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第17話 くっころを演じるのも大変です

「綺麗に片付いてるな」


 当たり前だが、見られて困るようなものを人目につくような場所に置いたりはしない。

 俺は一応、屋敷の中をくまなく探してみたが、やはりそういった類のものはどこにも見当たらなかった。ついでに窓に罠の類はなかった。

 ざっと二時間ぐらいだろうか。カウウェルの屋敷は大きく見えて意外と狭い。豪華な調度品は設置されているのだが、ほとんどがただ設置されただけ。

 客間もあるにはあるが、必要最低限の設備しかない。

 金持ち要素を感じるのは応接間だけで、真っ赤な絨毯に大型の暖炉、そして柱時計が壁際に置かれているぐらいだろう。

 なんだか倉庫とかを無理やり改造したみたいな感じだな。


「さて、どうやら時間の無駄だったようですね」


 その応接間で余裕の表情を浮かべながらソファーに座るカウウェル。


「だ、黙れ! お前だ、お前が仲間をさらったに決まっている!」


 焦ったふりをしつつ、俺は最後にこの応接室を調べていた。

 というかここが本命だ。ざっと見渡した限り、他の部屋はただ用意しただけな感じがするのに対して、この応接間だけはやたらと生活感がある。

 隠しきれない人のニオイというべきか。強化された俺の身体能力であれば、それぐらいの違いは判る。

 この応接間には人のニオイが強いのに、他の部屋はほぼ感じない。

 掃除に入る程度なのだろう。


「ではその証拠はどこにあるのですか? あなたはこの屋敷をくまなく探したはずですよ?」


 ぶっちゃけ証拠なぞなくても悪事を暴くことは可能なのだが、ここはあえて泳がせてみるべきだな。


「くっ……!」


 俺が変装したパツ金美女の設定は、仲間を心配するあまり視野が狭くなって暴走している女冒険者といった具合だ。

 何も見つけられなくて焦った姿を晒している。

 姿を借りた女性には申し訳ないが、これも仕事なのだ。許してくれ。


「そ、そんなはずは……」

「はぁ……やれやれ、これから人と会う約束があるのです。もう御用はないようですし、そろそろお引き取り願いたいのですが?」

「ま、まだだ! この部屋はまだろくに調べて……」

「勝手な疑いをかけて屋敷に乗り込んできたのはあなたの方ですよ。ギルドに迷惑行為として訴えてもよいのですよ?」

「くっ……!」


 ということで、俺が演じるパツ金美女は悔しそうな顔を浮かべて屋敷を追い出される形となる。

 出ていくまでの間、カウウェルと護衛の男の嘗め回すような視線が気持ち悪かったが、こいつらは今見ている姿が幻だとわかったらどんな顔をするのだろうか。


「……さて、動き出すころか?」


 今の俺、というかパツ金美女の状況は敵地に一人で乗り込んでいる状況だ。屋敷から少し離れていくと、牧畜をしていた連中が俺を取り囲んでいた。

 こいつら、俺より忍者みてぇなことしてやがる。

 それはいいとしても、やはりこの土地一帯の人間は関係者だったか。見たところ、数は三十とちょっとといったところか。

 この数では、いくら装備を整えた冒険者でも取り押さえられるだろうよ。


「へ、へへ。悪いねお嬢さん」


 じりじりとこちらににじり寄ってくるのは全員男だった。

 その殆どが弓を構えている。うち、何人かは杖を持っているところを見ると魔法使いもいるようだ。

 

「う!?」


 魔法が発動したのか、光の輪が全身を縛り付ける。

 結構強力な魔法のようだ。

 こいつら、ただのごろつきじゃないな?

 身動きの取れない俺に男たちが群がり、下品な笑みを浮かべながら服をはがそうとする。


「ま、楽しませてやるからよ。そう悪いもんじゃ……」

「一つ、言っておく」

「あん?」


 だが、俺は慌てない。既に、仕込みは終わっている。


「吹き飛ぶぞ?」


 その瞬間、俺の……いや、入れ替わった式神ちゃん二号の体が爆発する。

 忍法……といっていいのかどうかはわからないが、式神に火薬を持たせて、着火、爆発させることで移動できるリモート爆弾として扱うことができる。

 ただし爆発の範囲は小さく、殺傷力も大して高くない。だが、至近距離であれば目をつぶせるし、鼓膜だって破ける。場合によっては大やけども負うだろう。

 応用としては弾丸などの鉄の塊を仕込んでおくことで威力を高めることもできるが、今回はその準備をしていない。

 ともあれ式神ちゃん二号の犠牲により、三十人もいたごろつきどもはその大半が一瞬で戦闘不能になった。

 


「欲に駆られて群がるからこうなるんだ馬鹿どもめ」


 何をしようと群がったのかはわからんでもないが、もう少し冷静になりゃ火薬のニオイがわかっただろうに。

 さて立って動ける連中も目と鼓膜をやられたのか、混乱している。

 制圧するのはたやすいものだった。適当にぶんなぐっておけば気絶する。あとは縄でくくっておけばオッケーてなもんだ。


「結構爆発したが、それでも範囲は狭いものだな。もう少し火薬は時間をかけて作るか」


 今回使った火薬は俺が採取クエストで集めた素材から調合したものなのだが、肝心の硫黄だけはそう簡単には手に入らず、少々質の悪いものを仕方なく購入したのだ。質のよいものは目が飛び出るほど高い。

 くそ、火薬は貴重だぜ。


「まぁいい。ちょっとえげつないが、新しい戦法も編み出せた。さて……余裕ぶっこいてるカウウェルの鼻でも明かしに行くか」


*************************************


 罠がないとわかっていれば、忍者らしく忍び込ませてもらうだけだ。

 俺は再びカウウェルの屋敷に戻り、窓から侵入を果たす。当然、用心は欠かさない。おそらく先ほどの爆発はカウウェルたちも把握していることだろう。

 注意がそちらに向いているだろうからマイナスってわけではないのだが。

 俺はそのまま天井を進みゆく。目指すは明らかに違和感のあった応接間だ。


「あのバカども。何をしているんだ」


 応接間にたどり着くとカウウェルが小さく頭を抱えていた。


「抵抗されたのだろうが、目立つ魔法を使いおって」


 あの爆発をごろつきたちの仕業だと思っているらしい。


「確認してきますか?」


 護衛の男が立ち上がり言うが、カウウェルは首を横に振った。


「放っておけ。あいつらとて軍人だった連中だ。それに、どっちにせよ、この屋敷とは今日でおさらばだ。書類の処分は完了しているだろうな?」

「はい、全て燃やしています。ただ、やはり写し石だけは」

「まぁ仕方あるまい。連中の中にマニアがいれば売りさばけばいい。それで足はつかん。それにまだ売り出してない商品もいるからな。処分はできん」


 あいつら、写し石といったか?

 この世界にはいわゆる写真の技術はまだできていない。だが、その代わりとなるような魔具が存在する。それが、写し石だ。魔力を込めることで、写し出した相手の姿を石の中に残しておくことができるのだという。

 原理はいまいちわからないが、これが写真の代わりになっている。


(証拠としては良さげだな……あと他にはないか?)


 最悪その石とおそらく被害者であろうメイドを確保すればいいはずだが、もう一つ大きい土産が欲しいところだな。

 などと考えていると、大きな音と共に応接間に置かれた柱時計が真っ二つに割れ、何か仕掛けが作動していた。

 二つに分かれた柱時計の反対側には地下へつながる階段があった。

 そこからあのメイドが昇ってくる。


(やはり、地下室があったか……)


 表にない以上、裏に隠すのは当然だが地下室か。

 なんというか、これもテンプレートだな。


「イーゲル様より、連絡が、ありました」

「うるさい顧客だな……女たちの搬送は時間がかかると伝えろ」

「いえ、それが、近々、ハーバリーを襲撃すると」

「なんだと?」


 二人の会話の意味がよくわからないが、この事件にはイーゲルとかいう奴がかかわっているようだ。名前だけ聞いてもよくわからないな。そいつについても調べないといかんか。

 それにハーバリーを襲撃だと? これまた大きく出たな。イーゲルとかいう奴はそれが可能な戦力を持っているのか?

 だが、写し石と地下室の存在、そして洗脳されたメイドの三つがある。

 ここらで仕掛けるとするか。


「よし、では我々は一足先に……できればあの金髪の女は欲しかったが……」

「残念だな、それは無理だ」

「うん? 何か言ったか?」


 カウウェルが護衛の男の方を振り向くと、奴は目を見開き驚愕した。

 なぜなら俺が鎖で護衛の男の首を絞め落としたからだ。


「な、なんだ貴様!」

「俺かい? 忍者だよ」


 答えると同時に忍者刀のみねうちでカウウェルは沈む。


「カウウェル様……あっ」


 メイドは隠し持っていたナイフを突き立てようとしてくるが、もうろうとした意識で振り下ろされるナイフに当たるような俺じゃない。すぐさまナイフを奪い取り、当身で気絶させる。

 さて洗脳を解除してやりたいところだが、一度ギルドに戻ってからの方がいいかもしれないな。

 それよりも、地下室を調べねぇと。

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