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第40話 二十九歳、忍者、子持ちになる

「パパ!」

「は?」


 早朝の事だ。愛しいボロ小屋の我が家の固い床で、何やら重苦しい感覚に目が覚めた瞬間、俺の視界に飛び込んできたのは青い髪色をした見た目七~九歳ぐらいの、全裸の女の子だった。

 しかも、俺のことをパパなどと言う。


「パパ! 来ちゃった!」


 少女は輝かしいばかりの笑顔を俺に向けてくれるのだが、誓って言うぞ。

 俺はこんな子は知らん!

 本当に、誰だ! しかもなんか全身が濡れてないか?


「んん……ご主人様、お客様です……か?」


 もぞりと狐形態のユキノが囲炉裏の傍で目が覚める。

 彼女は基本的に狐の姿で過ごしており、街に出るときや雑務をする時だけは人間の姿を取る。

 そんなユキノであったが、狐の状態でもあんぐりと口を開けて、目を見開き、唖然としていることがわかる。


「な、何者!」

「ん~?」


 毛を逆立たせ、警戒するユキノに対して少女はイマイチ理解できてないという感じで首をかしげていた。


「お、落ち着けユキノ。この子に敵意はない、はずだ」

「し、しかし!」

「頼む、ここで暴れないでくれ家が崩れるから!」


 懇願しつつ、俺は上に乗っかっている少女を降ろす。ぺたりと少女は床に座り込み、またにへらと気の緩みそうな笑顔を向けてくれた。若干ツリ目の瞳が好奇心旺盛そうな雰囲気を見せてくれる。


「と、とにかく、その恰好は不味い。色々と不味い。えぇと、確か変装用の服で……」


 ボロ小屋、男と狐と全裸の少女、怪しい以外のなにものでもない光景。こんなの誰かに見られたら即座に俺の社会的地位は崩壊するってもんだ。

 俺は影隠の中にしまい込んだ変装用の衣服を探る。男物から女物まで幅広く取りそろえてある。さすがに子供服はないが、そこは致し方ないだろう。

 何より、その姿が不味い。色々と、不味い。早く誰かに見られる前に服を着せなければ。


「キドーさん、朝からミズチの姿が見えないのですが……」


 ポーラさん、なぜ今日に限ってこのタイミングでやってくるのですか。


「キドー様! アイアンゴーレムのクエスト……が?」


 さらにアムが元気よく飛び込んできたと思ったら、表情を凍り付かせていた。

 いかん! これは不味い! 何をどう考えてもこれはひじょーに不味い!

 今現在は思考停止中の二人だが、プルプルと体が震えているのがわかる。爆発するぞ!


「ふ、不届きすぎます!」


 ポーラが叫び。


「ゆ、誘拐ですかぁぁぁぁ!?」


 アムが叫ぶ。


「違うわ!」


 朝から何とも騒がしい我が家なのでございます。


「みんな、元気だねぇ?」


 この騒ぎの中心にいるはずの少女は、今なおのんきにあくびをしていた。


*************************************


 で、だ。

 何とかしてアムとポーラをなだめた俺は、二人からの強烈な視線を浴びつつ、謎の少女と向かい合っていた。少女は俺が取り出した適当な服を巻き付けるようにして着ている。

 そんな少女は「もふもふだぁ」と言いながらユキノのしっぽで遊んでいた。


「本当に、そういう、いかがわしいものではないのですね?」


 そういうポーラの視線はもう俺を刺してきそうな勢いで、なおかつ言葉の中には棘が無数にあった。

 まぁ聖職者であるポーラからすりゃ、あの光景は例え俺であろうと許せないことだろう。

 いや、俺にそんな趣味は一切ないぞ。本当に彼女の事は知らないんだからな。


「誓って。そんな関係ではない」

「それじゃあ、誰なんですか、この子? 私、見たことないですけど?」


 次はアムだ。騒ぎを沈める中で、アムはボロボロと大粒の涙をこぼす勢いで泣き出して、これを沈めるのに一番時間がかかった。今もちょっと泣いている。


「俺だって今日初めて見たよ……何が何だかわからんのだよ……」


 頭を抱えたい気分だ。

 だが、同時に警戒もしている。俺は図らずも忍者だ。眠っていたとは言え、俺の真上に座っていたこの少女、只者ではない。全裸の時点でおかしいのだが。


「えぇと、とりあえず聞いてもいいかな?」

「うん!」


 少女は首を傾げながら、好奇心満々の瞳を俺に向ける。なんだろう、俺に話しかけられるのがうれしくって堪らないった感じ?


「君は、どこから来たの?」

「ん!」


 少女は元気よく、ポーラを指さした。


「えぇ、私!?」


 当のポーラは驚いて思わずあとずさり。


「いつもねぇ、お菓子くれるおねーさんの所から来たよ?」

「お、お菓子? 私、あなたにお菓子なんて……あれ?」


 少女の言葉にポーラは何かを理解したようだ。

 それは当然、俺も、そしてアムもユキノもなんとなく察しをつける。


「ねぇねぇ、あなたが来たところって、ポーラさんのような人がたくさんいた?」

「いた! みんなお菓子くれたよ!」


 アムの質問に少女は元気よく頷いた。


「あなた、さっきまで水の中にいました?」

「うん! 綺麗な池だね! でもちょっと狭いんだ!」


 ユキノの質問にも同じような具合で答える少女。

 次々と出てくる情報に俺たちはもう一つの答えに差し掛かっていた。

 間違いない。この子は、この女の子は……俺は確証を得る為の質問を投げかける。


「聞いてもいいかな。君の、名前なんだが……ミズチ?」

「はーい!」


 少女、ミズチは元気よく手を上げ、返事をする。

 その時、長く青い髪が払われて、ミズチの両耳が垣間見えた。そこにあるのは人間らしい丸みを帯びたものでも、オークやエルフたちのようなとんがり耳でもなく、ヒレのような耳だった。

 マジかぁ。あの子かぁ。人間になれるのかぁ。というか女の子だったのかぁ。


「ミズチね、最近パパが会ってくれないし、お家は狭くなってきたし、一人で寝るのは寂しいし……だから来ちゃった!」

「いや、来ちゃったって……」


 あぁ、でも、確かに最近はミズチの世話をまかせっきりだったかもしれない。

 色々と金策に奔走してたのもあるしな。夜な夜な食事を与えにいくぐらいだったし、修道院の外から出してやることもなかったし。

 それより、ちょっと気になるが、なんで女の子の姿になっているんだ?


「なぁ、シーサーペントって、ユキノみたいに人に姿を変えられるものなのか?」

「ん~聞いたことないですねぇ。そもそも、私たちからするとユキノさんですらびっくりなのに」

「そうねぇ。逆に高位の魔法使いが動物に姿を変えるということはできますけど……少なくともシーサーペントにそれが可能という話は……」


 アムは首を横に振る。ポーラも同じ意見なようでアムの言葉に頷いていた。


「え? ミズチ、シーサーペントじゃないよ?」


 ミズチの一言に俺たち全員が彼女へと注目する。

 

「ミズチねぇ、ドラゴンだよ? 海のドラゴン!」

「いや、だから、シーサーペントだろ?」


 シーサーペントもドラゴンの一種のはずだが?


「違うよぉ~? ミズチはねぇ、大海龍だよ!」


 ミズチはえへんと胸を張るが、俺はどうにもぴんと来ない。


「大、海龍ですって?」


 そうでもないのがアムたち三人だ。


「待てよ。大海龍って、それようは海のドラゴンってことだろ?」

「そうですけど、そうじゃないんです!」


 アムはいつになく興奮している。


「海のドラゴン種は数いれど、その中でも最大、最強と呼ばれる存在。それが大海龍なんです! シーサーペントなんかとはくらべものになりませんよ!」

「えぇ! ミズチって、そんなにすごいの!」


 おい、当の本人も驚いてるぞ。


「待ってくれ。色々と混乱してきた。えぇと、なんだ、ミズチ、君は大海龍なんだな?」

「そうだよ? タマゴの中にいるときにねぇ、誰かがそういってたから、きっとそうだよ!」

「た、タマゴの中? 聞こえてたの?」

「うん! だって、中にいたもん」

「いや、そうだが……」


 待てよ。そういえば何かで聞いたことがあるぞ。動物たちの中にはタマゴを守るために固い殻のようなものに納めることがあるのだと。

 それらを卵鞘らんしょうといい、例えばサメの中には螺旋状や平べったい形をした黒い殻にタマゴを産み付けるのだという。もっと簡単なところで言えば、ミズチには失礼だがゴキブリのタマゴもそれらに入っている。

 となるとスキュラがタマゴを手にした時点でミズチはある程度成長していてたということなのだろうか。


「なんだか難しい声の人だったけどね? 大海龍の子をさらってやったーとかいってたの! だから私、大海龍!」


 あ、あの女ぁ……なんてもん盗んでるんだよ!?

 むしろ孵化する前に取り戻せてよかったのか?

 あぁ、いや、それにしても……えぇ……どうするんだよ。


「よくわかんないけど、パパ! 養って!」

「どこで覚えたんだよ、その言葉!」


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