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第46話 鎧忍者、疾走

「駆けろ磨墨!」


 黒騎士となった俺を乗せ、磨墨はいななくと同時に周囲に無数の電光を迸らせる。蹄で大地をえぐるように駆け出すと、磨墨は一瞬にしてトップスピードを叩き出す。

 それはまさしく雷光の如き速度であり、ヴィーヴルとの距離は一秒にも満たないまま詰められることとなる。


「うひゃぁぁぁぁ!」


 アムは俺にしがみついたまま、磨墨のスピードに飲まれている。これで気を失っていない辺り、アムの身体能力も決して低くないということになる。

 それはそれとして、今は目の前の敵だ。


「シャッ!」


 眼前に捉えたヴィーヴルの全身。俺は無造作に斧を振るう。

 ザックリと斧の分厚い刃がヴィーヴルの肉体を傷つけるが、骨を砕くまでには至らなかった。

 バキッと鈍い衝突音が腕に伝わってくる。


「バカみたいにかてぇ!」


 磨墨の加速に任せて、ヴィーヴルとすれ違い、俺たちは再び間合いを取り合う。

 斧の一撃を与えたのはヴィーヴルの右わき腹であった。その部分はばっくりと肉が裂けているのだが、それ以上に摩訶不思議なのは、骨だと思われる部分がうっすらと輝いて見えた。


「まさかと思うが、ヴィーヴルっていうのは全身が宝石なのか?」

「そ、そうですよぉ! ヴィーヴルはその骨格すらも魔石と化した宝石で構築されているんです!」


 目を回しながらも、アムは説明をしてくれる。


「竜宝山の空洞も納得がいきます。山の内部をくりぬき、魔石を食いつくしたんですよ、あいつは!」

「なんてファンタジー……ありかよ、そんな生物……!」


 聞くだけで頭が痛くなるな。

 骨が宝石ってどこまで宝石狂いなんだこのモンスターは!


「長く生きたヴィーヴルは骨を徐々に宝石と置換するように進化を遂げると聞きます……それが、全身に回ったヴィーヴルこそが、魔性特異態へと至る……少なくともあのヴィーヴルは百年以上! しかも竜宝山を空っぽにするぐらいですから……!」


 アムの説明が終わると同時にヴィーヴルが怒り狂ったように叫び、全身の宝石を輝かせ、ビームと化した閃光を放つ。

 その予備動作はわかりやすく、磨墨は難なく避けて見せるが、ビームは一本だけではなく、十数本も、とめどなく放たれている。

 光の弾幕だ。普通に考えれば避けられるものではない。

 だが、いくつかのビームは磨墨に直撃することなく、その軌道をゆがませ明後日の方向へと飛んでいく。

 俺は磨墨の角が激しく発光していること、そして周囲に電磁幕のようなものが発生していることに気が付いた。


「磨墨、お前の能力か!?」


 すると、磨墨はまるで「ふふん」と得意げに笑ったようにいななく。

 恐らく周囲の磁場を操っているのだろう。応用次第では遠距離攻撃の殆どが無効化できるぞこれ。


「改めてすげぇ奴だと認識するよ!」


 だが、あまりにも出力のあるビームは流石の磨墨も避けていく。

 そらすことができる攻撃にも限りがあるというわけか。

 とにかく、出力の低いビームは勝手に磨墨から離れていく。

 もはやヴィーヴルのビームは怖くないと見た。


「なら、突撃あるのみだ!」


 磨墨のわき腹を蹴りながらが、疾走。

 ビームの雨の中を黒い雷光と化した磨墨が駆け抜けていく。

 再びヴィーヴルへと接近し、斧を振るう!


「ちっ……!」


 表面の肉を切り裂くことができても宝石の骨格を砕くことができない。あちらにもダメージがないというわけではないなさそうだが、かといって致命傷というわけでもない。

 しかし、ここにきてヴィーヴルは反撃ではなく、撤退を選んだようだ。高く舞い上がると、竜宝山の山頂めがけて飛翔していく。


「逃げる気か!?」

「いえ、そうじゃないかもしれません!」


 青い顔をしつつも、アムはその目を鋭く光らせていた。

 それはか弱い少女ではなく、一人の狩人の目だ。


「追いかけてください!」


 なぜと聞く前に俺は磨墨を走らせた。

 奴を放置するわけにはいかないからだ。


「山頂にはまだ良質な鉱物が残っている可能性があります。いえ、それだけじゃありません。この時期はゴーレムが大量発生しています。つまり……!」

「奴の餌も大量ってわけだ」

「その通りです!」


 山頂へと逃げていくヴィーヴルはただ飛んでいるわけではなかった。奴は時折、山肌に沿って何かをついばむ動きを見せていた。それは間違いなくゴーレムたちの捕食である。

 その度に全身の宝石の輝きが増しているように見えたのは錯覚ではないはずだ。


「この山全部を食いつくすつもりか? そいつはちょっと贅沢が過ぎるだろ!」


 再度、磨墨のわき腹を叩くと、磨墨は頭を低くし、角をさらに輝かせる。

 バチバチと周囲の紫電が走り、磨墨の進行方向にはいくつもの電気の柱が出現した。それはまるでレールのように規則正しく並び、そこから伸びる白い電流が磨墨の体へと流れていた。

 刹那、磨墨は『飛ぶぞ』と言わんばかりに鼻を鳴らした。


「やれ!」


 俺の同意を承諾すると、磨墨は音の壁を突破する。

 その一瞬、俺たちは周囲が止まったような錯覚に陥った。厳密な速度はわからないが、時速数百という問題ではない。この一瞬、磨墨は時速千キロを余裕で叩き出しているはずだ。

 そのような加速の中で、俺たちが空気の壁に押しつぶされていないのは、磨墨の周囲を覆う電磁フィールドのおかげなのかもしれない。薄い黄金色の幕が展開されているのだ。

 もしかしら他にも魔法が使われているのかもしれないが、俺もアムも意識を失うことはなかった。


「このまま奴の前にでる!」


 既にヴィーヴルの動きも止まって見える。

 追い越すのは簡単だ。俺の指示通り、磨墨はヴィーヴルを飛び越えた。

 俺は斧を構える。時速千キロの世界が途絶える。一瞬にして世界のスピードが元に戻り、俺たちの目の前には急加速をかけながら飛翔するヴィーヴルの姿。

 その時、奴のガーネットの瞳が困惑したように陰りを見せたのを俺は見逃さなかった。


「だが、もう遅い」


 もはやヴィーヴルに方向転換するだけの時間はない。速度を緩めても無駄だ。

 奴は俺が構えた斧に自らぶちあたる形で、その右半身を深々と切り裂いていく。それでもなお上昇を図るヴィーヴル。なんとか翼の切断を免れたようだが、右胴体から尾にかけてはもはやつながっているのがやっとだ。


「逃がさん!」


 諦めの悪いヴィーヴルは最後のあがきを見せる。

 だがな、俺は忍者だ。

 既にお前は俺の術中にはまっているんだよ。


「絡めとれ。土蜘蛛!」


 奴の逃走を妨害するように三体の土蜘蛛を出現させる。

 鎧姿で身軽な動きはできずとも、問題なく忍法は扱えるんだぜ。

 出現した土蜘蛛は一斉にとびかかり、ヴィーヴルを拘束する。

 とはいえヴィーヴルも必死だ。捕らえられてなお、全身を発光させ、宝石からはビームを放つ。

 ただの土くれである土蜘蛛たちは瞬く間に崩壊していくが、その一瞬の隙で十分だ。


「アム、磨墨の手綱を頼む」

「え、えぇ!?」


 俺は無理やりアムに手綱を任せると、両手の斧を構え、磨墨の背に立つ。


「とぁ!」

「ちょっと、待って、うわ! お、おとなしくしてぇ!」


 そのまま背中から飛び立ち、ヴィーヴィルの真上を捉えた。

 アムの方は磨墨に振り回されているが、まぁ磨墨なら大丈夫だろう。

 俺は意識をヴィーヴルに集中させる。

 奴は俺が飛び出したことに気が付いているようで、闇雲なビーム乱射を始めた。


「忍法・疾風走破!」


 忍法・疾風走破。忍法・旋風と同じく風を操る忍法であるが、この技は己に作用するものだ。集められた気流、風は俺の体を包み込み、それに乗って一時的な加速をかけることも、また周囲に空気の壁を作り出すことで、空中での一時的な方向転換を可能とする。

 しかし飛行と呼べるものではなく、永続的な空中機動は不可能である。

 俺は足の裏に空気の壁を生成し、それを蹴ることで一瞬にしてヴィーヴルへと接近することができる。

 それを阻止するべく、ビームが放たれるが、空気の壁を蹴り、時には叩きながら避けていく。


「狙ってない攻撃には当たらんよ」


 こちらはさほど大きくは動いていない。最低限の動きだけで十分だ。


「貰った!」


 瞬く間に至近距離、斧を振り下ろす。

 ガンという鈍い音と共に斧が奴の首の骨を捉えた。

 やはり固い。切断にはいたらない。

 だが問題はない。


「続いて忍法・空輪斬!」


 既に風を纏った俺の体は斧を深々と突き立てまま、全身を高速回転させる。

 その結果、引き起こされるのは、回転のこぎりと化した俺の姿である。

 無数の火花を飛び散らせ、甲高い掘削音を響かせながら、ヴィーヴルの強固な宝石骨格が削れていく。

 そして数秒後。


「お命、頂戴」


 ヴィーヴルの頭部はついに切断され、ごとりと落ちていく。

 まるで心臓の鼓動のように奴の全身に散りばめられた宝石が点滅を繰り返していたが、それもすぐさま消失していく。

 魔性特異態ヴィーヴル。討伐、完了だ。

 もちろん、この功績は忍者城戸音羽のものではなく、黒騎士ブラック・ナイトハルトのものとなるわけだが、そちらの方が色々と都合がいい。


「凄まじいパワーだな」


 それよりも、俺はこの漆黒の鎧に秘められたパワーに今更な驚きを感じていた。

 ただ固いだけではなく、明らかにパワーを増幅させている。なるほど、これなら確かに数多のドラゴンを屠ってきたという伝説も嘘ではないのだろう。

 そしてこの鎧を使いこなす先代の恐ろしさだ。俺はこの鎧を使いこなしているとは言えない。なんせ、ヴィーヴルの骨を両断することができなかった。

 だが、これを使いこなした時、それはまさしく無双の鎧となるだろう。


「だけど、疲れるな、これ……」


 俺は鎧の中で汗だくだ。

 糸を使い、全身で操縦するのだ。そこに忍法も併用するのだから体力の消耗も激しい。そもそも俺の体に合った鎧じゃないのも問題だ。

 確かにすさまじい力を与える鎧だが、これはおいそれと多用はできないな。状況を見極めて、必要に応じて使う。

 そういうのがいいだろう。

 忍法・鎧纏化。これは、奥の手とするべきだ。

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