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Elder Gear Online  作者: 御堂 竜座
68/94

67話

戦闘シーンはいかにカッコよく見せるかを考えるので、やはり書いていて楽しいですね。

だからというわけでもありませんが、説明部分もあるのでちょっと長めです。



 * * * ◇ * * *




「……へえ、『ロールプレイ』希望のプレイヤーなんて今どき珍しい。思い入れのあるキャラクターメイクってのは、いいものだよね」



 話は戦闘より僅かに遡る。


 リタ・ハルトマンの親戚、エミルは一人自室で画面を見やりながら感慨深くつぶやいた。



 ……縁もゆかりもない赤の他人がコミュニケーションをとりながら徐々に構築されていくオンラインゲームのコミュニティは、個人情報の線引きが難しい。


 例えば、楽しめればそれでいいというプレイスタイルの人が毎日ログイン毎日最先端で遊ぶ(エンドコンテンツ攻略)ことを主体にしている団体に加入するなんてことになると、うまくいかずに双方が嫌な気分になって、不和を起こす要因になってしまう。あくまでも一例だが、こうした齟齬には枚挙に暇がないだろう。


 混乱を取り除くためには、やはりコミュニケーションが必要になる。制作する側も遊ぶ側も、今に至るまで様々な工夫をしてきていて、プロフィールテキストはその一端として導入されることもある。


 自分のプレイスタイル、ログインの時間帯やアイテムトレードの希望、ギルドなどの集団のメンバー募集宣伝から個人的な趣味趣向まで。一部の禁止ワードやテキストという制限もあるもののそこには各々が伝えたいことを簡素に、時には事務的、はたまた面白おかしく書き記すことが出来る。




 エギアダルドにおいてもこうした、『プレイヤープロフィール』の項目は入力可能になっている。

 プレイヤー情報……キャラクターではなくプレイヤー自身の情報は公開する意図があればコメントをプレイヤーキャラクターの名前で公開設定にできる仕様。これは、相手が画面上に移った状態でターゲットすれば自由に閲覧できる。


 一言に公開と言っても情報は簡素なもので、キャラクターネームの他には、プレイスタイルが選択項目で「HEAVY」「ROLLPLAY」「ENJOY」の三種類。

 フリーテキストで200文字。

 ステータスは制限があって、特定の申請を相互受理(フレンド登録)した相手に、公開の設定している場合のみ情報が開示される。これはこのゲームのシステムがPvP……いわゆるプレイヤー同士の戦闘行為を容認しているからこその措置だろうことが伺えた。



「さて、どうしようかな……」



 画面上には一人の忍び装束、その姿は黒。

 画面に表示される背景の邪魔にならない位置に、一時的な表示として小さくウインドウが三つ表示されている。表示されたウインドウは、プレイヤー情報だった。

 フレンド申請はせず、プレイスタイルの確認だけであれば一方的な確認で済む、そう判断しての、ターゲットとプロフィール表示を、エミルは行っていた。


 エミルの操作するキャラクター……虎を模した面頬が特徴的な、二振りの刀を携えた歴戦の古強者。【ムラマサ】がどこにいるかといえば、橋砦の窓の外、すこし脇にずれた位置にいた。



「こういうことは三人称視点じゃないとできないから、主観も良し悪しだね」



 ほぼ直角に曲がった両手甲に付いた鉤爪(かぎづめ)の先を石垣の隙間に突き立てて、僅かに張り出した石の出っ張りを足場に壁に張り付いている。

 日の沈んだ紫色の空模様を背景に、闇色に紛れて佇むその様子はまさに忍者といったところだろう。


 エミルの言う通り、彼が行う三人称での視点と、守谷が行っている主観視点とでは『周囲の視認性』という点に大きな差があった。エミルは三人称であることを活かしてカメラワークを操作し、自分(ムラマサ)からでは見えないはずの窓の内側の様子を覗き見ている。ミニマップのようなシステムが実装されていれば別だが、エギアダルドにユーザーインターフェースはほとんどの場合表示されていない。


 もちろんそれだけでは有利過ぎるとおもったのか、待ち伏せ対策として同エリア内に一定時間滞在しているパーティ以外のキャラクターが存在すると、通知が届く仕様もあると説明書きにはあった。書いてあったあったのは隠蔽系列のスキルの説明欄。

 よくよくスキルの性能を読み込んで理解しておこうと思わない限り見落としてしまうだろうなと、エミルはすこし自分の凝り具合に呆れながらも思った。


 詰まる話、スキルや魔法に頼っての探知技能を使用しない限り、視認以外では誰がどこにいるか分からないということになる。

 そこに至って、三人称視点でのこうした様子見は、主観ではできない情報取得で、プレイヤーキラーのようなスタイルを好む者であれば非常に有利な手段と言えた。



「まあ、PKは趣味じゃあないけど。せっかくネフィリム以外のまともなプレイヤーだし……ここは一芝居打ってみるかな。謎のライバルキャラ的な感じかな……いいじゃない、ニンジャっぽいし!」


 よしそれで、と次の手を決めたところで、わざと隠蔽のスキルを使用していなかったために気付いてチャット(シャウト)でこちらを警戒する声が挙がる。


 それに合わせて……少し間を開けて勿体つけてから、【ムラマサ】は窓の中へと身を乗り出した。






 * * * ◆ * * *



「上等だこの虎マスク。いっちょブチかましたらァ!」

「あ~もう、結局こうなるの?! 回復するから、致命傷だけは避けてよねドラウ!」



――いいチームワークだ、とムラマサはその短いやり取りに感じとった。


 蜥蜴頭の鎧男は、ぶちかますといった。かたき討ちでも、助けるでもない。

 無意識の発言だろうから深読みかもしれないが、ぶちかます……つまり突き飛ばすということは、この狗頭の男から引きはがすことを第一に考えている。戦力の補てんとして、盾役がするべき「守る」という点では合理的だな、と判断できる。


 対して、あの……なんとも目に毒な回復役を担うだろう少女。

 彼女は、「致命傷を避けろ」と言った。

 それはつまり、即死でなければ立て直せるだけの実力があるということに他ならない。あるいは、死ななければ最悪の場合でも逃げる程度は叶う、ということだろうか? いずれにしても、出過ぎない冷静な判断ができる良い後衛だと言えるだろう。



「故に、まっこと残念よのう。お主の決断は、ちいとばかり短絡的に過ぎるわい」



 見下した先、忍術で縛られるアランに殊更嫌悪感を含めて吐き捨てる。


 ――こやつのしたことと言えば、なんだ?

 何の警戒も探り合いもなく突っ込んで、捕らえられて。力量を見定める目もなければ、口先での探り合いもしない。自身の立場と能力がどれだけ仲間の中軸にいるかも理解せず、愚かにも捕まることで逃げ出すという判断すら自ら閉ざす。


 自身の有望さ、魅力、地力。それらを当の本人がまるで理解していない。

 まるで、何も知らない子供のような……そんな印象すらある。



「お主もしや憶えておることが――」

「…………ッ!」


 なにかを言いかけたが、ムラマサはそこで言葉を区切る。


 あと数歩で、眼前にゆっくりとにじりよる蜥蜴の、その手に握られた長い両手剣グラディウスの間合いに入る――そう判断したムラマサは、拘束したアランから僅かに離れ、二刀の刀を構える。



「――さて。お手並み拝見といこうかのう」

「その軽口、後になって後悔すんじゃねえ……ぞッ!」



 ――横薙ぎに一閃。

 挙動を最小限に、当てることを最大限に目的とした左からの斬撃を、ムラマサは予見していた。そして、その避け方は虚をつくものとなる。


「なッ――」

「お主には悪いが、戦には定石というものがあってな?」

 二刀を逆手に持ち、横薙ぎの剣撃を浅く斜めに受けて衝撃をいなす。

相手の剣をいなす際の勢いに乗せ、身体を丸め軽やかに前方向に宙返りをする。

 蜥蜴頭の右脇に軽業師のような挙動で抜けると、すぐさま手裏剣(投擲武器)で、ムラマサはアイオーン(回復役)に狙いを定め投擲する。



「くッ……そォォォ! 『我が身は王の盾と在れ(キャスリング)』ッ!」



 ――仕損じた、と理解するのは、眼前で剣を振っていたはずの蜥蜴頭が、叫び声と同時、瞬時に少女と立ち位置を入れ替わったことを視界に捉えているからこそ直ぐだった。

 だが、その一瞬がムラマサの有利を押し戻す。



「執刀両断……てぇいっ!」



 背中に火が付いたような熱を感じ、なにか、斬られたことを遅れて理解する。感じた熱が肌を伝う閑職に、刀と同等の切れ味であることを想像し、それを行ったのが(いくさ)の「い」の字も知らぬだろうと踏んでいたはずの少女の仕業であることに、ムラマサは驚きを禁じ得なかった。


「よもやこれほど……か弱き少女ではなかったか!」

「か、か弱き、少女なんかじゃない! 神代魔法少女 めでぃかる☆アイオーン……悪性腫瘍は退治しちゃうんだからね!」



 ――これは想像以上に厄介だ。

 そう思う反面、面頬の裏では堪え切れないほどこれまでにない笑みを楽しいと言わんばかりに浮かべていた。

 隠すことで表情が悟られないということを「良い」と思ったことはある。だが、これほどまでに「惜しい」と思ったことはあっただろうか?

「愉快、実に愉快な(やから)よ!」と、気付けばムラマサはごく自然に喜色の声を上げていた。



「二対一とは言え油断はならねェぞ、アイオーン!」

「ドラちゃんこそ、さっきみたいに不意打ちされるような真似しないでよね?!」


 仕切り直しだ、と言わんばかりの掛け合いに、ムラマサの面の内に秘された笑みは裂けんばかりの形相へと変わっていた。



「これは存外……いやまっこと。楽しみだのう!」

「……悪いが、三対一だ。観念しろ黒いの。

 ――告げる『吾は報復(リタリエイション)その理なれ(エフェクト)』」




 ――意識が完全に二人に向いているからこそ、拘束の効果時間よりも早く立ち上がり、不意を打たれるとは思ってもいなかった。



「……悪いが、戦には定石というものがあってな」と、アランが僅かに息を荒げながらも言い放った。


そろそろどこかで編集や修正作業も進めたいもので、けれど文量もそこそこになったため区切りの良いところで一日休みを設けて今までの見直しを行いたいな、などと考えております。

その折には区切りのところで、改めて伝えさせていただきたく思います。


読んでいただいている皆様に励まされて続いているまだまだ拙い小説ではありますが、どうぞコンゴトモヨロシクお願いいたします。


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