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第21話 契約、召喚獣

 ギルドマスターの部屋で俺とアム、そしてなぜかついてきたポーラは母親に叱られる子どものように縮こまっていた。


「で? どうするつもりなのかしら?」


 シーサーペントの幼体を抱える俺、それを見て頬杖をついて見下ろすサリー。

 構図としては捨て犬を拾ってきた子どもが母親に許しを得ようとする感じだ。

 抱えてるのが子犬レベルじゃないことを除けばだが。


「どうすると申されましても……どうしたらいいのでしょう?」


 夜だからなのか、突然押し掛けたせいなのか、それともシーサーペントなんて言う想像以上のものを持ってきたせいなのか。

 なんか全部な気がする。

 サリーは目に見えて不機嫌だ。呆れてると言ってもいい。


「あなた、どこか抜けてるわね。仕事はできるのに……」

「も、申し訳……」

「まぁいいわよ。それより、今はシーサーペントをどうするかだけど……方法は二つ。処分するか、契約するかよ。処分の理由は簡単よ。今はまだ小さいけれど、まぎれもなくそいつは上位種のドラゴン族。シーサーペントは成長すると全長、約十メートルにもなるわ。商船から軍艦問わず瞬く間に沈める海のハンター。Aランク冒険者でも油断はできない強力な存在よ」


 このチビがそんな風になるのは想像できないが、これでもモンスター。しかもドラゴンなんだから当然といえば当然か。

 しかももとをたどればこいつはあのスキュラが眷属として呼び寄せようとした存在だ。


「みゃあぁぁぁ」


 とうのシーサーペントは暢気にあくびをしてくれている。

 くそ、かわいいぞこいつ! よく卵生の生物は最初にみたものを親と認識するとかなんとかそういう話を聞いたことがあるが、まさかこいつもそうなんだろうか。

 あぁ、だとするとなんか処分って心が引ける……。


「んん! 次、いいかしら」


 さっきの考えが顔にでも出ていただろうか。

 サリーはわざとらしい咳払いをする。


「ハイ……」

「で、二つ目は契約だけど。これは言葉の通りよ。これらのモンスターと契約を果たし、召喚獣として使役すること。契約魔法を会得しているものなら大なり小なりの召喚獣を持つから珍しい話じゃないわ。ドラゴン族と契約するなんてなかなかいないけど」


 サリーが言うには契約魔法そのものは簡単なものらしい。だが、単純ゆえに扱いが難しく契約者の力量がモンスターより低い場合は契約魔法の制御を離れて暴走する恐れがあるのだという。


「それで、あなたたち、契約魔法を持ってる子はいるのかしら? 言っておくけど契約魔法は他人の契約を代行はできないわよ。大がかりな儀式をするならできなくはないけど、そんな設備、うちにはないし」


 どうなんだという視線を投げかけてくるサリー。


「契約魔法ですか? すみません、そういうのはあまり……」


 それに対してアムは首を横に振る。


「すみません、私も……思い出せる範囲では……」


 ポーラも同じ感じだ。


「それじゃ残るのはキドー、あなただけど……」

「……ある」


 そう、あるのだ。俺には、忍者にはこれらモンスターを使役する忍法がある。

 日本における伝説的な忍者の一人、自来也。かの忍者は仙人より授かったオオガマの術で巨大なガマガエルを召喚、使役したという。

 そして当然、巻物にはその忍法がしっかりと記されていた。

 忍法・超獣召喚。自らと契約した動物、モンスターを自在に操る術だ。その際には神通力による強化を与えることも可能で、それゆえに超獣という名前がつく。契約する相手は生物と決まっているが、この世界の契約魔法と同じく、自身の力量に合わせた存在でなければ自滅する技でもある。


「我ら忍者には偉大なる先達がいてな。かの忍者は強力な召喚獣を使役し、悪党を懲らしめたとある」


 俺は巻物を取り出し、超獣召喚の項を開く。

 この忍法を行うには巻物が必要だ。というのも、これそのものが契約用の道具でもあり、召喚用の道具でもあるからだ。なくすと大変だな、この巻物。

 俺は巻物を広げ、俺とシーサーペントの周囲を覆う。広がっていく巻物の帯は次第に俺たちを包み込み繭のような形となった。

 その空間の中は一種の異次元空間と化す。内容としては影隠の応用のようなものだ。

 そして俺はシーサーペントの額に手をあてがう。


「契約、完了」


 契約そのものは驚くほど簡単に終わった。それはシーサーペントがまだ幼体だからだろうか。

 とはいえ、これで俺は召喚獣までゲットしたことになるな。まだ子供だ、戦いに駆り出すとかはできないだろうけど。

 契約が終わると巻物は自動で元に戻り、俺の懐の影にしまわれていく。


「終わったぞ。これにてこのシーサーペントは俺の召喚獣だ」

「くかぁぁぁ」


 シーサーペントは大きなあくびをしている。

 なんだかしまらないね。


「わぁ! 凄いですよキドー様、ドラゴンと契約ですよ!」

「まだ幼体とは言え、これはちょっとした偉業ですよ。ドラゴンは名だたる冒険者でも扱える人は少ないんですから」


 アムとポーラはまるで自分の事のように喜んでくれる。

 そんなこと言われたら俺もその気になっちまうじゃないか。


「盛り上がっているところ悪いけど、あなたその子をどこで育てるつもりよ」


 サリーの一言に俺たち三人は一瞬で固まった。


「いや、あのね? 契約は契約でしかないからね? 召喚も召喚でしかないのよ? 都合よくどこか異空間にしまわれるわけでもないし。ドラゴンを使役するものが少ないのは力量だけじゃなくて育てるのが困難だからよ?」


 今明かされる衝撃の事実……じゃない!

 冷静に考えればわかることじゃないか!

 お、俺としたことが調子に乗ってホイホイと契約してしまったぞ。どうする、どうすればいい?


「お、俺の家じゃ育てられねぇ! あ、いや待てよ。影隠の中なら……!」

「あ、待ってください。この子、影から出てきてませんでした?」


 アムの言葉でそれを思い出す俺。

 そうだ、こいつ、どうやったのかは不明だが俺の影隠から自力で脱出したんだった。まさか影空間の中で生まれたから影の耐性でもできてるのか? 影の耐性ってわけわかんねぇけど。

 いや、今はその理屈はどうでもいい。つまりは俺の影でも育てることは不可能だということだ。


「シーサーペントは水なら海水でも湖で池でも育つわよ。大きくなったらそれどころじゃないけど」


 助け船のつもりなのか、髪の先をいじりながらサリーは億劫そうに言ってくる。

 水と来たか! それなら、俺の水遁の術で……その前に土遁の術で池を作る必要があるか? あぁでもそんな土地がどこにあるんだ。

 神父様に許可を貰って教会にでも作るか!?


「あのぅ、ちょっとよろしいですか?」


 その時、ポーラが動いた。

 彼女はおずおずと手を挙げる。


「修道院のお庭に大きな池があるじゃないですか。あそこなら、問題はないかと……聞くところによれば深さも結構あるようですし」


 そういえばあの修道院。中に入ったことはないが、池があるってのは聞いたことがあるな。


「どうでしょうか?」

「いいんじゃないかしら。契約が完了してるところを見ればキドーがバカをしない限りはこちらに危害なんてないでしょうし」

「しませんよ、そんなこと」


 とにかく、これで何とか飼育場所も確保できたな。

 これで何とかなるか? 


「ところで、このシーサーペントちゃんをキドー様が契約してることってばれたらどうなるんですか?」

「ばれ、る?」


 アムの突然の言葉に俺は首をかしげる。


「ほら、形はどうあれキドー様ってDランクじゃないですか。そんな人がドラゴン族と契約したってばれると色々と問題があるんじゃないかなぁって。それに修道院で育てるのはいいですけど、あそこ、用がない限りは男性禁制ですよね?」

「あ……」


 そりゃそうだ。つい最近街にやってきて登録したばかりの俺がドラゴンを使役してるって知られたらそりゃ目立つに決まってる。


「ぎ、ギルドマスター!」

「な、なによ!」


 俺はもう最後の手段に出た。

 サリーにすがるように彼女の手を取り、懇願する。


「頼む、名前を貸してくれ! こいつはギルドマスターが持ってきた召喚獣ってことにして置かせてくれ! それ以外の世話は俺がする! 頼む、助けてくれ!」

「わ、わかったから。わかったから、ちょっと離れなさい」


 いきなり名前を貸せと言われてさすがのサリーも慌てたとみるべきだろうか。ちょっと顔を赤くして、周囲の枝を使って俺を押しのけると、深くため息をついた。


「あぁ、もう……名前、ねぇ。いいわよ。名前ぐらい……でもそれだけよ。餌から何から何まで。責任はあなたがとるのよ」


 こうして、後日シーサーペントは無事、修道院の池に移されることになった。

 名目上はギルドマスター・サリーの所有モンスターとして登録される。

 突然の出来事であったが、何とか収まった。

 とはいえ、これからが大変だよなぁ……。


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