第1話 それは紛れもなく忍者だった
「そんなんだからあんたたち三重県人は名古屋人に名産品取られるのよ! もっと欲を持ちなさい、欲を!」
いきなりだが俺は正座姿で自称女神と名乗るノースリーブミニスカ姿の黒髪ポニテ美少女に説教を受けていた。
城戸音羽、二十九歳。それが俺だ。三十じゃないんだからまだおっさんではないと思っている。
それはさておいて、突然何を言い出すんだコイツと思われるかもしれないが、俺はどうやら死んでしまったらしい。
どーにも死ぬ前の記憶があやふやで記憶にないのだが、目が覚めたら真っ白な空間に一畳間がふよふよと浮かんでいる場所で正座をしていた。
そしたらポニテ女神様が「あなたは死にました」というので死んだらしい。
死ねばその魂が天に召されるはずなのだが、その前に女神様がキャッチして今に至るというわけだ。
「天むすもひつまぶしも味噌カツもぜぇぇぇんぶ三重県発祥だってぇのにあんたら三重県人がのんびりとしててろくにアピールもしないもんだから全部名古屋名物にされちゃってるじゃない! 最近じゃトンテキまで名古屋名物とか言い出してるわよ! 三重県担当女神の私の目の黒いうちはトンテキだけは死守させてもらうわよ!」
死んでしまった理由はわからないが、俺はどういうわけか女神様に気に入られて、特別に異世界転生させてもらえるのだという。
なんでも名前が気に入ったらしい。
しかも何やら特典付きでだ。この手の展開は大体理解はできるがまさか自分の身に降りかかるとは思わなかった。
女神様からそんな感じの説明を受けていた俺だったが、提示された特典内容にちょっと突っ込んだ。
いや、悪い内容じゃないとは思う。ただ、非常に偏っているというか、なんというか、えらく趣味にのめり込んでいるような、そんな特典だったのだ。
それについて突っ込んだら、どうにも駄目だったらしく、最近の日本人はやる気がないから始まり、なぜか今では名古屋ディスリになっているというわけだ。
「いや、言わんとすることはわかるけどもさ……」
まぁ名古屋名物の大半は名古屋発祥じゃないってのは聞いたことがあるが、それを俺に言われても困るというか、そういうのは知事とか市長とかに言ってもらわないと。
観光アピール大使とか呼んでさ?
「というか、さっきちらっと三重県担当女神とか言ってたけど、それってどういう意味?」
まさかあと四十六人もこんな女神様がいるのか?
それ考えるとなんか騒々しいな。
「三重県で神様っていや色々いるけど……まさか、君はアマテ……」
比較的マイナーな三重県でも重要な名所といえばそう伊勢神宮だ。
そこに祀られている神様といえば、なぁ?
だけども俺の言葉を遮るように女神様は手をかざして首を横に振った。
「違うわよ。アマテラス様と一緒だなんて畏れ多いこと言わないで頂戴。あの方は日本全土の神様だし。私はあれよ、西洋風に言えば天使、エンジェルよ。一応女神ってことになってるけど。私はこの三重県を担当しているわ」
なんかよくわかんない組織図らしいな。
聞いても理解できなさそうだから無視するが。
「お察しの通り、日本の四十七都道県にそれぞれ担当となる女神がいるわ。男の場合もあるけど、ま、いいわ。とにかく! あんたの異世界転生特典はこれで決まり! これしか認めません! いいですね!」
そう言って女神様は時代劇なんかに出てくる巻物を俺に押し付けてくる。
「貰えるなら貰いますけど、これ本当に役に立つんですか?」
「その点はご心配なく。人間が想像したようなことは一通り可能だから。というかこれぐらいできなきゃ駄目でしょ。何言ってんの?」
「いやでもなぁ……これは……」
俺は受け取った巻物を広げてみた。そこには達筆な筆文字で書かれた文章があり、その内容こそが俺に与えられる特典なのだという。
特典内容その一、肉体強化。これはシンプルだ。
特典内容その二、神通力。ちなみにすぐ横に魔力とかっこ書きされている。これもシンプルでわかりやすい。
二つとも特という字が丸で囲ってある。女神様曰くこれは「特上、特別って意味よ。つまりSランクとかEXランクとかそんなもん」とのこと。
この辺りはまだいいだろう。お約束と言ってしまえばそれまでだからな。
だが、問題なのはここからだ。技能という欄がある。またしてもかっこ書きでスキルと書かれていた。
かなりの量が羅列されている。
「えぇと、まず最初が……分身」
「必須でしょ。むしろできない方がおかしいわね」
「んで、水蜘蛛?」
「これも基本ね。水の上を歩けるわ。ま、神通力を使えばなんとでもなるけど一応ね?」
「空蝉」
「敵の攻撃を避ける時に使うとかっこいいわよね。変わり身とは違うからね?」
「……影縫い」
「敵の動きを止められるわ。こう、シュッとやるのよ」
「色々すっ飛ばして……最後に五遁」
「属性技だって使えなきゃ話にならないじゃん!」
さて、ここまで言えばもうわかるだろう。
「忍者だこれ」
そうなのだ。俺に与えられる特典とはまさしく『忍者』なのだ!