第67話 ミズチ、吼える
巨大な召喚獣を操り、敵と戦う。伝説的な忍者『自来也』もかくやといった大立ち回り。これまでにも磨墨や土蜘蛛でやってきた事だが、ミズチの真の姿であり、巨大な水の龍で行うのはスケールが違いすぎた。
しかも敵は巨大魔獣……言ってしまえば怪獣だ。
不謹慎だが、気分は特撮ヒーローって感じだ。
「いいか、ミズチ。奴を森から出さずに、そして被害を拡大させないように倒す。難しいが、やれるな?」
龍状態でもミズチは喋れないこともないが、今はグルルと唸るだけだ。
それが了承の意味だというのは契約の関係で俺にも伝わっていた。
「良い子だ。安心しろ、ミズチ。ここには俺もいるし、磨墨もいる。目の前の怪獣君にはさっさと退場してもらうとしよう!」
俺の号令と共にミズチはその蛇状の体を滑らせ、魔獣へと突撃する。ただ一直線の体当たりだ。
いかに魔獣が愚鈍でも、こんな真正直な体当たりに対応しないわけがない。
ぎょろりと輝く一つ目を俺たちに向け、躊躇うこともなく、光を放つ。魔獣から放たれた怪光線はそのまま、俺たちへと直撃する……と同時に、俺たちの姿は陽炎のように霧散する。
「この程度なら、分身を作り出すのは簡単なものでね」
消えていく俺たちのそばには、分身八体を出現させておいたのだ。魔獣は再度怪光線で分身を貫いていくが、俺は消されたそばから即座に分身を補充していく。
「目立つ分身ばかり攻撃してちゃいかんぜ?」
そして魔獣が分身に気を取られたその隙を突き、磨墨が電撃を放つ。
ミズチに比べて磨墨は小さい。しかし、こいつの放つ電撃は一級品だ。なんせミズチすらしびれさせるからな。
しかも今放たれた電撃は手加減なんて考えてない一撃。大嵐の落雷並の轟音と衝撃が魔獣へと降り注ぐ。
魔獣は当然、全身を大きく身悶えさせていた。発声器官がない為か、絶叫を上げる事はないが、大ダメージが入ったことだけはわかる。
それでもなお膝をつくことも、倒れることもない魔獣の生命力には驚かされる。磨墨とて殺すつもりの電撃だったはずだ。
「伊達に魔獣は名乗ってないってわけか。だが、無敵ってわけでもないんだろ!」
磨墨の援護によって、俺たちは魔獣との距離をさらに詰める。もはや至近距離と言ってもいい領域だ。
「自在縄! 土固め!」
念には念を。俺は忍法・自在縄を使い、魔獣を拘束。さらにダメ押しで魔獣の両足を土で完全に固定させる。
それでもなお逃れようとする魔獣。力も尋常ではなく、自在縄に関しては一秒も持たずにちぎれてしまう。
だが、一瞬の隙を忍者は見逃さない。
「ミズチ、嫌だろうが噛みついてくれよ!」
既にミズチの顎が魔獣の首に食らいついていた。鋭い牙が深々と食い込み、さらにはミズチの全質量が乗った体当たりでもある。魔獣はその勢いのまま押し倒されていった。
首に食らいついたミズチは牙を離すことなく、器用に胴体を操り、魔獣の全身を締め上げる。
ギリギリと魔獣の肉体がきしみを上げていた。
苦しみ悶える魔獣であったが、その一つ目が俺たちを捉え、怪しく光る。
反撃に出ようというのだろうが!
「そうはさせねぇよ! 来い、鎧纏化!」
俺は黒騎士の鎧を取り寄せるが、装着はせず、糸による遠隔操作を行う。
空っぽの鎧はそのまま魔獣の頭部へと躍り出て、手にした二振りの斧で、魔獣の横っ面を思いきりぶん殴る。
その衝撃で魔獣の狙いはほんの少しだけそれる事になり、怪光線はミズチの頭部の真横をすり抜けていく。
「もう一発ぶん殴れ!」
鎧は二度目の攻撃に転じる。今度は反対側に回り込み、斧を打ち当てる!
かつてはドラゴンすら両断したという黒騎士の斧。糸による遠隔操作で、多少威力は低下しているのだが、それでも衝撃は凄まじい。三度目、四度目と斧による攻撃を受け、魔獣の体力はさらに削られていく。
それでもなお一つ目を怪しく輝かせて反撃に出ようとする生命力はやはり恐ろしい。
「ミズチ、そろそろトドメに行けるはずだ! 最後は任せるぞ!」
俺はそう言いながらミズチの頭部から飛び出し、刀を構え、魔獣の頭部を伝って奴の一つ目めがけて跳躍する。
そして刀を逆手に持ち直し、魔獣の眼球めがけて切っ先を突き下ろす!
ドシュッと確かな手ごたえと目玉を貫いた奇妙な音が伝わる。その瞬間、魔獣はさらに激しく全身をのたうつ。
「ミズチ、いまだ!」
俺はすぐさま離脱し、ミズチにトドメを指示した。
魔獣を拘束から解放したミズチは、魔獣を天高く放り投げる。
そして、巨大な顎をさらに大きく開き、その口中に青白い光が収束されていく。
輝きが最高潮に達すると同時に、ミズチは激流のような閃光を放ち、魔獣はその中に飲み込まれていく。
数秒の照射の後、空の上で、魔獣が光と共に爆ぜた。
「撃破完了……って事でいいんだよな?」
これで、肉片の一つでも落ちてこれば確証も持てるんだがな。
俺はそんなことを考えつつ、ミズチを見上げた。彼女は龍の姿から縮こまっていき、光と共に少女の姿へと戻っていく。
戻ると同時にミズチはその場で倒れかけたが、すんでのところで抱き留めてやった。ミズチはすやすやと寝息を立てていた。
「やれやれ、とんだお転婆娘だ」
龍になったと思ったら寝ぼけて暴れて、それにさっき見せたあの一撃……なんていうか、この少女は今なお底が知れねぇなぁ。
「……ま、なんだっていいさ。ゆっくりと休んでくれよ、ミズチ」
別に、この子の正体が何であれ、今は俺の家族の一員だ。
そして共に戦う仲間だ。
今はそれで充分だ。
「さぁて、事後処理が大変だわなぁ、これ……」
捕らえた残党の幹部、再び散らばったであろう残りの連中への対応。
何より、敵の目的について。
考えなきゃいけない事はまだ山ほどあるのだから。




