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第69話 おとぎ話ですよ

「はぁ、大魔王について、ですか?」

「あぁ、ポーラはシスターだし、この手の話は教会とかで聞いたことがないかなと思って」


 デュールの言う大魔王復活とは何か。

 自分なりにそれを調べようとしても、さっぱりだった。

 俺の思い描く大魔王とこの世界の大魔王にはかなり違いがあることがレオンとの会話で分かった。

 さてはてどうしたものかと考えた結果が、ポーラだったのだ。


「ミズチたちの付き添いもあるのに、すまないな。ただ、どうにも胸騒ぎがしていてな」


 俺はポーラとアム、ユキノを別室に呼び寄せて会議を開いたというわけだ。


「大魔王といっても、聞くところによると昔の話のようだし、その手の話に詳しいのは誰なんだろうと思ってな」


 彼女はシスターであり、教会と言うのは歴史も古いはず、たぶん。

 神と魔王の関係性みたいなちょっと漠然としたイメージでしかないが、長い歴史があるなら、そういうものだって学んでいるかもしれないし、聞いて損することもないわけだ。


「そうですねぇ……キドーさんとレオンさんの話をまとめると、大魔王とは確かに過去の魔界の支配者が名乗ったものが有名です。おそらく、都会の学校でも歴史を学ぶ時に出てくる魔王、大魔王と言うのはそういう武勇であるとか軍事指導者という意味合いが強いですね」

「私も実家で勉強していた時はそんな感じでしたねぇ」


 アムの反応からしても、やはり魔王という概念はその程度のもののようだ。

 戦争している敵側に対して、死神だとか悪魔だとか呼ぶ感覚。


「そこはレオンの意見と同じってわけだ」

「ですが、キドーさんのお聞きしたいのはそういう現実的なものではなくて、神話に語られるようなものなのでしょう?」


 その通り。

 まさしく俺がきこうとしているのはおとぎ話のような領域だ。


「とは言いましても、小さい子供に言い聞かせるようなものしかありませんよ? それに、大体こういうものは過去に起きた出来事を誇張表現しているだけ、というのが教会内部の暗黙の了解みたいな所ありますし……」

「えー! そうなんですか? 私、教会ってもう少し厳かで信心深いと思っていたのですけど」

「俺も」


 俺とアムは全く同じ反応を示している。

 なんだか、えらくドライですね、ポーラさん。


「あはは! 教会って意外とこんなノリなんですよ? ですが、神を信じているというのは嘘じゃないですよ? だって、こうして、キドーさんと出会う事ができましたしぃ?」


 言って、ポーラはすすっと俺のそばによって来ようとする。


「あの、今は大魔王についてが、先決かと」


 それを阻止するようにアムが間に割って入り、ポーラを元の場所へと引っ張っていく。


「もう、お堅いこと」

「ポーラさんが緩すぎるんです。それでもシスターですか」

「私どもの神は産めよ増やせを愛を広げよですからぁ」

「あのぅ、お二人とも、今は話を脱線させてはいけないかと」


 呆れ半分、諦め半分な感じでユキノが仲裁に入る。

 なんというか、この二人、相変わらずだなぁ。

 そんなちょっとした寄り道をしつつ、ポーラは咳払いと共に説明を再開した。


「んんっ! さて、そうですね。お話の続きですが、一つだけ、例外のようなものがあります」

「例外?」

「実際に起きていて、なおかつ大魔王と恐れられた魔獣の話があります」

「また、魔獣か……」


 ついさっき魔獣と激突した俺たちだ。

 どうやらこの世界においては人よりも、モンスター(この場合は巨大な生命体たちを指すようだ)の方が恐れられているようだ。

 レオンも言っていたが、過去に魔王を名乗った連中はしょせんは一個人の力であると。

 しかしモンスターたちにおいてはその限りではない。人間の何百倍もの肉体と生命力を持ち、縦横無尽に暴れまわるさまは生きる災害。

 なるほど、過去の人々からすればそういう連中は神にも見えるし、魔王にも見えるだろうな。

 意志を持った災害ほど厄介なものはない。


「魔獣とはまず、私たちが考えるモンスターとは別次元と思った方がいいです。こう言ってしまってはなんですが、私たちが普段クエストなどで相手するモンスターたちは、確かに危険です。油断をすれば、命を落とす事だってあります。ですが、だからといって勝てない存在ではないはずです」


 そこは言われてみれば、その通りかもしれない。

 ブレードビーや人面キノコとか、スライムやゴーレムたちも、危険な存在だが、いくらでも対抗手段は用意できる。

 決して倒せない相手ではない。


「魔獣は違います……通常では決して倒すことができないとされている恐るべき存在。私たちの世界でいえばドラゴンもその一種であると考えられています。そして、魔性変異体……これも魔獣に少し近い性質を持っています」

「本来ならありえない特性を持っているからか?」


 磨墨ことバイコーンには本来あんな電撃魔法は使えないと言っていたな。


「えぇ、魔獣とは私たちの常識を超えた範疇に存在する例外な生物。常識が通用しないからこそ、想像もできないようなものが生まれる事があるのです。私たちが生まれるよりもずっと前……モンスターの大量発生による人類の生存圏が危ぶまれた時代がありました」

「それは有名な話ですね。私たちの一族でも同じ話は言い伝えとして残っています」


 付け加えるようにユキノだ。


「確か、ギルドマスターの現役時代が、ちょうどそんな時代だったって話だな」


 サリーやマイネルス、ブラック、そしてダグド。彼らが若い頃は冒険者ではなく討伐者と呼ばれていたと聞いた。

 それほどまでにモンスター被害が多かったとも。


「とまぁ、これらの大量発生には魔獣が関わっているのではないかという説もあります。なぜ、そうなるかはよくわかっていないようですが、なにせ資料も何もないようなので。それで、話を大魔王に戻しますが、魔獣の中には過去にそう呼ばれた存在がいるとされています」

「あ、それ私知ってます。小さい頃、よくおじい様に聞かせてもらったお話ですよ」

「恐らく、アムさんの考えているものと私がお話するものは同じでしょう」

「有名な話なのか?」

「有名と言いますか、それこそおとぎ話……寝物語として聞かせる話だと言われていますが……実際は違います。事実として起きた、そして存在もしていたとされる魔獣の王、大魔王と呼ばれたその名は……オラティル」


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