ウサミミ
チキン公爵達が先ほどまでいた場所に目をやると少女が倒れていた。
急いで少女に駆け寄ってみると、耳が特徴的な10歳ぐらいの子だった。顔は涙で濡れ恐怖の色で染まっている。体の震えは止まらないようだ。
可哀そうで見ていられなかったので、そっと抱きしめてやった。すると俺の胸に顔を押し付けながらヒクヒク泣いていた。
今回ばかりはアリスも場を弁えている。少女に触ることは出来ないが背中側からハグをしてあげている。
落ち着くまでそのままの状態で待っていると、だんだんと泣き声も止んでいった。
「大丈夫かい?」
「うん・・ありがとうお兄ちゃん。」
「俺は冒険者のツバサだよ。君の名前はなんていうの?」
「バニラ。」
「バニラちゃんか。かわいい名前だね。何があったか話せる?」
「うん。ぶつかってしまったの。」
「え?それだけ?」
「うん。あとは・・私がウサギだからかもしれない。」
彼女の特徴的な細く長い耳はペタンと折れ曲がっている。ワンピースのお尻の部分には小さな穴が開けられ、丸いフワフワした尻尾が出ている。
う~ん。鳥とウサギか。狩る側と狩られる側のDNAでも残っているのだろうか。
どちらにせよ、こんな小さな少女に大の男が寄ってたかって暴力を振るうなど絶対に許せることではない。アリスも怒りで額に血管が浮かんでいる。
「私、おつかいに行かなくちゃ。」
「おつかいか、家のお手伝いかい?」
「うん。お客さんに出す料理の材料が切れちゃって・・・ママたち忙しいから。」
「てことは定食屋さんなの?」
「うちは宿屋さんだよ。」
「本当かい!?俺達ちょうど今日泊まる宿屋を探すところだったんだよ。」
「俺・・たち??仲間がいるの?」
あ、しまった。街の人にはアリス見えないんだった。
「あ、違う違う、間違えた。俺1人なんだけど、もし良かったらバニラちゃんのとこでお世話になってもいいかな?」
「もちろん!ママたちも喜ぶと思う。」
「そうか、じゃあ頼むね。ところで何を買う予定だったの?」
「うん。えっとね大根とポテドンのお肉を・・・・・あれ?・・・ない!」
「どうしたの?」
「ない!お金が無くなってる、、、、どうしよう、、、ママから預かってたのに、、」
「いくら持ってたの?」
「中銀貨5枚。」
「それぐらいなら俺が出してあげるよ。」
「え、でも・・・それは・・」
「大丈夫だよ。さあ一緒に買い出しして宿屋に行こう!!」
そうして俺達は買い出しを終えて、バニラちゃん一家がやっている宿屋へ行った。
ドアを開けると、30代前半ぐらいの綺麗なウサギの獣人が、バニラちゃんを見て驚き慌てふためいた。
「バニラ!どうしたの!?なんでケガしてるの?ケガは大丈夫なの??」
「ママ~、、、、、うっうっ」
親の顔を見て安心したのか再び泣き出してしまった。
母親の大きな声を聞きつけたのか、カウンターの奥から、今度は男性のウサギとバニラちゃんぐらいの小さなウサギが出てきた。
おそらくバニラちゃんの父親と兄弟だろう。目元がとても似ている。
「どうしたんだバニラ!?」
混乱する家族に、俺は自分が分かる範囲で先ほどの出来事を分かりやすく説明した。
そのうちバニラちゃんも落ち着き、俺は家族から感謝されることとなった。心なしかバニラちゃんの頬が赤くなっていたような気がするが、まぁ気のせいだろう。
その後、宿泊したい旨を伝えると、ママウサギからお礼にタダで泊まってほしいと言われた。本来は一泊、体を拭くためのお湯とタオル、朝夜のご飯がついて中銀貨5枚らしい。
しかし特に何をしたわけでもないので、それは丁寧にお断りしておいた。
あえて言うならお金ではなく服屋さんに行くチャンスを失ってしまったのが痛い。今から行けないこともないが、気分の問題で今日のとこはゆっくりすることにした。
「本当に娘を助けていただいてありがとうございました。夜ご飯ができましたら呼びにいかせますので、それまで部屋でゆっくりしてください。」
「いえ、本当に自分は何もしていないので、、、はい、じゃあ少し休憩させてもらいますね。」
階段を上り部屋へ行くと、細部まで掃除が徹底された清潔感のある綺麗な部屋だった。ベットもふかふかでよく眠れそうだ。この値段で、この部屋なら個人的には大満足だ。
ロマンたちの強化をしなくてはいけないが、とりあえず、ベットの上に寝転がってゴロゴロすることにした。横ではアリスが一緒になってゴロゴロしている。
それから1時間ほどしてからドアがノックされた。ゆっくり開けると、ドアの前に小さなウサギ君が立っていた。
「やあ?君はバニラちゃんの兄弟かい?」
「双子の弟だ。ご飯の準備が出来たぞ」
「そうか、ありがとう。」
「・・・」
「どうかしたのかい?」
「いっとくが今日の事は感謝しているが、バニラ姉を守るのは俺だからな!色男だからってバニラ姉をたぶらかすんじゃないぞ!」
「お、おう、分かったよ。」
生意気だが必死な感じが微笑ましい・・・こんな小さな子に釘を刺されるとは・・笑
パパ、ママウサギには感謝されているが、このウサギ君には少し敵認定されている・・・
苦笑しながら宿の食堂にいくといいニオイが漂ってきた。
俺が席に着くとバニラちゃんが料理を運んでくる。一生懸命なのがとてもかわいい。おじさん手伝いたくなっちゃう。いやん。いかんいかん。相手はまだ子供だ。変な気など微塵も持ってはいけない。うむうむ。
運ばれてきた料理は、ポテドンのハンバーグと野菜炒めだった。コーンポタージュのようなスープもついている。
たしかクレアさんが昨日作ってくれたのも、ポテドンのステーキだったが、ハンバーグにしても最高にうまい。それにこの特製のタレが食べたことのない味だが絶品だった。
夢中で食べていると、いつの間にかバニラちゃんが向かいの席に座っていた。俺が食べる様子を眺めている。ただ見ているだけなのになんだか嬉しそうだ。
その様子を厨房から両親と弟君が食い入るように見ている。
どうやら両親はニコニコしながら見守っているみたいだが、弟君は目が怖い。めちゃくちゃガンを飛ばしてきている。
姉を守りたいというその気持ちは感心するが、俺に敵意を向けられてもちょっと困る。笑
「あのツバサお兄ちゃんは冒険者なの?」
「うん、そうだよ~といっても昨日なったばっかりなんだけどね。今日はゴブリンを倒してきたんだ。」
「へぇ~お兄ちゃんは優しいし強いんだね。」
「ん~まだ全然強くないよ~でもこれから強くなるんだ。」
「私も冒険してみたいな。」
「バニラちゃんももう少し大きくなったらなれるよ。でも危険がいっぱいだからね。心配になっちゃうよ。」
「じゃあ将来お兄ちゃんと一緒に冒険者やる。そしたら傍にいられるし安全でしょ?」
「おおおぉそうだね~バニラちゃんは頭が良いな~。」
「えへへへへへ。」
なんだこの子。けしからんかわいさだ。耳がピコピコしているのも丸い尻尾も可愛すぎる。なによりも性格が良すぎる。
その上、お兄ちゃんて、、、、破壊力があり過ぎる。
この甘い会話を聞いていたのだろうか?
弟君がやってきて、咳払いをしながら空になった食器を下げ始めた。
弟の態度にバニラちゃんはちょっとムッとしていたが、なぜ弟君がそうするのかよく理解していないのだろう。
ううん、泣けるね。たとえ嫌われたとしても守る。騎士っていうのは辛い役回りだ。弟君この先も頑張れよ!
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