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第64話 忍者に卑怯は誉め言葉

「おー、おー、派手に混乱してくれてるぜ」


 土遁の術で作り出した地下洞窟を進みながら、俺は分身たちが送ってくる映像を眺め満足していた。

 複数体の黒騎士の分身たちは俺の指示通りに敵陣からちょっと離れた場所で目立つように動いてくれている。

 さらに魔獣への足止めを任せた土蜘蛛の存在も敵にとっては想像の範囲外なのだろう。敵陣は目に見えて騒がしいことが分身を通してわかる。


「とはいえ、土蜘蛛があっさりねじ伏せられてるな……魔獣、手ごわすぎるんじゃないか?」


 分身から送り込まれる映像には魔獣に手も足も出ない土蜘蛛の姿もある。これでもそこらへんのモンスターよりは強いはずなんだが、土蜘蛛は魔獣に引きちぎられ、踏みつぶされ、それでもなお再生を繰り返してはなんとか動きを止めていた。


「先ほども言いましたが、魔界の生物は地上の生物より強靭です。一体だけでも完全装備の軍隊が必要になるほどの」


 ユキノはこのことを何度も念押ししてくれていた。

 その言葉は今まさに身にしみている。個人的にお気に入りの忍法である土蜘蛛がこうも簡単に蹴散らされるとショックがでかいが。


「こいつはちょっと本気で対策を考えないとな……」


 今俺ができる忍法が果たしてどこまで通用するのか。

 その辺りも考えたいが、まずは第一にミズチ、そしてベガの救出だ。これはもう作戦が決まっている。

 それを説明した時のみんなの表情はなんとも微妙だったが。


「さて、ここら辺がちょうど敵陣の真下になるはずだ」


 分身たちからの位置情報によって把握は簡単だ。


「敵の数はざっと数百程度。ミズチとベガの姿が見えないが……恐らくはテントの中か?」


 敵陣には一つだけ大きなテントがあった。陣幕って言えばいいんだろうか?

 まぁそれはさておいて、あの二人はこの中にいると仮定しよう。そうでなくとも作戦は実行に移すつもりだったしな。

 俺は懐の影にしまい込んでいた革袋を取り出しながら、準備を始める。


「あのぉ、本当にやるんですか?」


 すると、アムが俺からちょっと離れた位置からのぞき込むようにして尋ねてくる。


「あぁ、もちろんだ。この手製の麻痺粉で敵を一網打尽。簡単だろ?」


 俺が取り出したのはいつぞや仕入れておいた人面キノコたちの胞子だ。その中でもこの麻痺を引き起こす粉はかなり使い勝手がいいと俺は思っている。中には致死性の猛毒の粉もあるのだが、この麻痺は体の動きを止める以外に命に別状はない。大量に吸い込むとその限りではないのだが、とにかく死にはしない便利なアイテムだ。

 俺が行おうとしてる作戦は以前にもイーゲルの盗賊団の戦力の一部を無効化した方法なのである。


「そりゃ簡単でしょうけど……それ、やっちゃっていいものなんですか?」


 ポーラもちょっぴり引いてる。

 

「いいんだよ。手段は選んでられんしな。それに死ぬわけじゃないし、広域の散布するから後遺症の心配もない。多分」

「多分って言いました!?」

「しびれが何週間か取れないだけだよ。デトックスすりゃ治る。命あってのなんとやら、俺たちだけで大部隊を相手にするならこれぐらいは使って当然なのさ」


 真正面から突破して正々堂々と助ける。

 それもロマンだしかっこいいと思うが、あいにく俺は忍者になってしまったのだ。

 つい最近までそのことを忘れていた気もするが、俺は忍者。だったら、いかなる卑怯な手を使ってでも敵を倒す。任務を果たす。それだけってわけだ。


「よし、全員マスクをつけろ。ユキノ、魔法防御も頼む」

「はい」


 俺たちは麻痺粉の影響を受けないようにしておかなければならない。幸い、俺の体は毒物にある程度の耐性があるが、彼女たちはそうもいかない。なので、布で口や鼻を覆って、ダメ押しにユキノの魔法で状態異常に耐性をつけておく。

 こうした準備が整ったらさっそく作戦開始というわけだ。


「流すぞ」


 俺は天井に手を当てて、穴を作り、気流操作で麻痺粉を散布させる。

 地下から噴出する麻痺粉は、慌ただしくうごめく敵陣の流れにのって勝手に広まっていく。

 そして、数十秒後。明らかに地上の慌ただしさが一転しておとなしくなっていく。

 分身からの見える映像からも敵の大半がしびれたように痙攣を引き起こし倒れていた。


「頃合いだな」


 俺は穴をさらに広げると同時に今度は両手を地面にたたきつける。


「いまだ! 全員、飛ぶぞ!」


 刹那。圧縮された空気が弾け、俺たちを一瞬で地表へと打ち出す。

 既に敵の大半は麻痺でしびれ、満足に動けない。それでもまだ麻痺粉の効果が回っていない連中もいるが、足並みのくずれた敵など俺たちの相手ではなかった。


「なんだ、貴様ら──!」


 運悪く俺の目の前にいた盗賊のみぞおちに問答無用の拳を叩きこみ、意識を刈り取る。

 アムは炎を纏った槍を振り下ろし、ポーラは魔力弾による掃射、ユキノは中央でバフを駆け、サポート。


「退け!」


 俺は忍者刀を引き抜き、陣幕でもあるテントへと歩み寄る。その間にもなんとか動ける盗賊たちが接近してきたり、力のない矢を放ってくるが、こちらに当たるようなものじゃない。

 刀ではじき、いなし、俺はテントの幕を切り裂いた。


「さぁ、家族を返してもらうぞ」


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