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第18話 くすぶる危機

「よくやったわ。カウウェルの身柄は確保、奴が関わっていたとされる行方不明事件の詳細も調査していけばわかるはずよ。書類の類は残ってないと思っていたけど、写し石があるのは幸いだったわね。それに動かぬ証拠でもある地下室とそこに囚われていた女性もいる」


 サリーは俺の報告を聞いて大喜びをしていた。

 あの後、俺はカウウェルの屋敷の地下室を捜索、するとそこには十数人の女性が薬か魔法で眠らされているのを発見した。そこは元はワインセラーか何かだったようだが、無理やり拡張し、攫ってきた女性たちを一時的に隠しておく場所として使っていたようなのだ。

 またカウウェル以下、あの周辺に住んでいたものたちも全員を捕らえることに成功。現在は取り調べ中とのことだ。


「余罪に関してはこれからゆっくりと吐き出させればいいとして……イーゲル、奴らはそう言ったのね?」


 屋敷の中を調べてもそのイーゲルという存在については何も残っていなかった。地下室に通信機器の類はなく、メイドを通してテレパシーなどで情報のやり取りをしていたと思われる。

 あのメイドからはそれなりの魔力量が検出されており、もとは魔法使いであったというのだ。

 彼女は現在、ギルドの医務室で治療中である。


「誰の事なのかわかるのか?」

「そういえば、あなたはこの国、というか大陸の出身じゃないのよね。なら、知らないのも無理はないか……イーゲルというのはここ最近勢力を伸ばしている盗賊集団の頭領よ」

「盗賊集団? 結構な規模なのか?」

「えぇ、頭領のイーゲルを含めて構成員は元はどこかの国の部隊だったという話よ。戦闘にも長けていて、魔法使いらの存在も確認されている。ただの寄せ集めというわけじゃないのが面倒なところね。およそ五百人規模、盗賊集団としては破格の軍勢ね」


 五百か。そいつらが全員戦闘員だとすれば確かに脅威だな。

 そんな連中がハーバリーを襲撃するとかちょっとこれはヤバいとかいう問題じゃないぞ。ハーバリーのギルドに所属する冒険者の数は百人ちょっと、そのうち最高ランクがB、これがおよそ十人。あとはCとDしかいない。

 Bランクは大体騎士団長を任せてもいいレベルらしいが、圧倒的に兵力が足りない。それ以前にこの街には民間人の方が多い。


「五百人規模ともなれば動きを察知するのは可能よ。それに、襲撃されるとわかっていれば対応もね。ギルド本部と領主にも報告しておくわ。彼らだって、軍を動かさないと危ないってわかるはずだし」

「しかし、軍の編成というのは簡単にできるものではないのだろう?」


 あんまりそういったものには詳しくないが、兵隊をそろえたとしてもじゃあ誰が指揮するんだとか、装備はどの程度とかこの辺りを決めるのにも時間はかかるものだろう。


「えぇそうね。最低限の装備でせかしても一週間はかかるかも。困るのはイーゲルたちが今どのあたりにいるかなのよね。こちらにまだ連絡が来ていない以上、遠くにいるのだと思うけど」

「所望とあれば調べるが?」


 その場合、ハーバリーを長く離れることになりそうだが。


「もちろんよ。でも、今すぐにというわけではないわ。カウウェル捕縛の知らせは奴らにも届くはず。そこで動きを変える可能性もある。今はまだ時期を見計らうのよ。それに、あなたにも準備が必要ではなくて?」


*************************************


 サリーへの報告を終えた俺はギルドの医務室へと顔を出した。


「たしになるかわからんが、薬と栄養剤だ。必要とあれば蜂蜜もわけるが」

「ありがとうございます。お薬などはあちらへ」


 一応、俺が彼女たちを助けたということはやはり秘密だ。

 俺は騒ぎを聞きつけて薬を分けに来たというていでやってきたのだ。

 医療スタッフらしきエルフの職員は簡易テーブルを指さす。そこには大量の薬や治療道具が置いてあった。


「うむ。我が秘伝の薬だ。疲れは吹っ飛ぶぞ」


 医務室には俺が助けたメイド以下、救出された女冒険者たちが治療を受けている。

 目立った外傷はないらしいが、相当強い薬を使われているようで、それを長期間投与され続けていたらしく体力の消耗が激しいのだとか。

 彼女らがなぜ、カウウェルに囚われていたのか。それは単純な話、奴隷などの目的で売買されるからだとサリーは教えてくれた。気持ちの良い話ではない。胸糞の悪くなる話だ。彼女たち以前にも相当数の被害者がどこかへと運ばれた形跡もある。


「マイネルスさん、どうしてここに?」


 どういうわけか医務室にはマイネルスがいた。

 現場監督という感じでいるらしい。

 彼女以外にもラウンジで時折見かける魔法使いの冒険者らの姿もあった。彼ら、彼女らは善意の協力者なのだとか。


「あたしゃこれでも元は回復専門の治癒師だったんだよ」


 一瞬、かわいらしい真っ白な神官のような服装をしたマイネルスを想像してしまったぞ……。

 それにしても治癒師って、そうは見えないが……なんかこう、受付をする前は斧を振り回してそうなイメージしかない。

 そうこうしていると、マイネルスはごんぶとの両腕を広げる。すると緑色の淡い光が放たれていく。


「癒しの風。傷ではなく精神を落ち着かせる魔法さ。使いすぎには注意。頭がぱーになる。リラックスしすぎるんだよ」


 それ、脳内麻薬ってものじゃ……いやあまり詳しくはないけどさ。

 だが、オークが魔法を使いこなす姿は……うぅん、ものすごく違和感。

 しかしマイネルスの魔法のおかげでどこか苦しげだった女性たちの表情が和らいでいく。


「う、うぅ……」

「おや、目が覚めたかい?」


 魔法の影響だろうか。メイドがゆっくりと瞼を開ける。

 なんとなくだが瞳に精気が戻っていた。とろんとしているのは意識が混濁しているからだろう。徐々にだが目に焦点が戻っていくと、彼女はくわっと目を見開いてあとずさりした。


「こ、ここは! 私、なにを……私……私……あ、あぁぁぁ!」


 少し様子がおかしい。

 メイドは頭を振りかぶりけいれんを起こしかけていた。


「落ち着きな!」


 すかさずマイネルスが彼女を取り押さえ、さらに癒しの風を吹きかけていく。

 すると、過呼吸気味だったメイドの震えが収まっていく。


「意識がない間の記憶が流れ込んできたんだろう。嫌な思い出もあるだろうからね……大丈夫かい。ここはハーバリーのギルドだ。安心しな。あんたは元通りだ」

「ハーバリー?」

「あんた、名前は言えるかい? 最後にいた場所は?」

「な、名前……私は、ポーラ……ポーラ・ケイ……さ、最後にいた場所は……う、く!」


 頭痛がするのか、メイドのポーラはうずくまる。

 マイネルスはそんなポーラの肩をなでて落ち着かせていた。


「今は答えなくていい。とにかく休みな」

「助かったの?」

「あぁ、そうだよ」


 マイネルスが諭すように言うとポーラはゆっくりとあたりを見渡す。

 すると、ポーラはぼんやりとした表情で俺を見つけると、少しだけ肩を震わせて身をこわばらせた。

 その目は俺個人にというよりは男という存在に対して恐怖を抱いている様子だ。

 口にはできないひどい目にあっていたのかもしれない。


「ひっ……!」

「見た目は怪しいが、こんなんでも冒険者だ。あんたらの為に薬を届けてくれたんだよ」

「怪しいは余計でしょう?」


 いやわかってるけどさ。この見た目が怪しいのはわかってるけどさ。


「とにかく安心しな。あんたらはしばらくギルドで保護する。あんたらをさらったカウウェルもギルドが捕らえた」

「本当ですか?」

「あぁ本当だ。もうあんたらを傷つけるものはいない。ゆっくりとお休み」


 マイネルスはそう言ってポーラの頭をなでて、再び魔法を使う。


「スリープ。眠れない時はこいつが一番だね。さて、キドー、ちょっときな」

「あぁ」


 俺はマイネルスと共に医務室を後にする。

 今のところ、俺にできることはないしな。


「私からも改めて礼を言うよ。女を傷つける奴らはクズだからね。あたしがいたらひねりつぶすところだ」

「優しい人なのだな、あなたは」

「はっ! あたしゃオークだよ。腕力でしか解決できない女さ。ま、それでも女だからね。傷つけられた子たちはほっとけないんだよ」

「……彼女たちはこれからどうなる?」

「さてね。親元や故郷に帰すのが通常だろうけど。その前に、きついだろうが事情聴取さね。言いたくないこともあるだろうけどね」


 そのことに関しては俺も何も言わない。それは彼女たちの名誉に関わることだからな。

 そんな彼女たちの名誉を傷つけたカウウェルを捕らえることができたのはよかった。

 とはいえ、問題はまだ残っている。


「聞いたよ。イーゲルの盗賊団がくるかもだって? あいつらは獣さ。綺麗どころの女がいればそれが国だろうが村だろうが平気で襲って奪っていく。ま、あたしらオークの街は絶対に襲わない貧弱野郎どもだがね!」


 そう、イーゲルとかいう奴が率いる盗賊団だ。

 サリーはまだ動くなと言っているし、俺も何の準備もしないまま突撃する気もないので今のところは保留だ。

 しかし、そんな連中なのか。カウウェルがさらった女性たちはもしかしたらそいつらの元に送られているのかもしれない……下種どもめ。


「しかし、なぜ連中はこのハーバリーを?」

「さぁねぇ。でもなんとなく心当たりあるよ。うちのギルドマスターは美人だからねぇ」

「まさか。ギルドマスター一人の為に?」

「あの連中はそれぐらいはやるさ……綺麗な娘がいたっていう街が連中に攻め滅ぼされてるからね……軍も手を焼いているのさ」

「そうか。では、俺も少し、本気を出してもよさそうだな」


 鬼畜外道にかける情けはない。

 俺はそう心に決めた。スキュラの一件でもそうだが、この世界は意外に厳しい。簡単に人が死んで、街が滅びる。

 一見すれば多種族が共存する夢と希望にあふれたファンタジーだが、絶対とはいいがたい。

 どんな世界にもクズはいる。

 なら、そのクズを闇に紛れて刈り取ろうじゃないか。


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