お城
傷の男の実力は知らない。両手に短刀を構えているがそんなことはどうでもいい。コイツに裁きを与えるのだ。
男から汗が噴き出している。目の前にいる人物の実力を測りかねているのだろう。新人のくせにチキン公爵達を捕えてしまったのだから。
「どうした先輩。早くかかってこいよ。そうしないと盗賊どもみたいになっちまうぞ。」
「盗賊?やはりアイツらもお前がやったのか?」
「さあな。お前から来ないのならこちらからいかしてもらう。」
傷の男に向かって斜めに切りかかる。しかし俺が動いた瞬間傷の男はバックステップを踏み窓にぶつかり脱出を試みた。
パリンっ
道行く人々は突如割れた窓ガラスと、そこから飛び出してくる人影に驚いている。
とんだ腰抜けヤローだ。戦うこともせず真っ先に逃げ出すとは。
地面に転がりながら着地した男は通行人を乱暴にかき分けながら走り出す。
仕方がないので電光石火を発動する。力を籠め踏み出すことで通常の一歩が5歩分に相当する。通行人たちには横を何かが通ったという感覚しかないだろう。
瞬く間に男の背後まで迫るとその背中を切りつけた。男はバランスを崩し地面に転げまわる。
「いってえぇぇぇ。」
「観念しろ。」
「うるせえ!」
ろくに動けないのに這いつくばって逃げようとするので粘糸を飛ばす。
グルグル巻きにしたところで騒ぎを聞きつけた兵士たちが集まってきた。
「何事だ!?・・・・ん??お前は冒険者のケベックじゃないか?」
「ちょうどいいところに来てくれました。俺は冒険者のツバサです。」
「冒険者のツバサっていうと・・・今回の誘拐事件で宿屋の双子を助けた本人か?」
「はい。この傷の男も共犯だったみたいです。あ、ちなみにクレアさんは犯人ではありません。コイツに監禁されていました。」
「何だと!?それは本当か!?・・・とりあえずケベックからも君からも話を聞きたい。城の方まで来てくれるか?」
「お城!?」
「ああ。コケッコー国のチキン公爵まで関わっていた事件だからな。我々も事件の真相解明をして内外に知らせなくてはいけない。」
「分かりました。クレアさんを連れてくるので少々お待ちください。」
先程の部屋まで戻る。まだ意識は無いようだが少しだけ顔に生気が戻ったような気がする。
お姫様抱っこをしながら兵士のところまで戻る。その後、お城の治癒士に診てもらえるということで兵士に引き渡した。
オレ自身は5名ほどの兵士に脇を固められながらお城に行くことになった。
遠目からでも分かるその立たずまいは荘厳さと煌びやかさを両方とも備え見る者を圧倒する。
城の敷地内は壁と鉄柵によって厳重な警備が引かれている。その上、兵士が立っているので簡単には突破できない。
ようやく広い庭を抜けると階段が何段も続き城のエントランスへとつながっている。
城の中も、細部まで綺麗な装飾が施されていたが、もちろんそんなものを悠長に見ている時間もなく一室に通された。
今頃ギルドの方にも俺達の話が伝わっているのだろうか?とりあえずクレアさんの潔白が広まればいい。
そんなことを考えているとドアがノックされた。
コンコンコン!
「はい。」
チョビ髭の少し年配の兵士が部下を2人連れて現れた。
「君が冒険者のツバサ君かね?」
「はい。そうです。」
「そうか、私はこの街の警備隊長のモーセだ。クレアさんは今王室御用達の治癒士から治療を受けているから安心してくれ。君には少し話を聞きたいのだがいいかね?」
「はい。」
「チキン公爵達を捕まえたらしいね。」
「まあ・・そうですね。たまたまですが。」
「その際、兵士のクロース・オーガストも助けているようだが、彼が気になる証言をしていてね。」
「何でしょうか?」
「彼は盗賊のお頭に手も足も出ず捕えられていたらしいが、そのお頭を君が倒したと言っているんだ。しかしあの洞窟からは盗賊のお頭どころかその部下共も発見されていない。もちろん死体もだ。盗賊どもは一体どこに消えてしまったのだろうか?」
・・・まいったな。上手く説明できない。
「さあ、盗賊の考えていることなど分かりませんからね。確かに俺は盗賊のお頭と戦闘になり何とか勝利しましたが一瞬の隙を突かれて逃げられてしまいまして。他の盗賊たちもいち早く気が付いてどこかに逃げてしまったんじゃないでしょうか?緊急の脱出通路とか見つかっていないんですか?」
「・・・そうか、そんな報告は上がっていないが・・・では誰も気が付かなかったのになぜケベックが犯人だと気がついたんだね?」
「それは・・・たまたまですよ。俺はクレアさんと仲が良かったので彼女の潔白を信じて行動していたんです。ダメもとで豚にクレアさんのニオイを嗅がせたところ、驚異的な嗅覚でクレアさんが監禁されていた部屋までたどり着きまして。そしたら傷の男と鉢合わせになってしまいまして、、、その後はご存じの通りです。」
「ふむ。なるほど・・・豚ね・・・」
「それより、傷の男は自白しているんですか?」
「今興奮していてね。なかなかまともに話が出来る状態でも無いんだよ。」
「そうですか・・・そういえば犯人はまだ他にもいるかもしれませんよ?」
「どうしてそう思うんだ?」
「クレアさんは昨日のお昼にコルバー商会の方と会う約束があるということで早退していました。しかし、実際にはそのような約束事など無かったらしいんです。」
「つまり何者かによっておびき出されたと?」
「はい。」
「ケベック、ああ傷の男の仕業じゃないのかい?」
「そうですね。もちろんその可能性もありますが、、」
「うむ。ご忠告感謝する。クレアさんが目を覚ましたら私どもで聞いてみよう。」
コンコンコン!
「なんだ?」
「モーセ隊長!それが冒険者のツバサ殿に国王様がお会いしたいとのことです。」
「何!?どういうことだ?」
「分かりません。冒険者のツバサという名前を出したところそのように・・・」
「分かった。ツバサ君、国王様が君に会いたいそうだ。いいかね?」
オイオイオイ、いきなり国王とかレベル高くね?これって断ることできるの?・・・できないよね??
「あの・・・所作とかまったく分からないんですが・・・・。」
「・・・まあ・・・何とかなるだろう・・・国王様はそんなこといちいち気にするような方ではない。」
やばい、ただの高校2年生なのに国王とかどうしたらいいのかさっぱり分からん。
半ば強制的に兵士に連れられていく。ガチガチで手と足が一緒に出そうだ。意識すればするほど歩き方がぎこちないものになる。
「これより先が王の間だ。準備はいいか?」
「準備と言うなら、あと2日は欲しいぐらいです。」
「・・・無理だ、諦めろ。」
「はあ・・・。」
扉がゆっくりと開けられる。
奥の椅子に座っている人物が見える。その脇に若い女性と中年の男性が立っている。緊張で心臓が止まりそうだ。
とりあえず近くまでいき、膝を着き挨拶をする。
「お初にお目にかかります。Eランク冒険者の黒木翼と申します。」
「よいよい、そんなことをせんでも。顔を上げよ。」
「はっ」
最初は緊張で顔がよく分からなかったが、だんだんと頭も働きだし目の前の男性の顔をはっきりと識別できるようになった。柔和な顔をした中年の男性だ。しかしどこかに厳しさを感じさせるものがある。
「こないだぶりですね。ツバサ様。」
急に横にいた女性から話しかけられた。
本日もアクセスいただきありがとうございます!
やっと国王様とか出てきましたね。笑
モチベーションを保つのに苦労していますが読んでくださる方がいるのでなんとかなってます。




