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第70話 豊穣の神

「大魔王とは言いましても、それはその当時に猛威を振るったオラティルに対する畏怖の念を込めての俗称です。長命種の方々の生き残りが実在するオラティルの被害を語ったこともあるようで、オラティルは暴れるだけ暴れて、いくつもの国を滅ぼし、そしていずこかへと姿を消したという話なのですけど」


 なるほどね。

 過去の人々からすりゃ大暴れする強大なモンスターはそりゃ魔王だの大魔王だの呼びたくなるぐらいには恐ろしいはずだろう。

 しかし、デュールの言う大魔王は果たしてオラティルの事なのだろうか。半ば直感的に俺は奴の言う大魔王とやらは歴史上の偉人たちの復活などではないと考えていたが、その実際の所はいまだに不明だ。

 こうして思いがけない情報が出てきたのは嬉しいことだが、現状では選択肢が増えただけで俺としては混乱するだけだ。


「いや待てよ……そもそも、なんであいつら、そんなものを復活させようっていうんだ?」


 冷静に考えてみれば、理由が分からない。

 これは何度も自己問答してきたことだが、仮に大魔王とやらを復活させて何ができる? 過去の指導者を復活させてもレオンは無意味だと言っていた。俺もそれには同意見だ。死人がよみがえったら魔界の全てがそいつに従って戦争を起こすかと言われると、微妙だ。

 今の魔界は少なくとも地上との均衡が保たれているという話だ。

 それではポーラの言う魔獣の方はどうだ。これまでの話で推察するに、オラティルは破壊の化身のようだ。言い換えればものすごく強いということだろう。

 それを制御(使い魔に)すれば確かに脅威ではあるが……。


「オラティルはかつて豊穣の神であったとされています」


 悩む俺たちに救いの手を差し伸べたのは、意外な人物だった。


「君は……ベガ?」


 姿を見せたのは薄いローブ姿のベガだ。

 初めて会ったときは騎士のような姿をしていて、男性だと思っていたが、どうやらベガは女性だったようで、こうしてみると確かにそう見えるのだ。


「この度はかたじけない。キドー殿。お恥ずかしいところをお見せしてしまったようで」

「いや、ご無事でなにより……お体の方はもうよろしいので?」

「こう見えても精霊とのハーフです。頑丈なのですよ」


 軽く笑って見せるベガは確かに初めて会ったときのような余裕を感じさせた。


「それにしても、女性だったとは……」

「いや、なに、隠してたわけではないのですが。少しでも両親や兄の力になろうと考えたら、あの姿だったというわけです。それより、気になるお話しをしていましたね。オラティル、私もよく小さい頃に聞かされていましたよ」

「ベガは何か、知っているのか?」

「私がと言うよりは母たちが、と言うべきでしょうか。精霊の一族は古くからの言い伝えもあります。精霊たちの間ではオラティルは父なる神であり、豊穣を約束する創世の神としてあがめられた聖獣でもあると言うのです」

「魔獣の次は聖獣ね……創世の神とも来た。こりゃもう何がきても驚かんぞ」

「それがあながち冗談でもないのです。オラティルは確かにその持てる力で破壊の限りを尽くすそうですが、同時に大地を活性化させ緑を復活させる力があったともいわれています」

「そりゃあまるで本物の神様みたいだな」


 破壊と創造。よく聞く神様の御業だ。

 それだけの力を持っているなら、大魔王と呼ばれてもおかしくはないか。


「待ってください。オラティルが創造を冠する力を持っているなんて聞いたことないですよ?」

「同じく、教会では破壊の化身としか……」


 ベガの説明に待ったをかけたのはアムとポーラだ。

 ユキノも言葉には出さないが同じ考えのようで、首をかしげている。


「それは仕方ないことかと。創造を行うと言っても、結局はその前に破壊をするわけですし、多くの者からすればネガティブな方に目を向けるでしょうし。多くは精霊たちから見た場合です。私も母も人間よりの考え方をしていますが、原初の精霊たちはもっと視点が複雑と言いますか……百年、二百年単位の破壊はちょっとした事故程度に思ってるところもありまして……」


 なんだかスケールが大きいのか小さいのかわかんないね。

 でもベガの説明は何となくわかる。ものを壊すのは簡単だし、一瞬だ。しかし作るとなると時間と手間がかかる。

 オラティルにそのような力があるとしても、実は大地を実らせていましたと言われても、それがウン百年単位もかかったら中々実感はわかないだろう。

 大きな自然のサイクルの一つととらえれば確かに神様のような存在にも見えてくるけど、その循環が人間の意識としてはかなり気の遠くなるものなのは間違いない。


「何かの手助けになれば良いのですが、私の知る限りの情報はこれだけですね」

「いえ、貴重な情報です。何も知らないよりは良い。むしろ、俺の中ではそのオラティルってのが連中の言う大魔王と言う確証が近づいてきた感じですよ」

「それは良かった……いえ、良くはないですね。不気味な話です。連中の目的が垣間見えると、真実を暴いてやったという喜びよりも恐ろしさの方が出てきてしまう」


 ベガはそう言いながら、会釈をして部屋を後にした。

 後に残された俺たちもそのまま解散。アムたちはミズチの部屋へ、そして俺は一人部屋に残ったままだった。


「オラティル」


 もう何度耳にしただろうか。その言葉をつぶやく。

 同時にピリピリとした感覚が全身を駆け巡る。間違いないと俺は確信した。

 目的はいまだに不明だが、連中が言う大魔王はこいつだ。

 恐るべき力を持った魔獣……そんなものを復活させてどうしようって言うんだ。


***


 それから二日後。

 俺たちはハーバリーへの帰路へとついていた。

 その間、ゲルマーでの雑務(ブラックとしての宣伝活動が主だが)を済ませたり、周辺の警戒を行ったりなどをしていたが、これらは滞りなく終わった。

 デュール含めた残党たちは王都へと送られていく。ダグドたちからは今回の件に関して色々と謝罪だとか謝礼だとかあったが、まぁ個人的に彼らとの出会いは楽しかったとだけ付け加えておく。

 レオンとも再び再戦を誓い、女性陣はベガと仲良くなってくれたようだ。

 サリーも旧友たちに会えて喜んでいたようだし、子どもが生まれるならまた顔を出すと言う約束をしていた。


 色々と謎は残るし、釈然としないことも多いが、今は愛しの我が家へと帰ろう。

 何が起きるか分からないからこそ、普段通りの生活を送るのだ。

 何も起きないのが、一番なのだから。

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