キャロット専門店
「バニラちゃん!ニンジンを買いに行こうよ。」
「ツバサお兄ちゃん覚えててくれたの??///」
「もちろん。パパさんからOKはもらってるから大丈夫だよ。」
「うん!ママに伝えてくるからちょっと待っててピョン!」
よほど嬉しかったのだろうか?フワフワの耳をピンピンさせて奥に走っていった。
その光景に後ろの背後霊が、チっと舌打ちした気がするが気のせいだろう。
幽霊だろうが霊体美少女だろうが、とりあえず後ろを振り向かなければいないのと同じだ。触らぬ神にたたり無しとはこのことだろう。
「お待たせしました。えへへへ。」
「じゃあ行こうか。」
「ところで俺はお店の場所知らないけど、行きつけのお店でもあるのかい?」
「うん。家族でお世話になってるとこ。私が案内するから大丈夫だよ。」
「そっか、じゃあ頼むよ。」
この都市に来てから観光らしい観光はしていないので足を踏み入れていないエリアがたくさんある。どうやらそのお店は貴族エリアに近い場所のようだ。
身分による区別が一部でしかみられない平穏な国とはいえ、住居に関しては、貴族エリア、庶民エリアと大体分かれている。
それは昔の名残なのか、不要な争いを避けるための措置なのか、自然とそうなったのか分からないが、城以外は通行禁止になっているわけでもなく、特別不快に感じることもない。
人通りは流石にメインストリート程では無いが、それでもある程度の人が行き交っている。
「あそこだよ!」
「おお、もう着いたのか。」
キャロット専門店。まさにウサギさんのためにあるような店ではないか。他の種族に需要はあるのだろうか・・・。
ドアを開けるとニンジンの匂いが漂ってきた。
ただの人間の俺には特にいいニオイではないが、バニラちゃんは鼻の穴をパンパンに広げてその香りを体中に取り込んでいる。頬はだらしなく伸び切り口元からヨダレが垂れる。
ちなみに背後霊のアリスさんは、鼻を摘まみながら悪態をついている。
「このお店はね、最近一部のティーンの間で密かに人気なの。」
一部って絶対ウサギさんだけでしょ。笑
「そうなのか。」
「うん!いいお店でしょ?」
うむ。何がいいお店なのかさっぱり分からない。
「そ、そうだな。魅力的だな。それでバニラちゃんは何が欲しい?」
「うんとね、ニンジンバーっていってね、ニンジンフェスティバルで優勝したのがあるんだけど・・・買ってもいい??」
なんだそのよく分からないフェスティバル!だが不安そうな表情でそんな上目使いをされて断れる奴なんているわけがない。
「もちろんいいよ。」
とは言ったもののなんだありゃ、ただのニンジンに棒をぶっ刺しただけのように見えるが、、、、本当に美味しいのだろうか??
「ありがとうお兄ちゃん。それとね、私だけじゃなくてパパとママとロビンのためにも買って帰ってあげたいんだけど・・・」
なんということだ!こんな時まで家族のことを・・・なんていい子なんだ!
俺にとっては出費が増えるだけだが・・・出費が・・・・
出た!必殺の上目使い!!しかも今回は、かわいらしく首を45°傾けている。けしからん、実にけしからん幼女だ。少しだけ将来が心配になってきた。
「もちろんいいよ。俺もみんなにお世話になってるしね。」
その後しばらく店内を見て回った。うん。見事にニンジン関係の物しかない。
バニラちゃんはずっとハイテンションで自分の世界に入ってしまっている。
う~む暇だ。ベットでゴロゴロしたくなってきた。まるで休日のお父さんの気分だ。
心の中であくびをしながらボーっとしていると、ふとキーホルダーが目についた。
小さなプラスチック?のニンジンに顔が描いてある。ふてぶてしい表情が何とも言えない味を出している。
このセンスを10歳の女の子が理解できるか謎だがサプライズでプレゼントしたくなった。
しかも最後の1個だ。
そう思ってストラップに手をスっと伸ばしたところ、視界の右側から伸びてきたスラっとした手とぶつかってしまった。
「あ、すいません。」
「・・・こちらこそごめんなさい。」
なんて綺麗で可憐な少女だろうか。白いユリという表現がピッタリだ。思わず見とれてしまった。
・・・いやそんなことより、この少女もふてぶてしいニンジンキーホルダーを買うつもりだったのか?
どうみてもただの人間に見えるが、、、ウサギ以外もこの店来るみたいだ。
「えっと、、どうぞ、俺は別の探しますから。」
「いえ、私はこれと同じ色違いをもう持ってますので大丈夫です。」
「いやいや遠慮しなくてもいいですよ。俺はあそこにいる子の付き添いでこのお店に来ただけですし、ニンジンに思い入れがあるわけでもありませんから。」
「あのかわいいウサギさんですか?でしたら、もしかしてこれはあの子にプレゼントしようと?」
「まあ、そんなところですが他にもたくさん種類ありますから。」
「まあなんて優しい方でしょう。これはあなたが買ってください。」
「いえ、あなたが」
「いえいえあなたが」
「いやあなたが」
「いえ私は大丈夫です。」
「・・・・分かりました。では俺が買わせていただきます。」
「はい。」
綺麗な少女だったが言葉遣いまで丁寧だ。身なりもおそらく高い物だろうから貴族かなにかの令嬢だろうか。しかし身分の高い少女がこんなところに1人できたりするのだろうか?
そんなことを考えながら、急いでカウンターでキーホルダーを購入し少女の元へ戻った。
「あの?これ俺からのプレゼントです。」
「え?」
「もらってください。」
「・・・///」
「あの?あなた様のお名前は何ですか?」
「俺は冒険者のツバサです。」
「ツバサ様ですね。私はリリィと申します。ではありがたく受け取らせてもらいます。またどこかでお会いできますでしょうか?」
「そう、ですね。どこかで会えたらいいですね。」
「ふふふふ、約束ですよ。」
そう言うとお店から出て行ってしまった。
店中ニンジンのニオイしかしないが、彼女が通ったあとはなんだかいいニオイがする。おそらくバニラちゃんより少し上ぐらいだと思うが、あの雰囲気はどうやったら身につくのだろうか。
ふむ。いい女だ。ふむ。
するとアリスから小突かれて正気に戻った。俺の思考回路を読んでいるのか!?
・・・まあいい。
そんなことより今度はバニラちゃんのキーホルダーを選ばなくては。
う~む。これなんかどうだろう、おっさんニンジンシリーズ。
ニンジンをコミカルなおっさん風味に擬人化したキーホルダーだ。凛々しいごん太眉毛が特徴的だ。
よし!これを1つ買おう。バニラちゃんは自分の世界に入っているのでコッソリ買うなら今がチャンスだ。ふふふ。喜ぶ顔が楽しみだ。
素早く購入したあと忍び足でバニラちゃんに近づく。
「何見てるの?」
ハッ!
「もぅ、お兄ちゃんビックリさせないでよ。心臓止まるかと思ったよ。」
「それが欲しいのかい?」
ニンジン型の宝石が輝くネックレスだ。大銀貨3枚もする。
「違うの。こういうのは見てるだけでいいの。これを見てると自分がお姫様になれた気がするけど、本当の幸せはこういうのとは別のところにあると思うし、、、、私今の家族や生活が大好きだから。」
「・・・そっか。良いと思うよ。」
なんていい子に育ってるんだ。パパさんママさん安心してください。間違いなく将来いいお嫁さんになりますよ。
少しだけグっときた。
「じゃあ、そろそろ宿に戻ろうか。」
「うん。」
帰る途中、ふと後ろから視線を感じたような気がしたが、振り向いた時には怪しい人物は誰もいなかった。
気のせいか?
思考を巡らせたが、バニラちゃんの今日のご飯は何かな?という声に考えることを中断してしまった。
そしてそのまま宿に到着した。
昨日ブックマークしてくださった方ありがとうございます!励みになりました。
バニラちゃんかわいいですね。笑
あと少しで話が動き出すと思います。




