64話
ナミネ襲撃後の、アラン達の話に戻ります。
時系列がややこしくてすみません……でも次からは、うまく書ける! はず!
* * * ◆ * * *
「どうしてだよ、アンタのあのすごい回復魔法ならこう、パパパーっと治せるだろ?!」
「だから無理なんだって! あそこまで重傷じゃ、ボクの見立てじゃ」
「見立てどうこうの話じゃねえっての! 傷を治す、それだけだろがクソが!」
「ボクのは単なる魔法じゃないんだって! 治療する患部のの状況把握をもとに縫合、患者のバイタルと生命活動の活性、正常化を促す医療魔法であって……」
「ドラウ、アイオーン。二人で言い争っている場合じゃないだろう」
「うるせえクソ犬! てめえはてめえで人ひとりが死にかけてるってえ時に悠長に考え込んでんじゃあねえよボケが!」
「だったら言い争えばどうにかなるっていうのか、救いたいのは一緒だろうが!」
「アラン……」
ナミネという怪物が去ったところに駆けつけた時、ドラウとアイオーンはその状況に驚愕した。
アランは肩で息をするほど息が上がり傷だらけ、フィオセアは地に崩れ落ちて泣きじゃくる。
こうしている間にもノーフィスは大量の血を腹部から流し倒れている。顔色は蒼白で、今にも息絶えそうな容体。そんな状況で、落ち着けるはずもなかった。
アイオーンは襲撃者の追撃がないことに安堵するのも束の間、ノーフィスの治療に移る。
そしてほどなくしてその傷が、物理的な傷であると同時に一種の呪いのようなもの設けていることを見抜いていた。「様態は?」とアランが訊くと、アイオーンは沈痛な面持ちで答える。
「この傷を治すのは簡単だよ。でも、治した先から呪いのようなもので傷が開くんだ! それもむしろ前よりも悪化して」
「……クソッタレ、この世に優しい神はいねえのかよ!」
「それで、呪いは解けないのか」
「無理、かな。この世界の摂理に外れたものなんだと思う。今のボクの力はこの世界の法則に準じたものに調整されてるみたいで……いまは、進行速度を抑えて出血を最小限にするのが精一杯なんだよ」
「それでいい、アイオーンは少しでもできることをしてくれ。
フィオセア、君は何かこの呪いについて何か……」
「う、ぐす、わた、しのせいだ。ごべ、ごめんフィオセア、ごめ、んぅぐ……」
「フィオ……セア?」
「おいてめえ、今ンはどういうことだよ。てめえ今、『フィオセア』って言ったよなァ、てめえの名前じゃねえのか、どういうこったゴラァ!?」
その言葉を聞き取ったドラウが喉を低く唸らせながら詰め寄って、フィオセアの胸ぐらをつかみあげる。
大粒の涙をこぼしながら、彼女は言った。
「こ、この戦いが始まってすぐに……前王たちは族長が狙われてることに気づいたの。そこで策を講じたの」
「だからそれと何の関係があるんだよ、アァ?!」
「ぐす……策、のひとつは、それぞれの部族の有望な娘、に、族長を継承すること。もう一つは……これ、は紋鐘が提案して、猟兵と毒のうちで行われたこと……」
――二人の部族長を入れ替えて、標的になる的を偽ること。
フィオセアと名乗っていたエルフの少女はそういった。アランはその答え合わせを前に、これまでの出来事とすりあわせて納得して、彼女の言葉を補足する。
「『毒』は魔法に、『猟兵』は武力に優れる、だったか。戦ともなれば猟兵の長が陣頭に立つ。そうなれば当然、相手が知性ある存在なら真っ先に狙う……戦力の誤認とかく乱、奇襲作戦の考案が目的というわけか。道理で、妙になれなれしい関係だと思った。姿の偽装は……魔法か何かか」
「はい、そうでず…………嘘、ついて、て、ごめんなざい……」
「気にするな、昨日今日あったような信用ならん相手にぬけぬけとすべてを話すような間抜けじゃないなら、それでいい……それより、本来の名を聞いても?」
「だァからそんなこと反してる暇がーー」
「はーいドラドラ息子は邪魔しない!」
「誰がドラドラだこのヤブ医者が!」
ドラウを諌めるアイオーンのやり取りをよそに、アランは慎重にエルフの少女に訊ねる。ここまでの話を聞くに、助けるための……救うための手段を、彼女は持ち合わせている。
なにか確信めいた予感がある、そう思ったからこそ、そわそわと落ち着きなく動きそうになる尻尾を必死に堪えて少女に名前を聞いた。
「『毒』の一族……タァナに住まう毒のエルフの、部族長……バラクの一の途……エリスシア。フィオは……私の妹で……うう、どうして私じゃなくて……」
「泣き言はいい。失ったときに泣け」
「ちょ、アラン。それはないんじゃない?!」
「まだ死んでない。そしてまだ死なせない、助けられるなら泣くべきじゃない。泣いて誰かを救えるなら話は別だが?」
それは医術を収めるものなら、充分わかっていることでは? そう続けた言葉に返す言葉を失ったアイオーンのしかめ面に、内心で苦笑をしつつもアランはエリスシアに問いかける。
「毒の一族なら、魔法は得意か」
「魔法、は、そこそこで、す。私は、魔法を込めた道具の作成、取り柄、なので」
「君の識る中に、あの呪いの進行を止める……あるいは現状を悪化させない措置を取ることのできるなにか、知識はないか」
アランは『繋がり』を通じてなぜか知っているに必死に頭をひねり、この結論に至ったことを漠然と受け止めていた。理由は分からずとも、助ける手段……救う手立てが一つでもあるのなら、それを逃さない。執念にも似た熱情がアランを静かに突き動かす。
願いはただ一つ。
『救いたい』という思いだけ。
忘れていた……長らく存在そのものを忘れていたいたかのような、古い記憶の奥底から、その感情が叫びを上げる。
その願いが通じたのだろうか。
一瞬の間を置いてアランの問いに、エリスシアが答えた。
「……ひとつだけ、ある。呪いを解くこと、は困難だけど……これ以上悪化させない、留め置くだけ、なら」
「それは、どういった方法だ」
「……時間を使った禁術を、氷結魔法に織り込むの。そうすれば、少なくとも彼女の命を永らえることはできる……その魔法が解ける前に治療方法を探せばいい!」
溶けない氷の中で止まった時間の檻に閉じ込めておける、それで進行は止まる。
エリスシアは自分の言葉にわずかに希望を見出したのか、言葉尻に向かうにつれ少しばかりの自信を取り戻しながら、断言した。




