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第12話 報告、そして新たな任務

 ギルド・ハーバリー支部。サリーの部屋に俺は報告の為に訪れていた。

 一瞬でその場に現れるようにしながら、片膝をつき、頭を垂れる姿勢だ。


「ギルドマスター、カルロベの町について至急お知らせしたい事が」

「きゃっ!」


 なんか、可愛らしい悲鳴が聞こえたな。ちょっと意外だ。

 しかし今はそれよりカルロベの報告が重要なのだ。あの町、放っておくのはヤバイ。

 俺は報告の続きを述べるべく、顔を上げた。


「あ……」


 するとそこには全裸姿のサリーがいた。

 なんで、全裸? まさか、光合成?

 確かにこの部屋、どこからともなく太陽の光が差し込んでるけども……。

 ってなに言ってんだ俺は! 視線下げないと!


「も、申し訳ございません!」

「あなた、デリカシーってのがないのかしら」


 確かに、報告を急ぐあまり殆ど無断で部屋に入ったことは今考えると浅はかだったなと思うけどもだ。

 でも、まさか部屋で全裸になってるなんてそんな特殊な趣味をもってるとは思わないし。


「暫く、顔を伏せていなさい!」

「はっ!」


 という事で俺は言う通りじっと地面を見つめる。


「全く……仕事が早いのね。これでまともな情報じゃなかったら養分にしてやるわ。それに、アムにひどい事したそうね」


 ものすごく怒られている。当然のことをしたんだけどさ。

 その間、するすると衣服を着る音だけが耳に届いてくる。

 

「一体どんな魔法を使ったのか知らないけれど、彼女、門番が助けるまでずっと入り口で泣いてたそうよ。今も心配しているみたいだけど?」


 あぁ、そういえばアムにも悪いことをしたな。仕事が終わったら謝らないといかんな。

 そして数分後。


「いいわよ。報告をきくわ」


 サリーは余裕を取り戻したのか初めて会った時のような声音だ。


「はっ、では……」


 ちょっとぎこちない空気の中、俺は報告を始める。

 カルロベの町は謎の亜人に支配されている。方法も理由も不明だが、今なお町の外から人を集めては薬を盛って確保している。

 危険性は大きい。即刻、軍隊なりを差し向ける必要がある。

 それが俺の報告であり、知見だった。


「なるほど……あなたの話を聞く限りでは、その町長の奥方は恐らく……スキュラだわ」


 スキュラ。俺も知識としては知っている。上半身は美しい女だが、下半身はたこ、もしくは魚であり、場合によっては腹部から犬の頭が生えているという存在だ。

 確かに、あの奥様の下半身は間違いなくたこだかイカのそれだった。犬の頭は見当たらないが、まず間違いないだろう。


「あまり考えたくはないけれど、カルロベの町は死んだも同然ね。スキュラが住み着いた、そして女性の姿がない……スキュラは嫉妬深いから」

「つまり、女性たちは殺されたと?」


 女の姿だけ人っ子一人見当たらないのは不自然だったが、そう考えるとアムたちは逃げ出せて運がよかったとみるべきだな。


「それならまだマシって所かしら。でも男も悲惨かもしれないわね。スキュラは他者の精を吸い取るのよ。それで力を蓄える……見た目だけは美しいから、男たちはコロッと騙されるわ。おそらく、初めの被害者は間違いなく町長ね。そこから町の節々に触手を伸ばしたとみるべきかしら」


 サリーはそこで一区切りつけた。


「……想像以上の情報よ。敵の正体がわかっただけでも十分すぎる成果だわ」

「それで、これからどうしたらいい?」

「そうねぇ……カルロベの町はもはや見捨てるべきね。確か、出稼ぎに来ていた者たちがいたという話だけど、彼らも無事ではないはずよ。精を絞りつくされたか、それとも操られて兵隊にされるか……まっとうな人生では終わらないでしょうね」

「軍隊を出動させる事は出来ないのか? できれば、見捨てたくない」


 今更かもしれないが、やはり彼らを見殺しにすることはできない。

 彼らの命と情報の鮮度を天秤にかけ、情報を選んだ俺が言える事ではないが……今ならまだ間に合うかもしれない。


「今すぐには無理よ。でも持ち帰ったこの情報があれば無視はできないわ」


 サリーは、牽制するように言ってきた。


「彼らを助けたいだけではない。どうにも、嫌な予感がする」


 だが、俺は彼らを助けたいだけではなく、あの町は放っておいたらまずいとも思っている。

 時間を与えれば与えるほど、危険性が増していく、そんな気がするのだ。


「嫌な予感とは?」

「ただ餌が欲しいから、町一つを支配した……本当にそれだけの理由なのかと。ギルドマスター、あなたは何か思い当たるものがあるのでは?」


 すると、サリーは小さくため息をついた。


「鋭いと言えばいいのかしら。それともあてずっぽうのまぐれなのかしら。多分、いえ、間違いなく、スキュラは眷属を生み出そうとしているわね」

「その危険性は?」

「蓄えた魔力、エネルギーによるわね。町一つ丸ごとだとすれば……大海魔レベルの眷属を呼び寄せても不思議じゃない……軍隊でもてこずるかもね」


 いまいち、その大海魔とやらの規模、脅威度はわからんが、ろくなもんじゃないのは間違いない。

 ますます放っておくわけにはいかないじゃないか。


「スキュラの首を取ってくれば、どうなる」

「……どういう意味かしら?」

「全ての元凶はスキュラにある。今からでもこいつを始末すれば、眷属も産まれないのでは?」

「理論上はね。でも……あなたにそれが可能なのかしら? 今から再びカルロベに向かって? 眷属の出現を抑える事は不可能かもしれないわよ?」

「それについては問題ない。俺は、まだカルロベにいる」

「……どういう意味かしら?」


 俺が何をいっているのかわからないという表情を浮かべるサリー。

 まぁ言葉だけじゃ意味が分からないのは当然だろう。


「こういう意味ですよ」


 そう答えると、俺の体は煙のように揺らめいた。

 忍法・分身の術。忍者にとっては最もポピュラーであり、有名な技だ。俺はその技を応用し、遠隔操作でサリーの報告に使ったのだ。

 これは他にもカラクリがある。実は、彼女の部屋を訪れた時に、分身をすぐさま送れるように印となる札を扉に張り付けておいたのだ。

 だから、俺は一瞬で彼女の部屋に現れる事が出来た。


「俺はまだカルロベにいる。敵は俺の存在に気が付いていない。闇討ち、暗殺は忍者の得意とすること。どうする?」

「クククく、くくく……あははは!」


 突然笑いだすサリー。その意味は測りかねる。


「面白いわね、あなた。昨日会ったばかりだけど、あなたはあれだわ。冷徹な仕事人のようでもあり、人情に篤いところもある。アンチノミー、二律背反な性格だけど、面白いわ。いいわよ。できるものならやってごらんなさい。そこまで言い切る自信があるなら、見事やり遂げて見せなさい」

「それでは?」

「えぇ、追加報酬を出しましょう。見事、スキュラを討伐しなさい」

「御意」


 俺は頷き、分身を消した。


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