目が腫れる
俺を訪ねてきた謎の美女とは一体誰なんだろうか?何だか背筋がゾっとするが・・・
№1受付嬢のクレアさんだと決めつけるにはまだ早計か・・・・だがもしそうだとするとバニラちゃんに危害が及ぶかもしれない?
いやいやいくらなんでもそれは考え過ぎか。
「あんな綺麗な人が探してるなんてやっぱりツバサお兄ちゃんはモテるんだね。」
「・・・・・」
「どうかしたの?」
「い、いやどうもしてないさ。少し眠たくなってきただけだよ。」
「ダメ!まだお話するの!」
「ふふっ寝かしてくれないのかい?」
「うん!せっかくお邪魔虫がいないんだから。」
「ハハっ弟君は今日もすでに寝ちゃってるの?」
「そう!ぐっすりだよ。」
「まさかバニラちゃんが俺の部屋で寝てるなんて知ったらどうなるだろうな。笑」
「お兄ちゃんに殴りかかっちゃうかも。でもお兄ちゃんは強いから大丈夫でしょ?」
「う~ん強くは無いけどまあ大丈夫かな笑」
「なら問題ないね笑。」
楽しい時間はあっという間に過ぎるとはよく言ったものだ。
その後もお互いの知らないことや他愛もない話をしていたが、ふと沈黙が流れる。
今更沈黙など気まずいものでもなんでもない。しかし、バニラちゃんの表情はそれまでとは違ったものになっていた。そして意を決したように話し始めた。
「そういえばさ、ツバサお兄ちゃんは冒険者でしょ?」
「うん、そうだよ。」
「ずっと王都で活動するの?それともどっかの町に行っちゃうの?」
「・・・そうだね、真面目な話をすると俺は世界中を旅しようと思ってるよ。」
「・・・・そう・・なんだ。」
「うん。」
「どうしても行っちゃうの?」
「そうだね。」
「・・・ずっとここにいてよ。」
「それは出来ないんだ。」
「じゃあ私も・・連れて行って。」
「・・・それも出来ないよ。冒険者はいつ何があってもおかしくないからね。まだ10歳のバニラちゃんには早すぎる。」
「私強くなるから!」
「それだけじゃないよ。パパとママとロビンをここに残して、いつ帰れるかも分からない旅に出る覚悟はあるかい?宿屋もバニラちゃんがいなくなったら困るだろう?」
グスン、グスン。
少し強く言い過ぎてしまっただろうか。それから会話も無くなってしまった。
しかしこれははっきりと言っておかなくてはならないことだ。まだ幼いバニラちゃんを俺のよく分からない旅に連れ出すわけにはいかない。
せめてもう少し大きければ・・・
グスン、グスン。
「でも・・私・・・」
「俺はね・・・異世界からやって来たんだ。」
「え?」
「地球って世界の日本っていう国から来たんだ。俺の顔立ちや出会った時に着ていた服を見たこと無かっただろ?」
「何言ってるの?」
「その世界はね魔法もスキルもないし、獣人もモンスターもいない世界なんだ。でもバニラちゃんぐらいの子は学校にいって勉強できるんだ。車っていう誰でも高速で移動出来る乗り物や、遠くの人を映し出すテレビっていうのもあったりする世界なんだ。」
「・・・・。」
「なんでこんな話をするのか分かる?」
「・・・分かんない。」
「俺はなぜか気が付いたらこの世界に転移していたんだ。その理由を知らなければいけない気がするし、元の世界に帰る方法も探さなければならない。家族や友達に何も言わないまま離れ離れになってしまったからね。だから世界中を旅して手がかりを探すんだ。」
「・・それが世界中を旅する理由なの?」
「そう。これが俺の真実だよ。」
「・・・そうなんだ。」
「この先危険もあるだろうし、終わりがあるのかも分からない。そんな旅にバニラちゃんは連れていけないよ。」
「・・・うん・・・」
「人に打ち明けたのはバニラちゃんが初めてなんだ。」
「どうして私だけ?」
「何となくバニラちゃんには真実を話しておきたかったのかな。」
「このことは2人だけの秘密にしてね。」
「・・・うん。」
「寝不足になっちゃうからそろそろ寝ようか。」
「・・・うん。」
それからしばらく真横からグスン、グスンとすすり泣く声が聞こえてきたが、そのうち寝息に変わった。
耳はあれほどピンピンしていたのに、今ではペタンと折れ曲がってヘナヘナしている。
そっと頭を撫でてやると表情が和らぐ。しかし寝息を立てているので無意識なのだろう。
複雑な気持ちのまま俺は深い眠りについた。
朝目覚めると横にバニラちゃんの姿はすでに無くなっていた。もう部屋に戻ったのだろうか。これで関係性が壊れなければいいが。
コンコン!
「はい!」
ガチャ
「ツバサお兄ちゃん、朝ご飯の時間ですよ。」
「え、ええぇ!・・・・えーと分かった。すぐ行くよ。」
バニラちゃんの両目がボンボンに腫れている。まるで誰かに殴られたみたいだ。
う~む、まずいぞ。間違いなく俺のせいじゃないか。
階段を下りて食堂に行くと今度は弟君がご飯を運んできてくれた。なんとなく気まずいが。
「ツバサ、朝ご飯だぞ。美味しそうだろ?」
「そうだな。お腹ペコペコだよ。」
「そういやバニラ姉の目がボンボンに腫れてるんだけど、まさかツバサのせいじゃないよな?」
「な、なにを言っているんだい?そんなまさか、、、、俺がバニラちゃんにひどいことなんてするわけないだろ?」
「何か慌ててないか?でもまあそうだな、ツバサはそんなことしないか。」
「そうだろ、うんうん。」
「あ、それと今日お風呂の手伝いしてくれるって話オヤジに言っておいたから頼むよ。」
「おお、朝ご飯食べて落ち着いたらいくよ。」
正直ご飯は美味しかったと思うが、あまり味わって食べることは出来なかった。
パパさんとママさん、大事な娘さんを傷つけてしまい申し訳ございません。
うう、こんなことなら今日手伝うなんて言わなければ良かった。
気分は乗らなかったが約束してしまったものは仕方ない。気持ちを切り替えて作業場に向かった。
今ある建物の横に脱衣所と露天風呂を作るみたいだ。そんなに広くはないがこれだけあれば十分だろう。まだ完成には時間がかかりそうだ、大きな石などが積み上げられている。
「やあツバサ君、来てくれたんだね。人手が足りていなくてね、とても助かるよ。今日なんかほとんど私と息子で進めなければいけなかったんだが手詰まりでね。」
「オヤジはもともと大工仕事をしていたんだ。」
「そうなんだ、うちなんて高級宿でもないしお風呂なんて普通はお金が高くて作れないんだが、昔の仲間に頼みながらなんとか作っているもんだからね。」
「なるほど、それなら今日1日だけですけど精一杯やらしてもらいますよ。」
「ありがとう。じゃあ時間も限られてることだしさっそく働いてもらっても良いかな?」
「はい、もちろんです。」
「そしたら、宿の裏手に資材が置いてあるから、それをここまで運んできてもらってもいいかな?1人で持てないのはロビンと協力して運んでくれ。私はここで作業しているから分からないことがあったら何でも聞いてくれればいい。じゃあ頼んだよ。」
「了解です。」
ロビンと一緒に宿の裏手に行くと木材や石などの資材が積まれていた。
なるほど、これを運ぶのは骨が折れそうだ。本来高額なお金を出して建設する物みたいだが、お金をかけられないなら地道にやるしかない。
そう考えると個人の家にお風呂があるクレアさんはやはり相当な稼ぎがあるということなんだろう。
カードを使えば一瞬で運べるわけだが・・・どうしたものか、騒ぎになるのは避けたいが、少しでも手伝ってあげたい。
うーむ、とりあえずは、カードなしで体を使って運ぶことにするか。
それから2時間ほどせっせと資材を運びこんだ。
これがなかなかの重労働だった。手の握力はどんどんなくなっていくし、運ぶ時に重い資材が体に食い込むので腕や腿に内出血ができる。
これを10歳のロビンがやっているのだから感心する。
何十回か運んだところで、パパさんが俺だけ作業の補助として手伝ってくれと言ってきた。どうやら脱衣所部分を集中的にやりたいみたいだ。
木造だが植物の樹脂から作り出した液体を木に塗ることによって腐食するのを防げるらしい。
黙々と作業を手伝っていると、突然パパさんに話しかけられた。
「ところでツバサ君、娘のバニラのことだが・・・」
ギクっ
昨日ブックマークしてくださった方ありがとうございます。アクセスしてくださった方も感謝です。エネルギーが湧きます。
第一章は一通り書き終わりました。
小説全体が書き終わるまでに何話までいくでしょうかね。おそらくモチベーションの上げ下げが激しいと思いますが、とりあえずいけるとこまで行きたいと思いますので今後もよろしくお願いします。




