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第7話 美しすぎるギルドマスター

 滞りなくギルドへの登録が完了し、俺は晴れてこの世界の住人となった。

 忍者を極めるにしても、別の道を目指すにしても、俺の新たな人生は今ここから始まったと言っても過言ではないだろう。


「ところで、ずっと聞こう、聞こうって思っていたんですけど。忍者って何ですか?」


 と、二十九歳にもなって少年のように決意に燃えている俺のやる気をそぐようなぽややんとした質問を投げかけてくるアム。

 おかしいな。昨日出会ったときはもっと真面目な、優等生っぽい子だと思っていたんだが……。


「忍者とは一口では説明出来ないな。その役割は多岐に渡る。鍛えた忍法を使い、戦に出る事もあれば、市井にまぎれ情報を仕入れたり、敵を惑わしたり……主に諜報活動や破壊工作を行うな。もちろんそれ以外の仕事もあるぞ。だが、忍ぶ者という名が現わす通り、俺たち忍者の神髄は影に隠れて活動することにある」

「なるほど……でもキドー様、全然忍んでませんね! ものすごく目立ちます!」

「……いいんだよ。目立つ忍者もいるから」


 なんて真っすぐな目で正論をぶつけてくるんだこの子。

 あぁ、そうさ。俺も忍んでないって思ってるよ。

 だが、歴史を紐解けば石川五右衛門忍者説のように派手に大暴れした忍者もいるし、漫画やアニメだとそもそも忍んでないのが大半だ。

 忍法だってド派手なものばかりだしな。

 つまりはあれだ。必要な時に忍べばいいんだ! たぶん!


「それに、本当に忍ぶならこんな目立つ格好はしない。これはいわば戦装束、真正面から戦う時に着る俺たちの衣裳みたいなものだ。忍ぶなら変装の一つや二つはするものなんだよ」


 ま、実際に忍者装束で戦には出てなかったらしいけどな。

 普段の忍者はむしろ商人や農民として紛れているのが多かったとも聞く。


「詳しい説明はまた今度だ。それより、ハンスからギルドマスターとやらに伝言があっただろう?」


 というか本来はそっちがメインのつもりでこの冒険者ギルドにやってきたはずなんだがな。


「そうでした! マイネルスさん、ギルドマスターにアポを取ってもらっても良いですか? 重要なお話があるんです」


 アムがそういうとマイネルスは「待ってな」と答えながら、ギルド登録用の水晶とは別の水晶を取り出し手を乗せた。

 そして何かを念じるように目を閉じた。一、二秒ほどでマイネルスは「オーケーだとさ」と言って、何やら一枚の紙をくれる。


「ん、許可証。奥の係員にみせりゃいい」


 マイネルスが顎でしゃくるように示した場所にはとんがり耳のどえらいイケメン二人組が槍のような杖を構えて大きな扉の前にガードマンとして立っていた。

 オークの次は、エルフってわけか。


*************************************


「お勤めご苦労様です。ギルドマスターに会いたいのですけど」


 アムがマイネルスからもらった許可証を見せると、イケメンエルフ二人は快く俺たちを通してくれた。

 扉をくぐった先はギルドの運営を行うところだったらしく、制服姿の職員が忙しなく動き回っていた。

 その時、俺はある事に気が付いた。


(よく見りゃ、この世界にはいろんな種族がいるな)


 このギルドには多種多様な種族がいた。マイネルスのようなオークは彼女以外には見当たらないが、猫や犬のような耳を持った者、トカゲ顔の者、一見すれば人と変わらないがどこか特徴的な人種もいる。

 先ほどの冒険者たちのラウンジにも視界の端々にはそんな者たちがいたような気がするし、もしかしたら街中も注意深くみればいるのかもしれない。


「ギルドというのは色んな者たちがいるのだな」

「ここは来るもの拒まずの精神ですからね」


 俺のような異世界転生を受けた側からすればモンスターもしくは亜人とひとくくりにするような者たちが人間と一緒になって働いている。


(こりゃこの世界の常識についても調べておかないとまずいな。俺の先入観じゃオークなんて狂暴なモンスターって認識しかないからな)


 実際、マイネルスを見た時は驚いた。話してみれば気の良いおばちゃんだったが。情報収集は忍者の得意分野のはずだからな。この用事が終われば試したい忍法もある。

 密かな楽しみを抱きつつ、俺たちはギルドマスターが待つ部屋の前にたどり着いた。かなり大きな観音開きの扉で所々に花の彫刻が刻まれていた。

 それにほのかにだが花や蜜の甘い香りもするし、それがなんとなくリラックスをもたらしてくれる。不思議な香りだった。


「ギルドマスターはお洒落好きなようだな」

「そうですねぇ。とっても美しい方ですよ。それもズバリ美しすぎるギルドマスターと呼ばれるぐらいですから。それにとてもお優しい方なんです。あ、でも年齢の話は駄目ですよ」


 などと言いながらアムは扉をノックした。

 すると扉が自動で開き、俺たちをギルドマスターの下へといざなう。


「うん?」


 部屋の中に広がる光景は俺の想像した作りではなかった。そこには小さな森が広がっていた。木があり、草花が生い茂り、どこからともなく鳥のさえずりや水が流れる音も聞こえる。

 そして一番目をひくのが、部屋の中央にそびえる巨木。樹齢何百年はゆうにこえていそうな立派な木だった。

 その巨木の根元には人間大の巨大な薄桃色の華が無数の蔦や葉に囲まれてまるで眠っているようにつぼみを閉じていた。


「ようこそ、アム・レンテス、キドー・オトワ」


 その瞬間、俺はとんでもないものを見てしまった。

 突然聞こえてきたのは若い女性の声、しかもその声は目の前のつぼみから聞こえてきたのだ。


「話は聞いています。私に何か伝えたい事があるとか」


 声を発する度につぼみの花びらがゆっくりと展開されていく。

 その中から現れたのは花と同じ色をした薄いレースのドレスを身にまとった妙齢の女性だ。髪の色も桃色で、長く美しい。肌の色は輝いて見えるほどに真っ白だった。

 呆気にとられる俺に気が付いたのか、その女性はにこりと笑みを向けてくれる。


「あなたとは初めましてとなりますね、キドー・オトワ。私がこのハーバリーのギルド支部を治めるギルドマスター、アルラウネのサリーと申します」

「俺、いえ、自分は忍者、城戸音羽と申します。突然の来訪、ご無礼かと思いましたが、火急速やかにお伝えせねばならぬことがありまして」


 びっくりはしたがオークの受付嬢を見れば多少免疫はつく。

 俺は膝を落とし、首を垂れながら進言するように伝えた。なぜかアムもまねしている。


「そうかしこまらずとも。それで、報告とは?」

「あ、あの! それについては私の方からご説明いたします!」


 アムがそういうとサリーは頷き、細くしなやかな腕を舞うように振るった。すると木の根や蔦が俺たちの周りに集まり、簡易的な椅子と机となってくれる。

 サリーは微笑みながら、さらに蔦を操りティーカップとポットを用意している。


「ハーブティーです。お茶でもしながら、お聞きしましょう」

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