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第68話 疑念と目的と

 一連の騒動の後、残党の処理はゲルマーの部隊だ。助け出したミズチ、そして女性だと判明したベガは屋敷で女性陣に付き添われている。幸い二人とも怪我もなく、ミズチに至っては元気に走り回っていると聞いている。

 巨大モンスター同士の戦いが間近であったためかゲルマーの街はちょっとした騒ぎになっているが、ダグドが説明を行っており、それもすぐに治まる事だろう。

 そして、俺はというと、捉えたデュールとか言う魔族の尋問に参加していた。

 主に執り行うのはレオンであるが、俺としてもこいつやこいつのバックにいる連中の事が知りたかったのだ。

 だが……。


「私は私の任務に従ったまで、それ以上の事はご説明できかねますね。いくら尋問しようが、拷問しようが無駄ですよ。知らない事の方が多いですし、こちらも義理堅いつもりですので」


 首輪の形をした魔力封印の術具をかけられ、椅子に全身を縛られながらも残党を指揮していた魔族、デュールは顔色一つ変えることなく、この一点張りなのである。

 肝が据わっているというか、なんというか。

 こりゃ一筋縄じゃ行かないだろうな。


「さて、目を覚ましてからかれこれ一時間はこれだ。多少、痛めつけてやろうかと思ったが、この手のタイプには無駄だという事は私にもわかる。はてさて困ったものだ」


 レオンは静かに言い放つが、その声音には多少の怒りが混ざっていた。

 家族を危険にさらされたのだから当然だろう。俺だって同じ気持ちだ。だが、ここで怒りに任せても意味がないというのもわかる。

 常に冷静に。忍者の鉄則だ。

 とはいえ、らちが明かないのも事実。


「じゃあ終わったことを聞くが、イーゲルを唆したのは、お前たちなんだな?」


 まずは確認だ。

 俺が初めて遭遇した大きな事件。イーゲルの襲来。今に思えばあいつがなぜあんな軍勢を従えれていたのかは疑問だった。

 盗賊たちをかき集めたとか、軍人たちを扇動したとか色々と言われているが、そもそもそんな力をどうやって手に入れた。

 あいつにはフェルーンとか言う魔族がバックについていた。魔族がなぜイーゲルに従っていた?


「そうですよ」

「えらいあっさりと答えるな」

「もう死んだ男のことを隠して何になるんです?」

「そりゃそうだが、知られたくない秘密の一つや二つはあるんじゃないのか?」

「いえ、特に。あの男は煽てやすいので、利用しやすかったですよ。まさかフェルーンが死ぬとは思いませんでしたが。あの妖狐……飼い犬に噛まれたというわけですか」


 この口ぶりからするにデュールとあのフェルーンは仲間同士なのだろう。仲はよろしくなさそうだが。


「てことは、あのイーゲルの動きはお前たちの計画の一部だというのか?」

「えぇ、その通りですよ」

「……そこは嘘でも隠そうとするもんじゃないのか」

「だから、もう終わったことを秘密にしてどうするというのです。あの男はバカみたいに騒いでいればよかったのです。それ以上の目的はありませんよ」

「なんの為だ」

「そこはお話できないですね」

「大魔王の復活がどうのとか言っていたな。それが目的か? 冗談でもないんだろう?」


 その事を追求するとデュールは黙った。

 こんなファンタジーな世界にいるんだ。今更大魔王の復活とか言われても驚きはしない。むしろファンタジーが普通になりつつあるせいで、逆に胡散臭く感じてくるぐらいだ。

 だが、この沈黙は真実なのだろうな。

 俺はちらりとレオンに目配せする。


「……大魔王と名乗った魔族は何人かいる」


 俺の考えを察したのか、レオンは説明を始めた。


「全員が、歴史の教科書に載るレベルの大昔の存在だ。過去、地上と魔界とで何度か戦争があった。その時に魔族を支配していたのが者たちが大魔王と名乗った」

「なるほど、それでお前たちはそのうちの誰かをよみがえらせたいわけだ」


 言いながらデュールに視線を向けると、奴は無表情のままだった。

 答える気はありませんってわけね。


「しかし、今更大魔王を復活させて何ができる。今の魔界は確かに国交には乏しいが、地上と戦争を繰り広げるほどの余裕はないはずだ。それに、地上には后として嫁いだものも多い。地上と魔界の均衡は今や安定している。それを崩すつもりか?」

「なぁレオン。一つ聞きたい。その大魔王ってのは、どういう力を持っている?」

「む? 知らんのか?」

「すまんな、あいにく、この大陸の歴史は少しな。里に住んでいて、自分でも恥ずかしいが少々世間の事に疎い」


 自分でも思うが、よくもまぁこんな嘘をがペラペラと。


「ふーむ。まぁいいさ。大魔王は確かに恐るべき魔力を持っていたという。一騎当千、魔界を統べるにふさわしい力を持っていた……そう習った。だが、倒せない相手でもなかったようだ。その当時の事は文献程度しか残っていないが、地上も各勢力の先鋭を結集させて討ち取ったと聞く」

「……まるで勇者とその一行だな」

「まさしくその通り。大魔王を倒した英雄たちは勇者と称えられたよ。なんだ、知ってるではないか」

「……まるっきり知らないわけじゃない。それで、その大魔王が復活したら、何か、あるのか? こう例えば、世界が闇に包まれるとか」

「……ないのではないか?」


 会話の中でなんとなく察していたが、どうにも俺の持つ魔王というイメージとこの世界におけるイメージに微妙な差があるようだ。

 俺としては元の世界の事もあってか魔王イコールヤバい存在だ。力が強いは当然として、世界をどうこうするような、そんな感じ。

 だが、この世界では力強い存在、恐るべき存在なのは間違いないが、物語で語られるような無敵の存在ではない?

 イーゲルを見るに、自分の強大さをアピールするために魔王と名乗る事はあるようだが。


「まぁ確かに、中には天候を操作するものはいたようだ。一個師団に匹敵する魔法を扱うものもいたようだ。だが、個人の力だ」

「だとすれば、なおさらわからん話だな。なんで、今更大魔王なんだ……?」


 なんか、余計に話が分からなくなってきたな。

 なんだか薄気味悪いぜ。デュールたちは何か目的があって『大魔王』を復活させようとしている。

 それを望んでいるものがいる。そいつがわかんねぇと話にならんな。


「これ以上の尋問は時間の無駄のようだな。キドー殿、戻ろう。こいつは王都に引き渡す」

「あぁ……」


 釈然としないまま、俺たちは尋問室を後にした。

 そのまま俺はレオンのあとをついて、屋敷のバルコニーに出た。

 レオンはそこで体を伸ばしてから、くるりと俺に向き直り頭を下げた。


「此度はベガを救っていただき感謝します」

「よしてください。当然の事じゃないですか。それに私もミズチをさらわれました。私がもっと気を付けていれば賊に好き勝手はさせませんでしたよ」

「いえ、そもそも今回の事は警備にも問題がありました。家族はおろか、お客人にまで危害を許すなど、恥です。それゆえに、こうして頭を下げるのです」

「いえいえ、こちらの方もえらそうなことをいった手前で……」


 などとお互いが頭を下げあう。

 それを三往復ほど繰り返した後、二人して動きを止めて、そして……。


「やめましょうか」

「そうだな」


 苦笑しあった。


「デュールとかいう男の言っていた事に関しては私の方でも調べるつもりだ。国王にも報告申し上げる必要もある。嫌な予感もするのでな」


 レオンの考えに俺も同意見だ。


「それは私もです。事実、連中にたくらみがある以上、同じような事が各地でも起きるかもしれません。私も、できる限り調べようと思います」


 嫌な予感。

 レオンはそう言っていた。

 だが、俺は薄ら寒い、不気味な感じがしてならない。

 なんでそう思うのかは俺にもわからん。殺気を感じた時のようなピリピリとした何か。それに似た感覚なのだが、うまく説明できない。

 ただ一つ、確実に言えるのは何が何でも阻止しないといけない。

 悪事を企んでいるなら、阻止するべきだ。

 それだけは間違いないのだから。

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