反則
俺はカードの世界が、マスターカード、つまり俺を軸に繋がっていることを発見すると、急いで現実に戻りある実験を試みた。
まず、まっさらなカードを前方に飛ばし、浮かせたまま固定する。そして自身に魔力を込めファイアーボールを発動する。
次に前方に浮かせたカードからファイアーボールを発射するイメージに集中した。俺の中のマスターカードから魔力を送り込むのだ。
すると数秒のタイムラグはあったが、前方のカードから火の玉が打ち出された。
!?
まさかとは思ったが出来てしまった。大成功だ!こんなの反則ではないか。
おそらく1枚で出来るということは2枚のカードからでも魔法を発射出来るだろう。
「ツバサしゅごい///」
なにやら霊体美少女のアリスが頬をポっとさせてクネクネしている。
≪マスターは神の生まれ変わりっす。そんなこと誰も出来ないっす。オレっちも合成して欲しいっす。≫
「あ、ああそうだな。みんなにも強くなってもらうぞ。」
≪やったっす!≫
「その前にロマンのスキル:亜空間接続ってどんなスキルなんだ?」
≪それはっすね、口から食べたものを亜空間にしまっておけるっす。オレっちの石を吐き出す攻撃もこのスキルを使ってるっす。≫
「へぇ~。透明な体のどこに石を隠し持っているのか疑問だったが、そういうわけだったのか。俺のカードと少しだけ似ていてなかなか便利だな。」
≪はいっす。ただ今のとこ生物は飲み込めないっす。≫
「そうなのか、じゃあスライムっぽく体を分裂させて複数で戦うことは出来るのか??」
≪出来るっすよ!ただ分裂した分、小さくなって力も分散されるっす。≫
「ということは、例えば2つに分裂したら体と力が2分の1ずつになるというわけか。」
≪そうっす。オレっちはただでさえ弱いので分裂はなかなか使えないっす。≫
「そうかそうか、ただ強くなったら分裂も強力な手段になりそうだな。」
「あとはそうだな、そのボディーならモンスターを取り込んで変身出来たりしないのか?」
≪それはスライムに伝わる伝説っす。モンスターの中で最弱だと言われているスライムは、大抵の場合成長することもなくすぐに死んでしまいます。しかし、試練を乗り越へゴットスライムとなった暁には、誰にも負けない存在になると言われてるっす。≫
「なんだそれ、カッコいいな!」
≪はいっす、オレっちの夢っす!≫
「じゃあ、ロマンの場合目標はそこだな。」
ふむふむ。最弱のモンスターが厳しい生存競争を勝ち抜き成長すると最強?になるのか。まるで将棋の「歩」みたいだな。
・・・ルール知らんけど。
「ん~アリスは霊体だから強化できるのかよく分からないな。そもそも物理攻撃が出来ないしステータスも全部?だしな・・・魔法って使えたりするのだろうか?」
「え・・・私強くなれないの?」
「いやいや、まだ何も分からないだけだよ。それにアリスの場合戦闘で貢献できないとしても、アリス以上に隠密に優れている人なんか存在しないんだから。昨日だって、俺を殴った傷の男をずっと尾行して、簡単に家をつきとめてくれただろ?まるで忍者みたいだよ。」
「忍者?って何??」
「あぁ、忍者っていうのは、俺が住んでた世界では諜報部員とかスパイとか、まあ簡単にいうと陰で動くスペシャリストのことだよ。カッコいいんだ。」
「私、忍者になる。ニンニン。」
「え?知ってんのか!?笑」
「え?」
「いやこっちが、え?、なんだけど。」
「グリンに関しては特に疑問ないから普通に強化していっていいよな?」
≪はい・・・≫
「なにか好きな属性とかあったりするのか?」
≪えーと・・・僕は緑が好きです。≫
「そうか、じゃあ風魔法とか覚えられたらいいな。」
≪はい、マスター。≫
「そうだな、みんなのことは大体分かったから、ある程度カードが貯まった後でまとめて強化することにしよう!夜に宿屋でやろうか!」
俺がそう言うと3人とも了解してくれた。
「それじゃあアリス!さっきみたいにまた敵を探してくれないか??」
「うん。」
≪あねさん、空高く飛ぶとパンツが丸見えっすよ!≫
≪!?≫
≪そうっすよね?マスター?≫
≪え、あ、いや俺は気が付かなかったが・・・≫
≪ツバサはいいけどあんた達はダメ。今度空を見上げたらロマンもグリンも丸焼きにするわ。≫
≪ひどいっす。空はみんなのものっす。≫
≪ふん。うるさい。≫
そう言うと、スカートを押さえながらアリスは飛んで行った。確実に気にしている。
しばらくすると敵を見つけて帰ってきた。またもやスカートを押さえている。
「ツバサあっち。」
「おお、ありがと。」
まったく・・・ロマンの奴め。余計なこと言いやがって。
案内に従って進んでいくと自分の肉眼でも敵を捕らえることが出来た。
さっそく魔法を使うチャンスだ。
気付かれない遠距離からカードを飛ばす。
自分が発射のイメージした時と、実際にカードから出る時のタイムラグを出来るだけ短く、感じなくなるようにしたい。今はまだ未熟なので仕方ないが。
ファイアーボール。
・・・一撃だ。
やはり魔法を習得できたことで戦略が広がる。カードと組み合わせることで移動砲台になるので射程距離を気にする必要もない。
「ツバサ何か落としたよ。」
「おお。遠距離攻撃だからドロップ品の回収に行くのがめんどくさいぐらいだな。」
近づいて確認してみるとゴブリンの耳ともう1つ石のようなものがあった。なんとなくそれが何であるのか分かった。
おそらくこれは魔石だ。
昨日クレアさん家のお風呂場で見たものよりはるかに小さいが、これぐらいでも魔石なら貴重な物だろう。お金になるなら売ってしまってもいい。
≪マスターオレっち達の出番がないっすね。≫
「ははは、すまん。強くなればそのうちたくさん出番があるよ。冒険者ランクが上がれば一発では倒せない強い敵と戦うことになるしね。その時こそみんなの力が必要になるよ。」
そんな話をしているとアリスが少し慌てたように戻ってきた。
「ツバサ!!こっから左に200メートルぐらいずっと行くとゴブリンの棲家があるみたい。それもかなり規模が大きいわ。」
「そうか、ありがとう。どのぐらいいそうなんだ?」
「ざっと見ただけでも30匹はいたかしら。」
「それはちょっと危険だな。流石に今の俺達じゃケガじゃ済まなくなるかもしれない。そいつらはもう少し強くなってからにしよう。ここら辺で狩りをしつつ、頃合いを見計らって王都へ帰ろう。引き返しがてら狩りも出来ることだし。」
それからコンスタントにゴブリンを狩りながらカード化していった。もちろんドロップ品のゴブリンの耳も確保している。
それだけでなく、スライムも何匹かカード化に成功した。
初日にしてはなかなか成功した方ではないか。
日が暮れる前にルンルン気分で王都に向かった。その足取りはとても軽やかだった。
正門の兵士がこちらに気が付き笑顔を向けてきた。中年の門番ホルンさんだ。
「やあ、無事だったかい?すいぶん明るい顔をしているね。」
「はい、まぁ、最初にしては上手いこといったので。」
「それは良かった。心配していたんだよ。」
「ありがとうございます。また明日です!」
ホルンさんと挨拶をしたあとはメインストリートを通ってそのまま冒険者ギルドに直行した。
ドアを開けると、昨日と同じように、お酒の飲み比べをしている者やなぜかボディービルをしている者、歌を歌っている者など雑多な感じだった。これが日常なのだろう。
受付を見るとクレアさんが微笑みかけてきた。・・・かわいい。というか知っている顔を発見すると少しだけホッとする。たとえ裏があってもだ・・・。
そしてクレアさんに今日の討伐報酬をもらいに行った。
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