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第57話 決着、そして合流

 黒騎士の鎧は頑丈だが、重い。それゆえにこれを操る俺は忍者としての身軽さは発揮できない。だが、それを補うのが忍法だ。自分が速く動けないのであれば、相手を妨害すればいいし、身を隠し、必殺の一撃を放てばいい。

 また、ヴィーヴルとの戦いで見せたように、磨墨などの力を借り、欠点を補うのも手の一つでもある。


「加減はする。だが、それは命を取らぬというだけ。怪我の一つは、お覚悟を」

「構わんさ。怪我は男の勲章。よい傷を入れてくれよ?」

「承知!」


 レオンという男は気持ちのいい男だ。こうして戦ってみて、今まで俺が相手をしてきた連中は根本から違う。真っすぐというか、まさしく光り輝く英雄の塊とでもいうんだろうか。

 もしかしたら、世が世なら本当に英雄、もしくは勇者なんて呼ばれていたかもしれないな。

 そんなことはさておき、俺は再び影に潜み、レオンの死角を狙うべく、潜行する。


「また影に隠れるか! しかし!」


 レオンは咄嗟に跳躍する。ひとっ跳び五メートル。驚きの跳躍力だ。

 彼はあえて空中に身を晒すことで地上からの不意打ちへ対応してみせたのだ。


「影から現れるのであれば、影から離れればいい。我が影は地上にあり!」

「否、影は常にあり」


 しかし、惜しいな。

 影は足元にだけ存在するわけじゃない。日の光を背に向けるレオンに対して、彼の真正面には既に影が生じている。

 その場のいる者たちは全員が驚愕したかもしれない。なんせ、巨大な鎧の男が、なんの前触れもなく、レオンの目の前に出現したように見えるのだから。


「なに!」

「音もなく忍びよるは我が技。そして、一度組み付けばそれ必殺の間合いなり」


 俺はレオンの体をがっちりとホールドし、風を操り、二人ともに頭から真っ逆さまに落下するように加速をかけた。


「う、おぉぉ!?」

「一撃必殺こそ、忍の技。本気で来いと言われれば、こちらもその通りにお相手つかまつる!」


 そして、俺たちは轟音と共に地面へと落下する。

 周囲からは悲鳴のような、困惑の声が上がった。土煙が充満し、観客からは俺たちの状態は見えないだろう。

 誰しもがレオンの身を心配するような声を出していた。


「う、ぬぬ……む、痛みがない……」


 が、レオンは無事だ。

 さすがに、あの技をそのまま完遂していたら彼が無事では済まない。俺は直前に技をやめ、ただ勢いよく着地したに過ぎない。

 だが、これは形はどうあれ決闘だ。俺は地面に横たわるレオンに対して斧の刃を向けていた。


「……なるほど。確かに、二代目を名乗るだけの実力はあるということか。まるで私が子供ではないか」

「ご冗談を」


 潔く負けを認めたように笑うレオンだが、とんでもない。

 彼は自身の剣の切っ先を、俺の鎧の隙間に向けていた。そのまま突き刺せば、中にいる俺をつらぬくことは可能だ。


「これでは引き分けにございます」

「譲ってもらった引き分けだな。何より、私は手も足も出なかった」


 この男、やっぱり強い。確かにあの技をかければ俺の勝利は揺るがない。だが、俺は途中で技をやめた。その瞬間、レオンは自分の勝利の法則を導き出し、それを実行に移していた。

 ただでは倒されないという心の表れともいえる。彼は、いかなる状況であっても、自分の勝利を模索しているということだ。


「フッ、負けだ、負けだ! この勝負、私の負けだ!」


 レオンは剣を納め、兜を脱ぎ捨てると朗らかな笑顔を振りまきながら宣言した。


「さすがは音に聞く英雄! このレオン・ダグド、まっこと感服いたしました!」


 膝を折り、頭を下げるレオン。

 するとぱちぱちと拍手をしながらバーレン・ダグドが近づいてくる。


「はっはっは! いやぁ、肝が冷えたぜ」

「すまん……」


 むしろ頭を下げるのは俺の方だ。レオンは油断ならない相手だと判断した結果、ほぼ初見殺しの必殺技をかけてしまった。手元が狂えばそのまま死に至らしめるような技だったのだから。

 今に思うと、俺って結構その場に勢いに飲まれるな……反省、反省。


「なぁに、これが本当の闘いならこうもいかんさ。それに、レオンもこれでしばらくは満足するだろ。どうだ?」

「いえ、全く。むしろ、また機会があればぜひともといったところです」

「これだぜ。自分の倅とは思えない頑固さだ」


 ダグドは肩をすくめているが、安心してくれ。


「いや、そっくりかと」


 俺の言葉にサリーも嫁さん二人も、ついでにベガも頷いている。


「ま、しかしだ。ほれ、大騒ぎはこれでしまいだ。明日は忙しい。これ以上やって怪我をされちゃかなわないからな」


 そういえばそうだ。

 そもそも俺、というかブラックが呼ばれたのは領主との謁見及び領民へのお披露目のためだ。

 というわけで、唐突に始まった決闘はこれにてお開きである。

 なんつーか、本当。この家族、騒がしいな。

 でも、嫌いじゃないな、こういう空気。


*************************************


 そんなこんなで夕方。日も落ち始め、ほんのり肌寒い風が吹いてきた頃である。


「というわけだ。つまり、私とキドーはもはや親友、熱い友情で結ばれた友と言えるだろう!」


 えー、また突然ですが、俺は今、普段の姿でこのゲルマーのギルドへと足を運んでいます。

 なぜかレオンも一緒に。


「あの、キドー様。話が見えません」


 俺たちに遅れてやっとゲルマーへと到着したアムたち。

 もともと、ここを合流場所に選んでいたので彼女たちとは苦も無く会うことができた。

 ただ、予想外なのはなぜかレオンまでついてきているということだ。

 当然の如く、アムたちはいきなり領主の息子との対面に唖然としている。だが、どういうわけかギルド内はあまり騒がしくなっていなかった。

 むしろ、「あぁ、またいつものか」といった感じだ。


「む? もう一度説明が必要か? 私とキドーはだなぁ……」

「あ、ごめんなさい。そうじゃないです」


 引きつった笑顔を浮かべながら、俺に助けを求める視線を投げかけてくるアム。


「えぇと、あなたは領主様のご子息……で、よろしいのですよね?」

「左様だシスター殿」


 アムと同じように困惑気味のポーラの質問にレオンは大きく頷く。


「ふむ……」


 かと思ったらレオンはじっとポーラを見て、次にアム、そして最後はユキノとミズチへと視線を向ける。


「なんというか、凄いな」

「まぁ、その、成り行きと言いますか」

「いや、そういう意味ではないのだが……まぁいい! 英雄は色を好むというからな!」


 な、なにを言い出すんだこいつ。

 というかあんまり大声でそういうことを言わないでくれるかな!


「それで、赤髪のそなたがアム、シスター殿はポーラ、そちらはユキノジョウ、小さなレディがミズチだな? よし、覚えたぞ。そなたら、我が城に来るがいい。わが友、キドーの連れならば我が友も同然ゆえにな!」

「ご主人様。話が全く見えません」

「すまん、なんか、そういう話になったんだ……」


 そう、俺は彼女たちを迎えに行くために普段の姿に戻り、街へと繰り出したのだが、なぜかレオンまでついてくると言い出したのだ。

 曰く「決闘をした仲ではないか!」という理屈らしい。

 一応、領主の息子がそう簡単に街に出ていいものなのかとも思ったが、城の誰もが彼を止めないし、街に出ても領民たちはレオンに普通に挨拶をして通り過ぎていくのを見ると、どうやらこれは普段から抜け出しては遊んでいるようだった。

 そしてアムたちと合流すると、さっきのような一幕が始まったというわけである。

 俺と決闘をした。レオンが負けた。友達。という、レオンなりにブラックのことをぼかしつつ説明をしたつもりなのだろう。

 全く意味の分からない説明であったが。


「ねねね! お城ってご飯ある!」

「おぉ、あるとも! うまいぞ!」

「本当!」

「本当だ! はっはっは! なんというか君はあれだな。凄い存在じゃないか? なんでここにいるのかなぁ? はっはっは……この子、大海龍だよね?」


 なんで、わかるんだ。

 さすがのレオンも真顔になって俺に耳打ちをするように訪ねてくる。


「まぁ、色々と、成り行きで」

「成り行き。ふーむ。キドー、あなたはなんというか、そういう星の下にいるのですかな?」


 そういう星ってなんだよ……いや、思えば変な女神様に出会って忍者にさせられたことを思えばそうなのかもしれないけど。

 そういえば、あの女神様、元気にしてんだろうか。

 なんだよ三重県の女神って。今更だけどさ。


「ウーム。ますます気になる、そして気に入った。これはぜひとも城で話を聞きたい。さぁ行こう、飯もそうだが、我が城の大浴場は大陸随一と自負している!」


 レオンの勢いに乗せられるまま、アムたちもまたゲルマー城へと招かれることとなったのだった。

 


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