルフの国は現在消滅の危機に陥っております。どうか力をお貸しください。」
「え、どういうことですか!?」
唐突すぎて意味が分からない。
「虹の国のシンボルである世界樹の木が暴走してしまい、現在エルフの間に、ある病が流行しております。それにより人口も急激に減りました。特に男性は壊滅的な状況です。」
「・・・特効薬などは無いのですか?」
「今まで世界各国よりいろいろな物を入手して試してみましたが効果はありませんでした。」
そういえば国王様が、虹の国の姫様が何かを集めていると言っていたような気がする。
「あのもしかして・・・チキン公爵が探していたものって・・・」
「はい。おそらく双子を薬の材料にでもしようとしていたのでしょう。彼は私と結婚しようと必死でしたから。」
「・・・なんて奴だ。」
「チキン公爵を止めてくださってありがとうございます。私では止めることが出来ませんでした。」
「・・・なるほど・・・ですがそれならどうして双子が誘拐された時にみんなに教えてくれなかったんですか?」
「それは・・私としてもチキン公爵の犯行だと確たる証拠があったわけではありません。それに私は、皆さんの前で正体を明かすわけにはいきませんでした。」
「?」
「・・・若い女性エルフは昔から高値で人身売買されてきました。悔しいですがそれは今でも変わりません。」
・・・うむ。確かにこの美貌ならば納得だ。どんな人格者でも理性を保つのは難しいかもしれない。
「・・・そうでしたか。・・・ではなぜ俺に正体を?」
「先程も言いましたが私は心の綺麗な人間をずっと探しておりました。なおかつあなたは特別な力を持っているとお見受けしました。それでこうしてお願いをするに至りました。」
「・・・具体的にどうしろと??」
「虹の国まで一緒に来ていただきたいのです。そして世界樹の木を正常にしていただきたいのです。もちろんお礼はちゃんとさせていただきます。」
「俺以外の人でもいいのではないですか?」
「・・・それは行けば分かります。」
どうやら本当に困っているようだ。嘘を吐いている顔には見えない。
う~む。
「エルフの国までどのぐらいかかるんでしょうか?」
「それは・・・決まった日数があるわけではありません。条件次第なので私にも分かりません。」
ふむふむ・・・・旅か。
どうしたものか?どのみち俺は世界中を旅しなければならないわけだが・・・
ふと3人の顔が思い浮かんだ。ウサギのバニラちゃん、№1受付嬢のクレアさん、王女のリリィ。
う~む。
「お願いします!」
≪アリス?旅したいか?≫
≪ツバサと一緒ならどこでもいい。≫
≪そ、そうか。≫
ふう~
「・・・分かりました。ですが俺より強い人間なんてこの国にもいっぱいいると思うんですが本当に俺で良いんですか?」
「はい。もちろんです!ありがとうございます!」
お姫様だというのに腰を90度曲げてお礼を言ってきた。
「か、顔を上げてください。」
「・・・いつ出発しますか?」
「早ければ早いだけ助かります。できることならすぐにでも。」
「え・・・えーと、じゃあ街の人にお別れを言ってくるので、それが終わったら出発ということでいいですか?」
「はい、もちろんです。」
いつか旅に出ると思っていたがまさかこんなタイミングで出ることになるとは思ってもみなかった。しかしいい機会かもしれない。
これも何かの導きだろうか。
お別れの挨拶をするためにまず冒険者ギルドに顔を出した。扉を開けるといつもの雰囲気だった。
なんだか少しだけ悲しい気持ちになる。初めてここに来たときクレアさんと出会った。ついこないだなのに懐かしい。
辺りを見回すと見知った顔を見つけた。初めて会った異世界人パーティーだ。
「バノンさん、ミストさん、ミーナさん、アーシャさん。ちょうど良かったです。」
「やあツバサ君。」
「あの少し旅をすることになりました。しばらく帰ってくることは無いと思います。それで別れの挨拶をと思いまして。」
「そうなのか・・・それは寂しくなるな。」
ギュ
「ちょ、アーシャさん。痛いですよ//」
「だってもうハグ出来ないんでしょ?元気でね。」
「はい。」
「ツバサ君行ってしまうのかね?」
アーシャさんにハグされたまま顔を上げるとギルド長のジゼルが立っていた。
「はい。」
「そうか。それなら冒険者カードを出したまえ。」
「え?」
まさかのクビか?
恐る恐る冒険者カードを差し出す。
「君の冒険者ランクがDに格上げが決まった。今回の働きがあれば誰も文句など言わないだろう。」
「本当ですか!?」
「ああ、ちなみにこれまた最速記録だ。」
「そ、そうですか。」
「気をつけてな。」
今まで見たことが無いような表情をしている。少し悲しげだ。
その後なかなか放してくれないアーシャさんたちに別れを告げ、お城まで足を運んだ。みんなどういう反応をするだろうか。少し気分が重い。
王の間で挨拶をし顔を上げる。
「待たせたね、ツバサ君。それで話というのはなんだね?」
「はい、今日この後この街を出発することになりました。」
「何!?そんなに急にか・・・娘にはもう伝えたのか?」
「いえ、急遽決まったので王女様にはこれから伝えます。」
「・・・そうか、それなら私はいいから早くリリィに。そうだな、受付嬢のクレア殿と宿屋のバニラちゃんにも集まってもらおう。マケイン大至急みなを!」
「はい。かしこまりました。」
ブックマークしてくださった方ありがとうございます!嬉しいです!!
普段しない人助けをしたら良いことあるかもしれませんね。笑
作者もエルフに会ってみたいです。
次回は27日(水曜日)に更新します!




