不穏な人影?
今日の魚定食も本当に美味しい。ずっとここに住みたいぐらいだ。
そんなことを考えながら食べていると、ふと近くの席に座っていた冒険者らしき2人組の話し声が聞こえてきた。
「おいお前聞いたか?最近王都にコケッコー国のチキン公爵がやってきたって話?」
「ああ、聞いたぜ。やりたい放題らしいな。おまけに部下まで傲慢だってゆうじゃねーか。国王は国外追放とか入国拒否とかなんとかしてくんねーのか?」
「流石にトリンドル王国でも、他国の重鎮を無下にはできないんだろう。」
「けっ何が貴族だよ、下手すりゃその辺のチンピラよりタチが悪いっつーのに。何しに来たんだよ。」
「それが何かを探してるらしいぞ。なんでも虹の国の姫様に求婚するためだとかなんとか。」
「あー虹の国っつーと確かエルフの国か。ったくよ。俺も姫様にお目にかかりたいもんだぜ。」
「よしとけ、お前じゃ緊張して一言も喋れないだろう。まだ子供のバニラちゃんとすらまともに話せないんだ笑笑。」
「うるせいよぃ!そんなこと分かってんだよ。夢だよ夢!」
うーむ。分からなくもないがなんと不毛な夢だろうか。
そんなことよりチキン公爵か。
たしか初めて王都に入国した時に門番のホルンさんもこの話をしていた。求婚するために何かを探しているのか。それがこの国の近くにでもあるのか?
どちらにせよ嫌な奴らであることは間違いない。
「バニラちゃん、ごちそうさま。とても美味しかったよ!」
「えへへ、ありがとう。」
「じゃあ俺は部屋に戻ってるよ。」
「うん。あとで私がお湯とタオル持って行くね。・・その、もしかしたら弟が邪魔するかもしれないけど。」
「おう、そうか、まあとりあえず俺は部屋にいるから。寝るときおいで。」
「ピョン!」
やはりウサギさんのDNAでもあるのだろうか。ピョンピョン言いやがって。かわいい。
部屋に戻るとアリスがカードを使ってピラミッドを作っていた。あまりにも集中しているため俺にも気付かない。
ヨイショ、ヨイショ。
「へへ、あと一段。」
「・・・できた!!ツバサ呼んできて褒めてもらおう、えへへ。」
「よしよし、こっちおいで。」
「!?」
一瞬驚いた表情を見せたが、照れながらも頭を差し出してきた。優しく撫でてやる。すっかり俺が保護者のようになってしまった。
「少しだけご飯をカードに入れてきたから食べていいよ。」
「ほんと!?」
「ほんとだよ。ほら!」
「うわぁ、ツバサありがとう。」
「どういたしまして。俺はちょっとゴロゴロするからゆっくり食べておいで。」
「うん。」
幽霊なのによく食べる。
カードに表示されたアリスをボーっと眺めているとドアがノックされた。
ドンドン。
「ツバサ、お湯とタオル持ってきたぞ。」
「おお、弟君が持ってきてくれたのか。」
「そうだぞ、俺だと何か問題でもあるか?」
「いやいや、ありがとう。ところでチラっと聞いたんだがお風呂を作ってるのかい?」
「ああ、そうなんだ。バニラ姉から聞いたのか?人手が足りなくてな。運搬するのにも一苦労なんだ。」
「そうか、大変みたいだな。明日1日俺も手伝おうか?」
「なに?冒険者しなくていいのか??お金なんて払えないぞ?」
「お金は貯金と今日稼いだ分があるから1日ぐらい全然大丈夫だ。そのかわり完成したら客の中で1番に入らせてくれ。」
「そうか、それならこちらもありがたい。父ちゃんにも伝えとくよ。」
「ああ、伝えといてくれ!」
「じゃあ俺は仕事に戻るから、昨日と同じように使い終わったらドアの下にでも置いといてくれ。」
「あいよ。」
「ああ、それとうちの手伝いをしてくれるからってバニラ姉と仲良くしていいことにはならないからな。それとお風呂が完成したら覗けるかもなんて考えるんじゃないぞ。」
「はははは、厳しいな、分かってるよ。」
バタン!
「ツバサ、生意気だね。」
「まあかわいいもんじゃないか、そんな怒ることでもないよ。それよりご飯は美味しかったか?」
「うん。美味しかった。」
「そら良かった。しかしだな、カードから出てきてすぐで悪いけど体を拭くからもう一回入っててくれ。」
「ツバサ少しだけでいいの///」
「ん?何が?」
なぜか体をクネクネさせている。
「少しだけ。」
「・・・お前男かよ・・・」
強制的にカードに押し込んだ。
汗でベトベトになった全身をくまなくホットタオルで拭いた後、今日買った新しい服に着替えた。安物の割に肌触りも良いので満足だ。
「アリス!もう出てきても良いぞ。」
「うん。」
「そうそう、もう少ししたらバニラちゃんが来ると思うけど、彼女は妹みたいなもんだから変なことしないでくれよ。」
「シーン。」
「バニラちゃんも俺をお兄ちゃんとして慕ってくれてるだけだしな。」
「シーン。」
「シーンて口で言うもんじゃないぞ笑笑」
「シーン。」
拗ねてるのもかわいいな。もっと虐めたくなってしまうが、、、いかんいかん。まあなんだかんだアリスもそのぐらい弁えてるだろう。
それから2時間ぐらい経ってからだろうか。控えめにドアがノックされた。
コンコン!
「バニラです。」
「は~い、どうぞどうぞ。中入ってきていいよ。」
「、、、お邪魔します。」
「ニンジン柄のパジャマかわいいね。」
「私の大好物なの。・・・パパもママもロビンも。」
「ふふっそうか、今度ニンジン買ってきてあげるよ。」
「ほんと??」
「もちろん!ていうか明日1日お風呂のお手伝いすることになったから、終わったら買ってあげるよ。」
「私もついてく!!」
「じゃあ一緒に行こうか。」
「えへへへへ、嬉しいピョン。」
耳がピンピンになっている。
「ベットに入ってもいいピョン?」
「ん?あぁ、もちろんいいよ。」
俺に確認を取ると、昨日と同じように軽やかにピョンと跳ねて布団の中にダイブする。そしてモゾモゾしたあと頭だけヒョコっと出す。
いちいち小動物みたいでけしからん。実にけしからん。だが嫌いではない。うむ。くるしゅうない。
「あ、そういえば、今日ねツバサお兄ちゃんのこと探してる人に会ったよ。」
「え?俺を探している人?」
「うん、フードをかぶってたからちゃんとは分かんないけど、すっごく綺麗な女の人だったよ。」
「女の人か、、、その人なんて言ってたの?」
「んとね~私が宿屋の娘か聞いてきて、そうですよって答えたらうちの宿屋に黒髪、黒目で16歳ぐらいの少年が宿泊してるか教えてくれって。」
「・・・それで、、、バニラちゃんはなんて答えたの??」
「黒髪黒目で16歳ぐらいの少年ってツバサお兄ちゃんの事でしょ?困ってたみたいだからもちろんツバサお兄ちゃんは泊まってますよって教えてあげたよ。そしたらすごく喜んでくれたから、その後もたくさんお喋りしたの。」
・・・・この世界には個人情報という概念はないのだろう。
「もしかして一緒に寝たことも喋っちゃったりした?」
「うん!お兄ちゃんの腕を抱いて寝るとものすごく安心して寝れるって教えてあげたの。あ、心配しなくても弟のロビンには内緒にしてくれるって!」
うん。・・・人の善意って怖いですね。
「そ、そっか。それなら一安心だね。だけどその女性は一体誰なのかな、、、、、」
・・・まずいぞ。確証は無いけど№1受付嬢のクレアさんだろうか??確か今日は用事か何かでお昼には仕事を切り上げたと聞いたが・・・。
まさかな。いくらクレアさんといえどもそこまでしないよな?
・・・となるとその女性は一体誰なんだろうか??№2のリザさんだろうか?いやリザさんは仕事をしていたか。
何となく背筋がゾっとする。
昨日ブックマークしてくださった方ありがとうございます!モチベーション高まります!
あと4、5日したら、第一章始まりの国篇も話が徐々に動きだしていくかなと思います。
話は変わりますが、映画『雪の華』面白そうですね。




