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第47話 輝く宝石を君に

 ハーバリー・ギルド支部のラウンジはこれまた派手な盛り上がりを見せていた。

 なんせこの街からゴーレム討伐クエストに参加したパーティのほぼ全てが『一攫千金』を果たしたからだ。

 まとまった金が手に入る。そうなったとき、多くの冒険者たちは何をするかと言えば、簡単だ。

 どんちゃん騒ぎの始まりである。


「うおおぉぉぉ! ブラック・ナイトハルト、さま様だぜぇぇぇぇ!」

「がっはっはっは! 酒だ、肉だ! もっともってこい!」

「かあちゃん、これで仕送りできるよ!」


 このように酒場としても機能するラウンジはもううるさいのなんの。幸運な彼らはこの世のパラダイスが訪れたのかというぐらいに飲んでは騒ぐ。

 その勢いに乗せれて他の連中も騒ぐ。

 刹那的な生き方をする冒険者たちにしてみれば、祭りは乗らなきゃ損というものらしい。


「くっそぉ、俺もいけばよかったぜ」

「だなぁ。ゴーレムなんてたりぃと思ってたけど……間が悪いぜ全く」

「本当、あいつらが羨ましいよ」


 今回のクエストに参加しなかった面々は騒ぎに混ざりつつも羨望と嫉妬を含んだ視線を向けていた。

 

「あぁ、嫌だ嫌だ。アホみたいに騒いでさ」


 それをげんなりした目で見つめるのはマイネルスだ。

 この大騒ぎでクエスト受注手続きは中断しており、何人かの受付嬢たちも飲み会に参加していたが、マイネルスはいつもの席で頬杖をつきながらあくびをしていた。


「あはは、仕方ないですよ。魔性ヴィーヴルから取り出された宝石、すごい値段で売れましたから」


 ノンアルコールの果実水を手に、アムがいう。

 俺たちは騒ぎから少し離れ、マイネルスの近くでささやかなお祝いをしていた。と言っても、多少は奮発して料理も運んできてもらっているが。


「ヴィーヴルの集める宝石、鉱物は間違いなく上質だからね。ま、その分、あの竜宝山は丸禿になっちまったようだけど。それより、あんたも思い切ったことをするじゃないか」


 マイネルスは俺の方を見ながらにやりと笑う。


「Aランク冒険者、ブラック・ナイトハルトはヴィーヴルの心臓のみを報酬として、残りの宝石は全て他の連中にばらまく……また伝説が追加されたよ」


 そもそもなぜゴーレム討伐に参加したパーティが一攫千金を成しえたか。

 このカラクリは単純な話で、全員にヴィーヴルの残骸、というか張り付いていた宝石や骨を譲ったからだ。


「にしても、律儀に正体を隠してるとこういう時、難儀だろう? お前さんがせっかく討伐したってのに、全部手に入らないんだからね」


 そう。ヴィーヴルを倒したのはブラック・ナイトハルトであり、城戸音羽ではない。そんな中で、俺が大量の宝石を持って帰ってもそれは横取りしていた風に思われる。

 俺は間抜けな低ランク冒険者だからな。


「まぁ、その分、結構くすねましたけどね」


 と言っても全くの報酬ゼロは勘弁。

 なので俺はこっそりと自分の影に宝石を多く入れておいた。それぐらいはしたってバチは当たらないはずさ。 


「いやぁ、しかし儲けた儲けた」


 俺は久しぶりの酒を呷る。この世界にきて、あまり酒はやらなかったが、今回は特別だ。ちょっと高めのワインを頼んでいる。味の違いなんてさーっぱりだが。

 でもいいのだ。今回は間違いなく儲けたから。

 ヴィーヴルの宝石はその全てに至るまで高額な値段を付けられ、貴族や王族たちにしてみれば喉から手が出るほど欲しい宝石なのだという。

 その結果、参加したパーティの殆どは予定していた金額以上を稼ぐことができたというわけだ。

 ちなみにヴィーヴルの宝石の中でもっとも高価なもの。それは、心臓だ。

 これは取り出してみてわかったことだったが、奴の心臓はいかなる効果か、宝石へと変化していた。なおかつ生命活動が停止してもなお心臓のみは膨大な魔力を放ち、妖しく輝いている。

 ブラック・ナイトハルトとしての報酬はそれのみだ。


「ねねね! パパ、これも食べていいの?」

「おぉいいぞぉミズチ! たんと食え! パパ、お金いーっぱいあるからな!」


 それでもって俺たちはさっそくミズチを引き取っていた。

 一応、俺の養女という関係でギルドに足を踏み入れることは可能だ。どうやらちゃんといい子にしていたらしい。

 なのでご褒美ってわけだ。

 ミズチはずらりと並んだ豪華な食事に目を輝かせていて、殆ど手づかみで食べては顔を汚していたが、この場は無礼講、気にすることはないって話よ!


「のんきなこと言ってますけどね。私たちがどれだけ心配したか。まさか二人してヴィーヴルを討伐してたなんて」


 そんなミズチの口をぬぐってやりながら、ポーラはぷりぷりと頬を膨らませて怒っていた。


「全くです。酷いです、ご主人様。お小遣い減らします」


 恐ろしいことを呟きながら、もくもくと食事を続けるユキノ。


「いや、待てユキノ。それは不味い。それは勘弁してくれ! わかってる、二人には申し訳ないって思ってるけど、あの状況じゃそうするしかなかったんだ!」

「そ、そうですよ! 反対側に戻ることも出来ませんでしたし、あのまま放置するわけにもいかなかったですし!」


 ここでアムのフォローが入る。


「ま、いいですけどね」

「えぇ、わかっていればいいのです」


 おや? あっさりと許してくれるのね。しかも二人ともお互いに向き合って「ねー!」と笑いあう。

 でも、なぜだろう。それが余計に怖い。

 俺はアムへと視線を向ける。なぜか彼女は顔を赤くしていた。

 なんだ、この子たち。その理由を問い質すのも怖い。なぜだ。


「ですが、まじめな話として、アムが危なかったと思いますよ? 今回は、うまくいったかも知れないですけど、あのヴィーヴルは魔性モンスターの中でもかなり危険な部類なんですから」


 俺が妙な戦慄を感じていると、ポーラがたしなめるような口調で言ってくる。


「そりゃ、キドーさんはそういうお仕事もしています。単独行動が基本なのもわかりますけど、あの時は、パーティだったんですから。仕方ない状況だったのもあるでしょうけど、今度は、置いていかないでくださいね」


 それを言うポーラはかなり真剣なまなざしだった。


「あぁ、わかった。気を付ける」


 俺もうなずく。

 その言葉は間違いなくポーラが正しいから。


「ねね、これが修羅場って奴?」

「ちょっと違うが、あんたのパパは女好きだからね。修羅場はかならずくるよ」


 おい、そこの養女と受付嬢。何をおかしなことを言っている。

 というか、ミズチ。そんな言葉、どこで覚えた。修道院か?


「ミズチ、頼むから変なことは言わないでくれ……」

「はーい!」


 返事はいいんだよなぁ……なんか、ちょっとませてる気がしてきたぞ。


「とにかくですけど、ご主人様。今回の稼ぎで目標金額を大幅に上回っています。それこそちょっと拡張しても十分におつりがくる範囲ですよ」


 食事を続けながらも暗算を続けていたのか、ユキノはウキウキとしながら教えてくれた。


「おぉ! 本当か!?」

「はい。どうしましょう、私の方で大工の方々には正式なご依頼をなさっておきますが」

「あぁ、頼むよ。でも、今はこの宴を楽しもうぜ」

「はい。楽しみですね」


 ユキノは満面の笑みを浮かべていた。

 なんだ? ちょっと言葉がおかしかった気がするが……まぁいいか。

 俺だって元サラリーマン。たまの大騒ぎぐらいはしたいのだ。それはどんな世界、どんな時代であっても変わらない不朽の真理だと信じて!


***


 しかし、時間も経てば宴も終わる。あれほど騒がしかったラウンジも静かになり、いそいそと片付けを始めるものたちも出てきた。

 そんな中、俺は酔いを覚ますようにラウンジからつながるテラスへと足を運んでいた。大体の連中がラウンジで酔いつぶれている中、テラスは殆ど人がおらず、ちょっと得をした気分だった。

 俺は手すりに体を預けながら、夜のハーバリーを眺めた。ギルドの宴の熱は外にも伝わっているのか、街も大きくにぎわっていて、昼間のような錯覚を俺に感じさせる。


「なじんできた……ってことでいいのかねぇ」


 その光景はかつての世界のものとは違う。そのはずなのに、俺はあまり違和感というか抵抗がなかった。それは、そういうものであると受け入れられるのだ。

 つまり、俺はこの世界になじんできたということだろう。


「キドー様?」


 そんな風にちょっぴり黄昏ていると、アムが水をもってやってきた。


「どうぞ」

「あぁ、すまん」


 俺は水の入った木のコップを受け取りながら訪ねる。今、ラウンジ内は人数が多くてちょっとむしむししている。酔い覚ましもあるが、少し喉が渇いたのも事実だ。

 もってきてもらった水を飲むと、冷気がすーっと喉を通り、腹の中へ収まっていくのが分かった。


「お疲れ様です」

「いやなに、必要なことだったからな。今回のは本当、予想外の事だったし、そのおかげで儲けたし、悪くないクエストだったよ。アムが持ってきたおかげだ」

「私もびっくりですよ。ゴーレム退治だけだと思っていたのに。でも、改めて思うのですけど、キドー様って本当にお強いのですね」


 アムは俺の隣に並びながら、街を見下ろした。


「初めて会った時も、そして今回も、また助けられちゃいましたね。なのに、私ってはどっちともあまりお役に立てていなくて、恥ずかしいです」

「おいおい、そんなことはいうな。アムの知識はすごいし、普段のクエストでも君は十分に成長してるじゃないか。今回みたいなのは例外中の例外、俺だってあの鎧がなきゃ苦戦してたよ」

「ですけど……」

「なぁアム。前にも言ったかもしれんが、俺は君にあえてよかったと思うし、むしろいつも世話になりっぱなしだ。アムがいなきゃ冒険者にもなれなかっただろうしな。それに俺も、ユキノも結構な世間知らずだからな。色々と教えてくれるのは助かる。俺たち殆ど赤の他人だぜ?」


 俺はそう言いながら影の中からあるものを取り出す。

 それはガーネット。あのヴィーヴルの両目、のかけらを拝借してきたものだ。そのガーネットにはヒモが通してありペンダントのようになっている。


「これは?」

「ん、まぁ、なんだ。プレゼント? ほら、さっきも言ったが、世話になってるしさ」


 実はヴィーヴルからくすねた宝石をこうして簡単に加工していたのさ。


「いえ、でも」

「いいの、いいの! ほら、受け取って」


 俺は遠慮するアムの手をつかみ、無理やりペンダントを握らせた。


「赤い色だし、アムには似合うかなって。あ、もしかして他のが良かったか?」

「い、いえ! とんでもない。ありがとうございます!」


 アムはびっくりとした顔を浮かべながらも頭を下げる。


「本当ならもうちょっと綺麗にカットしてやりたいが、そういう技術はないし、専門家に頼むと高いしでな……みんなの分も作ったんだが……」


 ポーラにはエメラルド、ユキノにはダイヤモンド、ちょっと早いがミズチにもアクアマリンをという具合だ。


「そりゃできるなら指輪とかさ、ネックレスとかさ。色々とやってあげたかったんだが……ってアム?」


 なぜかアムはうなだれていた。


「はぁ……いえ、そうですよね。そりゃみんなの分もありますよね」


 なんだ、どうしたんだ?

 やっぱりガーネットは嫌だったか?


「……でも、いいです。ポーラさんは抜け駆けしてるわけだし」


 ん?

 何を言ってるんだ? 小声すぎてよく聞き取れないぞ?


「キドー様!」

「あ、はい」


 かと思ったらアムは急にきりっとした表情を見せた。


「次は! ゆ、指輪を貰いますからね!」


 と言って、アムは顔を赤くして去っていく。


「……指輪に加工した方がよかったのか」


 お、女の子の好みって、わかんねぇ。


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