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第61話 隠密行動

『おぉぉぉぉ!』


 レオン率いるゲルマー騎士団のカチドキは森の奥深くにいても響いてくる。わざと音を響かせるように、そういった魔法を使っているとのことだ。

 彼らの勇ましい声はびりびりと肌を振動させる衝撃でもあった。


「敵は動くでしょうか?」


 アムは息をひそめて、俺に耳打ちをした。俺以外のメンバーは全員、マントやローブに枝木や葉をくっつけた簡易的なカモフラージュ装備を身に着けて、森に隠れていた。

 いわゆる迷彩柄というものを用意する時間はなかったが、彼女たちの鎧や衣服はあえて泥で汚し、元の色がわからないようにしている。

 これだけでも視界を遮る森の中では隠密性を高めることができるってわけだ。

 と言っても気休め程度。見つかればすぐに違和感を見破られる。



「ニオイが移動していますが、これはミズチやベガのものではないようです」


 ユキノだけは狐の姿になっている。彼女曰く、こっちの姿の方が全神経を研ぎ澄ませることができるとのことだ。

 もともと、彼女はそっちの姿が本来のものなのだから当然ではあるが。


「斥候部隊でしょうか?」


 ポーラはいつものシスター姿ではなく、動きやすい軽装の鎧に身を包んでいた。さすがにあのひらひらした姿で隠密行動はとれないと彼女自身も理解はしているようで、作戦開始前に着替えていたのだ。

 しかし、杖だけはいつものものだ。いずれはメイスに替えてやるとは本人の言葉だ。


「分身が敵を捉えた……五人? ずいぶんと数が少ないようだが」


 森の方々に放った分身たちのおかげで俺たちの探索能力は大部隊にも匹敵する。やはり、基本中の基本の忍法こそが最も有用な技なのだと認識させられる。

 分身から送られてくる映像には湾曲し、錆びた剣を持った男たちが映っていた。ろくな装備もなく、連携が取れているようには見えなかった。


「部隊間での連絡を取る手段もなさそうだ……」


 偵察隊であれば、情報を知らせるための道具の一つは持っていないとおかしい。それこそ、笛や煙玉、場合によっては銅鑼や太鼓などでもいいだろう。とにかく、情報を発する道具がなければこうも広い範囲を偵察には出ない。

 人の声にも限りがある。奴らが実は狼男で遠吠えができるというのなら話も変わるが、今のところはただの人間だ。


「ユキノ、獣人のニオイはないんだな?」

「はい、ニオイを消している可能性もありますが、今の所は感知していません」


 獣人は要注意だ。ユキノですらこうやって鼻が利く。それは相手に獣人がいた場合にも同じことが言える。

 あいにくと今回はニオイ消しのような道具は持ち合わせていないし、調合もしていない。


(迂闊だよな)


 道具の準備をしていたのなんて最初の時ぐらいだ。

 ほとほと、俺は自分という調子のいい男に呆れかえるばかりだ。能力に胡坐をかいていたと言ってもいい。

 とはいえ、今更それをうじうじと悩んでも仕方がない。

 今は目の前の任務を完遂させなければいけないのだから。


「人の目は厄介だ。偵察ではないにしても、おとなしくしてもらおう」


 俺は一度、メンバーの方へと振り向く。全員、黙って頷いていた。


「よし」


 まず一番手に動くのは俺だ。木々の合間、枝を飛び移りながら、哨戒中の敵の頭上を捉える。

 音もなく、忍びよるとはこのことだ。

 その俺のあとをユキノがニオイを辿ってアムとポーラを先導する。

 いつもなら俺一人でさっさと始末するところだが、今回はチームでの行動だ。この普段のクエスト攻略とはまた違う動きが要求される。

 これはある意味で試験のようなものだ。この働きで、アムたちを本当に今回の仕事に連れていってもいいのかを見極める。


「やっぱり、見回りか……レオンたちの声につられて前に出てきただけのようだが」


 一応、連中もそれなりには身を潜めて動いているようだが、警戒心は薄い。

 どうにも好き勝手に動いているように見える。もしかしたら、部隊に組み込まれていないはぐれかもしれない。


「まぁ、どっちでもいい。ユキノ、聞こえるか。俺の位置はわかるな?」

『はい、捉えています。敵の位置も』

「上出来だ。一人は残せ、ろくな情報もないだろうが、一応は念のためだ。殺さなくてもいい。動きを封じろ。取り逃がしは俺が仕留める」

『はい。では、アムさん、ポーラさん、参りますよ』


 刹那、白銀の閃光のように狐姿のユキノが敵部隊めがけて駆け出す。


「なんだ!」

「狐? こいつは……!」


 男たちは突然現れたユキノの姿を見て、目を見開いていた。

 どうやら見覚えがあるようだ。かつて、イーゲルに囚われていた頃に見たことがあるのかもしれない。

 五人の男たちはユキノの姿を見るや否や、剣を引き抜き、構えるが、それと同時に二人の男の頭部に魔力の弾丸がヒットする。

 それはポーラの魔法だ。瞬く間に二人の男が地面に伏す。


「て、敵襲!」

「敵は目の前にいるだろ!」

「バカ、そうじゃない!」


 軍隊としての動きは見られない。連中は完全に浮足立っていた。

 その隙を彼女たちが見逃すはずがない。腰を低く、突き抜けるようにしながら、槍を手にしたアムが疾駆する。素早い。既にユキノのバフ魔法がかかっているようだ。

 一瞬にして男たちの背後へと回り込んだアムは槍を薙ぎ払うようにして振り回す。その一撃で右端と中央の男がまとめて意識を刈り取られる。


「だ、てめぇ……!」


 残る一人が反撃に出ようとするが、それをさせまいと再び魔力弾が放たれ、男の腕を的確に狙い、剣を手放させる。


「そこまで、動けば腹を刺すわよ」


 すかさず、アムが槍の切っ先を男のみぞおちに向けた。


「う、ぐ!」


 たじろぐ男の足元に再び魔力弾。

 ポーラの奴、狙撃の才能でもあるんじゃないのか?


「ちょっと、今は気が立ってるの。変なことしたら構わず突き刺すから、そのつもりでいて」

「お前ら、騎士団の連中じゃねぇな?」

「どっちでもいいだろう?」


 俺は枝から飛び降りると、男の背後に立ち、クナイを首筋にちらつかせた。


「答えろ。人質はどこだ。お前たちの本隊を教えろ」

「し、知るか」

「余裕をぶっこくのもいいが、彼女の言った通り、俺たちはちょっと気が立ってる。一回目は許す。答えろ。さもなくば……」


 俺はユキノへと目配せをする。

 するとユキノは倒れた男の一人の頭を咥える。かみ砕いてはいない。しかし丸のみする勢いで飲み込んでいく。


「彼女は人間一人ぐらいなら飲み込めるぞ。知らなかったか? イーゲルの下にいた時に見なかったか?」

「う、うぅ……本当に知らねぇ。デュールの野郎は俺たちを放り出した後、すぐに陣を移動させるって……い、一時間前まではこの先をまっすぐにいったところにいた、本当だ。さらったガキどもも、そこに……」


 そこまで聞いた俺は有無を言わさず、男の首筋に当身を打ち込み、意識を奪う。

 これ以上の情報は聞き出しても無駄だと判断した。こいつはあまり詳細な情報を持っていないのだろう。

 とはいえ、人質が無事らしいということはわかる。まだ、殺してないようだ。


「デュール、ね」


 図らずも敵の名が知れた。

 デュール。そいつが、今回のターゲットか。


「陣が移動してるなら、何か目立つはずだ。急ごう」


 俺たちは男たちを縛った後、再び森の奥へと突き進んだ。


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