チキン公爵登場
俺はクレアさんのところまで行くと、ゴブリンの耳を取り出した。
王都に入る前にポケットに詰め込んだやつだ。
この時になって初めて、袋などを持ち運ばないといけないことに気が付いたのだった。カードが便利すぎてそこまで頭が回っていなかった。
「無事で良かったわ。私今日ずっとソワソワしていたのよ。」
「はい、なんとかなりました。えっと確認なんですけどこれでいいんですよね?」
そう言ってゴブリンの耳を適当に3つほど掴み、クレアさんに提示して見せた。
「うん!これでOKよ。しかも3匹も討伐したのね。初めてなのにすごいじゃない!将来が楽しみだわ。ふふふ。あ、将来は私の、、、、、、、ふふふふふ、、、、」
オホンッ
「えーとゴブリンの討伐報酬は1匹、中銀貨1枚だから合計3枚ね。」
「あ、いやまだあるんですよ!」
それから俺は、ポケットの容量上限だった10匹ほどのゴブリンの耳を順番にカウンターに並べた。
するとクレアさんの表情が驚きに変わっていった。
「え?ツバサ君1人でこんなに狩ってきたの??」
「まあ、はいそうですね。」
「・・・今日初めてなのに・・・どうやって・・」
「あ、あとこれって買い取ってもらえたりしないですかね?」
ゴブリンの魔石をカウンターに置いた。
「ええぇっこれって魔石じゃない!一体どうしたの?」
「どうって、、、普通にドロップしましたよ。そういう物なんじゃないんですか?」
「そうだけど・・・そんなめったにドロップするものじゃ・・しかも今日が初めてなのに・・・」
「つまり初日からゴブリン13匹討伐して魔石まで手に入れたと・・信じられないわ。」
「運が良かったんですよ。」
「えっと・・・そうね。魔石の買い取りについてはもちろんできるけど、正直に言うと、ギルドとかで売るよりも貴族とかお金持ちの商人とかに売る方がいいわよ。買い取り価格が全然違うもの。」
「あぁ、なるほど。じゃあしばらく魔石は自分で持っておくのでゴブリンの方お願いします。」
「わかったわ。えーと討伐報酬は大銀貨1枚と中銀貨3枚よ。」
「おお。」
「はい、どうぞ。」
よしよし、だいたい日本円で1万3000円ぐらいか。これなら生活していけそうだ。
「ありがとうございます。ところでこの辺で普通の服を買える場所ってどこかないですかね?俺今着てる服しか持っていないので、、、」
「それなら私の家に泊まればいいわ!」
「ちょ、ちょっと、声が大きですよ!」
「また私の服貸してあげる。うふふふふ。昨日も似合っていたわ。」
「いえ、、、今日は宿屋に泊りますから、、、」
「そう・・・そうなんだ・・・」
「はい、社会勉強ですよ。」
「・・・・ところでどこの宿屋に泊るのかしら??」
「え、えーとまだ決まってないんですよ・・・これから探すんです。」
なんだか今のクレアさんの顔怖いな。たとえ泊まる宿屋が決まったとしても、どこの宿屋か教えたらいけない気がする。これは俺の本能が言っている。
「そう、じゃあ泊まらないとしても、今日の夜ご飯は家に食べに来てくれるのかしら?」
「えっと・・今日は流石に・・昨日お世話になったばかりなので・・・また今度お邪魔させてもらいますよ。」
「・・・わかったわ。ふふふふ。そうそう服だったわね。それならメインストリートから一本入った道のラピーヌって言うお店が安くていいと思うわ。」
今の不敵な笑みは一体何だろうか?なぜ「ふふふふ」なの??・・・何か企んでるよ。
ちなみにアリスが、ツバサは私の物だと言わんばかりに、俺の左腕をギュっとしているのはちょっとかわいい。
「・・・・ラピーヌですか。分かりました。行ってみたいと思います。ありがとうございます。」
「あ、ちょっと待って。これ私の家の鍵だから渡しておくわね。いつでも来てくれていいから。」
「え?いや・・・・」
「はい。」
ギルドを出ようとしたところで、何やら視線を感じたのでその方向を見てみると、昨日殴りかかってきた傷の男がいた。壁にもたれかかりながら俺の事を凝視している。
目が合うと、ネチャっとした笑みを浮かべどこかへ消えてしまった。
たしか、ペナルティーを受けたと聞いたが確実に逆恨みされていそうだ。まだ荒事は避けたいが、、、
ギルドのドアを開け空を見上げると綺麗な夕焼けに染まっていた。地球とは違う異世界の空だが黄昏を感じずにはいられない。俺は今生きているんだと実感する。
≪アリス、そろそろ手を放してくれよ。ギュッとされ過ぎて痛いよ。≫
≪やだ。≫
≪そ、そうか。ならまあ、このままでもいいけど、通行人からしたら俺の歩き方変じゃないか。≫
≪そんなの知らない。≫
やれやれ、クレアさんに対して対抗意識でも燃やしているのか・・・
≪俺少し屋台で食べ物買いたいんだけど寄ってもいいか?≫
≪うん。≫
屋台が並ぶエリアにやってきた俺は、何を食べようか迷っていた。どれも安くて美味しそうだ。
日本ではよく学校の帰り道に買い食いをしていた。
「はい、いらっしゃいやせ~、いらっしゃいやせ~タコ丸いかがですか~丸くておいしいタコ丸出来たてホヤホヤですよ~。そこの色男!お1ついかがかね~。」
色男と言われて振り返ったわけではない。
何気なくオヤジさんの方を見ると、そこにあったのはどうみてもタコ焼きだった。
おぉっ!まさか異界の地で日本のソウルフードに再開できるとは。もはや運命。
しかも値段が1パック6個入りで小銀貨3枚だった。つまり日本円で300円ほどだ。
「じゃあ1つください。」
「さすが色男~よっ、はい、まいどあり~!」
タコ丸を受け取った後、すぐに1つ食べてみた。
外はこんがり、中はふわふわである。しかもタコ?がしっかりと入っていて絶妙にマッチしている。
ジトー
俺が美味しそうにしていると、アリスが至近距離でジっと見つめてきた。
≪ちょっとそんなに見られてたら食べにくいよ。そんな顔されてもアリスは食べられないでしょ?≫
俺がそう言うと少しだけアリスが悲しそうな顔をした。う~ん、出来ることなら食べさせてあげたいけど・・・物に触れないんじゃどうしようもないよな~
・・・ちょっと待てよ。
≪アリス?一回カードの中に入ってみてくれないか?≫
≪うん?うん。≫
アリスがカードの中に入ったのを確認してから、タコ丸をカードの中に入れてみた。
≪どうだ?食べられないか??≫
≪・・・食べられ・・る、食べられるよ!うわああぁぁ美味しいよ!ツバサありがとう!≫
カードから出てきたアリスの顔は、緩み切ってトローンとしていた。
おそらく霊体になって初めて食べたのだろう。満足しているなら何よりだ。やはりお腹がすかないとはいっても、食欲というものは本能であるのだろうか。
≪じゃあ俺の服でも買いに行こうか!≫
≪うん!≫
そしてどんな服を買おうかと考えをめぐらせ歩き始めた。
しかし道の角を曲がったところで、何やら人だかりができているのを発見した。何かあったのだろうかと野次馬の1人に聞いてみたところ、チキン公爵が暴れているらしいと教えてくれた。
しかし中を覗こうとしても野次馬が多くてよく見えない。しかもその中心を、鳥人間たちが取り囲んでいるようだ。
しばらく様子を窺っていると、中心部から動きがあった。
『どけぇい、卑しい庶民ども!道を開けろ!我は南の島国コケッコー国のチキン公爵だぞ。貴様らの命なんぞ小石よりも軽いくせに図が高いぞ。』
そう言いながら出てきたのは、頭に赤いトサカの生えたニワトリみたいな奴だった。見るからに高そうな装飾が施してある服を身にまとい、手にはキラキラ輝く宝石をつけている。
部下に人払いをさせながらその様子をニタニタしながら見ている。
なんだかゾッとする奴だ。
正門で会った部下もひどかったが、どうやらそれはこの男が原因のようだ。
すれ違いざまに、一瞬目が合ったような気がしたが俺のことなどアウトオブ眼中みたいだ。
ふとチキン公爵達が先ほどまでいた場所を見ると少女が倒れていた。
昨日もブックマーク、アクセスありがとうございます!いつの間にかもうすぐ20話ぐらいですね。早いもんです。
新しい女の子がようやく出せました。笑




