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Elder Gear Online  作者: 御堂 竜座
93/94

93話

執筆再開しました。

活動報告の方をご一読ください。


 



 ストーリーに関わる重要な作戦(グランドクエスト)、その初回。

 開幕導入のイベントは局所的なはじまりだった。

 あらかじめ用意されていた手段によって全プレイヤーへと開示されているとはいえ、突拍子もないスタート、あるいはゲームのイベントだという程度の認識にしかならない。


 ハルトマン本人がどこまでストーリーの細部を構想しているかは分からないが、その考えを読み切っての行動はできないだろうことを昌司は感じていた。

 そして、ここでしくじって、「何事もなく進む」とは思えないだろうということもまた、薄々と感じられた。



 ……いずれにせよ、ゲームである以上は対策なしでは攻略はままならない。


成功させるためのログイン前作戦会議の第一声は【アイオーン】で、

「『やっぱり、殲滅力が足りないかなぁー……』」

 大きなため息とうなり声が三者三様に重なった。


 「やはり“パーティ―としてのバランス”を考えた上での不足、それをどう補うかというものは大きいな」

「『確かにねー。かといって【ムラマサ】さんは……なにか考えがあって戦闘に参加しないみたいだから、戦力の頭数にカウントしない方がいいみたいだし』」

「『あれって何かのイベントクエスト的なのを受けてる、とかなのかな?』」

「どうだろなぁ。どう動くか読めない人ってことだけは確かだけど」


 この意見にこの場の全員が同感のようで、話題の当事者である【ムラマサ】は

――『彼』は、用事があるから参加できないけれど、ログインには間に合わせるという連絡はあった――

攻撃職系のはずなのに戦力としてなぜか動かないというスタンスを取っているから火力の当てにはできない。


「とすると、どうしたものかね……」

 その問題の解決を、昌司は端末でアランのステータスデータをチェックしながら考え込む。

 程なくして、


「んー。まぁこれならなんとかなる、かもしれない」

「『何とか、って?』」


「ああいや、ステータスやスキルツリーって、アセンブリを複数設定できるからさ。攻撃に特化させたセットに変更すれば、殲滅力……は分からないけど、少なくとも火力に関しては心配しないでいいくらいにはなるかもって。たぶんだけど」

「『えっ、そんなことできるの?!』」

「『まあ、普通のプレイヤーなら面倒だからやらないだろうねー。

 こだわって作ればひとつの設定だけでもかなりの時間を喰うし、そもそもスキル構成が組み換えできるとはいえ、取得した種類の大枠自体は共有だから……』」

「『んんー……つまりどういうこと?』」

「たとえば【アイオーン】なら回復に重点を置いた編成をしている。

 そうすると基盤に選んでるのは『医術』系列だから、たとえばそこから発展させて『回復薬生成』とか『安楽死』みたいな即死系の技は割と簡単に習得できるツリーが組める。

 けど逆に、現実で医療に関係ないことを行う設定……『セールストーク』とか『芸人』みたいな畑違いの内容を取るのはなんというか、難しいんだ」

「『なんか絶妙に例えが分かりづらーい!』」

「『そうねー。

 例に挙げる内容にセンスがないのはみなかったことにするとして、非戦闘エリアでないと切り替えはできないから作る意味も薄いのは確かだよ。まぁ、取れないこともないけど。

 関係ないところまで欲張ると、結局作成上で有限な割り振りの数値が無駄にかかるからねぇ』」


 さりげなく二人して批判されているような気がするが、不満を覚えながらも、

「まあ、要約すると全部が全部、なんでもできるようにってのを実現させるのは無理ってこったな」

 と昌司は応えた。すると、

「『二兎を追う者は一兎をも得ず、だね。センスないのは別として』」


 紫歩も説明には納得した様子だったので、話を続ける。


「ちぇ……どーせセンスないですよ

とにかく、火力は工夫次第でなんとかなると思うんで……ああ、あった。これ、スクリーンショット送るんでまずはチェックしてみてください」



 チャットの片手間に、プレイヤー同士のコミュニティを利用して、情報収集を行っていた守谷は、目当てのものを見つけるとすぐにチャット欄へと添付をした。


 表示された画像は、一週間の空きの間に作成した三つ枠のあるスキルセットの登録情報だ。

 済ませていたセット変更のトップは和装のアランの姿があった。

 「とりあえずステータス強いから装備している」かのような、ちぐはぐなデザインの狼男。その内容を流し見して、二宮は一言、

「『……【アラン】っちはどうも、綱渡りが好きだみたいだねぇ。あれかな? ギリギリ感がないと生の実感を感じない系のヤバい人なのかなー。かなー?』」

「……そんなんじゃないですよ。」

「『そんなわけあるってば、ありもあり、大ありだよ。

だってそうじゃなかったらさ、防御面の数値が軒並み0とか、あり得ないでしょ?』」












 * * * ◆ * * *





「犬野郎、テメエはまた随分と……変えてきたわなァ」

「……変か?」

「ええと、その。ぼくはこの格好のアランさんもカッコいいと思う……思います」

「アイオーン……いや、いまはアイネ、だったか。

 自分でも、慣れない装いだとは思ってる。世辞など言わずとも似合わんことぐらい素直に言ってくれていいぞ」

「そんな。世辞なんかじゃないですよ?! その、なんていうか、神秘的っていうか。雰囲気が凄く幻想的で、それでいてなにか怖さみたいなのがあったので、つい、言葉が出なくなっちゃって……」


 

 ムラマサとレーグトニアが扉から出て来くると、先ほどまで話し合っていた部屋に全員が集っていた。

 アラン、ドラウ、アイネは話し合いをしていたテーブルについていて、二人も――ムラマサは後ろに控える形ではあるが――空いている席に着いた。



 『ナミネ』の登場によってアランは考えを改め、

 「ただの傍観者……もはや巻き込まれただけの被害者ではない」

 とだけ述べた。それに伴って、戦闘の姿勢を考え直したのだそうだ。

 他の者達も同じ考えだったのだろうか、思惑の程は分からないまでも、

 「どうにかしなければ」

 と考えていたのだろう。ナミネが去った後後すぐに、各々で小屋の個室を割り振ると、装備を整える算段をつけていた。

 

 ――僅かな時間の合間にそれほど手の込んだ準備ができるはずもない。装備品のチェックや手入れ、消耗品の補填で済ませる程度だろう。

 レーグトニアがそう考える中アランだけは異なっていたことに、驚きを隠せずにいた。

 動揺を誤魔化すかのように、

「……ムラマサ殿の装束に、似ておりますね」


「『灰袴』、という名前らしいが……同じ出自かどうかは知らん。

 これも、記憶にないからな」

「……」

「……ムラマサ殿?」

「あ、ああ。失礼致した。

 祖国の『仇討ち士』という職の者が用いる装束に、似ておったのでな」

「仇討ち、ですか」

「それも見た目だけの話。中身はまさに、見るに慄き書いて文字の如き、『化物』と……くくく、言い得て妙とはこのことかの」


 侍の袴、足軽の槍、忍びの内帷子……羽織に仇討ち士。

 外側だけ、とはまさにムラマサの言葉の通りなのだろう。

 ただ、それらが何かの目的あっての装備であることだけは、外套を仇討ち士のそれと知らない他のものですら感じられる。同時に、それ以上の思惑を察することは誰にもできていなかった。


 名を「灰」と言いながらもほとんどが白い、和装の装束。


 上半身はムラマサの忍び装束の前に着ていたものとほとんど変わらないが、知る者が見れば本来の「袴」と呼ばれる装束とは違うことが分かる。

膝まである甲冑のような具足の内側には布が引き絞られていて、袴本来の足元の広がりはない。どちらかと言えば甲冑に合わせるグリーヴに近い外見なのだが、膝から上に鎧の部位はない。

 上半身は前にも備え付けていたベルトを用いて乱雑に絡め上げてあり、その隙間には無数の投擲具。小ぶりで、一見して黒染めのように見え、しかし隙間なく文字が打たれた呪具なのだろうと分かるそれらが、身体の動きを阻害しない形でうまく差し込まれている。


「大きく変わったのは見た目だけ。そう判断するのは早計……ということに、しておきます」



 その『灰袴』に目線を落とすレーグトニアの言葉は、僅かに言い淀んでいて、逃げるように背を向けた。


 事の顛末についてムラマサから報告を受けたレーグトニアは、他のエルフの族長……フィオセアとエリスシアの一件についても、何が起きたのかを聞いていた。

 アラン達がどのような経緯でフィオセアたちに協力していたかはわからないが、守ろうとした相手が片や人質、片や目の前で死んでしまったのでは、それこそこの装束『仇討ち』のためのモノと言われても、納得できてしまう。

 重苦しくなった話題を逸らすつもりで

「――本当に、街での支度や補給はしなくてもよいのですか」

 誰ともなく告げるが、アランの返す言葉は端的だった。


「戻る時間が惜しい」

「……てぇのは建前で、『塔』の攻略とやらは、一刻を争うだろうというところなんだロ?」

「そうだ。明日の日没を待って、動こうと思う」



 アランが周囲の面々を見渡すと、誰一人として異を唱えることのない真剣な表情がレーグトニアの方を静かに見つめて、その決断を待っていた。


 僅かに迷って、

「そのように……いえ、皆さまにお任せします」

と、結局は煮え切らない返事しかできなかった。

 レーグトニアは、微かに下唇を噛んだ。



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