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第15話 能ある忍者は蜂蜜を求める

 この異世界にきて早いもので二週間が経過した。

 スキュラによる町一つ壊滅の影響は良くも悪くも出てきた。

 壊滅したカルロべにはスキュラの魔力の残滓が残っているらしく、それに引き寄せられて海洋モンスターが近海に現れるようになったらしい。

 モンスターがやってくるとなれば、そこは冒険者たちの出番である。稼ぎを求めて、多くの冒険者たちがハーバリーにやってきた。

 その冒険者たちを相手に商売をするために商人もやってくる。結果、壊滅したカルロべには人が集まりはじめ、小さいながらもコミュニティが生まれる。

 今はまだ商人たちや冒険者がたむろする場所でしかないが、遠くない未来にカルロべはまた町としての機能を取り戻すかもしれない。

 そして、俺はというと。


*************************************


「ひ、ふ、み、と……六匹か」


 木々の影に潜み、獲物を捉える。

 俺の視線の先にいるのはソード・ビーと呼ばれる蜂型のモンスターだ。蜂といっても一メートルをゆうに超える大きさであり、特徴的なのは毒針の代わりに剣状の刃物を持っていることだろう。

 その名の通り、ソード・ビーは様々な形の剣を持つ。ロングソードにレイピア、ナイフのように短い刃物を持つタイプもいる。

 これらの刃物は簡単な加工で実戦に耐えうる武器になるのだが、ソード・ビー自体も手ごわいモンスターである。高速移動で接近し、すれ違い様に剣で一閃、一突き、これで串刺しになって戻ってくる冒険者も多いのだ。

 俺が捉えたのは、一般的なタイプでもあるロングソードタイプだ。

 

「結構な数ですね。しかも気が立っています」


 俺の背後で同じようにソード・ビーを覗き見るのはアムだ。

 俺は彼女とパーティを組み、基本的には一緒にクエストを行っていた。

 アムの言う通り、ソード・ビーたちの羽音は激しいもので、結構な距離をとっているにも関わらず、俺たちの耳にはうるさいぐらいに届いていた。


「向こうも警戒しているだろうからな。だが、これで残る巣は一つだ。俺が仕留める、アムは……」

「巣の確保、ですね!」

「そういうこと。行くぞ!」


 手順を確認し終えた後、俺たちはそれぞれの方向へと走った。

 まず手始めに俺はまっすぐにソード・ビーの群れへと駆け出す。俺の出現に反応したソード・ビーたちが怒り狂ったように一斉に剣先を俺に向け突撃してくる。


「シャッ!」


 それに対して俺は合計十二枚の手裏剣を投擲。ソード・ビーめがけて飛んでいく手裏剣は一匹につき、二枚。一枚はソード・ビーたちの剣と腹を切断し、残る二枚目は頭部に突き刺さりとどめを刺す。

 ソード・ビーにはわかりやすい弱点がある。それは機動性を追求したあまり、耐久性が異様に低いということだ。それこそ肩に自信があるものなら石をぶつけるだけでも致命傷を負わせることができる。

 魔法を使えるものがいればそれだけで簡単に討伐できるモンスターだが、剣の切れ味は鋭く人間ならばたやすく突き刺すというのだから恐ろしい話である。


「アム、そっちはどうだ?」


 ソード・ビーの剣を回収しつつ、俺は巣の回収に向かったアムへと声を投げかける。

 五メートルほど離れた地点で、アムは三十センチにもなろうかという巨大なソード・ビーの巣を確保していた。

 一メートルを越える巨体を持つにしては巣が小さいと思うが、幼虫の時点では普通の蜂よりちょっと大きい程度なのだ。

 問題はサナギになってから羽化するまでであり、この時点でどういう神秘か一メートル以上の巨体に成長し、巣を破壊しながら羽化する。

 なお、女王蜂はもちろん、働き蜂になれるのはたったの数匹。残りは共食いによって食料になるのだとか。

 そして新たな女王と数匹の働き蜂兼兵隊蜂によって新たな巣を作っていく。

 なかには数百メートルに達する巣もあるとかないとか。


「とりましたー! ずっしり重たいですよー!」

「よし、クエスト完了だ。ギルドに帰るとするか」

「はぁい!」


*************************************


「おい、あいつまた蜂蜜だぜ……」

「どんだけ蜂蜜好きなんだよ」

「でもソード・ビーの蜂蜜はうめぇんだよなぁ。あれで作る蜂蜜酒は絶品だぜ」

「最近、市場じゃ蜂蜜がやたら安いの、あいつのせいらしいぞ」


 ギルドに帰還した俺たちを見て、ラウンジでたむろしていた他の冒険者たちがひそひそと声を立てる。

 馬鹿にしているというのではなく、呆れているといった感じだ。

 まぁそうなるのも無理はない。

 というのも、俺はここ最近ずっとこのソード・ビー関連のクエストを受けていた。

 その理由は簡単だ。


「お前たちにはわかるまい。兵糧丸には蜂蜜が欠かせないのだ!」


 ひそひそ話を続ける冒険者たちに向かって俺は叫ぶように言った。

 大事な大事な非常食、兵糧丸。めちゃくちゃまずいが栄養満点で一口で徹夜も行ける兵糧丸。その材料の中で最も重要なのが蜂蜜なのだ。


「あんなまずいもんの為に蜂蜜集めてんのかよ!」

「お前ちょっとおかしいんじゃねぇのか!?」

「いや、でも俺あれ結構好きだぜ?」

「待てよ、食ったのか?」


 やいのやいのとうるさい冒険者たちを後目に俺は受付にクエスト達成の報告へと向かう。


「マイネルスさん、ソード・ビーの討伐完了です。それで、この剣は……」

「売却だろ。いつものとこにもってきな」


 もはや顔なじみになったと言ってもいいオークの受付嬢マイネルス。

 ベテランだけあって手続きがスムーズで、各関係機関との連絡調整も彼女に頼めばほぼ一発、すぐさま完了する。

 そんな彼女もちょっとだけ呆れ顔だった。


「蜂蜜もいいんだけどねぇ。もっとこう、他のクエストを受けないのかい? ソード・ビー以外はほとんど採取じゃないか」

「いやなに、ほぼ無料で素材が手に入る採取クエストは便利なものでね。兵糧丸以外にもいろいろと必要なのさ」


 採取のおかげでいくつかの装備を作る準備もできた。その殆どは武器ではないが、あれば何かと便利なものだ。

 特に煙玉などは目くらましにも使えるし、忍者的だからぜひとも作っておきたい。そのほかにも解毒剤なども調合したいし。


「はぁ……まぁ、あんたが何作ろうが知ったことじゃないけどね。言っとくけど、このままじゃCランクにも上がれないよ?」

「そのあたりはのんびりとやるさ」


 さて、これまでの流れでギルドにおける俺の評判はわかっただろう。

 俺の表向きのスタンスはちょっとかわった外国人冒険者というものだ。

 これはサリーの入れ知恵だ。万が一にもスキュラ討伐の詳細が外部に漏れた際に、俺が適度にバカを演じた方が誤魔化しが効くからだとか。

 これに関しては俺も同じ考えで、忍者としての本業を考えた時に俺に疑いの目を向けたところで普段から多少のバカを演じていれば疑いも消えていく。

 そして俺のこの演技に拍車と説得力をかけてくるのが……。


「キドー様! 私、そろそろ蜂蜜パンケーキが食べたいです! 紅茶にも入れたいですし、キャンディも作りたいんですけど!」


 何を隠そうアムだ。

 なんというか、天真爛漫で、素直な良い子なんだけどね。

 底抜けに明るい性格のおかげか、俺のこのノリにもついてきてくれる。

 かつての仲間、ハンスとキャニスが揃ってふるさとに帰った時は少し落ち込んでいたが、今では二人のお祝いの品を買うためにとか、装備を新調するためという目標を立てながら俺と一緒にクエストに参加してくれていた。

 それに、なんだかんだとアムには助けられている。主にこの世界の常識などを知るときは彼女に教えてもらうことが多いのだ。


「うーむ、一応兵糧丸用なのだが、毎回付き合ってくれるわけだしなぁ……よし。蜂蜜を加工してくれる店でも探すか。飯屋を回れば一人ぐらいはいるだろう!」


 まぁ、俺は俺でこのノリは結構楽しんでいるんだがな。なんかこう、羽を伸ばせるというか、童心に帰れるというか。


「あー、お楽しみのところ悪いけどね、キドー。ご指名だよ」


 マイネルスの言葉を聞いた瞬間、俺は笑顔を張り付けたままぴたりと立ち止まった。


「今すぐに来いだってさ」

「……承知」


 俺は小さく頷くとアムへと目配せをする。


「あの、それじゃ蜂蜜はこっちで保管しておきますね」


 アムは蜂の巣を抱えたまま、こちらの意図を察してくれる。こういうところも、気の利く子だと思うのだ。

 ご指名が入る。この言葉をマイネルスが言った時、それは俺のもう一つの仕事の時間が来たという合図でもあった。


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