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第6話 冒険(忍)者で候

 実際問題、ハンスの頼みを引き受けたはいいが、俺は件のギルドマスターがどこにいるのかを知らない。

 そもそもこの街の地理も、世界そのものの事がよくわからん。


「実はな。この国に来て日も浅いのだ。土地勘もなく彷徨っていたというのが正直なところだ。いやはや恥ずかしい限りだが」


 こういう場合、外国から来たって説明は便利だなと思う。

 こんな言い訳使ったの初めてだが。


「あぁ、やっぱり外国の方だったのですね。お名前の響きからしてそうだろうとは思っていたのですが。

と言うことは、もしかしてギルドカードとかは……?」

「すまないが、この国の文化はよくわからんのだ」


 何も知らない外国人はカモにされるとは旅行の鉄則だが、この際そのスタイルでいこう。俺には取られる金もないしな。道具のいくつかは忍法のおかげで影の中だ。取られる心配もない。

 身ぐるみはがされそうになっても多分、忍者となった俺なら逃げられるだろうし。

 アムはそういう事をしないだろうが。


「あぁやっぱり!」


 なぜかアムは嬉しそうだ。


「それじゃ、あの、報告もかねてギルドカードの発行をしておきませんか? 何かと便利なんですよ、ギルドカード。身分証明書の代わりにもなりますし、冒険ギルドに登録しておけばクエストも受けられてお仕事もできますし」


 ギルドにクエスト、つまりは冒険者って奴か。

 改めて思うことだが、本当RPGな世界だな。

 そんな世界に忍者の俺が一人。場違いすぎると思うがまぁいいだろう。

 しかしこのまま宿無し、身分なしもまずい。特に金がないのが困る。

 忍者だって生きてくには金が必要なんだ。本当、切実に。女神様、この世界のお金ぐらい少しは用意してくれてもよかったのではないですか?

 まぁ今更それを言っても仕方ないことだ。どっちにしろ身分は用意しておいた方がいいのは確かなわけだし、ここはアムの提案に乗る以外に道はない。


「では、よろしくお願いしようか。あぁ、だがその前に……」

「はい、何でしょう?」

「いや、ちょっと待っててくれないか。確認したいものがあってな」


 それでも俺は『一応』忍者なわけだ。忍者なら『一応』正体を隠しておいた方がいい。

 まぁ思い切りこの街に来た時に忍者装束で歩き回っていたし、忍者装束のまま普通に生活してる忍者アニメもあったし、別にいいかなと思わないでもない。そもそも手遅れじゃねとも思う。

 だが、念のため、一応って感じで俺は巻物を取り出して変装術なりを調べる。

 するとこれまた都合の良い忍法が見つかった。忍法というか一発芸と言うか。

 忍法・早変わり。ぶっちゃけて言うと、テレビなんかでよくある服をはぎ取ったら姿が変わってるというあれだ。

 状況次第では結構カッコイイと思うのだけど。


(さて、何々……この忍法を使う場合は異なる衣服を事前に用意するべし……)


 いや、そりゃ当たり前なんだけどさぁ。

 そんなもん持ってるわけねーだろ!

 影隠の術で把握できる限り、俺の影の中には武器ぐらいしかまともに入ってないのは事前に確認済だからな!


「……よし、アム。行こうか」


 もういい。俺、忍者装束のままでいる。


「あれ? 準備はよろしいのですか?」

「……あぁ。特に、問題はなかった」


 本当は問題しかないけれど。

 忍者……忍者って難しい。


*************************************


 大方の予想通り、冒険ギルドと言うのはでかい建物だ。パッと見た感じでは城とも勘違いしてしまいそうなたたずまいで、そこだけ石造りではなくレンガだとか大理石などで派手に作られている。

 しかもこの街の二割を占めているんじゃないかってぐらい敷地を取っていた。

 アムが言うには一応国営の組織なので各街には支部が置かれているとのことだ。本部と呼べる場所はこの国の王都『アトラシア』にあるという。


「ギルドカードの発行にはお金がかかりますけど、安いですし、お礼も兼ねてますから私が出します」


 異世界で少女におごってもらう忍者って多分俺が初めてだろうな。

 なんだか虚しい。そしてどうにも恥ずかしい。普通こういう場合、俺が金を出すぜって流れだろうに。


「かたじけない」


 両手を合わせて深くお辞儀。

 礼儀は基本だからな。


「いいんですよ! それに外国の人だとギルドカードの発行忘れてたりして困ることって多いんです」

「そうなのか?」

「はい。かくいう私がそうでしたから。私、この国の出身じゃないんです」


 そう言われてみればの話だが、アムの顔の作りはハンスたちとはどことなく違う。と言ってもまるっきり違うってわけじゃないが、どちらかといえばアムの方が瞳が大きく感じる。

 赤い髪の毛も珍しいといえば珍しい。ざっと街を見渡してもいるのは金髪か茶髪時々黒だ。


「カルルという小さな島国の生まれで、そこで冒険者になったんです。ちょうど一年前にこの大陸に渡ったんですけど、私ってばギルドカードに更新制度があるってことをすっかり忘れていて」


 アムはえへへと小さく笑いながら自分の頭を小突いていた。

 可愛い。


「更新してなきゃクエストが受けられない! って焦ったことあるんです。ギルドカードは年に一回は更新しないといけないんですけどね。そんな時にハンスとキャニスに出会って、助けてもらって……」

「なるほど。恩人というわけか。優しい子たちなのだな」

「はい! だから、二人が助かって本当によかった!」


 その言葉は心からのものだというのがものすごく伝わってくる。


「ですから、キドー様には本当に、本当に感謝しているんです!」


 そういってアムは俺の腕をつかんで何度も大きく握手をする。

 感謝をされるのはうれしいが、人前でそれをされると恥ずかしいな。というかめっちゃ視線を集めてるぞ。


「なぁ、アム。感謝をされるのは嬉しいがそろそろ……」

「あ、いけない! ひとまずギルドカードの発行からやりましょう! 時間もかかりませんし」

「頼むよ」


 ルンルン気分なアムは自分が俺の手を握ったままなのを知ってか知らずかずんずんとギルドの奥へと進んでいく。

 進めば進むほど、人の数も多く、多種多様な武器や鎧を身に着けた連中が増えていく。

 そんな奴らを相手に受付らしき場所は大賑わいだ。


「マイネルスさーん!」


 アムが案内してくれたのはその内の一つだった。


「あぁ、アムかい」


 そこには間違いなく受付嬢がいた。

 身長二メートルはあろうかという巨躯に猪のような顔を持った受付嬢であったが。


「キドーさん、こちらベテラン受付嬢のマイネルスさんです! オークです!」

「どうも」


 マイネルスは気だるげに頭を下げる。

 俺は俺でちょっと圧倒されている。なぜならこの世界に来て初めてモンスターという存在を見たことになるのだから。

 しかもオークだ。女性だけど。


「聞いたよアム。死にかけたんだって? ま、生きててよかったよ。あんたの慌てっぷりが見れなくなるのはそれはそれで寂しいからね」


 マイネルスは耳が早いらしい。


「それで、今日は随分と妙ちくりんな奴を連れてきたね。あんたのコレかい」


 そういって小指を立てるマイネルス。

 何だろう。世界が違っても、種族が違ってもおばちゃんはおばちゃんなんだなって思うよ。


「ち、違います! 命の恩人です。私たちを助けてくれたんですよ」

「へぇ。それで惚れたのかい」


 マイネルスはニヤリと笑っていた。

 このやり取りでアムが大体どういう立ち位置にいるのかがわかってくるな。


「ちーがーいーまーす! もう、からかわないでください。今日はキドー様のギルドカードの発行に来たんです。キドー様、外国人なので」

「あぁ、カードがないのかい。あいよ、それじゃ、あんたこっちに来て」


 手招きされるがまま、俺はマイネルスの前に立つ。


「変わった服装だね。初めて見るよ」

「だと思う。これが俺の正装、ということになる」

「フン、ね。まぁいいさ。冒険者ってのは多かれ少なかれ変な連中の集まりさ。そして今日からあんたもその仲間入りだよ」

「よろしくお願いする」

「ん。ま、ちょっと待ちな」


 彼女は水晶玉を取り出した。


「こいつに手を。そうするとあんたの生体パターンを読み取って、ギルドカードが出来上がり。簡単だろ。大昔の大賢者様が作った装置さ」

「なるほど。ハイテクだ」


 言われるまま俺は水晶に手をかざす。

 すると淡い光を放った後、水晶から一枚のカードが浮かび上がってきた。

 金色の金属ともプラスチックともいえない不思議な材質のカードだった。


「冒険者ランクはⅮマイナスからだ。ランクはこのⅮマイナスから始まってAプラスまである。DからAにはプラスとマイナス、そして中間がある」

「そいつはわかりやすい」

「ランクの上げ方は単純だ。クエストをこなし、貢献すればギルド本部がそれに応じてランクアップを知らせる。普通にやってりゃCプラスにはいける。Bランクになるにはちょいと骨がいるが、なれれば一流だ。Aはもう雲の上さね」


 ランクか。そういうシステムがあるなら上を目指すのもいいかもしれないな。


「さて、最後の仕上げだ。ここに記入して。このギルドカードはあんたの存在、身分を証明するカードだ。紛失、破損したらすぐに再発行するように」


 マイネルスはそういってギルドカードの空白部分を指さしながら、羽ペンのようなものを俺に手渡してくれた。それにはインクが付いていなかった。ただペン先の部分が小さく光っているのがわかった。


「名前を書けばいいのか?」

「あぁ。別に、勝手に異名をつけても良いんだよ。名前を記入するのは万が一みたいなもの。既にギルドカードにあんたのデータはあるからね。ま、大体はどこどこ村のとか書いてるがね」

「そうか。なら……」


 俺は漢字で『城戸音羽』と記入する。

 そして残った空白欄に『忍者』と記入した。

 その字を見てマイネルスは訝しむような視線を向けてきた。

 なので、俺は胸を張って答える。


「忍ぶ、者と書いて、忍者と読む。これが俺だ。忍者、城戸音羽が俺だ」

「忍者、ね。なんのこっちゃ知らんが、ま、いいさ。ようこそ忍者キドー・オトワ。冒険者ギルドはあんたを歓迎する。よい冒険ライフを」



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