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Elder Gear Online  作者: 御堂 竜座
67/94

66話


 * * * ◇ * * *



「おいおい、またプレイヤーかよ……前の話も決着ついてないってのに」

「『でもまぁ、敵対的って感じでもなくなーい? 話せば分かる、かも☆ミ』」



 守谷が困惑するのをよそに、【アイオーン】は楽観的に応える。


 ――ログイン時間に間に合わせてインしたとたんにこれだ。

 前回からの続きとばかりにイベントシーンが進んでいく中で、唐突にイベントの会話が途切れた。なにか、するべきことがあるのだろうと三人で考えあぐねていた所へこれだ。わけのわからない忍者もどきの登場。確かにこのゲームにはジョブエディットにニンジャはあるが……その外見が先の『ナミネ』に似て黒染めであることが、守谷達へ懸念を抱かせた。

 


「まあ、敵なら敵、味方なら謝ればいいだけ。とにもかくにも撃退するまで、だな」

「『ひゅー、【アラン】っちってば好戦的ぃ』」






 * * * ◆ * * *




 アランは前触れもなく大きく前に踏み切って拳を正面に突き出す。

狙いは喉。

技や気合の掛け声を上げるなど無駄でしかないとばかりに、無音のまま一呼吸のうちに繰り出した体捌きは、一撃で意識を断つ算段だった。



踏み込みで僅かに石畳みのタイルが割れる。力強い踏み込みだった。

しかし、その必殺の一撃は事もなしに半身になって僅かに体の軸を逸らすだけで、忍者もどきは掠めることもなく拳を避け切る。



「ほう! 問答無用と。先んじて封じるにはいい判断よな」



――だが、命を賭していないのは減点よ。



 耳打ちをする低い声にわずかに怯んだ隙を、躱すような相手が見逃すはずもない。

手を下に振り払って何かを投げ、同時に突き出した右の拳の手首を右手で掴むと、身体を反転させて背中合わせになる。

 何かをされる前にとアランが反応したところで、両足に痛みが走った。



「――ぐ、!?」


 小さなナイフのようなものが、いくつも突き刺さっていることに気付く。

 足の痛みは一瞬だが、意識を向けた一瞬の間と踏ん張りがきかず力の抜けた瞬間を見逃すはずもなく、致命的なまでに相手に挙動を与えた。


 右足で崩れる脚腰に視点を作ると、掴んだままの右腕で掌を包む形で手首を縦に押し込む。

アランは、激痛と共に体が大きく下に沈んだ。

忍者もどきはそのまま左手を添えて前に引き倒すと即座に左手と両足を絡めて関節を的確に抑えた。


 流れるように背に跨る姿勢で、いつ取り出しただろうか反りのある片刃の剣が首筋を捕らえる。



「拙者の国には、『柔よく剛を制す』という言葉があってな。いやはや、この場合は「柔」ではなく「獣」といったところかの? ……お主、詰めが甘いわい」

「……一体何が目的だ」

「ふぅむ。急に襲ってきた相手を身を守るため応戦しただけの相手に一言目がそれか? しかも負けて組み伏せられておきながら?」

「て、てめェ、ちょっとでも危害を加えてみろ。ヤケ酒にしてやんぞゴラァ!」

「ああもう、ヤケ酒じゃなくて八つ裂きでしょおバカ! じゃなくてっ、あの距離じゃ巻き込んじゃうから魔法で援護も出来ないよ!」



ここにきてようやく事に気付いた二人は、しかしうつ伏せに組み敷かれ刃物を突き付けられたアランに、アイオーンとドラウが不用意には近づくような真似はできない。

その様子を目線だけで窺った忍者もどきは、短く嘆息を付いた。



「せっかくの多対一だというのに戦略もなし。

仲間パーティーが聞いてあきれるわい。盾がいて回復役もいる、素早い攻め手に長けたリーダーすらいるならば、効率のいい運用方法もあろうにな」

先走ったけだもののせいで台無しだ、と、さも残念そうに言う。



「てめえ、虎マスク! そのクソ犬を放しやがれ。誰の差し金だ、あれか? ナミネとかいう気狂いゴス女か?!」

「放した途端にその剣でグサリと一刺し、は勘弁願いたいからのう。解放には応えかねる。

 ……それに、仕える主のことを話すようなシノビがどこにいる?

 やはり蛇の類は脳まで小さい、まっこと小物よ。……それにナミネの愚弄は、曲がりなりにも縁浅からぬ故、聞き捨てならん故。

貴殿らが拙者の素性を如何様に見立てたかは分からぬが、よもや先手を取りながら反撃に容赦されるとは思うまいな?」

「……ッ」



 押さえつけられたアランに力を籠め関節を痛めながら刃を持ったもう片方の手を数度素早く振り払うと、再びナイフのようなものが今度は四肢に突き刺さる。

痛みは少ないが、なぜか身じろぎひとつ取れなくなった。



「それは楔打ち(影縫いの術)というてな、一切合切の動きを一刻程の合間、縛るもの。

 狗頭おおかみあたまどのにはしばらくそのまま動かんでいただこう。

 ――して蜥蜴の、覚悟はいいか?」



 先ほど突き付けていた刃とは違う、黒染めの二刀の刃を抜き放って構える。先ほどまでのアランとのやり取りが戯れに見えるほどの殺気に、しかしドラウは臆することなく吠えた。



「上等だこの虎マスク。いっちょブチかましたらァ!」

「あ~もう、結局こうなるの?! 回復するから、致命傷だけは避けてよねドラウ!」


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