74話
守谷視点に戻ります。短め。
* * * ◇ * * *
「これがゲームだから、か……」
――しず姉のやること、言うことはめちゃくちゃだ。
守谷 昌司という弟の場合は、毎度のことではあるからと慣れてしまっていた。
けれどもそれは、本来なら普通じゃないことであるということが身近な人ほど気付かないことの裏返しだ。
良くも悪くもヒトは時に言葉と裏腹な思惑を抱えてなかったかのように平然と取り繕うものだということぐらい、昌司自身もわかってはいた。
「……姉ちゃんなりに励ましてくれてた、のかな」
確信はない。
ただ漠然と、姉の取り繕いのきっかけが自分にあるという、本当に漠然とした確信だけだった。
昌司は、姉の言動には真意に確信が持てないが、その言葉は信じるようにしているのもそうした『なんとなく』があるからなのかもしれないな、とやはり漠然とだけ受け止めて姉の言葉の指す意味を必死に反芻する。
「『ゲームなのに』じゃなくて、『ゲームだから』……言われてみりゃあ、そうだよな。ハルトマンにもおんなじようなことで怒らせたってのに全然成長してないよ、おれは……でも」
落ち込んで、決心して、また落ち込んでの繰り返し。
それが裏を返せば感受性豊か、あるいは公明正大、心の広さ……いわゆるカリスマ性になり得ることを、姉が見抜いて羨んでいるが故の、回りくどい助言であったことを、昌司は知らない。
それでも、知らないなりに姉の言葉を受け止めて、気付けば心の余裕を取り戻していた。
「だからって、後悔してそこで立ち止まるのは違う。んなもん、後でもできるよな」
手に押し返されたディススプレイを見やって、まだ拭い切れない不快感を飲み込んで、ヘッドセットを装着。
視点が【エリスシア】の死の場面に戻って、相変わらずの王と感に見舞われながらも周囲を確認していくと、ものすごい量の【ムラマサ】とのやり取りによるテキストチャットと、大きな変化に見舞われていた。
「――なんだ、これ……」
「『あ、【アラン】っち、やっと戻ってきた!
――逃げるよ、とにかく逃げなきゃだよ――!!』」
橋の往来、窓から落ちた位置から砦の入口に目を向ける。どうやら落ちた位置は入った時とは逆の方の入口付近のようで、橋の袂の先に見える森も、やって来た方向とは違いかなり開けているのが分かる。来た方に防衛戦を張っていただけあって、おそらくはこちら側……反対側の方が森の外に近いのだろう。
推察をしているうちに、端砦の上階から降りてきたであろうアイオーンとドラウ、それにムラマサという忍びがこちらに駆け寄ってくるのが視界に映る。その背後には、見慣れた、けれど決して見たくもない敵が次々と発生している。
黒、黒、黒、黒。
これでもかというほどに相手をした黒い影のようなモンスターが、彼らの背後と言わず方々に沸き上がってきている。
出現の最中なのか周囲のそれらは未だ襲って来る様子はないが、どう考えても【アイオーン】に言われるまでもなく、一人で相手をできるような数ではないことはすぐに理解できた。
「とりあえず……走る!」
アイオーンたちが橋の終わり、先に見える森の方を指差す仕草をしながらこちらに来るのを確認すると、昌司も背を向けて駆け出した。




