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第63話 土遁は強いんです

 召喚魔法により呼び出された巨大な怪獣……あえてここは魔獣と呼ぶべきか。

 二足歩行で強靭で分厚い両足に短いながらも鋭いかぎ爪をもった両腕、一つ目で口のない姿はこの世のものとは思えないおぞましさだった。


「魔族に魔物ってか? 大盤振る舞いすぎやしねぇか? 俺たちが相手してるのは残党のはずだろ?」


 わざとらしく軽口を叩いてみせるが、さすがに俺もこの状況は唖然というか茫然としている。

 異世界なファンタジーだし、これまでにおかしなモンスターは多く見てきたつもりだ。磨墨然り、ヴィーヴル然り、ミズチだって本来の姿はドラゴンだ。

 だが、俺たちの視界に写りこむそいつは根本的に俺たちの知る生命体とはかけ離れた存在に感じ取れるのだ。


「う、く……」

「ポーラさん?」


 うずくまるポーラにアムが駆け寄る。魔獣が出てきてからというものの、ポーラの表情は芳しくない。吐き気もあるのか、しきりに口元を押さえていた。


「大丈夫、たぶん、瘴気にあてられただけ……聖職者だから、私」

「動けるか? 無理な場合は、下がってもいいが?」


 予想外すぎる状況だ。さすがに無理はさせられない。

 しかし、ポーラは首を横に振った。


「いえ、大丈夫です。慣れます……ですけど、あんな巨大な魔獣が出てきてしまっては……」

「あれは間違いなく魔界の獣……名前はわかりませんが、まがまがしい気配が伝わってきます……本来、地上のモンスターとは違い制御するのも難しいはずなのに……」


 ポーラと同じように瘴気にあてられているらしいユキノは毛を逆立たせて最大の警戒を見せていた。

 瘴気というものは、俺も多少は感じ取れている。いつも感じるピリピリとした危機感知とはまた違う、ぬるっと肌にまとわりつくような生暖かい空気のような感触が俺を包み込もうとしていた。

 確かに、これは気持ちが悪い。

 ある意味、この中でよい意味で鈍感なのはアムだろう。彼女は平然としていた。


「魔獣ってのは……当然、危険ってことだよな?」

「魔界のモンスターには変わり種も多いのですが、あれは魔力にものを言わせて呼び寄せた上級の魔獣だと思われます。巨体というだけでも脅威……それこそ完全武装した軍でも用意しなければ……とにかく、準備が必要な相手です」

「軍隊ね……ゲルマーの兵力でどうにかなるものか?」

「……わかりません。ですが、対魔獣の準備を今からするのは無理だと判断します。ご主人様、私は、撤退を進言します。今まで戦ってきた魔性特異態も脅威ですが、あの魔獣はさらに危険です。単純な大きさはそれだけで圧倒的な力になりますから」


 ユキノの言う通り、現れた魔獣はざっと見積もっても十五メートル前後。ヴィーヴルよりでけぇ。

 奴はまだ動きを見せずに立っているだけだが、あんなのが暴れだしたら正直、黒騎士の鎧を着てても倒せるかどうか……。

 ユキノが撤退を提案するのも間違いではないんだろう。正直、これはもう俺の手にあまる状況だ。

 だが、しかしな。


「いや、ミズチは助ける。家族だからな。ベガもだ。サリーには借りがあるし、俺としてはダグドたちのことは嫌いになれない。だから、助ける。なに、魔獣は倒せなくとも足止めはできるだろう。俺は、忍者だからな」


 忍者の本質は、暗躍だ。工作、妨害、喜んでってな具合よ。

 こちとら一人で大盗賊団を足止めした男だ。それに比べれば怪獣に一匹や二匹、どうとでもなるってもんだ。


「まずはどうあれ、二人の奪還救出だ。そうなれば、こっちも好きに動ける。幸い、あいつがいる地点が敵の本拠地だろうし、良い目印だ」

「ですけど、魔獣と直接対決するのは……」


 アムは不安げに言ってくる。

 誰だってあんな巨大な化け物に立ち向かえって言われるとビビるのは当然だ。しかも俺たちには決定打になる武器が少ない。黒騎士の鎧と磨墨がいれば対抗もできるだろうが、それは今やるべきもんじゃない。

 とにもかくにもミズチとベガの救出。

 そのためには。


「そこで、忍法だよ。まぁ見てろ……」

 

 俺は影分身たちを作り出し、全員に黒騎士の姿を取らせた。


「散れ」


 影の騎士たちは俺の指示に従い、散開していく。


「そして、お次は……!」


 俺は両手で印を結び、地面に手のひらをあてがう。

 その瞬間、俺たちから数メートル離れた場所から巨大な影が出現する。それは土で生成した土蜘蛛だ。


「あ、新しいモンスターと契約していたんですか?」

「土の蜘蛛……しかも巨大な?」


 アムとポーラは驚きの目を向けてきた。

 そういやアムたちには土蜘蛛を見せたことはなかったっけか?


「忍法で作り出した土くれの塊だ。ただし、俺の体力が続く限りは再生し続ける。ユキノは見たことがあるんじゃないか? イーゲルの本拠地に攻め込んだ時に派手に暴れさせたはずだが」

「はい、まさか、召喚獣ではなかったのですね」


 イーゲル率いる盗賊団との戦いでも大活躍してくれた土遁の上級忍法の一つ。土さえあれば破損しても修復され、ある程度の自律行動も可能だ。

 その分の神通力(という名の魔力)の消費は激しいが、それを補って余りある術だ。

 大きさは敵の魔獣に比べてやや小ぶりだが、目立つ存在ではある。八本の土の足を大きく蠢かせ、大げさに森を揺らすと、魔獣も反応を示した。


「くぅ、久しぶりの大規模忍法だ。だが、まだ行くぜ。みんな、ちょっと息苦しいかもしれんが……」


 俺は続いて地面に拳をめり込ませるようにして突き立てる。すると、ぼこぼこと音を立てながら地面の真下にぽっかりと空洞ができていく。


「ど、洞窟ですか?」

「磨墨と戦った時にも見せたと思うが、これが土遁忍法の基本だ。一瞬で土に潜る。つまりは土の中を自由に動けるってわけだ」


 やり方次第では地震や地盤沈下も引き起こせるが、それは他人への被害も大きいうえに体力の消費が桁違いだから、まさに最終手段ってところだな。


「さぁ、敵の居場所はわかった。あとは一直線に忍んで参ろうじゃないか。奇襲、闇討ちは忍者の基本戦術。ま、今までそのことを意識できてなかったのが俺だがな……ここからは忍者らしく行かせてもらうさ」

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