潜入
カードにした盗賊から服を剥ぎ取りそれに着替える。
プ~ンと刺激臭が鼻をつく。
掃除スキル持ちのくせに体にニオイが付きそうなほど汗臭い。こんな洞窟に住んでいれば仕方のないことか。
服をもらったついでに双子の居場所を聞き出そうとしたが、命令して口を割らせることは出来なかった。
人間のように知能が高いと従順になるまで時間がかかるのだろうか?それとも俺の力がまだ弱いのか?
下準備はこのぐらいにしてそろそろ行くか。
忍び足で入口に近づき洞窟の中を覗き込む。天井から水がピチャピチャと滴り落ちている。火のついた松明が一定間隔ごとにかかっているので真っ暗闇ではない。
≪アリス?バニラちゃん達は見つかったか?≫
≪まだ。≫
≪こっちは今から洞窟に入るよ。≫
≪うん。≫
慎重に一歩を踏み出す。入ってすぐ道が左右に分かれている。どちらに行けばいいだろうか。
≪アリスは最初の分かれ道どっちに行ったんだ?≫
≪左。≫
≪そっちに何かあったか?≫
≪なんにも。今のとこ部屋が3つあるだけ。≫
≪そうか、じゃあバラバラに探した方が効率がいいな。俺はとりあえず右に行くよ。≫
モワっとした空気が、カビ臭いニオイとともにやってくる。湿度がとても高い。しばらく一本道が続くので今敵に出くわしたら隠れる場所もない。
≪あ、こっちに物置があるよ。お金もある。≫
≪なに!?でかしたぞアリス!後で回収しに行くよ。≫
≪うん。≫
確か盗賊などの持ち物は、討伐した人の持ち物になると説明を受けた。
その時はまさかクレアさんが犯罪に手を染めるとは思ってもみなかったが・・・
あとでありがたく頂こう。
クンクン。
おや?なんだかとても臭いぞ。汚物のニオイがする。
ここは盗賊たちの肥溜めか。空気の流れが悪過ぎて集気が籠っている。最悪の気分だ。
するとそこに、奥から酔っぱらった盗賊が酒瓶を片手に用を足しにきた。相当酔っぱらっているようで足取りがおぼつかない。フラフラしている。
今の俺は一見すると盗賊なのでこれはチャンスだ!
「よっ!」
「んあ?・・・誰だっけお前?」
「俺だよ俺。なんだよ忘れちまったのか?少し酒を飲み過ぎなんじゃねえか?」
「ははは、ちげーねぇ。なんせ今日はめでてぇ日だからな。」
ヒック。
「おうおうそうだな。それで何があったんだ?」
「ああん?何言ってんだよお前。ガキの誘拐をちょっと手伝っただけですんげー金が入ったってお頭が言ってただろうが。ほんっと今日の客は太っ腹だぜ。誰だか知らねーが大物にちげーねぇ。しかも幸運なことにバカな貴族も捕まえちまったしな。」
「誘拐の主犯はお前たちじゃないのか?」
「オイオイオイ、人を犯罪者みたいに言うんじゃねーよ。」
「盗賊じゃねーか、お前。」
「はははは、今回はちげーよ。そもそも誘拐なんてめんどくせーやり方より商人でも襲った方が手っ取り早いっつーの。」
「それもそうだな。それで子供たちは今どこにいるんだ?」
「ひひひ~そんなん知らねーよ。お頭にでも聞けよ。今頃お母~さ~んて泣いてんだろうな。ほんと傑作だぜ。ははははは。」
「・・・・」
怒りの感情がグツグツと燃え滾る。
「ん?・・・お前の顔見たことあったっけ??」
「どうだろうな、俺は今日初めてここに来たけど、お前は俺のこと見たことあるのか?」
「な、て、てめぇ侵入者だな!」
「バカな盗賊が情報をくれたから助かったよ。じゃあな。」
ドン!
バシャーン!
「あ、あ、あ、」
「お前たちは、その汚物がお似合いだよ。」
今の話からすると金払いのいい奴が依頼して誘拐させたということか・・・
しかしそうなるとバニラちゃん達は依頼主へ引き渡されてこの洞窟にはいないのか?・・・事実ならやっかいな話だ。
とりあえず盗賊のお頭から話を聞かなければなにも分からない。
「どうした!?何かあったのか?」
汚物の中でもがく音でも聞きつけたのか新たに2人ほど現れた。やはり遠目から俺の恰好を見て仲間だと思ったようだ。普通に話しかけてきた。
「ああ、コイツが酔っぱらって肥溜めに落ちちまったらしい。」
「なんだと!?」
「はっはっはっは、何やってんだお前!これで何度目だよ!」
「あ、あ、あ、あ。」
「ぎゃはははははは。」
どうやらコイツが肥溜めに落ちるのは初めてではなかったらしい。
「おいこっちに飛ばすんじゃねーよ。くせーだろーが。だははははははは。」
・・・それにしても緊張感のない奴らだ。
カチャ!
馬鹿笑いをしている盗賊の背後に回り込み、首元に刀をあてがう。
「捕えた貴族とお頭はどこだ?」
「オイ、お前何やってん・・・。」
カチャ!
「俺の許可なく動くな。そこのお前もな。コイツの首が飛ぶぞ。」
「ま、待て、落ち着け。言う、言うから。この奥だよ。お頭の部屋に貴族とお頭本人がいるよ。」
「嘘じゃないだろうな?」
「本当さ、確認してくれ。」
「いいだろう。」
トスットスットス。
『人間を捕獲しますか?』×3
『イエス。』
1枚汚物にまみれている。正直触りたくない。水魔法で洗浄してから収納したが臭いような気がする。・・・気のせいか。
気配探知を発動させながら急いで奥に向かう。
≪ツバサ!≫
≪アリスじゃないか。なんだ中でつながっていたのか。とりあえず、盗賊のお頭から情報を聞き出すぞ。≫
≪分かった。≫
≪アリスが先行してくれ!≫
≪ん。≫
≪この先10人程いるわ。≫
≪了解。≫
音を立てないように慎重に近づき中を確認する。どうやらここは広い空間のようだ。粗末な台と椅子が乱雑に配置され、盗賊どもが飲み食いしている。
夜中だというのにみな上機嫌だ。
ふむふむ。
≪ツバサ、後ろから1人来るわ。≫
≪おお。≫
「おいお前?」
「ん?」
「見張りの交代の時間になってもあいつら来ないんだが知らないか?表にも立ってねーんだ。」
「さあ?」
「ったく、2人そろってバックれやがったか?・・・・ん?誰だお前?なぜ刀を抜いているんだ?」
「・・・さあ?」
「侵入者か!」
デカい声出しやがってなんだコイツは。
トスっ。
「何だ?どうかしたのか??」
厄介なことに飲んでいた盗賊が物音を聞いて近づいてくる。
仕方ない。ロマンとグリンをカードから出し深呼吸をする。
≪みんなちまちまカード化するのも面倒くさい。いっきにやってしまおうか。≫
≪おいっす!≫
≪はい。≫
≪うん。≫
≪よしいくぞ!≫
全員猛ダッシュで攻め入る。目についた奴からカードにしていく。とっさに対応してきた奴には刀で切りかかる。
しかし酔っ払いなど相手にもならない。バッサバッサと切り捨てる。
あっという間に最後の1人になる。
ふむ。
「リーフカッター!」
ん?
風魔法の1つか。
≪マスター!コイツはオレっちにやらしてください!≫
≪そうか、いいぞ。≫
≪おいっす。≫
「くそっなんだお前たちは!」
「お前いい魔法持ってるな。ありがとう。///」
「はあ??何言ってんだお前!」
「喋ってると危ないよ?」
その瞬間ロマンが背後から飛びかかる。盗賊も反応してリーフカッターを繰り出すが、硬化したロマンには効かない。そのまま頭に体当たりされノビてしまった。
≪すごいぞロマン!≫
≪おいっす!≫
当然カードにする。
スキル:リーフカッター。ふむふむ。風魔法ならグリンに合成かな。
あと未確認の場所はこのドアの奥だけだ。慎重にドアノブに手を伸ばし、音が鳴らないようにゆっくりと開ける。
するとそこは一畳ほどのスペースだった。
・・・・ものすごくゴリゴリの大男が真顔でしゃがんでいる。左目に眼帯をし、いかにも盗賊っぽい。
・・・便所か。
目が合った。
・・・
「失礼しました。ごゆっくりどうぞ。」
バタン。
・・・見たくもない物を見てしまった。なんでこんな時間にトイレに籠ってるんだよ。誰だよアイツ。肥溜めは来る途中にあったじゃないか。
それから待つこと10分。ようやくトイレから先ほどの男が出てきた。
「貴様侵入者だな!?」
分ってるならトイレに10分も籠ってるんじゃね~よ。
「いえ、俺は今日からお世話になる新人のゲティです。」
「んあ?俺はそんなこと聞いてないぞ。」
「はい、お頭から先ほどスカウトされたばかりでして。」
「・・・お頭は俺だが。」
「・・・ですよね~。」
てへっ
「てめぇ俺の部下をどこにやりやがった!?」
「逆に聞きたいんだが、宿屋の双子はどうした?誰かに引き渡したのか?それとクロースはどこだ?」
「ふんっ盗賊の世界にもルールってもんがあるんだよ。教えられるわけねーだろ。」
「だったら俺も教えられないな。」
「貴様覚悟しろよ。」
「お前もな。」
≪ツバサ、向こうに隠し階段があるわ。≫
≪本当か!俺がコイツの相手をしている間にロマンとグリンを連れて見てきてくれ!≫
≪うん。≫
黒ずくめの女からもらったポーションをグリンに持たせた。
「なんだそのモンスター共は?」
「何でもないさ、それより早く勝負しようぜ。」
空気が一変する。
「小僧が舐めやがって。あとで後悔すんなよ。」
小物臭いセリフだが肌がピリつく。ものすごい威圧感だ。
お頭はメリケンサックをつけファイティングポーズをとっている。
いざ勝負!!
昨日ブックマークしてくださった方ありがとうございます!とてもエネルギーになりました!
一応今日から三連休ですね。みなさんいかがお過ごしですか?
軽い気持ちで読みに来てください。笑
こないだ1日に800PV達成しました。ありがとうございます!




