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第27話 情け無用の忍法

<──死霊兵、奴らは確かにそういったのね?>

「あぁ、間違いない。奴らは死体を使っている。ご丁寧に自分たちが破壊した街に足を運んで死体探しまでしていたからな。ただ、確認できる死霊兵の数が少ない。せいぜい百二十ちょっと、盗賊たちと合わせてもやっと四百ちょっとだ」


 陣地から少し離れた影に潜みながら、俺は仕入れた情報をサリーへと報告している。

 方法はスキュラ討伐の時とは違い、サリーにも式神君を用意した。あちらでは俺は実体化していないようだが、通信機としての機能は問題なく使用できる。


<希望的観測になるかもしれないけど、レガンの住民は全滅したわけではなさそうね……ただ、国境警備隊壊滅のカラクリはなんとなく見えてきたわ>

「あぁ、俺もなんとなく察しはついている。分散した部隊に奇襲を仕掛け、死霊兵に仕立て上げ、戦力を増やしながら次々と別の部隊を襲った……こんなところか?」


 国境沿いに配属された師団は一丸となるのではなく、薄く、広く展開していたはずだ。それがあだとなったのか、それとも別の理由があったのか。それは今後の調査次第だろうが、とにかく国境警備隊は各個撃破され、敵の魔の手に落ちたとみるべきだろう。


<とにかく、死霊兵の存在が確認できただけでも大きいわ。そうなれば対処はたやすい>

「そこらへんの知識がさっぱりだが、死霊兵に対抗できる魔法があるのか?」


 ゲームとかだと死霊兵のようなアンデッド、ゾンビみたいなモンスターは神聖な魔法を使うとか、変わり種としては回復魔法などを使うと逆にダメージになるというのは聞いたことがある。


<少々大がかりな儀式になるでしょうけど、浄化魔法があるわ。燃やし尽くすか、バラバラにするかでも可能だけど、それよりも手っ取り早い方法は術者を討つことね>

「これを操っている奴がいるのか」

<死霊魔法は確かに死者を操れるけど、その間はずっと魔力を使うのよ。恐らく、術者は何人もいるかもしれないわね>

「あんた一人を手に入れるのに、大それたことだな……」

<どういうこと?>


 表情は見えないが、サリーは随分と怪訝な声をしていた。

 そういえば、イーゲルの目的に関してはまだ報告していなかったな。これは報告するまでもないと思っていたが。


「カウウェルが写し石を持っていただろう? あれにあんたが写っていたらしい。イーゲルはあんたに一目惚れしたそうだ」

<冗談でしょう? 私を手に入れるのに、そこまでやるの?>

「さぁな。だが、そうはさせんさ。あんたは大切な上司、慰み者にはさせんよ」

<……そう。なら、安心ね。無事、任務を果たし、生きて帰ってきなさい。報酬は弾むわ>

「そういう話の分かるところが俺は好きですよ。では」


 俺は連絡を終えて、影から出る。

 盗賊姿を確認しつつ、俺は顔や服を土で汚し、陣地へと走った。


「お、おぉぉぉい! 誰か、誰かぁ!」


 なるべく情けなく、必死の形相を作りながら、駆け込む。

 すると、陣地で待機していた連中が俺の存在に気が付き、わらわらと集まってきたのだ。


「サンツーじゃねぇか。てめぇ、どこで遊んでやがった」

「ビスクはどうした。姿が見えねぇけど」

「バカ野郎! そんな悠長なこと言ってる場合かよ。敵が来てんだよ! 待ち伏せされてたんだ! び、ビスクはもうやられちまったよぉ!」


 俺の嘘に盗賊たちはどよめく。


「おい、それは本当かよ!」

「嘘じゃねぇ。敵が来てんだよ! お、俺はなんとかここまで……」


 敵がどれほどの規模なのか、どんな奴なのか、どのような装備なのか。

 俺はこの辺りをあえてぼかした。わからない、見てない、逃げるのに必死だった。とにかくヤバいのがいる。

 こうした不安を煽る報告を続けてく。

 ただそれだけで盗賊団の一味は激しい動揺に包まれていく。


「お前ら、何を騒いでやがる!」


 騒ぎを聞きつけたか、野太い声をまき散らしながら、ズンズンと足を踏み鳴らし、奥からこの陣地の隊長と思われる男が姿を見せた。

 両腕の筋肉が異常に発達しているのか、丸太のように大きく毛におおわれていた。それ以上に顔が人間のそれではなく、無数の牙を持ったゴリラの顔を持った大男だった。

 獣人、いうなればゴリラだから猿人というべきか。


「ジュエン隊長! サンツーの野郎が敵に襲われたっていうもので……」

「敵だぁ?」


 猿人のジュエンはぼりぼりと頭を掻きむしりながら、面倒くさそうにため息をつき、仲間たちを乱暴に押しのけながら俺の目の前までやってくる。

 そしておもむろに俺の首をつかんで引き寄せてくる。


「おい、敵はどういう奴らだ」

「て、敵……だ」

「あ? よく聞こえ──」


 ジュエンがそのあとの言葉を出すことはない。

 奴の心臓には既に忍者刀が深々と突き刺さっていたからだ。よかったぜ。鋼のような胸板じゃなくてよ。


「敵は、俺だよ」


 変装を解き、忍者装束姿となる。

 口から血をたらし、目を見開いたままジュエンは崩れる。

 隊長の突然の死に、盗賊たちは一瞬だけ唖然としていたが、次の瞬間には怒声が飛び交った。


「なんだ、てめぇ!」

「サンツーじゃねぇ!」

「名を名乗りやがれ!」

「おい、死霊兵だ! 死霊兵を動かせぇ!」


 男たちの指示に従うように数百人の死霊兵たちが動き出す音が聞こえる。

 陣地に魔法使い、この場合は死霊使いがいるのかもしれない。

 死者の増援がやってくることで、男たちは次第に余裕を取り戻してきたのか、怒りの顔から次第に下種な笑みを浮かばせ始めた。


「け、けけ! 一人でここに乗り込んできたのかぁ?」

「ジュエンがくたばったのはいいことだぜ。猿頭のバカだったからな」

「もうてめぇは逃げられねぇぞ。おとなしく仲間のことを教えな?」


 なんだこいつら。仲間、それも隊長が殺されてるのになんで笑ってられるんだ。

 俺にはこいつらの頭の中が全く理解できない。


「理解するまでもないということか」


 俺は半ば呆れ気味だ。

 もしかするとこいつらは使い捨ての鉄砲玉な気がしてきた。

 だがこいつらは自分たちがそういう立場であることを理解していなさそうだ。

 イーゲル盗賊団は元軍人の集まりだと聞いていたが、勢力拡大が進むにつれて質が落ちたのかもしれない。

 こいつらは吸収された別の盗賊団なのかも。


「んんだとてめぇ!」

「すかしやがって……!」


 なんとまぁ鼻息が荒い。


「一つ忠告しておくことがある」

「やかましぃぃぃや!」


 男の一人が斧を振りかぶり、俺へととびかかってきた。

 だが、その刹那、男の体は猛烈な爆発音とともに四散した。


「な、なんだ」

「何が起きた!」

「野郎、魔法か!?」


 盗賊たちは突然の爆発にひるむ。


「み、みろ! あいつのまわりを!」


 目の良い一人が気が付いたようだ。

 俺の周囲には黒い粉が風に乗り、舞っていた。


「ま、まさかそれは……」


 どうやら勘の鋭い男もいたようだ。

 だが、もう遅い。


「左様。これは、火薬だ」


 瞬間、俺は空中を舞う火薬めがけて刃をふるう。空気抵抗、火薬と刀の摩擦で生じた熱に反応し、空気中の火薬が連鎖的に爆発を起こしていく。

 爆発の直近にいた男たちはその衝撃で殆どが吹き飛ばされたが、それは陣地全体で言えばせいぜい十数人程度だ。

 しかし、火薬の爆発だけで何とかなるなどとは思っていない。

 これはいわば、種火。火を起こすための着火剤。

 周囲には無数の炎が生まれていた。


「なけなしの火薬だ。また作り直さないといけないが……」


 実はさっきので手持ちの火薬は使い切ってしまった。

 どっちにしろ量が少なく、大部隊には使えないのだから今使い切っても大した損耗ではない。

 それよりも、爆発を受けて生き残りの盗賊たちがさらに血気盛んになり、俺に群がってくる。

 死霊兵たちも無表情のままおもいおもいの武器を携え、やってくる。


「悪いが、少し本気を出すと決めたのでね……忍法・火遁、火炎車!」


 忍法・火炎車。気流などで炎を操り、周囲に飛び火させながら、その規模を拡大させていく忍法である。炎は俺を中心に駆け巡り、外へ、外へと広がっていく。燃えうつるものはなんでもいい。

 それこそ地面に生えた草や衣服、死体でもな。


「街一つを壊滅させたんだ。当然の報いと思えよ」


 火炎車は、またの名を火災旋風とも呼ぶ。炎内部に発生した旋風は秒速百キロにも及ぶとされ、逃げることはほぼ不可能だ。

 俺は神通力の気流操作にて熱波から身を守る。長時間は耐えられないが、問題はない。火炎車の勢いはもうこの陣地を飲み込んでいる。

 耳に響くは盗賊たちの絶叫だが、不思議と申し訳ないという気持ちも殺すことへの罪悪感もわかなかった。


「悪党どもめ、悪魔の炎にまかれろ」


 火災旋風は、俺のいた世界では悪魔の炎とも呼ばれた。

 悪党どもを始末するには、ぴったりな名前だと思うよ。

 そして数分後、焼け野原と化した陣地の中央に俺はいた。


「足止め、完了ってところか」


 さぁ次の獲物はどこだ?

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