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第55話 領主からの依頼

「スキュラとイーゲルに関しちゃ領地壊滅レベルの話だった。それを食い止めてくれたことには素直に感謝するぜ。蹂躙された街の住民たちのことは悔やみきれないところもあるがな……」


 話は自然と俺の今までの活躍に移行する。

 忍者としての戦いの陰で、犠牲となった街や人々は多い。特に二つの街が壊滅しているのは大きな問題だ。


「ですが、あの二つはわかっていて防げるようなものでは……」


 スキュラは片田舎の小さな港町を支配し、力を蓄えていた。誰も見向きもしないような田舎だ。たまたまスキュラの下からアムたちが逃げ切れたからこそ発覚した事件である。

 出なければ、今頃、奴はミズチを洗脳し、大海龍の力で周辺を破壊しつくしていたかもしれない。

 それにイーゲルたちに関しても連中の兵力、そして奴らに力を貸していた魔族の存在、死霊兵なども加味すれば、簡単に肩が付く話ではないのだ。

 奴らは正規軍以上の戦力を有していた。もし奴らがあのまま攻め入ればこの領地も無事では済まなかったはずだ。


「そうもいかんさ。国王より領地を預かるものとしては言い訳できない失態だ。これで解雇されない辺り、俺はまだ信用されているようだが、今後は二度とこういうことのないように努めなければならない」


 そう語るバーレンはさっきまでのおちゃらけた雰囲気は消え去り、一人の施政者としての顔をのぞかせていた。


「まぁ、そのために英雄ブラックという抑止力が必要なんだよ。俺は人間で、もう爺だ。レイラやアマンダはまだ現役で戦えるかもしれないが、立場が許さない。サリーはギルドマスター、マイネルスと本物のブラックはそもそも引退してる。テリアに頼ることもできねぇしな。だが、『正体不明の英雄ブラック・ナイトハルト』は違う」

「正体不明だからこそ、自由に動ける」

「その通り」


 そう、ブラック・ナイトハルトの正体を知る者はこの場にいるかつてのメンバーだけだ。世間一般ではブラック・ナイトハルトは長命種の一族であり、大方では魔族であると噂されている。

 魔族は数百年程度ならまだ若く雄々しい姿をしているからこそ、その嘘が通じるのだ。

 その実態は、初代はオーク、二代目は俺こと忍者ではあるのだが。


「この土地には英雄がいる。それだけでも敵に対しては盾になるんだ。もちろん、その間にも各地域への防衛網は強化する。イーゲルとの戦い以降、ごっそりと減った兵力を戻すのには時間がかかるが、そうも言ってられんからな。各ギルド支部にも冒険者たちに率先して領内の安定を図るようにクエストを回してもらっているところだ」


 冒険者は金払いが良ければ素直に言うことを聞く、ある意味では義理堅い連中が多い。

 まぁ、中にはそうでもないろくでなしも多いのだが。


「暴走する冒険者の始末はキドーに任せているわ。それなりに結果も出てるのよ。度を越した行為をすれば、ギルドの影が始末しにくるってね」


 サリーが付け加えるように説明してくれる。その時の彼女はどこか得意げだった。


「それでもバカな連中はいるものだけどね。それに、今のところはハーバリーだけの狭い評判だけど、いずれは各支部にも同じような存在は必要となるわ」

「勘弁してくださいよ。ハーバリーだけでも忙しいのに……俺一人じゃ全部はこなせないですよ」


 各地域に俺の分身や式神を送り込むのも無理があるってもんだ。


「ま、そこはおいおい考えるところさ。お前の話を聞いて、俺からも冒険者ギルドは色々と提案をしている。ギルドの秩序を守るためには多少の強権は必要になるからな。冒険者は自由であるべきだが、自由は暴虐の免罪符にはならねぇ。そこんとこをはき違えた連中が、イーゲルのような連中だ。そんでもってこういう連中ってのはたちが悪くて執念深い」


 バーレンはそこまで言ってから小さなため息をついて腕を組んだ。


「イーゲル盗賊団には残党がいる。あらかたは片付けたつもりだが、ゴキブリみたいにしぶとく生き残ってる連中がいてな。しかもどうやら残党を取りまとめてそれなりの規模を作ってると来た」

「それは、初耳ですね」


 もうとっくの昔に残党たちは処理されたものだと思っていた。とはいえ、頭領のイーゲルがいなくなって大半は烏合の衆と化したと思うのだが。


「俺としては頭の痛い話って奴さ。どうにも頭の切れる奴が残党をまとめてるらしい。それに、ちょいと不自然な点もな。そこでだ。俺はお前の隠密の力を頼りたい。というか、こっちが俺の本題だ」

「それは、依頼ということで?」


 談笑の雰囲気ではなくなった。

 バーレンから放つ空気はピリピリとしたものに変化していく。

 この空気は、ブラックからも感じ取れたものだ。やはり、この男も伝説を担う男の一人ということだろうか?


「そうなるな。我がゲルマー周辺にて活動する盗賊団残党。これの調査、可能ならば率いている者の暗殺だ。できるか?」

「承知」

「ほう、即答かい」


 にやりとバーレンは笑みを浮かべる。


「普通はもう少し粘るもんだと思うが? 情報が足りないとか、無謀すぎるとか。なぜ会って間もない自分、とか」

「忍はいかなる任務も引き受けます。情報も、己の足で稼ぐものですので。それに、あなたは我が主、サリーの旧友。そして英雄が一人。それで十分でございましょう?」

「なるほど。ますます気に入った」


 バーレンはクククと小さく喉で笑っている。


「で、だ。真面目な話はここまでとして」


 真面目な空気から一転して、バーレンは意地の悪そうな笑みを浮かべてきた。


「前にサリーから聞いたことはあるんだが、お前さん、結構な数の女を囲ってるみたいじゃないか」

「囲って……いやいや、そうじゃなくて成り行きといいますか」


 なんか誤解を生みそうな言葉はやめてくれ。

 いやまぁ、他人からすりゃそう見られても仕方ないとは思うけどさ。最近じゃハーバリーでの俺の評判はヒモから女漁りになりつつあるからな。そのおかげで裏稼業と俺とを結びつけられることはまずないが、他の女性冒険者からの視線が、痛いです。

 だが、俺の名誉のために付け加えると、家を建てる甲斐性はあるんだなとちょっとはましな評価も受けているんだぞ!


「ままま、恥ずかしがるこたぁねぇよ。冒険者なんだ、それぐらいの度胸がないと務まらねぇ。俺なんか見てみろ、美人の嫁さん二人もいるんだぜ?」

「あなたはそうやって恥ずかしげもなく……」


 顔を赤くしながらも、まんざらじゃないレイラ。

 くそ、見せつけてくれる!


「家とか建てたんだろ? そんで女を困らせることなく、食わせてるし、それなりに真面目に冒険もしてる。俺からすりゃ十分だと思うぜ? 甲斐性がないのに、女を増やすバカ野郎よりはましさ。女の敵って言われるのは間違いないがね」

「それは身に染みてますよ……」


 それよりも空気が変わりすぎて、俺、対応しきれてないんだが。


「まぁ、そこを理解してるなら大丈夫だろ。んで、その彼女たちはどうしたんだ? まさかハーバリーに置いてきたなんて言わないだろうな?」

「一応、遅れてこちらに到着する予定です。彼女たちのもバカンスというか羽を伸ばしてもらいたいので……」

「あぁ、それがいい。仲間や家族ってのは離れているより一緒にいる方がずっとかいいんだ。ゲルマーは水が良い。地下水脈が豊富でな。温泉もある。ゆっくりとしていってくれ。なんなら、彼女たちも城に呼ぶといいぞ」

「い、いえ、それは!」


 いきなりの提案すぎてもう俺の判断力は低下中だよ!

 なんだこの人、勢いで生きてるのか!? さっきの大物感はどこへ消えたんだ!


「バカお前、男が贅沢に城にいるってのに、女がそこらの宿ってのはダメダメだろ! 安心しろよ、俺は領主だぜ? そこらへんの情報規制は得意さ。それじゃ決まり。お前の彼女たち、この城に招いてやるぜ。部屋はどうする? 一緒でいいか? 羽目を外しすぎなければなにやってもいいぜ、うん?」


 と、言ったあたりでレイラがバーレンの後頭部を思いきりげんこつを食らわせていた。


「本当、ごめんなさいね、うちの主人が。でも、せっかくの仲間なんですもの、できる限り一緒にいてあげた方がいいわ。パーティメンバーは家族みたいなものなんだから」

「はい……」


 まぁ、確かにここはバーレンやレイラの言う通りだ。

 俺は素直に頷くことにした。


「ん~あ、まずいかも」


 その時だった。アマンダが声を上げたと同時にドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。


『あ、兄上! 今は応接間に入ってはいけないと!』

『止めるなベガ。かの英雄が来ておられるのだ。この胸のたぎりを私は抑えることできない! ぜひとも会って話がしたいと思うのは当然であろう!』


 間髪容れに誰かを制止するベガの声と、その誰かの妙にでかい声が聞こえてくる。


「失礼する!」


 そして数秒と経たぬうちにドアが開かれ、一人の男が勢いよく入ってきた。


「お初にお目にかかる! 私の名はレオン・ダグド! バーレン・ダグドの長男でございます!」


 レオンと名乗ったその男は、長い黒髪、エルフ特有のとんがった耳、ゆうに一九〇は超える長身、無駄のない筋肉を揃えた超絶なイケメンであった。

 そんな彼の後ろで申し訳なさそうにしているベガの姿も見られる。


「あなたが父と共に戦った英雄のブラック……」


 レオンは俺の姿を見て、ぴたりと言葉を止める。

 それはベガも同じだった。なんせ、さっきまでいた黒騎士はどこにもいないのだから。


「誰だお前!」


 キン、と鼓膜を突き破るような大声でレオンは俺を指さし、叫んだ。

 この騒がしさ。まさにバーレンの息子だなって感じだ。


「英雄ブラック、どこだ!」


 なんでもいいけど、この一族、うるさい!

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