黒幕
クロースを担ぎながら声のする方に向かった。おそらく兵士の増援部隊だろう。人影が見えてきた。
・・・・ん?
トリンドル王国の兵士ではない??遠目だから見にくいがなんだか鳥っぽいような気がする。・・・鳥。
「いたぞ!1人も逃すなよ!盗賊を皆殺しにしろ!!」
盗賊なんて俺がほぼ壊滅させちまったと思うがまだいたのか?
・・・なんだかこっちに向かってきてないか?
・・・そういえば盗賊の恰好をしてるんだった。あの様子じゃ話をする前に殺されてしまいそうだ。やばい、とりあえず逃げるぞ。
と言ってもどこかに隠れられる場所なんかあったか?入口もおそらくアイツらに塞がれているだろうし、まずいな、着替えなければいけない。
それに先にお宝を回収しなければ横取りされてしまう。う~む。
≪アリス、物置部屋まで最短で案内してくれ!≫
≪うん。≫
クロースを背負っている分いつもよりスピードは出ないが、それでも曲がりくねった道を利用し振り切ることに成功した。
「ここか??」
「うん。」
なるほど、確かにいろいろ放り込まれている。
こちらは銭貨と銅貨で銀貨と金貨はこちらか。明らかに大銀貨と金貨の枚数が少ないが、数えている時間も無いのでとりあえず大きなツボごと体の中に入れていく。
おや?これはピンク色の手錠か?ふむふむ。何かの時のためにもらっておこう。
武器類で何かいいのはないか?錆びたものや折れたものばかりだな。
おお、これは鞭じゃないか。何かの時のためにもらっておこう。うむうむ。
こちらは防具か。アイマスクにガーターベルト、ピンヒール、首輪。ふむふむ。何かの時のためにもらっておこう。
なかなか趣味のいいものが揃ってるじゃないか。ここの盗賊団のこと見直したぜ。問題はこれを誰に着させるかだが・・・ふふ、ふふふ。
≪ツバサ?≫
≪んあ?どうかしたか?≫
≪鼻の下伸びてるよ?≫
≪そ、そんなことないさ。しっかり吟味してるだけさ。≫
≪ふ~ん。≫
いかんいかん・・・あとは・・・これはオルゴールかな、綺麗な音色だ。それに煌びやかで細かな装飾が施されている。売ったらそれなりの値になるかもしれない。
とりあえず欲しい物を一通り物色し、いつもの冒険者の恰好に戻る。これであの鳥人間たちに見つかってもいきなり殺されるなんてことは無いだろう。なにせ一般人なんだからな。
クロースを担ぎながら堂々と通路を歩くことにした。すると前方から鳥人間たちがゾロゾロと隊列を組みながらやってくる。
先頭の鳥人間が大きな声で話しかけてきた。
「そこのお前止まれ!何者だ!?」
「俺は冒険者のツバサです。背負っているのは貴族のクロース・オーガストです。行方不明になった双子を捜索しに来たんですがどうやらここにはいないようです。」
すると俺の言葉を聞いて何人かがニヤッとした。・・・見間違いではないよな・・・
「そうか、それはご苦労だったな。俺達も行方不明の双子の捜索と盗賊の殲滅に来たんだが・・・?」
「盗賊については俺が来た時にはすでにほとんどいませんでしたよ。行方不明の双子に関してなんですが、どうやら盗賊が主犯ではないようです。相当の権力者かお金持ちが盗賊たちに誘拐を依頼したようです。」
「そうか・・・それを誰から聞いたんだ?公爵、コイツどうしますか?」
すると道が開き、隊列の奥から公爵と呼ばれた人物がゆっくりと歩いてきた。そいつに見覚えがあった。コケッコー国のチキン公爵だ。
「小僧どこかで会ったか?」
「すれ違った程度だと思いますが。」
「もう一回今の話をしろ。」
まったく。なぜコイツに命令されなきゃならんのだ。
「はぁ、、、ですから誰かは知りませんんが、金払いの良い奴が盗賊たちに宿屋の双子の誘拐を依頼したと。」
視線と視線がぶつかる。目の色が濁った奴だ。不快な気持ちになる。
「おい、お前ら!盗賊共の前にこの小僧も念のため処分しとけ。あとで喚かれても面倒だ。背負ってる貴族の小僧は私の手柄にするから殺すなよ。オーガスト家といえば現当主が騎士団の副団長だ。分かったな?」
「はっ!」
オイオイオイ・・・なんで結局こうなるの??
「どういうことだ?」
「庶民のくせに気安く話しかけるな。」
「なぜあんたがその庶民の俺を始末しようとする?」
誘拐を盗賊に依頼した黒幕がいると知れ渡るとこいつらにとって都合が悪いということか・・・・
ん?ということは
「もしかしてあんたが双子誘拐の依頼主か?」
「今更そんなことを知ってどうする?貴様はもう死ぬんだよ。マヌケめ。」
「なんだ、そういうことか。それでなんでお前らが仲間の盗賊を殺しに来てるんだ?」
「・・・・・。」
「ああ、足がつかないように盗賊に誘拐させて証拠隠滅のため皆殺しか?そんでもって盗賊を討ち取ったヒーローとして王都に行くつもりだったのか?どっちが盗賊か分かんねえな。」
「やれ。」
刀術レベル1発動。向かってきた2人を居合切りで切り伏せる。
俺の動きを見て不敵な笑みを浮かべていた鳥人間たちは真顔になった。
「貴様よくもやりやがったな!」
「いやいややってきたのお前らだろ。」
「ええぇい、グズグズするな。早くやってしまえ。」
世間では誘拐は盗賊の仕業となっている。このままだと真実が世に知られない。全員事件の重要参考人として国に引き渡す方が良さそうだ。
そして自らの悪行に対する正当な裁きを受けるのが良い。特に公爵としてやりたい放題だったこのニワトリには苦痛だろう。
とはいえ流石にこの人数相手に今の戦力では心もとない。とりあえず粘糸で天井にぶら下がり、先ほどカードにした盗賊のお頭を合成することにした。
人間:盗賊:レベル24
体力 46
魔力 45
攻撃力 47
防御力 44
素早さ 38
スキル:電光石火
ステータス的には今までで一番強い相手だ。まさかの素早さが一番低いとは、、、よっぽどスキルが有用なのだろう。
合成っと。
全身が歓喜に沸く。細胞の一つ一つがエネルギーを感じ作り変えられていくようだ。新しいスキル電光石火を習得した。
時間もないしさっそく使ってみるか。クロースは手柄として見なされているから天井に放置だ。
地面に降り電光石火と念じてみる。すると普通に一歩踏み出すのと同じ感覚で5歩分は移動できている。本気を出したらもう少しいけるかもしれない。
「何だ今の動きは!?」
鳥人間たちに動揺が走る。
「おい、お前ら、これから始まるのはお前らの証拠隠滅の作業ではない。俺による一方的な狩りだ。」
「かまうな、たかが1人にビビるな!いけえぇぇ!公爵の私に盾突いたのだ。極刑なのは当然だ!」
電光石火発動。1人、2人、3人、4人。誰ひとり気が付かないうちに切り伏せていく。もちろん全員牢屋にぶち込むのが目的のため死なないように手加減して切っている。5人目は恐怖で腰を抜かしていたが構わず切る。残りは公爵を除いて10人ぐらいだろうか。
「なんだ、トリンドル王国でさんざん好き勝手やってるって噂だったが、こんな弱かったのか。」
「ヒ、ヒィ~逃げろ。化け物だ。」
「おっと、1人も逃がさないからな。」
飛んで逃げようとした鳥人間を粘糸によって捕まえる。羽を絡めてしまえばなんてことはない。地面に落ちていく。
そのまま力任せに糸を引っ張り、こちらに放り出されたところを切りつける。
これにより鳥人間たちは逃げ切ることすら出来ないと悟り、完全に戦意を失った。公爵に喚かれても誰一人として動こうとしない。
「この役立たずどもめ!」
公爵は激高し苦虫をかみ殺したような表情だ。
「どうやらあとはお前だけのようだが、お前って戦えるのか?」
「・・・。」
「おいおい、さっきまでの元気はどこいったんだ?これじゃあまるで俺が弱い者いじめをしているみたいじゃないか。」
「・・・仕方ない、貴様を雇ってやろう。大金貨10枚でどうだ?」
「お前立場分かってんのか?」
「じゃあ20枚でどうだ?これ以上は私も無理だ。」
「1枚もいらねーよ。そんなことより宿屋の双子はどこだ?」
「そんな奴らは知らん。」
その瞬間チキン公爵の立派なトサカが地面にボトリと落ちた。
本日も最後まで読んでくださってありがとうございます。1回1回のアクセスが嬉しいです。
昨日はドラマ『3年A組』を観ていたんですが、まいんちゃんこと福原遥さんの回でしたね。ドアにドンドンされていました。湿布を貼ってあげたいです。




