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第31話 再び、騒がしき日々に

 今回のイーゲル盗賊団との戦いに関しては語るべきことが多い。

 まず、アプロックの街には一切の被害はない。避難の際に多少怪我をしたものもいるが、全員がかすり傷だったとか。

 その反面、山を挟んだ向かいのレガンの街はほぼ都市としての機能を喪失していた。生き残った住民はかつての六割であり、多数の犠牲者が出た。

 かつてスキュラに滅ぼされた港町とは違い、住民のいくらかは無事であったが、ここから復興への道のりは遠く険しいだろう。


 そして、イーゲル盗賊団に関してだが、頭領であるイーゲルが討たれたことによって、指揮系統は崩壊、また死霊魔法が早々に解除されたことによって戦力は激減、さらには俺によるかく乱などが相次ぎ足並みが揃わなくなった盗賊団たちは瞬く間に殲滅されていった。

 いくつかが戦場を脱出し、残党という形で潜伏しているという話も聞くが、もはや組織立っての行動は不可能であろうという判断がなされた。

 もともと、イーゲルの指揮によって何とかまとまっていた盗賊団ゆえに、その頭脳がなくなればチンピラの集団と変わらないのだとか。


 とはいえ、今回の事件に関してはこの地域全体を揺るがす大きなものであった為か、事後処理が相当残っているらしい。

 サリーは連日連夜の会議続きで、大荒れをしているとマイネルスから聞いている。なので、近づかないようにしている。

 多くが戦死した国境警備隊の再編にも忙しく、また今回の戦いに参加した冒険者たちへの報酬などの分配にも気を配るのだとか。

 だが、一つ確実なのは、このハーバリーにまた平穏な日々が戻ってきたということだ。


*************************************


 イーゲル盗賊団との戦いから一夜明け、今現在は昼に差し掛かった頃。


「──と、いう理由ですので。私はご主人様のものとなりまして」


 いきなりだが、我が家に新たな同居人が増えました。

 なんでかって? はは、俺だってびっくりしてるんですよねぇ。

 新たな同居人はなんと銀髪のストレートロング、雪のように白い肌をした狐耳の少女だった。

 少女は分厚い毛皮のコートを羽織っており、灰色のもこもことしたファーに包まれているような姿をしていた。

 ついでに大きな三つのしっぽを抱きかかえている。

 もうお分かりだろう。彼女は、イーゲルに捕らわれていたあの銀狐だ。

 

「……えぇと」


 なぜか我が家にいるアムは困惑気味で、俺と銀狐を交互に見ている。


「ごめんなさい。ちょっと整理させてもらっていいかしら?」


 同じくなぜか俺の家にいるポーラもどういう顔をしていいのかわからないみたいで引きつった笑みを浮かべていた。


「説明のご確認ですか?」


 はて? という感じに首をかしげる銀狐少女。基本的に彼女は無表情で言葉に抑揚がない。機械的、というよりはあまり感情を表に出さないタイプらしい。

 だが俺は知ってるぞ。彼女はあの魔法使いを頭から丸かじりしている姿を。


「ご主人様が私と契約をなさいました。ならば、私はご主人様の忠実なしもべであり、ともに過ごすことは当然であると思っています」

「えと、そうじゃなくて……そうでもあるんですけど……」


 ポーラはこめかみを抑えていた。


「なんで、人間の姿に?」

地狐ちこですから」


 即答だ。


「ち、ちこ?」

「聞いたことないんですけど……」


 アムとポーラは二人して首をかしげる。

 まぁ聞いたことがないのは無理もないだろう。むしろ俺としてはこの世界に地狐が存在していたことに驚きだが。


「地狐か。俺の知識があっているのであれば、それは確か、狐が霊力を持つことで至れる位の一つだったか?」


 前世の故郷である日本、そして中国では狐は不思議な存在として扱われてきた。特に九尾の狐という存在はかなり有名だろう。それ以外であれば玉藻の前という妖怪か。

 おおくは妖狐と呼ばれる存在だが、まれにここからさらに上位の存在、仙狐や天狐などと呼ばれるものになるものもいるという。


「はい、その通りです」


 銀狐はうなずく。

 どうやらこの世界には日本、もしくは中国に似た文明を持つ大陸があるかもしれない。


「母は六本の尾を持っておりました。私は未だ修行の身ですので、三本ですが」

「いや、通常、三尾になれるだけでも十分だと聞いたことがあるが……」


 しっぽ一つ増やすのに数百年はかかると聞いたことがある。


「ですが、不覚にも魔族に捕らわれ、あのような下劣な男のしもべと化してしまったのは己の力不足です」


 やはり、無理やり従わされていたのか……ん?

 待てよ。さっきさらっと重要なことを言わなかったか?


「すまん、さっき、誰に捕らわれたって?」

「魔族です」

「魔族!?」


 激しく反応を示したのはアムだった。その隣ではポーラも驚きの表情を浮かべている。


「この数百年、外界との接触を拒んできたあの魔族ですか!?」

「アム、落ち着け、どういうことだ」


 魔族という響きはわからんでもないが、この世界における立ち位置までは理解できない。俺が説明を求めると、アムは少し鼻息を荒くしながら、説明をしてくれた。


「この世とは別に存在する魔界と呼ばれる世界に住まうものたちのことです。強力な魔法使いが多くて、単純な実力だけなら子供でもランクBプラスには成長するともいわれています。ですが、もともと他種族との交流を持つ方ではなくて、数百年前から一部の関係者ぐらいしか顔を見せないと言われていたのですが……」

「その魔族が、イーゲル盗賊団にいた……」

「魔族には気まぐれな方も多いですから……長い歴史の中では他種族の王族に嫁いだ魔族のお姫様もいたりしますし」


 気まぐれね。それであんなことされちゃたまったもんじゃないが。


「この事実はギルドマスターに放り投げるとして」


 そろそろ俺は、サリーから叱られるんじゃないかと不安になってきた。

 というか彼女の胃は大丈夫だろうか。


「えぇと、君は……」


 そういえば、この子の名前ってなんだ?

 勝手に俺は銀狐と呼んでいたが。


「ユキノジョウです」

「は?」

「私の名です。私は、ユキノジョウと申します」


 ユキノジョウ。雪之丞ってわけか。


「雪之丞ね……またずいぶんと渋い名前というか」

「ユキノでも構いません。母らは私をそう呼んでいました」

「ユキノ、うん、そっちの方が柔らかい感じがして呼びやすいな。それで、ユキノさんだけど……なんか、無理やり契約結んじゃったわけじゃない? のっぴきならない事情があったにせよ、ほら嫌でしょ?」

「いえ、構いませんが?」


 うぅん、この子、即答しすぎて話が終わっちゃう!


「いや、でも、構わないっていってもさ。人間に仕えるのは嫌とかあるじゃない? イーゲルのとこにいた時とかさ、嫌な思いしたでしょ?」

「あの下劣な男のことはどうでもいいのです。あれは私にとっての汚点、不覚、しかして刻むべき過ちですので。ですが、ご主人様は違います。私をお助けしてくださった方。格が違います」

「あ、そう……そうなの。ありがとう」


 という風に俺が唖然としていると、ユキノはがっちりと俺の両手を掴んでくる。


「命を助けられたということは、私の一生を救ったも同然。ならば、私の一生をあなたに捧げるということです。地狐・雪之丞。決してあなたを裏切ったりはしません。いかなる命令にも従いましょう」


 とか言いながら、ユキノはぐいぐいと俺に迫ってくる。


「ちょっと待った!」


 割り込みを掛けてくるアム。


「ひ、ひとまず、お話あいしましょう!」


 反対側からはポーラもやってくる。

 二人してユキノを遮る壁になっていた。

 対するユキノは不思議そうに首をかしげていた。


「……あぁ」


 そして何かを納得したようにポンと手のひらをたたく。

 俺は猛烈に嫌な予感がしていた。


「私、側室でも構いませんよ?」


 ほら来た!

 ほらまたなんかこう、ややこしい話になるパターンが来た!


「それで、どちらが正妻様で?」

「せ、せせせ正妻だなんて! 私、まだ結婚もしてないのに!」


 アムはもう顔が真っ赤だ。そんな、顔を赤くするような話でもないが、俺はもうヤバイと思う。


「と、とにかくですね。その件も含めて、お話合いです!」


 そんな感じでポーラはアムとユキノを連れて我が家を飛び出していく。

 俺はそれを見送りながら、茫然としている。


「よし。報告、するか!」


 こういう時は、お仕事に逃げよう!

 平和な日々にこそ、労働だ!

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