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第4話 これぞ忍法!

 空気を冷たく感じるのは季節のせいだけじゃないはずだ。

 目の前に展開する兵士たちからは無言の殺気を感じる。にしてもこいつら無表情すぎないか? 俺という突然の闖入者にも慌てたそぶりもない。

 というか目が虚ろで、こっちを見ているようには感じられない……なんだこいつら。


「あ、え、誰?」


 逆に人間らしい反応を返してくれるのは後ろの少女だ。

 とはいえかなり警戒しているのか槍を構えている。

 むしろそのまっとうな反応がかえって安心できてしまう。


「自己紹介は、あとだ。それより、この状況は? 兵隊が子ども三人を追い立てる、尋常ではない」


 実は結構緊張していて口がうまく回っていないのである。


「理由を聞きたい。相手はまだ子どもだ……」


 たぶん無意味だろうと思っていたが、俺は念のために兵士たちへと問いかけた。

 すると返答は再び矢だった。俺の額を狙いすました一射が飛んでくる。


「問答無用という事か?」


 飛来する矢を難なく掴む。

 ちくちくする感触がビンビンだったので用心していたら案の定だ。

 流石は忍者の動体視力といった所か。暗闇でも見えるし、飛んでくる矢も集中すればゆっくりと見える。

 忍者って凄い。

 なんて感心してる場合じゃないな。


(怪我人三人、うち二人は早いとこ治療しないと死にそうだ……)


 流石に、目の前で死なれるのは後味が悪い。

 だがまごまごとしていたらそうなりかねない。


「おい」

「は、はい!?」


 俺は未だに警戒を続ける槍少女へと声をかけた。

 振り向かずともわかる。少女はびっくりとした顔をしているだろう。


「逃げるぞ。合図をしたら、走れ、できるな?」

「あ、合図って……」


 悪いが悠長に話をしている暇はない。

 しびれを切らしたように兵士たちに動きが見える。

 このまま突撃してくるつもりだ。


「忍法・旋風つむじかぜ!」


 俺が忍者刀をぐるぐると回転させると一瞬にして竜巻が作り出される。出現した竜巻は周囲の木々を揺らし葉を舞わせた。


「これぞ忍法・木の葉隠れ」


 飛び散らせた葉っぱで目くらましをする。忍者お約束の忍法だ。

 だがこれだけじゃ力づくで突破されかねない。

 俺は新たな忍法を発動させる。


「合わせ忍法・木の葉火炎壁!」


 さらに旋風の勢いをつける事で舞い踊る木の葉同士が激しくこすれていく。

 その結果起こるのは、発火現象だ。摩擦熱によって次々と木の葉が着火されていく。枯葉ならば一瞬で火が付くがあいにく今使ってるのは緑の若い葉だ。

 しかし問題なく着火は出来た様子だ。

 一瞬にして俺たちと兵士の間に炎の壁が出現する。無理に突っ込もうものなら火だるまになる。そうでなくとも馬は怯えて前には出れないだろう。


「行くぞ!」


 踵を返すように、俺は駆け出し倒れている少年少女を両肩に担いだ。


「ぼーっとするな!」


 俺の忍法に驚いたのか何なのかは知らんが、槍少女は茫然としていた。

 

「馬は扱えるのだろう!?」

「は、はい!」


 ハッと我に返ったように少女は馬の脇腹を蹴る。


「あなたは!?」

「問題ない」


 駆ける馬と並列するように、俺は走っていた。

 できるとわかっていたが、これもまた実際にやるとなると驚く。

 子どもとはいえ人二人を抱えて馬並みの速さで走るなんて、もう忍者とか関係ないんじゃないかなと。


「あぁぁぁぁ!」

「ひぃぃぃぃ!」


 炎の向こうから何とも言えない悲鳴が聞こえてくる。


「ムッ?」


 まさか突っ込んできたのかと思い振り返ってみるが、そうではない様子だ。炎に怯えている感じだが、一体何なんだあいつら。薄気味悪い!

 しかしこれはチャンスだ。敵は追ってこない。このまま逃げるなら都合がいい。


「近くに村か街はあるのか?」


 とはいえ闇雲に逃げるだけじゃ駄目だ。目的地を定めないと延々と彷徨う事になる。

 そして俺はこの世界の地理を知らない。少なくとも近くに光がなかったところを見ると、結構な距離を逃げる事になるが、そうなると怪我人二人が心配だ。


「三十キロ先にハーバリーの街があります! 私たち、そこから来て……!」

「遠い……いや、近いか」


 俺ならさておき問題は馬だ。

 この馬がどれほどの距離を走ってきたのかは分からんがバテて走れなくなる可能性もある。

 三十キロ程度なら持つかもしれないとも思うが、彼女たちは俺が見つけるまでの間逃げていたことを考えると馬は捨てることも考えた方がいい。

 それに、怪我人二人の傷も応急処置ぐらいはしておかないとまずい。


*************************************


 怪我人の顔色が悪くなってきた為に、俺たちはひとまず森の影に潜むようにして傷の手当てを優先した。

 矢そのものはあまり深くは刺さっていないようだが、矢じりの返しのせいで無理矢理引き抜くと傷口が広がる。

 かといって、引き抜く為の道具もないし、血止め、傷薬なんて便利なものもない。

 だが、ここで活用できるのが薬草学だった。当然、俺はそんなもの知らないが、忍者としての知識ならば存在する。ハイテク巻物のおかげだな。

 俺たちのいる森にはおおざっぱな括りで薬草と言われる葉が自生している。薬草学をインプットした俺はどれがどの薬草なのかが一発で見分けられるというわけだ。


「おい、我慢してくれよ。いつまでも矢が刺さったままじゃ体に毒だからな。いてぇだろうが……」


 まずは体力のなさそうな少女から。ちょいとかわいそうだが、服の袖を切り裂いて丸めて口に詰める。歯が折れるからな。

 そして一気に引き抜く。躊躇していたら手遅れになる。


「うぐぅぅぅ!」

「しみるぞ」


 俺はちぎった薬草を手もみしてから握りつぶすようにして汁を絞り出す。それを傷口にしみこませ、残った薬草で傷を覆った。その上からさらに服の切れ端で縛り付ける。あまり清潔ではないが、これで応急処置は終わりだ。

 続いては少年の方だ。


「がぁぁぁぁ!」

「我慢しろ。わき腹だが、急所はズレている」


 これもインプットされた知識からだ。

 同じく処置をしてひとまずは終わりだ。

 しかし、意外に疲れる。暴れる少年少女を押さえつけて、薬を塗って……いくら知識があるとはいえ、実際にやるのは相当神経を使う。

 手当が終わると、二人は意識を失ったのか、大人しくなった。生きてはいる。


「あの……魔法は、使わないのですか?」


 すると、無事な槍少女がおそるおそる俺へと声をかけてくる。

 改めて見るとかなり若い。まだ十五、六ぐらいといった所か。槍を木に立てかけた赤毛の少女、目の色もどことなく赤い。よく見ると鉄ではなく革の鎧を身に着けている。

 それにしても魔法か。


「魔法? 悪いが、そんなものはない」


 神通力(魔力)なんて項目があったはずだが、巻物で調べても俺の忍法に魔法らしきものは存在しなかった。

 使おうと思えば使えるのかもしれないが、忍法のように巻物を読んで覚えるという事はどうにもできないらしい。

 この巻物はあくまで忍者専用という所か。


「え? でも、さっき魔法を使って……」

「あれは忍法。技だ。そういう君は」

「私は攻撃スキルしか……そういうのは、彼女が得意で……」


 倒れた少女は確か杖を持っていたが、つまりこの子は魔法使いという事か。

 そして前衛の二人……バランスがいいのか、悪いのかわからんな。


「そうなるとあまりゆっくりはしてられんな」

「ふ、二人は大丈夫なのですか?」

「応急処置だ。ふむ、念のため、つぼも押しておくか」


 俺は眠る二人のとあるつぼを刺激する。

 血止めの効果があるとされるつぼだ。とはいえ劇的に血がピタリと止まるわけじゃない。多少、抑制される程度だ。民間療法レベルのものだな。


「しばらく休んだらすぐに発つ。あまり時間はかけられんぞ」

「はい、覚悟の上です。あと……あの、助けていただきありがとうございました」


 少女はぺこりとお辞儀をしてくれる。

 今更だが頭巾で顔を隠した黒ずくめの男をよく信用してくれたな……。


「私はアム、アム・レンテスと申します」

「俺は……音羽。城戸音羽。忍者だ」

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