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第37話 忍・馬・決・闘

「このユニコーンは相当年老いていました。それこそ、歩くことすらやっと、走ることすらままならないほどに衰弱していたと思います」


 人間の姿に戻ったユキノは手を合わせながら、ユニコーンのやせ衰えた足をなでた。

 よく見ると、その足は皮張りで、蹄も幾分か欠けているようにも見える。骨が折れていないのが奇跡的なぐらいだ。


「もとより死を予想していたのでしょう。死に場所を求め、ここにやってきたのかもしれません。ですが……」

「折り悪く、あのバイコーンたちの群れに遭遇したと……」


 俺はもう目が開くことのないユニコーンに対して合掌をした。ぐぐ、と口をへの字に曲げ、よく知りもしない念仏を心の中で唱える。忍者なんだから、こういう時の作法ぐらいは巻物に記していて欲しかったが、あいにくとそういうものはなかった。

 なので、俺は俺に出来る最善の方法でユニコーンを送り届けるしかない。


「あいつにとって、このユニコーンはまさしく親だったんだな」


 魔性バイコーンはずっとユニコーンに頭を下げていた。

 俺はバイコーンという存在を詳しくは知らない。さっきまでまるで両極端な姿を見てしまったのもあるが、この魔性バイコーンからは聞き及んだイメージは感じられない。

 不浄の存在には見えない。ただ愛するものの為に戦う戦士であり、武人のようだ。そして、今は親の死を悲しむ子のようでもある。


「キドー様、ユニコーンはたとえ死体であってもその部位素材が高く取引されます……ですが……」


 アムは素材の剥ぎ取りをしたくないという意味で言ってくれる。

 当然だ。俺だって、そこまで畜生じゃない。ユニコーンはただ静かに、ここで眠ってもらうだけだ。


「ポーラ、シスターならさ、できるだろ?」

「……はい。祈りを捧げ、その魂が安らぎの園へと行けるように」


 こういう時、シスターがいてくれて助かる。

 ユニコーンの事はポーラに任せてもいいかもしれない。彼女なら、適切に葬ってくれるはずだ。

 ポーラは杖を地面に突き刺し、祈りの言葉をささげた。すると、淡い光が杖から放たれ、ユニコーンの体を包んでいく。それは、特別なにかを施す魔法ではなく、ただ魔力による発光現象なのだと、以前神父から聞いたことがある。

 それは暖かな光であり、たったそれだけのものだが、死者を天へと向かう道すがら、体が冷えないように、世の暖かさを忘れないようにという願いなのだと。


「祈りは終わりました。あとは……」

「いや、それはこいつがするようだ」


 祈りの後、あえていうなれば死体をどうするかである。俺の感覚なら火葬、こちらではどうかはわからないが土葬かの二種類だろう。それはその文明圏に合わせればいい話だが、それは俺たちの仕事ではないらしい。

 魔性バイコーンはポーラが祈りを終えるのを待ってから、ユニコーンの上に土をかぶせ、そこに木の実、果物を添えるように、ひとつひとつ咥えて置いていった。


「獣なりの、やり方があるんだろう。ここは、俺たちが離れるべきだな」


 死後の別れによそ者は不要なはずだ。

 俺たちは一旦、洞窟を後にした。

 そして、三十分後。

 バチンと落雷が走ったような音が聞こえると同時に巨大な地響きと共に洞窟の奥が崩れていくのがわかる。

 もうもうと洞窟の奥から吐き出される煙と砂埃の影から魔性バイコーンが姿を見せた。


「これでもう人の手が入ることはないな」


 洞窟は完全に封鎖されたはずだ。

 仮に、この地にユニコーンがいたことが判明しても、その死体を掘り起こすことは不可能だろう。


「さて、ここからが本題だが」


 自分でもこの切り替えはどうなんだと思うが、仕事は仕事だ。

 それはきっちりとやり遂げる必要がある。


「ユキノ、頼めるか」

「はい」


 ユキノは動物やモンスターの言葉がわかるのだという。

 それは獣人に備わった特殊能力のようなものらしい。

 これで魔性バイコーンにこの土地への立ち退きを願いたいわけだ。もちろん、それが非常に失礼なものであることは理解している。だが、それでは村人が納得しない。

 いかに、こいつが普通のバイコーンと違うといっても、むしろその特異性を恐れる。

 こういう言い方は悪いが得体のしれない、管理されてないモンスターがいるというのは怖いと思われて当然だ。

 修道院の池に住むミズチの場合は、名目上はサリーの手持ちだという箔付けがある。そしてあいつの場合は幼いころから住んでいた。時間と余裕が違うのだ。


「……拒否する、とのことです。母の安らぎを見守ることが出来ぬのは耐えられぬと」

「まぁ、そりゃそうだろうな……」


 ある意味、想像通りの返答だ。

 ふーむ。となるとだ。俺ができる最善の方法は一つだな。


「よし、決めた。おい、お前。契約しよう」

「ちょ、ちょっとキドー様!?」

「何言ってるんですか。犬猫を拾うのとはわけが……!」


 俺の提案にアムとポーラがびっくりしている。

 まぁそれも当然の反応だ。

 しかし、俺は結構まじめなんだぜ。


「村人たちはこの土地へのバイコーン討伐を願いでた。バイコーンさえいなくなればいい。それに俺は村長にいったはずだ。可能なら手懐けてやるとな。それに、俺としてもこいつを殺したり、無理やり土地から引きなすのはかわいそうだと思っている。だが、俺と契約し、召喚獣となれば人に制御されたモンスターということ

この地に再び訪れることも可能なはずだ」


 どっちにしろ、一旦はこの森からは離れてもらうことになるだろう。そこだけは引き下がれない条件だ。

 だが、それでも、命日ぐらいはここに連れてくることぐらいは可能なはずだ。


「で、どうなんだ? お前がここにいたい理由もわかる。だがお前がここに残っていては困る連中もいる。お互いの不利益の衝突はいずれ血なまぐさいことになる。双方にとって有益じゃあない」


 俺の言葉に耳を傾けているのか、魔性バイコーンはじっと俺を見ている。

 しばらくは沈黙が続いたが、魔性バイコーンの返答は角への蓄電であった。バチバチと青白い光が魔性バイコーンの体を包む。


「うっ! やっぱり倒すしか!」


 アムが槍を構える。


「違います。これは……!」


 それをユキノが制する。彼女は魔性バイコーンの意図を読み取って入るようだ。


「力なきものに従う道理はなし。従わせたければ、力づくでしてみろ。と……」


 ユキノは不安げに俺を見る。

 だが、俺はそれを微笑しながら受け取った。


「なんだ、話の分かる奴じゃないか」


 俺は刀を抜き放ち、頭巾を取った。

 ようは戦いで決着をつければそれでよしってわけなんだ。これ以上ないぐらいに単純明快な方法だ。

 もとより話して聞くようなタイプじゃないだろうしな、こいつは。


「みんな、こいつは決闘だ。手出し、無用」


 そういって俺は不意打ち気味に駆け出す。

 いや、不意打ちじゃないわな。既に魔性バイコーンは蓄電し、戦闘行為を開始しているのだから。

 一瞬にして、奴の顔面を捉える俺。

 だが相手も早い。俺の動きに合わせて、奴は前足を振り上げ、強靭で強固な蹄で俺を踏みつぶそうとしてくる。


「うぉ!」


 二つの前足が俺を踏みつぶすが、それは入れ替わった水の幻影だ。

 忍法・空蝉。その水バージョンといったところか。水辺に近いので、使わせてもらったわけだ。

 俺は既に奴の真上にいる。


「むっ!」


 だが、奴の行動には迷いがない。攻撃が外れたのならば、次の攻撃へ。敵が動かなくなるまで徹底的にやるタイプらしい。

 奴は角からの放電を周囲に広げる。それは当然、上空にも広がってくる。


「なんのぉ!」


 俺は迫りくる電撃に対して空中で身を翻しながら、ぎりぎりを避けていく。

 なんとか着地するが、またお互いに距離を開けてしまった。

 俺は再び刀を、奴は角を向けて。


「正直、スキュラやイーゲルより強いんだが……」


 あいつらの場合、俺に対する油断や俺が卑怯染みた闇討ち戦法で戦ったのもあるが、それを差し引いてもこの魔性バイコーンは強い。


「なんか、不謹慎だけどよ。これ、ファンタジーの醍醐味だよな」


 俺はぼそりとつぶやく。軽口を叩いているようで、実はこれ、余裕を取り戻そうと必死なの。なんせ、こいつは『本物』の強敵だからだ。油断をすれば一瞬で殺される。


「なので、大人げないが……全力だ!」


 俺はクナイを投擲する。影縫いだ。

 しかし投擲されたクナイは奴の電撃によってはじかれ、遠くへと飛んでいく。通用するわけがないか!

 だが、それは囮だ。


「忍法・影分身! 続いて忍法・土蛇!」


 俺は無数の分身を出現させ、同時に土と岩でできた巨大な蛇を出現させる。

 忍法・土蛇。言ってしまえば土蜘蛛の規模を小さくした技だがあちらと違い、細かな操作が可能であり、動きも素早い。

 分身たちともに包む土蛇。

 魔性バイコーンは慌てず分身に実体がないことを見抜いているのか、再び放電げ蹴散らしていく。

 だが、土蛇だけは消えない。


「アースってのがあるんだよ!」


 土蛇は大地から伸びる蛇だ。電撃は土蛇を通して地面に消えていく。

 土蛇たちの中にはクナイを仕込んでいる。勿体ないが、鉄だからな。


「絡みとれ!」


 電流を無視しながら突き進む土蛇が魔性バイコーンを捕らえる……!

 だが、その瞬間、魔性バイコーンは放電をやめ、四つ足を地面に固定するように打ち込み、頭部、いや角をまっすぐ俺に向けた。

 バチバチと再び二本の角に電光がほとばしる。だが、それは放電などの類ではない。

 それはまるで……!


「キドーさん! プラズマ・バスターです!」

「はぁ!?」


 ポーラの叫びに俺は思わず生返事をしてしまった。

 なんか聞くだけでヤバい魔法だってのはわかる。幸い、その発射進路には俺しかいない。

 それはともかく、つまり、あれはビームってことだろ!?


「うお、お、お!?」


 放たれる極大電撃魔法。その一撃は空気を焼き、地面をえぐり、森を突き抜けていく。

 その直撃を受ければ、人間など消し炭になることは間違いない。

 しかし、そのような大技は奴の消耗も大きいはずだ。


「卑怯と、思うなよ!」


 その最大の好機を見逃す忍者じゃない。

 俺は、奴の真下から地面を突き破り、現れる。


「びっくりしたか!?」


 魔性バイコーンの目には明らかな動揺が見て取れた。

 そりゃそうだろうな。地面から現れたんだからな。だが、かくいう俺も実は結構ボロボロなんだ。地面に潜れば避けられると思ったが、そんな甘いことはない。むしろ地面の中でもみくちゃにされて死にかけたぐらいだ。


「忍は真正面から打ち合う存在ではない。御免!」


 俺は飛び出た勢いそのままに、奴の顎へ拳を叩きこむ。

 体力と魔力を消費したところに渾身の一撃だ。だが、それだけで終わらない。これで倒れるわけがないからな。


「影縫い!」


 残ったクナイで影を縫う。


「お返しだ! 俺も痛かったからな!」


 俺はもう一発、顔面を殴る!

 忍法? そんなもの使ったら殺してしまうだろう?

 だから、痛いけど、殴る!

 俺の拳を受けて、魔性バイコーンはじろっと赤い目を向けてくる。

 そして……ばたりと、倒れた。


「っしゃあ!」


 俺は思わずガッツポーズ。

 なんか男の子って感じだ。今まで闇討ちばかりしてきたらか、こういうすっきりするようなぶつかり合いは新鮮だ。

 忍者としての能力がなければ味わえないスリルでもあるが、今はそんなことはどうでもいい。

 俺もくたびれた。魔性バイコーンの隣でしりもちをつくようにして座り込む。


「で、どうなんだ?」


 尋ねてみても返答はない。

 だが、意識はあるようで、鼻息を返してくる。


「悪いが、このまま契約を執行させてもらうぜ。敗者は勝者に従うものだ」


 凄い疲れたけど、俺は巻物を取り出し、包み込む。

 契約は、驚くほどあっさりと終わった。こいつも潔いということだ。


「安心しろ。ユニコーンの墓参りには必ず連れてくるし、ここの事は誰にも話さない。そして守る。それだけは約束だ。そしてだが……」


 俺は互いの健闘と称えるべく、あるものを取り出す。


「食うか? 疲れが吹っ飛ぶぞ」


 もちろんそれは兵糧丸だ。

 無理やり口に入れてやる。


「フフフ、動物にも優しい自然食品……」


 その瞬間、奴の蹴りが俺の顔面を捉えた。


「う、ご……」


 そして、俺の意識は途絶えていく。

 だが、魔性バイコーンもまた、白目をむいて……倒……れ、た。

 きゅう。


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