第34話 魔性特異態
突如として現れた巨大なバイコーンは、他のバイコーンたちをあらかた踏みつぶすと、ぎらつく赤い目で俺たちを睨む。
「なんだ、こいつ。他の奴とは明らかに違うぞ」
その目は俺たちに対する敵愾心のようなものを感じさせたが、奴の意識はすぐに生き残ったバイコーンたちに向けられた。
バチバチと巨大バイコーンの二本の角からまばゆい電光が走る。
「魔法を発動するつもりです!」
魔力を探知したポーラがすぐさま防御結界を張り巡らせる。
それと同時に巨大バイコーンから放たれた電撃が逃げ出そうとしていたバイコーンたちを貫き、焼き付くす。
その一撃は周囲への被害などお構いなしで、当然俺たちに対しても飛んでくるのであった。
「なんて威力……!?」
ポーラの防御結界に何度も電撃が鞭のようにしなり撃ち込まれる。
魔力を全開にしているはずの防御結界ではあるが、明らかに押し負けていた。
「二重結界だ! 忍法・木遁、蛇頭樹!」
俺は忍者刀を抜き、地面に突き刺す。
忍法・蛇頭樹。周囲の木々に神通力を送り込み、その根や枝を自在に操る高等忍法だ。俺の支配下に置かれた無数の樹木が枝を伸ばし、電撃の盾となるべく広がり、重なっていく。また同時にこの枝たちはアースの役割も果たし、過分な電撃を地中へと逃がしていくのである。
「なんつーバカ魔力だ!」
だが、実際はそううまくはいかないらしい。
巨大バイコーンの放つ電撃は樹木のアース程度では分散しきれないようで、次第に枝が燃え始め、盾にも亀裂が走っていた。
俺は次々と枝を操作し、補強していく。
そして十秒後、巨大バイコーンによる放電が終了し、周囲には焼け焦げたニオイが充満した。
残ったのは感電死したバイコーンとその上で勝ち誇るようにいななく巨大バイコーンの姿、そして唖然とする俺たちのみ。
「ポーラ、大丈夫か?」
「はい……ですが、あの一撃は二度目は防げないかもしれません……レベルが違いすぎます」
ポーラの表情はきつそうだ。
魔力の何割かを一発で持っていかれたようで、汗がにじみ、息が上がっていた。ポーラの保有する魔力は決して低くないはずだが、それすらも消費させるとは、あのバイコーン、まじめに化け物すぎるぜ。
「ご主人様、あれは魔性特異態です」
狐形態のユキノが俺の横に立ち、唸り声をあげながら言う。
「魔性、特異態? またわからない単語だな」
「突然変異みたいなものです、キドー様」
ポーラをかばうように槍を構えながら、アムが付け足す。
「時々、モンスターたちの中でそういった特殊個体が生まれることがあるのです。その殆どは魔力が異様に高かったり、肉体の発達が極端であったり様々ですが……」
「こいつの場合はその両方ってな感じだな……んで、当然、強いと」
「間違いなく。それらの特異態はたとえスライムであっても侮れない存在になると聞いています」
「なるほど……」
「ですが、そういった特異個体は普通生き残ることができない。たとえ能力が高くとも生まれたてではその力を発揮することができません。そして多くの群れはその特異態を排除する方向に働きます……特にバイコーンは共食いすらするモンスターですから……」
だが、奴はどういうわけか生き残り今こうして大暴れしてるってわけだ。
しかも、次の標的はどうやら俺たちらしい。奴は鼻息も荒く、暴れ馬よろしく土を蹴り上げ、今にも突進してきそうな勢いだ。
「くるか!?」
一触即発といった張り詰めた空気が流れる中、しかし巨大バイコーンはぴくんと耳を動かし、遠くへと視線を向けた。
そしてそのまま俺たちなど無視して、一気に飛び跳ね森の中へと消えていく。
あまりにも突然の行動に俺たちは茫然とするしかなかったが、当面の危機は去ったようだ。
「これ、村長たちは知ってんのか?」
一応、警戒の為に刀を鞘に戻さずにいる。
「あのものたちは嘘はついていないと思いますよ」
答えたのはユキノだった。
「ある程度は気配でわかります。地狐ですので。あの村のものたちは恐ろしくて森に入っていないというのは本当でしょう。でなければ、こんな存在を知ってのんびりとはしてられないでしょうし」
「一応、報告はしとくか……こりゃ知ったらおったまげるだろうな……んで、角は……」
俺は焼け焦げたバイコーンの死体に目を向ける。真っ黒で殆ど炭化していた。
当然、角などボロボロである。
「これは、無理ですね。完全に焼けちゃってます……」
アムが槍でつつきながら確認すると、角は粉のように崩れていく。
ちくしょう、そううまい話しはないってわけね。
「とにかく、一旦村に戻ろう。あんな化け物がいるってんじゃ、ちょいと報酬も上げてもらわないとな」
それに、対策の方も考えないとな。
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村に戻り、巨大バイコーンの存在を報告すると、村長たちはびっくりした顔をして、互いに顔を見合わせていた。
やはり彼らもあの存在の事は認知していなかったようだ。
「まさか、そんなものが……」
「いや、思えば最近雷が良く鳴ると思っていたんだ。まさか、バイコーンが魔法を使うなんて思ってもみなかったが」
「私はよくわからんのだが、その魔性なんとかいう存在は強力なのだろう?」
村の上役の一人がそんなことを言い出し、ちらちらと俺たちを覗き見ている。
その視線は明らかに俺たちが力不足だと感じている様子だった。
失礼な奴め。と言いたいが、俺含めて珍走団みたいなパーティなのは認める。そんなのが来たらそりゃ、ねぇ?
「心配されるのはわかるが、俺たちとの契約を解除しても、次の冒険者がくるのには時間がかかるぞ?」
だが、こっちも生活がかかっている。引き下がるわけにはいかん。
それにあの化け物を放置するわけにもいかんだろうしな。
「そ、それはそうだが……大丈夫なのか?」
「我が忍法に不可能なし。何なら手名付けて見せよう」
と、まぁこういう風に調子に乗った感じを演じつつ、俺はまじめに対策を考えなければいけない。
上役たちからの疑惑の視線を受けつつ、それを無視して俺は仲間たちへと振り向く。
「さて、どうする? どちらにせよ、あの魔性バイコーンを何とかしなければクエスト達成にはならんと思うが」
「私は倒した方がいいと思います。本来の群れ退治であればまだしも、魔性特異態を倒したとあればランクアップは確実でしょうし」
アムは賛成派のようだ。
「私も同意見です。それに、先ほどは油断しましたが、次は大丈夫です。それに、キドーさんなら、できるはずですから」
ポーラも頷く。
「私はご主人様のなすべきことについていくまでです。もうニオイで弱音は吐きません。地狐の力をお見せしましょう」
ユキノの意見を聞いて俺も頷く。
決定だ。クエストは続行する。
「ならば、作戦だ。いつものように敵の情報を集める。偵察はもちろん俺だ。アム、君は猟師としてバイコーンと何度か戦ってきたといっていたな。その知識を貸してくれ。罠を張るでも、バイコーンの行動を予測するなり、なんでもいい。知識をくれ。ポーラ、バリアは考えなくてもいい。君は奴の動きを止めるべく魔法を、場合によっては回復を優先だ。ユキノ、俺についてこれるか?」
それぞれは力強く頷く。
「よし。ではクエスト再開だ。村長、良い知らせを持ってくる。それまでは勝手にクエストを解約しないでくれよ?」




